Comment
桑名博士は私がいなくても好きに使って下さい
あとSCPも
Memo
- 蒼海中央出版(Soukai Chuo Printing)
- 近未来SFっぽい要注意団体あるいはカノン
- 仲間の復活を待っていた恐竜、飛び立つ仲間を追いかける
- ウェアラブルクワナ
- この容器はリサイクルできます
- ロマンチストは磔に
- 合間合間にメッセージが入る記事
Userscripts
- 上の方に見ているページへのリンクの構文が出ます
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ワイド画面だと幅広になるので
"NOWHERE"
キャラクターリスト
久居: 財団の航空部隊に所属。階級は大尉。主な活動地は米国。現地ではキャプテン・サムライと渾名される。
SCP-210-JP: 接触する金属を自分の身体のように扱うことができるSCP。その性質からアノマリー790QK収容作戦決戦兵器の制御部に指名される。コールサインは"ブラザー"。
Anomaly 790QK: 小笠原諸島近辺の海に突如として現れた異常存在。金属を操作する力を持つ。コールサインは"リマインダー"。
桑名博士: SCP-210-JPの担当職員の一人。Anomaly 790QK収容作戦に携わる。
※上記設定で修正
20██年██月██日。
東京から南におよそ1000km。小笠原諸島近辺の海に突如として噴煙が上がった。
海面に顔を覗かせたのは海底火山の一部。漏れ出したマグマが背を伸ばし新たな陸地を形成する。
それは島と呼ばれるものだ。
メディアは新たな島の出現を連日報道し、その事件は瞬く間に広まる。
桑名博士と博士のオフィスの研究員たちはラウンジのテレビでその報道を眺めていた。
「新しい島ですか。まさかこれもSCPの仕業ー、なんて」
ははは、と一同は笑う。
すると、桑名博士の首から提げている携帯端末が鳴った。
メールだ。博士は内容を確認。そして沈黙する。
研究員たちが不思議に思っていると、博士は神妙な面持ちで口を開く。
「……今の冗談、もしかしたら笑えないかもしれませんね」
「皆様、お集りいただきありがとうございます。私は富田一等空佐。緊急事態のため堅苦しい挨拶は省かせていただきます」
サイト-8181の最も大きな会議室に何十人もの人間が集められていた。職員IDから彼らの大半がレベル3以上の上位スタッフということがわかる。また、スクリーンの1つには遠隔で会議に参加する者たちが表示されており、中には日本支部理事やO5の肩書きさえあった。
「本日集まってもらったのは他でもありません。小笠原諸島近辺に新しい島が現れたというニュースは皆様も知っていることでしょう。先行して調査に当たっていた一部の職員は知っていることですが、今現在メディアで使われている映像はダミーです。2日前に撮影された本物の映像記録をご覧ください」
正面のプロジェクターに映像が映る。
空撮、海面の黒い点から煙が上がる。テレビで放送されている内容と似ている光景だ。
5秒後、黒い影が広がり始める。
そこから空中へと向かってさらに黒い線が伸び、首をもたげた。そして画面の方を見た。それが熱を持ったように赤く光ると、ぐんと画面手前へ飛び出してきた。
どんどん画面に近付いてくる赤い塊。
衝突の瞬間に、その先端がまるで口のように開いた! ……そして画面がブラックアウトする。
「以上です。この映像は無線で中継されていたもので、撮影班のヘリはこの直後にアレに飲み込まれました。アレはAnomalousオブジェクト-790QK……以降はAO-790QKと呼びますが……人類に非常に敵対的であることがわかっています。これまでにヘリ3機、戦闘機7機、艦艇1隻がAO-790QKに破壊かもしくは飲み込まれています。全て接近して即座に攻撃を受けました」
突然の発表に会場がどよめく。
「皆様の中には被害がまだ小さい方だと考える方もいるかもしれません。しかしながらAO-790QKは海底火山から今尚伸びてきています。見えているだけでも長さ5km以上、直径約400m。それに伴って攻撃範囲も広がっており、最も近い島の研究施設に近付いてきているため現在撤退中です。このままだとXK-世界崩壊シナリオも考えられるかと」
「破壊は! ちゃんと破壊しようとしたのかね!?」
野次が飛んだ。対する富田一等空佐は努めて冷静に言う。
「もちろんです。そして失敗しました。調査および交戦の結果わかったのは、AO-790QKは地殻内部に存在するマグマだということです。大質量で、戦闘機を捉えるほどに巧みに動き、意思を持っているかのように周囲を攻撃します。AO-790QKの一部を破壊することは可能でしたが、それだけでは活動を停止させることはできませんでした。全体を吹き飛ばすには対象は底知れぬ程に大きすぎます。そして最も特異な点は自身と直接接触した兵器を取り込み……身体の一部とし使いこなすことができるのです。よって強力な兵器を持って破壊しようとすることはAO-790QKに武器を与えるようなものです」
野次を飛ばした者が、皆が黙った。
あまりにも絶望的過ぎた。敵のスケールが違い過ぎた。
そのAO-790QKにしてみれば、人類同士で戦うために作りだされた兵器などおもちゃに過ぎないのだろう。
「AO-790QKは一刻も早く破壊しなければならないオブジェクトです。だから皆様にお願いです。AO-790QKを破壊する方法を考えてもらいたいのです」
無理だろ。聴講する桑名博士は思った。
一方で、そのAO-790QKの性質が頭に引っかかった。どこかで覚えのある……いや、よく知っているものがあった。
あれなら、もしかするともしかするかもしれない。
「というわけでSCP-210-JPに白羽の矢が立ったわけです」
「何かの映画の話ですか?」
金属の破片。それに取り付けられたスピーカーが疑問の声を発した。
「残念ながら違うんですよね。ええ」
「普通に考えればSCPにそのような作戦は任せないでしょう」
「状況が状況なんですよ。本州が飲み込まれるのにあと1週間かからないそうですから」
AO-790QKから100km離れた太平洋の島。桑名博士はSCP-210-JPと共に"AO-790QK破壊作戦本部"となる施設に来ていた。
SCP-210-JPはコミュニケーションが取れるように視覚や聴覚・発声の周辺装置を付けられた状態だ。
両者は今、格納庫を見下ろす部屋にいる。格納庫では何人もの職員がいくつかの機械を中心にして忙しなく動いていた。
「SCP-210-JP、貴方のために武装を用意しました。以前言っていた、貴方が本来持っていた武装に似せて作ってあります。まあ用意できたのは加速度操作装置くらいで、主砲や推進装置は我々が用意できるうちで最高のものを。あとは慣性制御とか諸々。今、下に見えているのがそれです」
「私には武装というか、構成部品にしか思えないほどバラバラなように見えます」
「あなたの視界は間違いではありませんよ。あなたとあれら全てを統合することで決戦兵器が完成するのですから」
「私のためにだけ……ということですか。準備が早いですね」
接触した金属を自らの身体も同然に操る。それがSCP-210-JPの有する力だ。桑名博士が目を付けたのはそこだった。
「それで、これからテストを行って問題がなければ、作戦開始は明日になります」
「……本当に早いですね。別に拒否はしませんが」
「まあ、本当にもう猶予がありませんからね。そして、あなたを作戦に用いるのは製作期間や装備運用の利便性、それから上の説得までとにかく好都合でしたので」
「戦うことが私本来のあり方でもあります」
「ああ、要望通り、もちろんコックピットもありますよ」
「当たり前のことを聞きますが、そこに操縦者が乗らなければいけないのはわかっていますよね?」
「最高の人材を用意していますとも。海外の部隊に所属していた日本人で、向こうではキャプテン・サムラァァイとか呼ばれてたそうですけど」
そのとき、部屋の扉がノックされた。
そして一瞬も待たずに扉が開かれる。そこには、財団航空部隊の制服を着た男がいた。
「やあドクトル。俺が乗るはずの機体がそこから見えるはずだが、ありゃ今にも飛びたちそうじゃねえか!」
沈黙。
数瞬して、彼は笑う。
「つまり、俺が知ってる戦闘機は組み立て前のプラモじゃないってことだ」
「あ……ああ! いえ、あれはすぐにきちんと完成しますから……あと、初めまして、久居中尉」
「こちらこそ、ええと……博士!」
「桑名です」
「桑名博士! それで俺と相乗りしてくれるって奴はどこにいるんだ?」
久居中尉はわざとらしく人を探すフリをして見せる。
「んー? 影も形も見えないなあ?」
「……何なんですか、この男は」
SCP-210-JPが怒りを抑えたような声色で言った。
桑名博士はどうにも気まずく思った。ああ、最初に出会った頃のSCP-210-JPの声は酷く無機的だった。それが今では驚くほど感情的になった。実験と称してはことあるごとに映画を見せてる研究員のせいだと思う。
そして今、悪い感情を覗かせている。
……どうしたものやら。
すると、久居中尉が身を乗り出す。
「おお、こいつがあのSCP-210-JPってわけか。随分とまたカワイコちゃんだな」
「……」
「おいおい。明日にはあの飛行機のバラバラ死体で一緒に飛び立つ仲間なんだからさ! 気楽に行こうぜ!」
「……」
「まあまあまあまあ! これから機体のテストを行いますので、下に参りましょう!」
SCP-210-JPは金属製の容器内に固定。
それを中心として各部品の金属部位を物理的に接触させる……それだけで機体が完成する。
格納庫内に現れたのは、全長30mの戦闘機。
「へえ、見違えたじゃねえか」
久居が頷きながら言った。彼は機体に近づき、手で押して見る。それはびくともしない。
「記事に書いてあったことは本当なんだな。金属に触れると同化する」
「ええ。耐衝撃性は十分です」
「こいつをAO-790QKに投げ込んだほうが早くないか?」
「相手も似た性質を持っています。反対にSCP-210-JPが取り込まれてしまってはどうしようもありませんよ」
桑名博士は答え、それからマイクを手に取る。
「SCP-210-JP。調子はどうですか? 動かし方はわかりますか?」
『大丈夫です』
「これはほとんどが本番と同じ構成です。違うのは主砲だけが予備のものになっていること。作戦に用いるものは後で本国から届く手筈になっています」
すると、SCP-210-JPは少し黙ってから、言った。
『私は来ないと思います』
「ふむ、我々は信用されていませんね」
『信用されていないのは私です。SCPに武器を渡すなんて馬鹿な真似はしません。さらにAO-790QKに他者の武器を利用する力があるならば、やはり有効な武器などを私に渡すわけがないでしょう』
「そう卑屈になるなよ。向こうの連中はサイコーに気が利くんだ。きっと届けてくれる」
『だといいですね』
「ったく、今のお前はサイコーにイケてる戦闘機なんだぜ? もっと自信持てよ。……ところでよお、コックピットがどこから見ても見つからねえんだが、俺はどこから乗ればいいんだ?」
「扉なんて付けるだけ脆弱になるだけなんですよ! って開発部長が言ってました」
「おいおいおい」
「まあまあまあ、加速度操作装置は言葉以上の性能を秘めているのですよ。開発部はよくやってくれました。210-JP、久居中尉を中に入れてあげてください」
『わかりました』
すると戦闘機が僅かに緑色に発光した。
同時に、久居中尉も同じように光った。驚いて声を上げているうちに、彼の姿は薄ぼんやりとしたものになり、ふわりと浮いて戦闘機に近付く。
彼はぶつかることなく、中に入っていってしまった。
「と、いうことですね。おわかりいただけましたか?」
久居中尉はコックピットにいた。
薄暗い、狭い閉鎖空間だ。
「未来感溢れる搭乗の仕方だな。イケてるぜ。あとは外の風景が見れるとサイコーなんだが」
「見えますよ」
突然、声が響いた。それがSCP-210-JPのものだということは彼にはすぐにわかった。
遅れて周囲の闇が光る。すると、周囲の光景が映し出された。まるで戦闘機自体が透明になったかのように、格納庫全体の様子が見渡せる。
「ワオ、すげえや。SFの世界みたいだ。涙が出るね」
『聞こえますか、久居中尉?』
スピーカーを通したような声は桑名博士だ。
「聞こえるぜ博士。――おっと、こっちの声は向こうに届くのかい?」
「はい。私、つまりSCP-210-JPと、あなたの声は機体外部スピーカーから出力されるように設定してあります」
「そうか。いやぁ、こんなびっくりメカが即興で作れるなんて驚いた。他の機体もこんな感じにしてくれよ」
『こういう非常事態でもなければできませんよ。210-JPが必要ですしね』
それから久居は機器のチェックをしようとする。試しに操縦桿を握り……。
「ああ? どうなってんだ?」
彼は両脇にある2本の操縦桿を確かに握った。しかし彼の視界には操縦桿は見えず、外の格納庫の様子が見えるだけだ。
よく考えれば、自分の身体も見えていない。さらには本来見えないはずの後方まで視界が伸びているようにも感じる。
「あなたの視覚を外部感覚機能と接続しています。操縦桿の位置がわかったのは、私がその情報をフィードバックしたからです」
「まだ何も言ってねえよ。俺の頭の中を読んででもいるのか?」
「そういう機能が積んであります。簡単な思考なら伝わるようです」
「俺がお前の頭の中も覗くってのもできるのか?」
「今の会話がそれです。あなたもわざわざ声を出す必要はありませんよ」
「そうか。つまり、あれだな、こういう、口を開かずに伝わるから……俺にはちいと難しいな!」
「そうですか」
ぴしゃりと言って、それからSCP-210-JPは事務的に言葉を続ける。
「面倒な機器の調整は私が行います。作戦時、あなたは操縦だけに集中してください」
「任せてもいいのかい、この機体のことを何から何まで」
「それが仕事ですから」
「知ってるか? 飛行機の最終確認はパイロットが自分でやるものなんだぜ。それをお前に任せるってことは、つまり、そういうことだよ」
「どういうことですか」
「これから頼むぜ、兄弟」
するとSCP-210-JPは、ふっ、と鼻を鳴らすような声を出してみせた。
「兄弟とは、またつまらないですね」
「聞こえてるぞ」
「聞こえるように言ったんですよ。私の何が兄弟だというのですか?」
「じゃあ聞くが、見た目や生まれが違うってだけで兄弟呼びしちゃいけないのかい?」
「そういう上辺の話じゃありませんよ」
「お前こそ、そのつまらないことにこだわっているんじゃないのか?」
そういうことは……言いかけてSCP-210-JPは止めた。この男と口論すること自体、とてもつまらないことだと思った。
「まあいいさ! そうだ、新しい機体に名前がないと寂しいな」
「本機の名称はAO-790QK破壊作戦決戦兵器です」
「それはそういう状況を言ってるだけだろ。愛称が必要だって言ってんだ」
「要りません。この機体は私……つまりはSCP-210-JPと作戦中もコールされることになります」
「だったら尚更だ。お前のそれは名前じゃなくて番号だ」
「番号で十分です」
「俺にも隊員番号はあるが、久居進って名前があるんだ。お前にも名前は必要だろ、そうさな……」
久居は少し考えて。
「"ブラザー"だ」
「安直ですね」
「いいだろ、兄弟」
「どっちですか」
「どっちでもいいさ。和名は兄弟、英名はブラザー」
「くだらない」
「意味は"人類の兄弟"さ。これから共に世界の命運を変えてやろうっていう俺の相棒にぴったりの名前だろ」
「……ああ、それこそ実にくだらない。私には無用な仲間意識です」
「本気で言ってるか?」
「詮索はやめてください。これ以上言えば放り出しますよ」
「冷たいこと言うなよ兄弟」
突然、久居の視界がブラックアウトする。
そして気が付けば、本当に機体の外に投げ出されていた。
「どわっ!」
尻から着地する。
「大丈夫ですか、久居中尉!?」
「やべえ、俺の尻が生き別れになっちまった」
「……大丈夫そうですね」
博士は嘆息。それから、210-JP、と言葉を作り直す。
「これから機体のテストをするので、久居中尉を戻してください」
いやいやながら久居中尉と共にテストを終えたSCP-210-JP。
決戦兵器に取り付けられたまま、格納庫内にいる。
今やそこに久居中尉や桑名博士の姿はなく、あるのは何人かの整備員のみ。
彼らが立てる物音も、SCP-210-JPにとってはずっと遠くにある、自分と全く関係のないもののように思えた。
……私の居場所はここにない。
そう感じるようになったのはいつ頃だろうか。
私には仲間がいたはずだ。金属の仲間だ。しかし今はどこにもいない。
私は使命があったはずだ。誰かを守ることだ。しかし守るべき者たちはどこかに行ってしまった。
守れていたら、きっとこうはならなかったのだろうな。守れなかったから、こうなってしまったのだ。
そして私は失ってしまった。存在する意味さえもない。
武装を与えられることで考えが変わるかもしれないと思ったが、そうはならなかった。
明日には戦闘に出るのだという今でさえ、私は戦う意味を見いだせない。
……私は何者なのだろう。
忘れてしまった。全て過去に置いてきて、もう取り戻せないものだ。
……ここはどこなのだろう。
私の居場所ではない。今の時代のどこにも私がいるべき場所はなく、私の知らない場所ばかりだ。
……どうしてこうなってしまったのだろう?
わからない。
ただ、SCP-210-JPはじっとしていられなくなった。何もしないでいることが嫌だった。
SCP-210-JPは金属の身体の一部を伸ばした。格納庫の床の上をなぞる。するとその軌跡に白い跡が残る。
SCP-210-JPは書く。
それはここではない異国の言葉だ。SCP-210-JPが記録として知っていた過去の言葉。
それは今でいう英語によく似ていると、SCP-210-JPは思う。この三単語なら一対一で対応する。
翻訳するとこうだ。
"NO ONE"
私は誰でもなく。
"NOWHERE"
ここはどこでもない。
「意味のないことですね」
誰かに伝えたかったのか? いや違う。
こんなもの誰にも読めない。読める自分は明日にはここを発ち、恐らくは帰ってこないだろう。
自分がいた印が欲しかったのか? いや違う。
そして自分が失敗すれば、ここは恐らく無くなってしまうだろう。この文字も消えてしまうはずだ。
だから意味のないものだ。
今の自分には、何か意味を残せるものだと何一つないのだと、SCP-210-JPは思った。
作戦当日。
決戦兵器……SCP-210-JPは倉庫の外へ動き出した。加速度制御装置によって機体は浮かび、滑るようにして行く。
『ヘイ、気分はどうだい兄弟』
久居中尉が近づくと、それは何も言わず彼を機体内へ取り込んだ。
「ベストってわけじゃあなさそうだな」
「私は普段通りです」
「そうかねえ」
久居が操縦桿を握る。それをSCP-210-JPははっきり知覚した。
そこで、通信の機械音が鳴る。
半透明の小窓が久居の側面に浮かぶ。そこには桑名博士の姿があった。
『おはようございます、SCP-210-JP並びに久居中尉。さて、お二方にニュースがあります』
「良い方から聞かせてくれ」
『えっ。あー、そうですね……少々お待ちください、三分ほど……』
「無いようですが」
「マジかよ」
『ええと、もういいですか? で、そのニュースは……本国から届くはずの主砲でしたが、間に合いそうにありません。このまま出ることになります』
でしょうね。
SCP-210-JPは心の中で思う。
『ですが今積んでいる荷電粒子砲でも十分強力です。ブリーフィングでも言いましたけど、AO-790QKは明らかにその力の源が存在して、それを近距離で……』
「要はヤツをひん剥いて、コアをぶっ飛ばせばいいってことだろ?」
『うまく攻撃をかいくぐって、ですね』
「何度も聞かなくてもいいさ。俺たちならやれる、そうだろ、ブラザー?」
「……」
「ブラザぁー?」
「……」
『あの……とにかく、これまで言わなかったことで私から一つ』
桑名博士は、一息。
『貴方たちに人類の命運がかかっています。私たちは託すことしかできませんが……ご武運を』
すると、久居はふっと笑って。
「祝杯の準備をしといてくれよ」
「気楽なものですね」
そして、決選兵器は発った。
SCP-210-JPは、周囲の全景を知覚できていた。曇り空とわずかに荒れた海の上を、真っ直ぐに飛んでいる。
感覚共有している久居中尉も同様に知覚しているのだろう。
「昨日も今日も曇ってるな。残念だ」
「この雲はAO-790QKが高熱により発生した噴煙が原因です」
「どうせ飛ぶなら青空の方がいいだろう?」
「私にはわかりません。青空を飛んだことがありませんから」
「そいつは損してるな」
「そもそも、私が記憶している限りでは空を飛ぶのはこの機会が初めてです」
「処女飛行?」
「不満ですか?」
「いいや、構わないさ。俺だって世界の命運を握らされたのは初めてだ」
久居中尉は胸ポケットに手を伸ばした。
「兄弟には、守るべき相手がいるかい? 俺にはいるんだよな」
彼の手の中には一枚の写真があった。
二人の人間が並んで立っている。
一人は久居中尉。うち一人は、赤ん坊を抱きかかえた女性。
「もしや、既婚者?」
「もしやって何だよ。まあ、いいけどよ。家内と娘だ。これが俺の守るべき相手だ。ブラザーにはいるか?」
「私に家族などいません」
「俺は家族とは言ってないぜ。ただ、守りたいと思う相手がいるかってことだ」
「それも、いるわけがありません」
SCP-210-JPは思う。
収容対象でしかない自分が、一体誰を守るというのだろう。
強いて言えば、恐らく最も死に至らしめてはいけない人間は、一人いる。それが誰か、本能とでも呼ぶのだろうか、この身に刻まれた記憶が教えてくれる。
それは、自分のパイロット。
この男に守るべき価値があるのかなんてどうでもいい。私がやらなければならないことは――。
「ま、いいさ」
思考を遮るように久居が言った。
「そろそろ奴さんが反応するエリアか」
「私も確認しました。SCP-210-JPから本部へ入信、交戦地点に到着。準備整いました」
『本部了解。SCP-210-JP、高速機動に移り、状況を開始して下さい』
「SCP-210-JP了解」
応え、メインエンジンの出力を上げる。同時、処理装置をセーブモードから高速モードに切り替えた。
内部の処理が加速。
対し、視界の流れるスピードは低下する。
今の飛行速度はマッハ3を超えたところ。まだまだ速度は上がる。が、しかし上がったところで人間の思考速度ではついていけないだけだ。
だから、感覚を倍増させて思考速度を上げた。結果として、久居にはせいぜい時速80km程度の体感になる。
「車乗ってるんじゃねえんだがな。Gも吸収されてるし」
「お喋りは後にして下さい」
視界の中、それが動きを見せた。
AO-790QK。
海に浮かぶ黒色の島。その表面がまるで芋虫が蠢くように揺らぎ、膨らむ。
頭を出した。
巨大な柱。
熱を持ち、赤い光を放ちながら、地面からぐにゃりと押し出されるようにして現れた。
「オオウ……こんなデカいミミズを見るのは初めてだ」
そいつは首をもたげ、柱の中に斑に浮かぶ光点がこちらを見た。
「来ます!」
来た。
光点から触手のごとく飛び出してきたのだ。
数は30超。
先端で突くように飛び込んでくるそれらを。
「アクビが出る」
久居中尉が機体を右に逸らせ、かわす。
しかし、後方の視界の中、触手が向きを変えた。
追ってくる。
「速度を上げるぜ」
スロットルを開けた。
視界が伸びた。触手の群が遅れていく。
引き離す。
「AO-790QKから離れています!」
「言われなくてもわかってる」
旋回。
触手も追って、回り込んでくる。
すると、機体の正面に触手の根本が来る。
「試し撃ちだ」
主砲のスイッチを押した。
砲身に熱が溜まり、放たれる。
光線。
空を走る赤黒の線に当たり、穿つ。
さらに機体ごと主砲を横に滑らせ、薙ぎ払った。
『触手が落ちていく……これならいけます!』
「これで落とせなかったら問題だぜ、博士! それより、奴のコアの位置はわかったのか?」
「さっきのすれ違いの時、解析しました。表示します」
視界の上に表示枠が走り、AO-790QKの一点に円を描いた。
「ここか……突っ込む!」
言葉通りに、操縦桿が操作される。機首が円に向かう。
推進器が猛る。
近付くうち、AO-790QKは動いた。今度は触手ではなく、塊だ。
それは意味のある形を有しており。
「軍艦か?」
「恐らくAO-790QKに取り込まれたうちの一隻でしょう」
軍艦の上に立ち並ぶ砲が、一斉にこちらを向いた。
火を吹く。が、弾は機体が通り過ぎた後をすり抜けていくだけ。何故ならば、己、SCP-210-JPの方が速いからだ。
だからAO-790QKはさらに動いた。軍艦を放り投げたのだ。
「なっ!?」
鉄塊が視界前方を埋め尽くす。このまま相対速度で突っ込めば、無事では済まない。
だから、久居中尉は機首を持ち上げた。
急上昇。
その先、視界に影が落ちた。
海から出でる赤柱――その先端が目前にぬっと姿を見せたのだ。
久居が進路を誤ったのではない。進路を変えた後に、AO-790QKが追い付いたのだ。
先端が二つに割れる。まるで口を開くように――明確な形を持つそれは生物的。
「竜みたいじゃねえか!」
距離は一つ瞬きをするうちに零になる程度。
だから、久居中尉は主砲を撃った。光線が直線を描き、爆発する。
主砲が進路を切り開こうとする中、細かい破片が機体を打つ。
その時だ。一瞬、視界が光に飲まれた。
黒い空の中にいた。
黒は闇ではなく、方々に浮かぶ球形の地面が見て取れた。それが上にも下にも左右にも見渡す限り存在して、しかし空の中にいるのだと直感する。
黒い空の中を飛んでいた。
落ちるのではない。引かれるのではない。空を自らの推進力で進んでいた。それを飛ぶと言うのだ。
自らの視界があった。
自らの周囲には、戦闘機が飛んでいた。それぞれが似たような形をしている。だから、自分も同じ姿なのだと悟る。
その時、前方の空が欠けているのに気付く。
赤黒い塊が浮いていた。それが黒い空を侵食しているのだ。
まさしくそれは闇と呼べるものだった。
こっちへおいで
闇が言う。
いっしょにおいで
闇が呼んでいる。
自らの意思で飛んでいるにもかかわらず、まるで闇の方へ引き寄せられているのではないかと錯覚してしまう。
自分は落ちているのではないのかと。
みんなでいっしょになろうよ
闇が空を覆い隠すかのように広がった。
対する自分は主砲に火を入れる。
そして、吠えた。
視界が戻る。
SCP-210-JPは自分の意識の在り処を確かめる。
さっきのは、夢か? 幻か? SCP-210-JPにはわからない。
ただ、幻覚を見ていたのは自分だけでなく。
「なんだ今のは?」
久居中尉も困惑の表情を見せていた。
二人で状況を確認する。
AO-790QKとの衝突は避けられたようだ。今は水平に飛び、AO-790QKから離れる方向へ飛んでいる。
久居中尉は機体を旋回させ、再びの接触する方向を取った。
速度を上げると、視界がブレた。
「おい、ブラザー。調整を頼む」
「……」
「ブラザー……?」
問う声に、SCP-210-JPは答えられない。
……何故?
理由はわからない。ただ、気持ちがはやる。
機体がブレていることに気付くのに時間はかからなかった。補助装置もいくつかが死んでいて、操縦桿が重くなっている。
リカバリーを試みる。が、反応がない。
「どうした兄弟!? このままじゃ衝突だぞ!」
「! す、すみません!」
動きが僅かに安定を得る。しかし、作戦開始時と比べると明らかに何かが違う。
世界が速いのだ。
処理の高速化が効いていない。
「兄弟!」
「わかりません! 私は……!」
焦る。
動揺している。
さっきの幻覚に心が揺さぶられている。
……そうだ、私はさっきの眺めを知っている。記憶にはない。しかし、この身に刻まれた何かが同調し、叫んでいるのだ。
そして、どうしようもなく心が軋む。
直前、AO-790QKの破片が降ってきた。この身に付着したそれが懐かしい響きを上げているのだ。
私は呼ばれている。何に?
失くしたはずの過去に。
こっちへおいで
「な……!?」
夢の中で聞こえたのと同じ声。それが、AO-790QKから聞こえたのだ。
思えば、夢の中の闇も奴と同じ……SCP-210-JPは考える。
じゃあ、飛んでいた自分は誰か。その答えは知っている。
寂しかったでしょう?
あなたは一人じゃない
さあ、一緒に――
「違う!」
拒絶の叫び。それが自分自身が発したものだと気付き、驚いてしまう。
SCP-210-JPの声を無視するように、声は続く。
あなたを待っていたの
もう一人でいる必要はない
皆も待ってるから
おいで
「違います! そんなの嘘偽りです、だってこの私は、私はっ!!」
「落ち着け、このままじゃぶつかるぞ!」
久居中尉の言うとおり、このままではAO-790QKと衝突だ。
もちろん自分もぶつかりにいきたいわけではない。けれども、理由はわからないが、自分の力ではどうにもならないのだ。
SCP-210-JPが言おうとした時、AO-790QKの一部が大きく開いた……まるで、両腕を広げるように。この機体を包み込もうとでもいうように。
それは何故か暖かい。
機体はそこへ向かって一直線に落ちていくかのようだった。
「兄弟! コントロールを戻すんだ!」
久居中尉の声にはっとする。
もう回避できる距離ではない。このまま衝突してどかん、だ。
SCP-210-JPは思う。
……やっぱり、私を選んだのは失敗でしたね。でしょう、桑名博士?
私はこの感情を、諦め、と呼ぶことを知っている。
桑名博士や、私にこの機体を用意してくれた人たち……それに久居中尉は、きっと失望したことだろう。私は役立たずだったと。
それでいいのだ。これでようやく、私は孤独という悪夢から解放される。誰でもなく、どこでもない場所にいる私から解放される。
ただ、義理立てに、最後にやらなければならないことがある。
「久居中尉、ここでお別れです」
瞬間。
久居は、身体が視界の後ろに突き飛ばされているのを感じた。
落ちている、という感覚がある。風が身体を打つ響きがある。
そして本来の人間の視界の中、寸前まで自分が乗っていた機体の姿が見える。
緊急脱出。
その言葉が浮かんだとき、久居はもう手を伸ばしても届くはずもないほどに離れていた。
「待――!」
SCP-210-JPとそれを乗せた決戦兵器は、AO-790QKに飲み込まれた。
海に落ちた久居がパラシュートを開いていたおかげで、救援部隊は彼の位置を容易に位置を把握することができた。懸念があるとすればAO-790QKに近付くことで攻撃を受けるのではないかということであったが、久居が放置されていたことから司令部は彼を救い出せる可能性があると踏んだ。
結果として、救出の最中、AO-790QKは一切の動きを見せなかった。