期待に勇んだ私を受け入れたのは、小さな新聞社だった。
場所を間違ったか? いいや。私を呼んだ男は目の前にいる。
「どうぞ」
黄色く変色した机にカバーのハゲた事務用の椅子。
「それで……」
「まずは話をしようじゃないか、ちゃんとは聞いてないだろう」
「……分かりました」
そっと出される緑茶。緊張で乾いた喉を少し潤す。
「我々の名前についてだが」
「解放戦線」
「『夜明けの』解放戦線だ」
「はい」
「かつてこの国は戦争をしていた、それは知っているだろう」
「祖父も行ったと聞いています」
「どこへ?」
「後方の補給だったと」
「それは真実ではない、だが話を進めよう」
男もまた少しだけ緑茶をすする。
「戦争は……戦争は我々を急速に夜へと押しやった。昼を越え黄昏を越えて、深い夜へ。
負けたのだから、それは当たり前の事だ。我々は全てを失ったような気持ちで居た。
しかし、それで終わりではなかった。再び太陽は地を照らした。不本意ではあったが『夜明け』が我々に訪れたのだ」
私は黙って聞いていた。
「いいか、今再び我々は……いや世界は夜を迎えようとしている。
紛い物の成長は衰えつつあるにも関わらず、人民はそれに気付かず未だ成長を続けると思い込んでいる。
もはや斜陽の時なのだ、かつてのように輝く太陽はもはや存在しない。
それに……それだけではない。かつて隠されていた異常、それが世の中に現れつつある。……正確には、増えているのだが」
「それがあの……」
「そうだ。君があの蔵で見たものだ。
君の祖父は補給部隊には居なかった、前線で戦ってもいないし、司令官だったわけでもない。彼は異常な物品を管理し、隠蔽する部隊にいたのだ。
何故君の祖父がそれを保管していたのかは分からない、しかしそれは確実に存在する。夢ではない」
夢ではない。嘘でもない。それは私がよく知っていた。
「このような状況をただ眺めている事は我々には出来なかった。
私にとっては最初だが……我々にとっては二度目の闘いが始まっている。
我々は現状を憂えている。我々には再び夜明けが必要なのだ。協力してくれないか。どうか、力を貸してくれないか」
「私は……」
「もう一度見せてくれるだけでもいい、我々はあれを必要としている。
なんとしても夜明けを解放しなくてはならんのだ」
目を閉じる。
目を開ける。
眼前には蔵があった。
「この中だな」
「二階に」
「ありがとう」
「何のためにこんなものを?」
「夜明けを迎えるためには夜が必要なのだよ、深い夜が」
「そうですか」
「夜明けのための夜を、それが今の我々だ」
「では……どうやって夜明けを」
「明けない夜はないだろう?」