アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
スタッフの条件: O5-██の特命の下、以下の付録はSCP-XXX-JPについてまとめられました。
SCP-XXX-JP担当のスタッフは、財団に関する情報をまったく持たない人物でなければなりません。スタッフへは同じく財団に対して無知な人物を介して間接的に指示をしてください。また、親密な関係にある特定の人物(家族や恋人など)が現時点で財団の管理下にあるか、あるいは1時間以内に管理下に置くことができるという条件が必要不可欠です。なお、ミルグラム実験で72点以上であること、キーラー・ポリグラフを用いた問診で過去に虐待など特定の人物から精神的及び肉体的苦痛を与えられる機会がなかったことが確認されていることも必要です。スタッフは緊急時を除きDクラス職員から選出することが強く推奨されます。
上記条件に当てはまる人材を常に3名以上用意してください。スタッフが互いを知り合ったり、あるいは既に知り合いであった場合は、SCP-XXX-JPの担当にすることはできません。他の財団職員と個人的な関係を持った場合も同様です。
SCP-XXX-JPの担当を途中で辞めることはできません。どうしても収容任務に従わないスタッフは、収容違反の予防のために終了しなければなりません。
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは収容エリア81██内の防音処理を施したヒト型生物用収容室に保管されています。SCP-XXX-JP-Aには担当スタッフによる処置911-"毘沙ノ鼻"を1日3回より高い頻度で実行します。このとき、スタッフは指定の制服制帽を着用します。また、SCP-XXX-JP-Aに対し自分の名を名乗る他は、一言も発言してはなりません。
スタッフは処置911-"毘沙ノ鼻"を終える度、キーラー・ポリグラフを用いた問診により、SCP-XXX-JP-Aの症状を確認します。
SCP-XXX-JP-Bへの移行が確認された場合は、それを拘束し、新たなSCP-XXX-JP-Aに転移するまで処置911-"毘沙ノ鼻"を実行し続けてください。この間、SCP-XXX-JPの転移先候補はヒト型生物用収容室に収容し、SCP-XXX-JPの症状が発生次第必ず自己申告するよう命令しておく必要があります。
SCP-XXX-JP-Bの死亡後、24時間以内にSCP-XXX-JPの発生を確認できない場合は、収容違反とみなし、即応できる機動部隊、警察、公安及び理事指定の外部団体に通報し、SCP-XXX-JP-Aの追跡を開始してください。
説明: SCP-XXX-JPは昆虫の羽音および日本語音声の幻聴を主たる症状とする精神疾患です。罹患すると、音の発生源となる実体が観測できない、概ね190Hz前後の音が聞こえるようになります。
SCP-XXX-JPを罹患したばかりの人物(以下、SCP-XXX-JP-Aと呼称)は、昆虫が耳元を飛び回っているような羽音を知覚します。SCP-XXX-JP-Aはこれに強い不快感を訴え、急に振り返ったり、耳の周辺を手で払ったり、両手で耳をふさいだり、忙しく動き回ったりします。収容中であれば、自身を部屋から出すように懇願します。音は当初こそ数時間に1回聴こえる程度ですが、次第に頻度が高まります。数分に1回程度になると、SCP-XXX-JP-Aは眠ることができなくなり、体力的にも衰弱していきます。1分間に数十回程度になると妄言症状が現れ始め、最終的に音は常時、複数、大音量のものとなって、SCP-XXX-JP-Aは例外なく発狂します。
発狂したSCP-XXX-JP-A(以下、SCP-XXX-JP-Bと呼称)は、常に怯えた声で絶叫しています。部屋を転がり回る、頭を壁に打ち付ける、耳を掻き毟る、[編集済]などの行動を取り、最終的には自傷行為を繰り返すようになります。
SCP-XXX-JP-Bに変化してから24時間以内に、幻聴は羽音から人間の発する言葉に聞こえるよう変化します。それはSCP-XXX-JP-Bの苦しみに対し"復讐"をしようと持ちかけます。SCP-XXX-JP-Bはそれに応じ、同時に脳内出血と脳の機能停止を引き起こし死亡します。
SCP-XXX-JP-Bの死亡後、SCP-XXX-JP-Bが憎んでいたと思われる人物が失踪します。この現象はSCP-XXX-JP-Bと対象の人物との物理的距離に関係なく発生します。失踪者を発見できた事例は現在まで1つも存在しません。エージェント・██はSCP-XXX-JPの影響で死亡したと主張しましたが、それを支持する事象は現在までに確認できていません。
また、失踪した人物の周辺の人物に、新たにSCP-XXX-JPが”感染”することが確認されています。感染経路に関しては明らかになっていませんが、当該の人物間に物理的な接触がまったくない場合にも”感染”したケースが存在しているため、細菌やウイルスによるものではないと考えられています。
SCP-XXX-JPは██県で発生した連続失踪事件の捜査を行っていた刑事ことエージェント・██により発見されました。彼はその後、自らもSCP-XXX-JPを罹患しました。彼の全面協力によって、SCP-XXX-JPの性質及び現在の収容方法が確立されました。
補遺1: 以下の記録の参照にはレベル1セキュリティクリアランスが必要です。[更新日 20██/05/29]
対象: SCP-XXX-JP-B-001
付記: 対象は自傷行為を防ぐためベルトを用いて椅子に拘束。また、幻聴(SCP-XXX-JP)を低音で、自分(SCP-XXX-JP-B-001)の声を高音で口に出すよう訓練済み。チオペンタールを併用し、言語を用いた思考は余さず声に出させる状態である。なお、これらの処置は全て対象の同意を得ておこなっている。
<録音開始,19██/06/15>
SCP-XXX-JP-B-001: (断続的な叫び声)五月蝿い! ああ、もう止めろ! 死ぬ! 死ぬ! ああ!
SCP-XXX-JP: (羽音のノイズ)苦しいか?
SCP-XXX-JP-B-001: いやだ、ああ、五月蝿い……だ、誰だ?
SCP-XXX-JP: 復讐を、するか?
SCP-XXX-JP-B-001: ふく、復讐?
SCP-XXX-JP: お前をこんな目に遭わせた奴は、誰だ?
SCP-XXX-JP-B-001: (約17秒間の絶叫) 俺を、こんな目に、遭わせた奴が、いるのか?
SCP-XXX-JP: お前に食わせてもらった分、復讐してやろう。
SCP-XXX-JP-B-001: こんなことに、こんなことにならな、ならなかった……俺が! 財団に! いなければ! ああ!
SCP-XXX-JP: ならば、その者へ復讐しよう。最期の苦しみと引き換えに。
SCP-XXX-JP-B-001: (断続的な叫び声) 死ねえ! 死ぬ! 死ね死ね死ぬ死ぬ(断続的な叫び声)娘を返せ! (大きな叫び声)
<録音終了>
終了報告書: 対象は脳内出血により死亡。新たに[データ削除]が犠牲となった。このことから、[データ削除]危険性は明らかである。よって、SCP-XXX-JPを管理するスタッフの条件は厳格に定める必要がある。
補遺2: 以下の記録の参照にはレベル4セキュリティクリアランスが必要です。[更新日 2015/01/21]
終了報告書: 対象は脳内出血により死亡。新たに[データ削除](A)が犠牲となった。このことから、[データ削除](B)危険性は明らかである。よって、SCP-XXX-JPを管理するスタッフの条件を厳格に定める必要がある。
削除されたデータセクション(A) 「O5-01,03,04及び同日に彼と同行していたセキュリティ担当15名を含む職員全員」
削除されたデータセクション(B) 「SCP-XXX-JPの罹患者は、自らの命と引き換えに、対象者の顔はもちろん、名前すら知らなくても、あらゆる距離に関係なく復讐の対象にとることができるということであり、この特性の機密を漏洩した場合、悪用される」
警告: 以下の記録はO5-██の特命の下、検証が許可されました。分析を開始するためには指定の日本理事による許可が必要です。以下のファイルの安全性は充分に精査されていません。万全を期すため、ファイルを開く前に以下の確認をおこなってください。
1.電子ロックがかけられた指定の個室を用いており、周囲に他の職員がいないこと
2.閲覧に使用する端末がサイト81██内部のローカルネットのみに接続していること
3.自身に持病などの体調不良の症状が無く、充分に健康であること
補遺3: 映像記録0615(著者注:上部タグから参照ください)
タグメモ
scp-jp keter
<再生開始>
(会議室を映している。中年の男性と女性、初老の男性、3人のセキュリティ職員がいる)
中年男性: では、次の議題に移りましょう。新たに……
(羽音が聞こえる。遠くから近づいてくるかのように、少しずつ大きくなっている)
中年女性: 何かしら? セキュリティ、確認して。
セキュリティ職員: はい。
初老男性: 羽音か?
中年男性: 急げ。
(ベコンという音の直後、コンクリート製の壁に穴が開き、室内に虫の大群が侵入。近くにいたセキュリティ職員に襲いかかる。銃声が響き渡る)
初老男性: 何!?
セキュリティ職員: 対応できません。た、退避してください! 早く!
中年女性: なんとかしなさい早く!
中年男性: (携帯端末を取り出して) 緊急事態だ。至急応ぐわっ(虫に全身を覆われ通話が中断される)
(駆けつけたセキュリティ職員を含む、その場にいた全員が、出現した虫の群れに全身を覆われる。絶叫が響き渡る)
(虫が数匹、カメラのレンズ上にへばりつき視界を遮る。4枚の透明な翅と黄黒の縞模様の腹部を持つ姿は蜂に酷似している。虫はレンズ上で列をなし、∞の記号を描くようしばらく歩き回る。飛び去った後には、誰もいなくなった部屋が映されていた。虫も1匹残らず消えていた)
事件報告書 - 日付 19██/██/██
まず初めに、謝罪と感謝を1件ずつ述べる。
1つは報告書の体裁に関してだ。調べればすぐわかることだが、私は[編集済]から登用されたエージェントであり、こういった事務仕事には慣れていない。今回の対象の特性上、管理に詳細な情報が必要なため、以下を記載するが、端的に記述にできないことを謝罪する。慣れないものでな。
もう1つは、この”羽音”連続失踪事件が無事SCP-XXX-JPとして認定されたことだ。迅速な対応に感謝する。私の経験上これほど厄介な対象はなかった。収容は難しいだろうが、人類の未来のために誰かが負わなきゃいけない仕事だ。
前置きが冗長になった。事の発端は私立████高校に通う女子高生の失踪事件だ。最初から頭を抱えてたんだ。自分の一人娘が通う学校を調査することになったエージェントの気持ちを考えて欲しい。[編集済]私は女子生徒に聞き取り調査をした。[編集済]ようやく1人の男子生徒がインタビューに応じてくれた。事件については何も知らないようだったが、気になることを言っていた。「最近、友達がおかしい。虫がいるって、ずっと言ってる」とね。
[編集済]彼女の部屋に入ると、異様な雰囲気だった。パジャマ姿の女の子が長い髪振り乱してうんうん唸ってんだ。私は医者だと詐称してやっと話をしてくれたが、それも不快な邪魔者と戦いながらの途切れ途切れだ。1時間かかって得た情報は、彼女は失踪した女子生徒と十年来の幼馴染で、その子が県内他校の生徒が自殺した件に関わっている……はっきり言えばいじめの主犯だった、と知っていたこと。失踪した子に対して罪悪感があるようで、何度も「ごめんなさい」「許して」「助けてあげられなかった」と呻いていた。それと、今はとにかく「羽音が五月蝿い」と。夜も眠れないらしい。おかしいんだ。彼女と居る間、虫の音なんてちっとも聞こえなかった。幻聴だと思ったよ。彼女を救うために私ができたことは、精神科の受診を勧めることぐらいだ。無力だった。
その夜家に帰ったら、娘が暗い部屋でぼーっと座ってた。話を聞いてみたら[編集済]娘はその子にだいぶ厳しく詰問したらしい。「いじめを知ってて傍観するのは、加害者になったも同じだ」って言ったと。それ以来登校してくれないことで悩んでいたと。私は驚いたよ。ちょうど今日の日中に、その子の部屋に居たんだから。過酷な状況にいる彼女の、罪悪感の一部は、もしかしたら娘が担っているのかもしれない。そう考えると私まで落ち込んだね。
そして、次の日の夜だった。私は珍しく早く帰って[編集済]何の虫の知らせか、娘の部屋を覗いてみたんだ。いつもなら安らかな寝息を立てているだろうベッドに娘の姿はなかった。いつも通りの娘の部屋に、娘本人だけが不在だった。ベッドへ向けて綺麗に整えられたスリッパとか、残ったままの衣服や貴重品とか、家出なんかが原因じゃないって証拠は多かったけど、そんなあれこれをいちいち確認する前に、私の刑事の直感が働いてた。ああ、もう娘はこの世にいないんだ。悟った。部屋には人間の汗を薄めたような、常人じゃわからない類の匂いが微かに残っていた、ってのも私の直感を後押しした。
報告は以上だ。尻切れとんぼかもしれないが、一刻の猶予もない状況に置かれていることに気づいたからだ。詳細は直接聞いてくれ。
今、私の背後で、虫の羽音がした。
補遺: エージェント・██によるSCP-XXX-JPの事件報告書の要約
日付 |
出来事 |
19██/04/01 |
██県立████高校に当該の女子生徒4名(以下、それぞれ生徒A、B、C及びDと呼称)が入学。なお、生徒Aはエージェント・██の実娘 |
19██/10/01 |
生徒Cが生徒Dへのいじめを開始(推定) |
19██/12/12 |
生徒Cのいじめが発覚。退学勧告を受け、隣県の私立████高校へ転校 |
19██/12/17 |
██県内のコンビニエンスストアで生徒Dが生徒Cに遭遇。携帯電話の番号を知られ、いじめが再開 |
19██/12/23 |
生徒Cの転校理由を生徒Bが知る |
19██/04/01 |
当該の女子生徒4名、2年生に進級 |
19██/05/10 |
生徒Dが死亡。死因は脳内出血 |
19██/05/11 |
生徒Cが失踪状態であることが発覚 |
19██/05/12 |
生徒C、生徒Dの関連について、生徒Aが生徒Bに詰問。生徒Aがいじめに関して知ることになる |
19██/05/13 |
生徒Bが学校を欠席。以後不登校に |
19██/05/19 |
エージェント・██が失踪事件の捜査に着手 |
19██/05/24 |
エージェント・██が「虫がいる」と言い残した不登校生徒(=生徒B)の情報を入手 |
19██/05/26 |
エージェント・██が生徒Bと面会。生徒Cによるいじめ事件に関する情報を入手 |
19██/05/27 |
エージェント・██が、娘である生徒Aから相談を受ける。内容は、生徒Bが不登校になるきっかけを自分が作ったのではないかという悩み |
19██/05/28 |
エージェント・██が帰宅時、生徒Aが部屋にいないことを発見。生徒Cと同様の失踪と推測 |
19██/05/29 |
生徒Bの死亡が発覚。死因は脳内出血。死亡推定時刻は前日中。エージェント・██はこれと生徒Aの失踪との関連を憶測、財団へ本件のSCP認定を申請。これは即刻受理される |
19██/05/30 |
エージェント・██により事件の報告書が作成される。同時に、エージェント・██が幻聴症状を自覚 |