- 名づけられてしまった怪物(改稿前)
- こういうのが好きなんだろ? (いつか戻ってくるだろう)
- シデムシ(ここまで評価低いか?)
- 影法師のドラマツルギー(畜生)
- ファンの鑑(泥水啜っても帰ってきてやる)
- 処女懐胎(リサコンのボツコニアン)
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは、現在時点でその凶暴性及び人間に対する非常に強い敵対性から保護の必要性が希薄であることも考慮され終了を検討されています。SCP-XXX-JPは10m×10m×10mの厚さ5cmの鉄板で構築された特別ユニットに隔離し、タングステン鋼で作成された口枷を装着させた状態で24時間体制の観察状態におかれます。ユニット内の温度は常に零下20度以下を保つことでSCP-XXX-JPの収容違反を阻止してください。SCP-XXX-JPが行動する素振りを見せた際は即座に重火器を用いた対応が認められます。SCP-XXX-JPは現在1m×1m×1mの特別ユニットに収容され、24時間体制の観察状態にあります。SCP-XXX-JPが何らかの問題行動を見せた際は即座にプロトコル鬼六を行ってください。プロトコル鬼六施行後は最大189日間SCP-XXX-JPは条件を満たした状態においても活性状態に変化することはありません。プロトコル鬼六はSCP-XXX-JPの名前を呼ぶことを必要とします。SCP-XXX-JPの名前は補遺を参照してください。
説明: SCP-XXX-JPは非活性時においてはイエネコ(Felis silvestris catus)に似た特徴を持つ起源不明の生物です。SCP-XXX-JPは非活性時においては一般的なイエネコ程度の身体能力ですがその耐久力は高く、食物をとる必要を見せません。また、言語を解し原理不明の発声方法において会話が可能であるなど高い知能を有しており頻繁に収容からの脱走を試みます。現在段階で収容からの脱走を█回経験、財団関係者を含む███名を殺害しているためその度に収容プロトコルが変更されています。█回目の収容違反におけるプロトコル改正で低温状態においては活性確率が減少することが判明したため、現在では収容ユニットを低温状態に置くことで収容を維持しています。SCP-XXX-JPは、他生物の血液を吸収することで活性状態におかれます。SCP-XXX-JPは活性状態におかれることで多様な姿に変化します。多くは3mほどの巨大なヤマネコ種(Felis silvestris)に似た姿ですが、他に人型実体、液状の生物等に変化することも確認されています。活性状態におかれたSCP-XXX-JPは、その変異した姿に関わらずいずれの場合も高い腕力、脚力、再生力、状況判断力を持ち合わせることが確認されています。SCP-XXX-JPは人間に対しては強い嫌悪感と残虐性を示しており、同時に嗜好品として好んでいる様子を見せ、特に肝臓や脾臓を好んで襲うと報告されています。現在時点で重火器による攻撃は牽制にはなるもののSCP-XXX-JPの瞬発力の高さのため効果的とは言えません。SCP-XXX-JPは東京都██区で発生した連続殺人事件の原因であると証言しており、その調査を行っていた警察官█人を殺害、捕食していたところを財団によって収容されました。これ以外にもSCP-XXX-JPによって引き起こされたと推測される事件が███件確認されており、現在確認が進められています。
インタビューログXXX-JP-UA
対象: SCP-XXX-JP 会話は外部スピーカーを通じ、遠隔地から監視カメラを利用して行われている
インタビュアー: ██博士
<録音開始>
██博士: SCP-XXX-JP、何故貴方は人間を敵視するのですか?
SCP-XXX-JP: ならば聞く、人間ども。嫌うことに理由がいるのかとな
██博士: …質問を変えましょう、貴方が人間を敵視した動機、起源は?
SCP-XXX-JP: ただ気に入らない、それだけだ。まあ、ヒトの肉は美味いがな
██博士: そうですか。これ以上の情報は聞き出せないと判断、インタビューを中止する
SCP-XXX-JP: おい
██博士: 何でしょう
SCP-XXX-JP: お前の目玉は美味そうだ
<録音終了>
この後、SCP-XXX-JPは収容違反を起こし、██博士を含む██の死亡者を発生させました。映像は偽造されたものであり、インタビューの際には既にSCP-XXX-JPは脱走していたものとみられています。
収容違反記録XXX-JP 事案S-██
20██/██/██、SCP-XXX-JPの活性化時を録画した監視カメラ映像が『国家が隠す生物実験の現実!』と銘され複数の動画投稿サイトに投稿されました。ただちに当該動画の閲覧禁止、拡散阻止措置を行いましたが推測で約████人が動画を閲覧したとみられています。この拡散には何らかの要注意団体の活動が関わっていると考えられますが、真偽は不明です。
補遺1: 上記の事案発生時、動画サイトのコメントに「この怪物を見たことがある」との書き込みが確認されたため、該当人物を追跡しインタビューを試みました、以下はそのインタビューログです。
インタビューログXXX-JP-SP
対象: ██ ██ インタビュー当時██県██市在住の大学生
インタビュアー: エージェント足利 オカルト雑誌の編集者としてインタビューを行っている
<録音開始>
エージェント足利: まあ、気を楽にしてくださいね。で、あの動画の怪物、アレを見たのはいつですか?
██ ██: えっと、…もう5年前くらいですかね
エージェント足利: ふむふむ、どんな感じだったんですか?
██ ██: そうですね、僕が見つけたときは小猫の姿で、なんだかすごいケガをしてました。それで動くこともできずに苦しんでたんでとりあえず家に連れて帰って怪我が治るまで世話をしたんです
エージェント足利: なるほど、そのあとは?
██ ██: 怪我が治って…、しばらくは家に居ついていました。それで両親と妹がいなくなって僕だけになったとき、話しかけてきたんです。話しかけてきたのはその時が初めてだったんで驚きましたよ
エージェント足利: でしょうね、で、どんな話を?
██ ██: えっと…たしか「俺は人間が嫌いで人間を食うために生きている。だが、この恩は忘れるわけにいくまい。だから俺に好きな名前を付けろ」、と。証拠にあの動画の怪物みたいな姿も見せてくれました
エージェント足利: 名前? 何でそんなものを
██ ██: はい、俺もそう思ったんで聞いてみたら「名づけというのは呪だ、故にお前が俺に名を付けるということは俺はその名に縛られることになる、だからもし俺がお前を食おうとしたらその名前を呼べ、そうすれば俺はその名に縛られる。だが他の人間には言うなよ、これはお前と俺の約束だ」とかなんとか…
エージェント足利: …なるほど、で、その名前は?
██ ██: えっと、なんだったかな。…ああ、そうです、そのとき一緒に猫を飼っててその名前が「タマ」だったんで
エージェント足利: …タマジロー?
██ ██: はい、そうです
<録音終了>
このインタビューを受け、特別収容プロトコルの訂正、およびプロトコル鬼六案が提出され、次回収容違反時試験的にプロトコル鬼六を実行することが決定されました。██ ██に対してはAクラスの記憶処理を行いましたが効果が確認されていないため、現在その行動を監視しています。
収容違反記録XXX-JP 事案U-█
20██/██/██、SCP-XXX-JPが収容違反を起こし、プロトコル鬼六が初めて施行されました、以下はその録音記録です。
音声記録:XXX-JP収容違反時 日付 20██/██/██
<録音開始>
エージェント新田: 止まれ! SCP-XXX-JP!
SCP-XXX-JP: やかましい、命乞いでもするか?
エージェント新田: …許可が下りた! プロトコル鬼六を施行します! おい、タマジロー!
SCP-XXX-JP: な、何故その名前を!
エージェント新田: 効果ありと判断! 継続します! 止まれ、タマジロー!
SCP-XXX-JP: 止めろ、止めてくれ!
(およそ五分ほどSCP-XXX-JPの苦悶するような声が録音される)
SCP-XXX-JP: 何故、何故だ、約束したじゃないか…
<録音終了>
この後、SCP-XXX-JPは非活性状態となり収容されました。
この記録をもとにプロトコル鬼六を中心としたプロトコル改正が行われ、現在の特別収容プロトコルが作成されました。それに伴い、SCP-XXX-JPのオブジェクトクラスをEuclidへ下げる提案がなされ承認されました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: 全世界に配備されたSCP-XXX-JP発見システムを用い、SCP-XXX-JPの出現が確認された場合、最も近辺に存在する職員は一切の行動を中止し、SCP-XXX-JPの確保、移送に動いてください。また、SCP-XXX-JPの長期継続的収容は禁止されているため、初期収容体制が確立したのちは、SCP-XXX-JP基準収容資料に基づき行動を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは一般的にフラットウッズ・モンスター1と称される存在に酷似した実体です。SCP-XXX-JPの出自、年齢は本人の黙秘により不明ですが、ヒンディー語、英語、中国語、日本語での会話が可能であり、口調は気難しい中年男性のようだ、と表現されます。また、SCP-XXX-JPはその外見と後述の異常性を除けば、一般的な成人男性と同等の知識、及び耐久力程度であると推測されています。加えて、SCP-XXX-JPは出現に際し多くの場合、メガホン、カチンコ、撮影機材2を持って出現します。この出現は四ヵ月から一年の間隔で発生します。
SCP-XXX-JPの異常性はその予知能力、あるいは現実改変能力に起因します。SCP-XXX-JPは多くの場合、世界各地の何らかの被害が発生する事故、事件の直前に該当地区へ出現します。この出現においては、一般的にUFOと指定される異常物品を利用しているとSCP-XXX-JPの発言から確認されていますが、現在時点で映像以外にその実在は確認されていません。出現後、SCP-XXX-JPは出現地に一般的な映画撮影と同様に機材を設置し、待機します。この行為はSCP-XXX-JPの外見にも拘らず、SCP-XXX-JPの存在を確認したことのない人物には多くの場合無視される、あるいは興味を持たれないところからSCP-XXX-JPには何らかの方法で自分の存在を隠匿しているものと思われます。
SCP-XXX-JPが撮影準備を整えると、その後数分から数時間のスパンで大きな物的、人的被害を伴う事故、事件3が発生します。これらの事故、事件以前にSCP-XXX-JPを確保及び、該当地区から移送したところ、事故、事件は発生したものの、被害は軽微であったところからSCP-XXX-JPの異常性は予知能力と軽度の現実改変能力によるものであると推測されています。
以下は、初期収容時、SCP-XXX-JPに対して行われたインタビュー記録の抜粋です。
インタビュー記録XXX-JP-1(抜粋) 日付 20██/██/██
インタビュアー: ██研究員
対象: SCP-XXX-JP
«記録開始»
██研究員: こんにちは、SCP-XXX-JP
SCP-XXX-JP: こんにちはじゃないでしょうに、あのねえ、これは不当拘束ですよ? これ、任意でしょ? だったら俺、帰っていいじゃないですか
██研究員: そういうわけにはいきません。SCP-XXX-JP、あれほどの大事故を起こした理由をお聞きしたいのですが
SCP-XXX-JP: いや、そういう話じゃないでしょ、俺はね、許可証4取ってんですよ? 誰かに迷惑かけましたか? 令状はあるんですか? ないでしょ? 何なら弁護士呼びましょうか? …まったく、これだから俺はこういうとこ嫌いなんですよね
(以下、重要性のない内容が続く)
██研究員: SCP-XXX-JP
SCP-XXX-JP: だから、俺はそんな名前じゃないって。あー、もう、分かった、分かりました、答えればいいんでしょ? クソ、見つかったのが運のツキだ。いつか作品の中で爆破してやるからな。で、答えたら帰してくれます?
██研究員: 検討してみましょう
SCP-XXX-JP: はあ、で、何でしたっけ? ああ、俺が何であんな作品を撮ってるのかって話でしたっけ。だってみんな好きでしょ? 大災害、逃げ惑う人々、そしてその中で命を懸けて行われる感動的な愛と絆の物語…、さらに大規模なセットと映像表現、迫力のあるサウンド! …まあ、CGもいいんですけど、これはやっぱり生の衝撃ってのが今のトレンドらしくって、欲しいんですよね、そういう画が。そうじゃないとほら、観客って喜ばないでしょ? アイツら我儘だしバカなんですよ。映像と知名度のある役者、あとは少しのお涙ちょうだい加えときゃオモシロいと思うんだから。映画ってのはそういうもんじゃないでしょ。…はあ、そんなこと言ったって、俺もこれで飯食ってる以上は売れるもの作らなくちゃいけませんからね。で、何か俺の仕事に問題がありますか? 映倫的には問題ないと思うんですが
██研究員: …つまり貴方は映画を撮るためだけにあのようなことを?
SCP-XXX-JP: 撮るためだけってのは失礼でしょ。俺はアレで飯食ってるんだから。まあ、やっぱりいい素材ってのはあんまり転がってないから、ちょっとした脚色も加えたりはしますけどね? それは表現の範囲内でしょ
██研究員: …これまでに作成した作品はお持ちですか?
SCP-XXX-JP: ああ、持ってますよ。俺の手荷物ん中見てみてください。まあ、どれもこれも駄作ばっか。いいのは興行収入くらいだから、全部あげますよ。で、これで満足? 車、路駐禁止のところに停めちゃってるから早く取りに行きたいんですけど
██研究員: …インタビューを終了します
«記録終了»
このインタビューより数日後、SCP-███-JPの軽微な収容違反が発生、それに乗じSCP-XXX-JPが被害を深刻化させ、██研究員を含む数名の財団職員が犠牲になりました。この事案より、SCP-XXX-JPの継続的な収容は困難とされ、特別収容プロトコルは対処的な方法へと改訂されました。
補遺1: 20██/██/██以降、SCP-XXX-JPの出現が約三年に渡り停止しました。以下は出現停止直前のSCP-XXX-JP収容時、移送を行っていたエージェント・足利への聴取記録です。
内部聴取記録XXX-JP 日付 20██/██/██
インタビュアー: 楠木博士
対象: エージェント・足利
«記録開始»
楠木博士: では、証言していただけますか、エージェント・足利
エージェント・足利: はい、まず、SCP-XXX-JPが出現したという報告を受け、最も近くにいた私が初期収容を行うために直行しました
楠木博士: 確認は取れています。その後、エージェント・新田らと合流、SCP-XXX-JPの移送を行ったと
エージェント・足利: はい、そうなんですが…、当時の記録にもある通り、到着する以前に民間人との接触を許してしまいまして
楠木博士: 確認しています。近隣に住む当時5歳の男児ですね。これ以前のSCP-XXX-JP関連事案に名前が確認できました。おそらく、偶発的にSCP-XXX-JPを目撃していた為、SCP-XXX-JPの隠匿技術が作用しなかったものと思われます。既に記憶処理は行いましたが、彼がどうかしましたか?
エージェント・足利: ええ、わたしも直接会話をしたわけではなく、到着と同時にその少年とは別れていたようなのですが、その後、移送しているときにSCP-XXX-JPが、なんというか…
楠木博士: 貴女の感じたままで構いません
エージェント・足利: どう言えばいいんでしょうね、興奮していた? というかなんというか、子供とか、若者に戻ったというか…、ずっと「そうか、そうだったんだ、ずっと忘れていたんだ」みたいなことを延々と言ってました。少なくとも、これまでに確認した資料からはあまり想像できないような態度でしたね
楠木博士: …成程、確かにそれは関連しているかもしれませんね。処分の可能性もあるというのに正直なコメントありがとうございます、エージェント・足利
«記録終了»
インタビュー後、さらに二年間SCP-XXX-JPの出現が停止ししていることから、SCP-XXX-JPのNeutralized指定が議論されています。
補遺2: 20██/██/██、SCP-XXX-JPが再出現しました。それと同時に、飛行し人間を襲う巨大な頭目類、中国伝承における殭屍に類似した実体の盆踊り大会、自我を持つパンナコッタの洪水等が同時多発的に発生し、██名の民間人が犠牲になりました。財団の早期行動により被害は最低限で食い止められましたが、この事案を以てSCP-XXX-JPの収容体制が改訂されました。以下は、当該事案時録音されていたSCP-XXX-JPの発言です。
「思い出した! 俺はずっとこんな映画を撮ってみたかったんだ!」
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは人類文化に与える影響を考慮され、現在収容されていません。SCP-XXX-JPはその存在が一般の研究者によって発見された場合、即座に該当の研究を中止、関係者にAクラス記憶処理を行ってください。財団に所属する職員は検査を行い、SCP-XXX-JP宿主であった場合、特殊透析、薬物投与等、適切な処置を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPはシデムシ科(Silphidae)に属すると推測される昆虫の一種です。現在までに近似する属が発見されていないため、独立した属に分類すると推測されます。
SCP-XXX-JPは、その成長サイクルのほとんどを幼虫の状態で過ごします。SCP-XXX-JPは人間を宿主とした内部寄生を行うことが確認されています。SCP-XXX-JP幼虫の全長は7-8μm程であり、多くの場合人間の血液中に寄生します。血中においては赤血球に擬態し、好酸球を含む免疫防疫機能から自身の身を守り、同時に赤血球等の細胞を捕食していると推測されます。
SCP-XXX-JPのオス個体幼虫は宿主の死亡と同時に、変態を開始します。この死亡自体にSCP-XXX-JPは後述の二次被害を除き関与せず、多くの場合は通常の伝染病等による死亡です。宿主の死亡後、血管から小腸、大腸等の臓器に侵入、約1時間を経て約5-10mm程度の成虫へと変態します。その後、消化管、気管を通じ宿主外へ脱け出します。
宿主の外部へ出たSCP-XXX-JPオス個体は、特殊な性フェロモンを発します。このフェロモンを周辺のSCP-XXX-JPメス個体幼虫が吸引することで、メス個体の変態が開始され、同様に成虫へ変態し性フェロモンを発します。このフェロモンを受けたオス個体はメス個体宿主の体内へ侵入し、交尾、産卵を行います。周囲にメス個体の宿主が発見されなかった場合、SCP-XXX-JPオス個体は主に冷暗所へ移動し、宿主が現れるまで休眠状態に移行します。
その後、両個体は体内から抜け出し、周囲の人間へ同様に産卵を行います。交尾を一度でも行ったSCP-XXX-JPは、約1日程度で死亡します。また、産卵された卵は一般的な生理機能で体外へ排出される場合もあるため、産卵された対象全てが宿主となることはありません。産卵された卵は約2日ほどで孵化し、同様に宿主の血中に侵入します。宿主1人につき、約10~20のSCP-XXX-JP幼虫が存在すると推測されますが、現状で雌雄両方のSCP-XXX-JP幼虫を保虫している宿主は確認されませんでした。これは、宿主の体内において近親婚を防ぐため、何らかの要因で性転換が行われているものと推測されます。
これら以外の感染経路としては、性交渉や身体接触、母体を通じての感染が現段階で確認されています。
SCP-XXX-JP宿主(混乱を防ぐため、以降宿主-Aとする)がSCP-XXX-JPの発する性フェロモンを吸引した場合、幻覚、幻聴などを伴った統合失調症に類似した症状を発症します。その内容としては、かつてSCP-XXX-JP宿主であった死者(以降宿主-Bとする)の存在を強く感じる、SCP-XXX-JP宿主-Bが実在し、存在する、といったものに終始します。これらの幻聴、幻覚は殆どの場合、一時的なものに留まりますが、体内のSCP-XXX-JP個体数、また、吸引量により、永続的なものへと変化する症例が確認されています。それらの幻聴、幻覚によって自殺に及ぶ宿主-Aも存在します。
また、吸引量が宿主-Aの閾値を超えると、宿主-Aに限定的な現実改変能力をもたらすことが確認されています。この能力は多くの場合、前述の宿主-Bが存在した証拠を作成する、宿主-Bによって引き起こされた痕跡を作成することに使用されます。これらの改変行為による二次的被害の結果、死亡する宿主-Bも存在します。閾値は宿主により変化するため、指標は存在しません。
これらの二次的能力は死者を増やし、繁殖を容易にするためかつ、SCP-XXX-JP個体の発見を防ぐためではないかと議論されています。事実、これらの幻聴、幻覚はSCP-XXX-JP個体の移動方向等と密接に関係していること、一部現実改変はSCP-XXX-JP個体の隠蔽を行うよう発生することが確認されています。
現在、SCP-XXX-JP宿主は最大で全世界人口の約10%ほどであるとの意見も存在します。この推測より各文化、宗教の崩壊を防ぐため、SCP-XXX-JPの積極的な根絶は許可されていません。
アイテム番号: SCP-941-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-941-JPは、常時2名以上の監視下に置き、カバーストーリー、「倒壊の恐れ」を頒布し、危険であるとして一般人の侵入を防いでください。また、SCP-941-JPに曝露した対象は各個別に標準監視房に隔離し、セキュリティクリアランス3以上の職員が許可する場合を除き、互いに遭遇させることを禁止します。
説明: SCP-941-JPは東京都██区に存在する廃劇場の舞台です。 SCP-941-JPは一般的な演劇用舞台と比較し際立った特徴はありませんが、緞帳部分に赤の塗料で『マクベス』の一節、『Life's but a walking shadow, a poor player that struts and frets his hour upon the stage and then is heard no more. It is a tale told by an idiot, full of sound and fury signifying nothing5』が書かれています。
SCP-941-JPの異常性は、SCP-941-JPにおいて演劇を演じることで発生します。SCP-941-JP上において演じられる演劇において、どのような作品を用いても必ず以下の役柄が出現します。
- 殺人者の王
- 3人の魔女
これらの役柄は演劇に参加した人間の中からランダムに選出され、本来存在する役柄から変更される形で登場します。この際、役柄に選出された人物、あるいはSCP-941-JP内に存在する人物は一切違和感を持ちません、また、使用する台本等にも改変が発生していることが確認されています。その後、演劇の内容に関わらず一定のタイミングで本来の演劇に挿入される形でイベント-マクベスが発生します。イベント-マクベスは発生後、演劇が終了するまで一切の干渉を受け付けません。イベント-マクベスの詳細は以下の通りです。
第1イベント: 劇中に3人の魔女役と殺人者の王役が発生。3人の魔女役が予言を告げる。予言の内容が「おまえは演者となる」であった場合、第2段階へ移行し、それ以外の場合はその時点でイベントが終了する。この後、約10分以内に第2イベントが発生。
第2イベント: 劇中に3人の魔女役と殺人者の王役が発生。殺人者の王役は困惑した演技で3人の魔女役へ予言を求める。しかし、3人の魔女役は消失し、新たに「光を愛せざる者」と名乗る人型実体(以降、SCP-941-JP-1と指定)が出現する。SCP-941-JP-1は、「あなたの役をいただけるならば、私は新たな役を差し上げましょう」と発言し、これに肯定の返答をすると、SCP-941-JP-1は殺人者の王役の顔部分における表皮を刃物で削ぎ、仮面を押し付ける。この際、仮面は顔部分に同化し、損傷は回復する。これを終えると殺人者の王役は観客席へ礼をすると気絶し、同時に3人の魔女役が気絶した状態で再出現、SCP-941-JP-1は消滅。SCP-941-JP-1の消滅と共にイベントは終了する。
第2イベント後、殺人者の王役を演じた対象は自身を演者と表現し自己同一性障害に似た状態に陥ります。その後、対象は演技性パーソナリティ障害に近い症状を発症し、多くの場合障害に伴う虚言等により他者から孤立する傾向にあります。この症状の多くは最高の自分を演じる事であることが対象から言及されています。
複数の対象が遭遇した場合、即興の演劇を行おうとします。しかし、多くの場合全員が主役を希望するため、演劇が行われることは非常に稀です。
事案記録941-JP 20██/██/██
20██/██/██、第2イベント対象であったD-15956、D-15957、D-15958、D-15959によって即興劇が行われました。これまでと同様、全員が主役を希望しましたが、D-15957以外の希望者が話し合いにより役を変更したことによりこの事案は発生しました。
この即興劇はイベント-マクベスと同じく終了するまで一切の干渉を受け付けませんでした。劇の内容は以下の通りです。
第1幕: 主人公であるD-15957が苦悩し、自らの幻影を前に問答を続ける。問答の内容は自分の理想との乖離に終始し、最終的に自身の幻影を倒すことを決意する。他の役者は周囲で何らかの日常行為を演じており、主役の演技との関係性は見られない。
第2幕: D-15957が恋人の裏切り、父親の殺害など多くの苦難を乗り越え、自身の幻影を打ち破り全員からの喝采を受け終焉。この際、恋人、父親などの役はD-15957以外の役者が交代に台詞を発することで表現している。終焉と同時にSCP-941-JP-1が出現、D-15957以外の役者から顔面の皮膚を剥ぎ取る。この際剥ぎ取られた皮膚は仮面へと変化し、損傷は回復した。その後、SCP-941-JP-1はD-15957にそれらの仮面を張り付け消失する。
劇終了後、D-15957の自己同一性障害が悪化する一方、他三人は快癒しており、カウンセリングの結果等から安定した精神状態であることが判明しました。
補遺: 事案終了後、D-15957の顔面部に以下の文章が刻まれていることが判明しました。
Receipt
All the world’s a stage, and all the men and women merely players. They have their exits and their entrances and one man in his time plays many parts.6
光を愛せざる者
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 不動産業者、貸倉庫業者を通じ、SCP-XXX-JP群に対する一般人の入居および利用を防いでください。また、内部の物品は定期的に検査を行うことが求められます。
SCP-XXX-JP-Bに対する調査も兼ね、SCP-XXX-JP内には定期的にカウンセラー資格を持つエージェントあるいは研究員を投入してください。
説明: SCP-XXX-JPは██県██市に存在する公営住宅の一室、██県██市他に3つ存在する貸倉庫の総称です。
SCP-XXX-JP内には星降 ██氏(本名大川 █)とされる人物の著作物、あるいはそれらに関係する創作物、メディアミックス作品(以下、SCP-XXX-JP-A)が膨大な数保管されています。これらは劣化の兆候を見せず、現状試みることができる一切の破壊行為が不可能です。また、SCP-XXX-JP外にこれらの物品を持ち出すことも不可能です。
現在段階で「星降 ██」名義で活動している作家は確認されず、過去にも存在していないことに留意してください。同様に大川 █氏の存在も確認されていません。
SCP-XXX-JP-BはSCP-XXX-JP内において確認可能な音声です。この音声は星降氏を名乗る成人男性のものであり、対話が可能ですが発信源は確認されていません。SCP-XXX-JP-Bは軽度な抑鬱状態にあると推定され、定期的なカウンセリングを必要とします。
以下は、初動調査を行った際の映像記録です。
映像記録XXX-JP-A - 日付 20██/██/██
探索人員: エージェント・足利
対象: ██市営住宅████高層住宅D棟███号室
«ログ再生»:
エージェント・足利: 足利、これより調査を開始します。確認お願いします
エージェント・足利: はい、確認しました。では突入します。内部に人の気配はありません。通報では「誰もいない部屋から人の声がする」という話でした。霊的実体の存在も考慮し調査を行います
エージェント・足利: 内部は漫画かアニメのフィギュアや小説、DVDが大量に存在しています。どれも移動できない以外現段階での異常性は確認できません。データベースでの確認を
SCP-XXX-JP-B: そこの、そこの人!
エージェント・足利: 誰ですか。何処にいますか
SCP-XXX-JP-B: 何処にいるかなんて分からないよ、強いて言うならこの部屋と、どっかの貸倉庫です、なあ、助けてください!
エージェント・足利: 落ち着いてください。貴方は
SCP-XXX-JP-B: 私は星降 ██、って言えば分かりますかね? ずっと此処に閉じ込められているんです、とにかくここから、出してください
エージェント・足利: 何処かに閉じ込められていますか?
SCP-XXX-JP-B: 分からないって言っているじゃないですかあ!
エージェント・足利: 落ち着いてください。探してみます
[10分ほどをかけてエージェント・足利による捜索が行われるが、発見には至らない]
エージェント・足利: 見つかりません、貴方は
SCP-XXX-JP-B: なんで、なんで見つからないんですか、私は確かにここにいます、ここにいるんです! 見つけてくださいよ! なんで、こんな、これじゃあ何にも書けないじゃないですか!
エージェント・足利: …司令部、増援を要求します
«ログ停止»:
この初動調査後、上記の異常性が判明しSCP-XXX-JP-Bの協力を得る形で他のSCP-XXX-JP群発見に至りました。発見後、SCP-XXX-JP及びSCP-XXX-JP-Bに関係する周辺調査が行われました。
その結果、SCP-XXX-JP全ての借り請け人である藤吉 ██氏はPAMWAC7との繋がりが確認されました。PAMWACは主にサブカルチャー、あるいはそれに類する文化愛好家の緩やかな集合体であり、各人の愛好するジャンルによって同好グループが存在しています。藤吉氏はその内、創作を行わない漫画、アニメ作品愛好者からなるグループへ主に属し【藤吉 ██氏のハンドルネーム】の名前で活動していた中心的存在であったことが判明しています。
藤吉氏は現在段階で行方不明であり、PAMWAC内同サークル関係者も把握していないことが確認されています。藤吉氏が愛好していた作品、ジャンルについての情報は不明であり藤吉氏失踪の数日前まで、藤吉氏はグループの趣旨から外れオリジナル作品に取り組んでいたという証言が得られました。同調査においてSCP-XXX-JP-Bの証言する親族、友人は存在したものの、星降 ██及び大川 █を知る人物は存在しませんでした。
以下は調査後において行われたSCP-XXX-JP-Bへのインタビュー記録です。
インタビュー記録XXX-JP-KR - 日付 20██/██/██
対象: SCP-XXX-JP-B
インタビュアー: 護良研究員
<録音開始>
(前半部は事実確認のため省略)
護良研究員: SCP-XXX-JP-B、貴方の証言する人物に接触を行いました。その結果、星降 ██及び大川 █を知る人物は存在せず、該当する戸籍も存在しませんでした
SCP-XXX-JP-B: 冗談でしょ?
護良研究員: 事実です。加えて貴方の主張する作品、『【作品名】』、『【作品名】』も同様に出版された記録は有りませんでした
SCP-XXX-JP-B: そんな、だってここにあるし、ここにいるじゃないですか! ここに、私の作品だって、あるのに
[約5分間、困惑したSCP-XXX-JP-Bの声が録音されている]
護良研究員: 落ち着かれましたか?
SCP-XXX-JP-B: …はい、まだ、混乱はしてますけれど
護良研究員: では質問なのですが、この状況に陥った心当たりは?
SCP-XXX-JP-B: そんなものはありませんよ。いつもと同じように食べて、寝て、それで起きたら…、こうなってました
護良研究員: そうですか。では、この部屋については? この部屋は藤吉 ██氏という人物が借り請け人となっていたのですが
SCP-XXX-JP-B: 知りませんね
護良研究員: ふむ、では、【藤吉 ██氏のハンドルネーム】さんもご存じない?
SCP-XXX-JP-B: 【藤吉 ██氏のハンドルネーム】さん! 知ってます、知ってますよ。彼女は私の作品の熱心なファンです。直接お会いしたことは少ないですが、SNSなんかでも真っ先にコメント付けてくれたり、私の作品のコミュニティでは有名人でした。こう言っちゃなんですが、私にとって一番のファンでしたよ
護良研究員: 成程、彼女に関して何か知っていることは?
SCP-XXX-JP-B: そうですね、思い出しました。こうなる前日、彼女からDMが届いたんです。私の作品関係の中でも滅多に手に入らないものを手に入れたって。まず出回らないものだったんで、スゴイと思ってそのあともやり取りしてたんですけど、ファンなら全部集めるのが当たり前なんてこと言ってまして。それって面白くないと思いますけどね、話し相手がいないコレクションなんて。話が逸れましたね、それで…
護良研究員: それで?
SCP-XXX-JP-B: 最後に欲しいものは決めてるんです、そしてそれを手に入れる目途も立った、って
<録音終了>
補遺: 藤吉 ██氏に対する追跡調査の結果、██県に新たなSCP-XXX-JPが発見されました(以下、SCP-XXX-JP-1)。内部には成人男性一人分の死体、及びその臓器がナンバリングされた状態で保管されています。また、星降 ██及び大川 █とされる人物に対する詳細な記録、ならびに大川 █氏とされる人物に関連した生誕から現在の状況に至るまでの細かい調査記録が発見されました。上記の死体及び臓器はそれらの資料からSCP-XXX-JP-Bであることが推測されますが、資料の正確性が確認不可能なため判断は保留されています。これらの物品も外部へ移動させることは不可能です。
特記事項として、SCP-XXX-JP-1においてSCP-XXX-JP-Bの存在は確認されませんでした。
補遺2: さらなる追跡調査の結果、██県に新たなSCP-XXX-JPが発見されました(以下、SCP-XXX-JP-2)。内部には星降 ██氏の作品に対する二次創作作品が未完██作を含み数十作、SCP-XXX-JP-1内において発見された死体に由来すると推測される肉塊、SCP-XXX-JP-Bに類似した音声が確認されました。音声は不明瞭であり明確な文章を為しておらずSCP-XXX-JP-BもSCP-XXX-JP-2を知覚していません。これらの物品の内、二次創作作品のみ外部持ち出しが可能です。
特記事項として、SCP-XXX-JP-2内に長期滞在した状態で星降 ██氏の作品群、あるいはそれらに関する二次創作作品を確認した場合、対象人物はそれらの作品に対する知識を以前から所持していたと主張します。しかし、その知識は多くの誤り8を含んでおり、その矛盾を指摘されると混乱状態に陥ります。これらの記憶はSCP-XXX-JP-2外へ移動することにより約2時間程で消失することが確認されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid Keter
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPを収容している洞窟は警備員による24時間体制での封鎖を行い、一般人による侵入を阻止してください。SCP-XXX-JP-1は各個体に発信機を埋め込み、現在位置を随時確認してください。
説明: SCP-XXX-JPは長崎県私立████学園敷地内に含まれている洞窟及びその内部に存在する樹木状の実体、また、その影響を受けた人間(以下、SCP-XXX-JP-1)から構成されています。
SCP-XXX-JP内部の樹木実体には葉や枝が存在せず、吸水根に類似する組織が洞窟全体を覆っています。現在樹洞内には行方不明になった████学園の女子生徒、結弦██氏が埋め込まれていることが確認されています。結弦██氏の救出は現在段階で失敗しています
SCP-XXX-JP内部へ人間が侵入した場合、性別により反応が異なります。女性の場合、夢遊病と同様の症状を発症し、埋め込まれた結弦氏への接触を試みます。女性が結弦氏への接触に成功した場合、該当女性は生殖機能を喪失しSCP-XXX-JP-1へ変化します。変化したSCP-XXX-JP-1は自由意思を有するものの、多くの場合SCP-XXX-JPを隠匿する、あるいはSCP-XXX-JPへの男性の侵入を防ぐ、侵入経験のない女性をSCP-XXX-JPに呼び込む、SCP-XXX-JP内の湿度、温度管理を行うといった行動を取る傾向にあります。これらは拘束、移転により妨害は可能ですが、多くの場合抵抗を伴います。また、SCP-XXX-JP付近のSCP-XXX-JP-1が減少するに伴って、SCP-XXX-JPの異常性が洞窟外にも拡大することが判明したため、暫定的に特別収容プロトコル記載の処置が行われます。
SCP-XXX-JP内部への男性による侵入は上記SCP-XXX-JP-1の妨害により多くの場合失敗に終わります。侵入に成功した場合も時間経過とともに意識の混濁が発生し、数分から数十分で意識を喪失します。同時に季節、気温に関わらず乱層雲が発生し、████学園の周囲に降雪が発生します。この降雪を確認したSCP-XXX-JP-1は即座にSCP-XXX-JP内部へ転移、侵入した男性をSCP-XXX-JP外部へ運搬します。男性がSCP-XXX-JP外に運搬された時点で降雪は停止し、SCP-XXX-JP-1は転移前の位置に復帰します。
SCP-XXX-JPは20██年4月上旬、頻発する女子学生の異常行動及び結弦██氏、後述する大楠██氏の2名が行方不明になった事案に対し、学校側により警察への通報が行われたことにより発見されました。その際行方不明の結弦██氏が発見され、同時にSCP-XXX-JPの異常性が判明しました。
以下の記録は████学園の担任教師及び生徒に対して行われたインタビューの抜粋です。
インタビューログXXX-JP-01(抜粋) - 日付 20██/██/██
インタビュアー: エージェント・新田
対象: ██氏(結弦氏、大楠氏の1年次担任)
<再生開始>
[重要度が低いため前略]
エージェント・新田: 他に何か変わったことは?たとえば結弦さんが最近誰かと会った、とか。
██氏: そのような話は特に。学校の関係者以外とのお付き合いはなかったように思います。お母さまとの仲も良好ですし、家出をするようなこともないとは思うんですが
エージェント・新田: なるほど、行方不明になる原因も心当たりはない、と。そういえば母子家庭だとか
██氏: ええ、そうですね。大楠さんとは環境が近いためか仲良くしていました
エージェント・新田: ああ、そういえば大楠さんも母子家庭でしたね
██氏: ええ、大楠さんの方はご両親がご離婚されていまして。そのためか少々男性不信のきらいがありましたね。ですから、その…、二人とも不埒な真似をすることはないと、そう思います。どうにか主が導いてくれればよいのですが…
<再生停止>
インタビューログXXX-JP-01(抜粋) - 日付 20██/██/██
インタビュアー: エージェント・新田
対象: 青山氏(結弦氏、大楠氏と同クラスの女子生徒)
<再生開始>
[重要度が低いため前略]
エージェント・新田: じゃあ、やっぱりあの洞窟には生徒は近づかなかったんだね
青山氏: そうですね、怖いのもありましたけど、虫や蝙蝠がいるって聞いてたので近寄る人はいなかったと思います。学校の七不思議みたいなとこもありましたし。最近はなんだかよく誘われたり、一緒に連れだって行ってる人もいるんですけど、なんであんなとこに行きたがるんでしょうね。私なら断ります
エージェント・新田: 七不思議?
青山氏: えっと、ここらへんは隠れキリシタン? でしたっけ、そういう人たちが殺された場所だとかで、そういう話が多いんです。あの洞窟もそんな人たちが隠れてた場所だとかそういう話もあって。そういえば大楠さんも
エージェント・新田: 大楠さんも?
青山氏: えっと、あの子はそのキリシタンの子孫だとかなんだとかで虐められてて、まあ、ここは一応ミッションスクールですし、こう言うのなんですけどちょっと電波入ってる子でしたしね。それを結弦ちゃんが助けたんですね。そこから大楠さん、結弦ちゃんにベッタリで
エージェント・新田: ベッタリか
青山氏: はい。ちょっとおかしいくらいだったと思います。結弦ちゃんはまるや様だとかなんだとか言って…。確かに神様…、天使みたいな子でした。誰にでも同じように接するし、美人だし、頭もいいし。だから大楠さんが結弦ちゃん攫ったんじゃないかって噂ですよ
エージェント・新田: 他に何か変わったことは言ってなかった?
青山氏: 他に、うーん。ほんと電波なことが多くって…、結弦ちゃんがまるや様なら、私はがむりあか、でうすになる、って。何言ってるのか分かりませんよね。それに、結弦ちゃんなんか神様にしたってしょうがないと思うんだけれども
<再生停止>
補遺1: 20██/██/██、SCP-XXX-JP内部に不明人物が侵入する事案が発生しました。事案発生時、SCP-XXX-JP入口を警備していた財団職員は、一時的にSCP-XXX-JPの有する異常性下と同様の状態になっていたことが確認されています。これを受け、財団上位監督部による緊急宣言が発令、特例機動部隊が任命され、収容にあたりました。機動部隊は異常性の影響を受けつつも侵入者の確保に成功しました。
後続調査により、侵入者は行方不明である大楠氏であることが判明しました。大楠氏は機動部隊による攻撃を受ける前から意識混濁、脈拍低下の状態にあり、緊急搬送されたが死亡しました。財団司法部の判断により行われた解剖で大楠氏の体内には以下の異常が確認されています。
- 全身の骨格筋における異常な発達
- 肩関節の肥大
- 女性器の欠如
- ゲニタリア9に似た組織の発達
事案発生を受け、大楠氏の関係者へ聴取を行おうとしたところ、大楠氏の母親が殺害されていることが判明しました。現場にはSCP-XXX-JP-1複数名の痕跡が残っており、それらにより殺害されたものと推測されます。
上記の事案以降、SCP-XXX-JP-1の動きが攻撃的かつ活発的になり、SCP-XXX-JPを防衛するような動きを取ることが確認されています。また、SCP-XXX-JP-1等には前述の大楠氏に見られた異常な体格変化がゲニタリアの発達を除き確認され、容貌が大楠氏のものへ変化していました。
補遺2: 20██/██/██、財団上位監督部によりSCP-XXX-JP内部の再調査が指示され、機動部隊り-4("玄翁")が派遣、人員の損傷なく約5分間の内部調査を行いました。この調査によりSCP-XXX-JP内部に存在する結弦氏において、妊娠の兆候が見られることが確認されました。また、映像解析及び内部残留物質の調査結果からシャクガ科の幼虫と類似した高位神格を有するクラスⅢ霊的実体が結弦氏の胎内に存在していることが示唆されています。これを受け、現在財団上位監督部によりSCP-XXX-JPの異常性排除を目的とした作戦が想定されました。
補遺3: 20██/██/██、財団の想定より2ヵ月早く、SCP-XXX-JPにおいて結弦氏の出産が発生したと推測されます。以下は該当イベントの観測記録です。
«再生開始»
00:00: 全SCP-XXX-JP-1がSCP-XXX-JP内に移動し、不明な発声を行う(喝采と推測される)
00:10: SCP-XXX-JP内より巨大な悲鳴が確認される。これより機動部隊り-4が突入。以降の映像は部隊員の撮影によるものである。なお、イベント時、SCP-XXX-JP内部における意識混濁は発生しなかったことが確認されている。
00:28: 機動部隊が結弦氏周辺へ到着。全SCP-XXX-JP-1が困惑したような表情を浮かべつつ不明瞭な言葉を叫ぶことが確認される。この叫びにはのちの解析により"じゅすへる"、"べんぼう"、"えわ"などの単語が確認される。結弦氏の下腹部には激しい蠕動が確認され、霊素解析は著しい変化を受けたことによる機器の故障により失敗する。一部SCP-XXX-JP-1は結弦氏の下腹部へ手を強く押し当てていることが確認される。
00:49: 1体のSCP-XXX-JP-1が結弦氏の下腹部へ頭を強く押し当てる。蠕動が僅かに鎮静化する。
01:22: 押し付けたSCP-XXX-JP-1の頭部が、徐々に結弦氏の腹部へとめり込んでいく。のちの映像解析によりSCP-XXX-JP-1が霊体に返還されたことによるものであると推測されている。これと同期するように蠕動が沈静化。
04:38: SCP-XXX-JP-1が完全に結弦氏の腹部へ消失。同時に蠕動が停止し、結弦氏が胎児を出産。これに伴い、SCP-XXX-JP内部における意識混濁が再発生。SCP-XXX-JP-1の行動も通常のものへと変化したことにより機動部隊は胎児を回収し撤退する。
«再生終了»
イベント時発生した胎児には異常性が見られず、調査の結果、結弦氏と大楠氏の遺伝子を受け継いでいることが判明しています。また、イベント後SCP-XXX-JP内の結弦氏が再度妊娠していることが確認されました。現在、SCP-XXX-JP-1の総数は約35人です。
- 人生に意味なんてない(投稿済み)
- 名付けられてしまった怪物(投稿済み)
- 灰の降りしきる戦場で(投稿済み)
- (たぶん)天国に一番近い島(投稿済み)
- ミス・げいじゅつはばくはつだ(投稿済み)
- 1000-JP
- 事実は小説より…?(投稿済み)
- インク漬けの墓守(投稿済み)
- 忘れ物(投稿済み)
- Curiosity Kill The Sloth?(投稿済み)
- 廃墟の街(投稿済み)
- バラバ!(投稿済み)
- ドードー巡り(投稿済み)
- Go Banana(投稿済み)
- 藪の中(投稿済み)
- 龍舞(投稿済み)
- 蜘蛛のハイスコア(投稿済み)
- TOKIO(投稿済み)
- 春は汽車に乗って(投稿済み)
- 隙間女とアンダーベッドマン(投稿済み)
- 遠回りせよ雛(投稿済み)
- 惡の華(投稿済み)
- ア・バオ・ア・クー(投稿済み)
- ノーチラスと猫 (投稿済み)
- 象が来る(投稿済み)
- バックベアード(投稿済み)
- 幽霊(投稿済み)
- 渚のフランケンシュタイン(投稿済み)
- 既死(投稿済み)
- 蛸の海征く少女らは(投稿済み)
- 夜が明けるまで踊らせて、それがダメなら貫いて(投稿済み)
- 蠱毒のグルメ(投稿済み)
- 成所作智(投稿済み)
- 私の後ろに(投稿済み)
- 一寸の虫が続くとて(投稿済み)
- プレゼン及びターゲッティング不足(投稿済み)
- 糸を依れば紐になる(投稿済み)
- 鬼の閨(投稿済み)
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは施錠された不透明のケースに保管され低脅威物ロッカーに収容します。SCP-XXX-JPを用いた実験を行う場合はサイト管理官の許可が必要です。また、実験の際は使用する研究室を無菌状態においたうえで、研究に関係する人物全てに殺虫消毒を行い SCP-XXX-JP-Aへ変態しうる可能性のある節足動物全てが死滅したことを確認してから行ってください。SCP-XXX-JP-Aは、標準的な人型オブジェクト収容室へ各個体ごとに収容を行ってください。取り扱いは通常の人型オブジェクトと同様の取り扱いを行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは数冊の文庫本の総称です。現在までに7冊のSCP-XXX-JPが発見され、収容されています(SCP-XXX-JP-1~7と指定)。SCP-XXX-JPはいずれも現在発行されている書籍の形をとり、現在までに出版社を通じ出版されていない書籍は確認されていません。SCP-XXX-JPは外見上判別できる異常性は持ち合わせず、いずれも一般流通している該当書籍と組成面、内容面での差異は存在しませんでした。
現在までに確認されたSCP-XXX-JPの異常性を持つ書籍例には以下が含まれています。
- 『人間失格』
- 『ひかりごけ』
- 『死に至る病』
- 『ドグラ・マグラ』
- 『完全自殺マニュアル』
- 『若きウェルテルの悩み』
- 『██』
また、いずれのSCP-XXX-JPも見返しの部分に以下の文章が記されています。書き込んだ人物に対する筆跡からの追跡は全て失敗に終わりました。
生まれたことに、生きることに、意味なんてないわ
SCP-XXX-JPの異常性は、SCP-XXX-JPを10ページ以上朗読することで発生します。SCP-XXX-JPが朗読された際、ヒトの可聴域でその朗読を聞いた節足動物はSCP-XXX-JP-Aへと変態します。一度に変態する数には限界があり、確定はしていないものの、5~15までの個体数が対象となります。
SCP-XXX-JP-Aは、遺伝子およびその他生物学的条件において、ヒトと同一の特性を持つ生物です。SCP-XXX-JP-Aは、一般的に優れた知性と身体能力、および温厚な性格を有しており会話が可能です。特に一般的に害虫、あるいは不快害虫として扱われる生物であるほどその傾向は顕著なものとなります。
SCP-XXX-JP-Aの容貌は多くが「整った顔立ち」と表現され、人種、年齢、使用言語はその生物の現在時点での原産地、生存時間に依存することが判明しています。また、変態時には現代における常識、文化などの一般的な知識を習得しています。
SCP-XXX-JP-Aへの変態は異常性暴露後、主に10時間程度かけ原理不明のプロセスをこなし、比較的緩やかな速度で行われますが、記録用の機材が原因不明の故障を引き起こすため、現時点で映像及び音声としての記録は残っていません。また、変態中のSCP-XXX-JP-Aに対する干渉はいかなる機材、方法を用いても無効に終わりました。
現在、SCP-XXX-JP-A個体は偶発的に変態した個体、実験の結果変態した個体を合わせ██体が収容され、全個体が収容に協力的な態度を取っています。
現在までに確認されたSCP-XXX-JP-A例には以下のものが確認されています。
- ゲジ(Scutigeromorpha)のオス。60代のアジア系男性に似たSCP-XXX-JP-Aに変態。収容に至る通報の際発見された最初のSCP-XXX-JP-A実例。この個体以外にも██体のSCP-XXX-JP-A個体が発見された。
- アオクサカメムシ(Nezara antennata)のオス。20代のアジア系男性に似たSCP-XXX-JP-Aに変態。実験下において変態した初めての個体。
- オオカバマダラ(Danaus plexippus)のメス。20代のヨーロッパ系女性に似たSCP-XXX-JP-Aに変態。英語を会話に使用した。
- ケジラミ(Pthirus pubis)のメス。10代後半のアジア系女性に似たSCP-XXX-JP-Aに変態。実験時███研究員の頭部に付着していた個体が偶発的に曝露した。███研究員の就寝中に変態が完了し、███研究員は頸椎を捻挫。これ以降特別収容プロトコルの見直しが行われた。
- ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)のメス。30代前半のアジア系女性に似たSCP-XXX-JP-Aに変態。変態時に妊娠しており、24日後██体の個体を出産し死亡。
SCP-XXX-JPは██県██市の中学校において「教室に全裸の不審者がいる」という通報を受けたエージェントが前日に国語科の授業において使用されたSCP-XXX-JP及びSCP-XXX-JP-Aを発見、確保、収容に至りました。その後、同様の事例が教育施設を主に発生しましたが、聞き取り調査の結果SCP-XXX-JPの購入記録及びSCP-XXX-JPを持ち込んだ人物は発見されませんでした。
インタビューログXXX-JP-SR
対象: SCP-XXX-JP-A-17 変態以前はシラヒゲハエトリ(Menemerus fulvus)であり、現在は40代のアジア系男性に似た容貌となっている。
インタビュアー: 楠木博士
<録音開始>
楠木博士: では、インタビューを開始します
SCP-XXX-JP-A-17: はい、お願いします
楠木博士: まずSCP-XXX-JP-A-17、貴方は変態以前の記憶を保持していると証言していましたが具体的にどのような記憶を保持していますか?
SCP-XXX-JP-A-17: はい、そうですね、…お恥ずかしい話、あまり正確ではない上に断片的なのですが
楠木博士: 構いません
SCP-XXX-JP-A-17: 分かりました。貴方もご存じのとおり私はこうなる前は蜘蛛でした。ええ、その当時は何と言いますか、ただ食べて寝て、そう、欲求に従うだけを考えていたように思いますね。もちろん、それを悪いことだとは考えていません。…ですが、あの時、…何と言いますか、…世界がひっくり返ったような衝撃でした。突然頭の中に文字や文化、…そう、まさしく知性と呼ぶほかにないような、混沌とした何かが流れ込んできました。そして、突然私には「生きなければならない」という感覚が生まれたんです
楠木博士: 「あの時」とはSCP-XXX-JPの朗読を聞いたときで間違いありませんか?
SCP-XXX-JP-A-17: はい、今まで人の声は聞こえていなかった、あるいは意識にも止めていなかったはずなのに急に聞こえて…、あの時の感覚はどうにも言葉では言いようがありません。それから先は意識が遠のいて、気が付いたらこの姿になっていたというようなもので。こんな風に私自身の記憶も曖昧なものでして、そちらの質問に答えられるのは以上です。いや、お役に立てず申し訳ありません
楠木博士: いえ、構いません。では、これで今回のインタビューを
SCP-XXX-JP-A-17: …すいません、最後にちょっとお願いをしても構いませんか?
楠木博士: 私の権限の及ぶ範囲であれば
SCP-XXX-JP-A-17: この組織において私たちに何かできることはないでしょうか、いえ、出自が出自ですから今の扱いも理解してはいるんですが…
楠木博士: 納得できないと?
SCP-XXX-JP-A-17: いえ、本来虫として何の意味も持たず…、こう言えば語弊がありますが無為に子孫を残すだけの生から、今こうやってヒトとして、考え、行動できてしまうものとして生まれ、生きているからには何かを為さないといけないのではないでしょうか、少なくとも私はそう考えるのです
楠木博士: …なるほど、検討させていただきます
<録音終了>
現在、この報告を受け一部SCP-XXX-JP-Aをフィールドエージェントとして雇用する提案がなされ審議中です。同様にSCP-XXX-JP-AをDクラス職員として雇用する提案は財団倫理委員会によって否決されました。
補遺1: SCP-XXX-JPの朗読を担当したDクラス職員の約8割に自殺願望がみられることが判明しました。以下は朗読を担当し、その後自己終了を要求したD-1994に対してのインタビュー記録です。
インタビューログXXX-JP-SV
対象: D-1994 過去に動物虐待の経験あり
インタビュアー: 楠木博士
楠木博士: まずD-1994、何故貴方は自己終了を要求したのでしょうか?
D-1994: 分かんないのか、先生? …あー、まあ、あの声は俺にしか聞こえてなかったみたいだしな
楠木博士: あの声?
D-1994: ずっと聞こえてくるんだ、「生まれたことに、生きることに、意味なんてないわ」って。それにさ、あの時俺が見たゴキブリみたいな気持ち悪い虫、あれ、人間になんだろ? それも俺よりずっとすごいやつにさ
楠木博士: …貴方にその情報は明かされていないはずですが
D-1994: なんとなくそういうイメージ? そんなのが頭ン中に入ってくるんだ。それ思うともうなんかどうでもよくなって。まだ外にいたころにたくさん犬や猫殺したけどよ、あー、先生にはわかんないかもしれないけどあれって自分より下だって分かってるからできんの、自分より下にいる生き物だからって。でも、犬や猫よりもっとしょぼい生き物が俺よりずっとすごいんだぜ? もうなんだか生きていくのが嫌にもなるさ
楠木博士: つまり貴方は、生きることに意味を感じなくなった、と
D-1994: …そう、そういうことだよ。頭ン中の誰かが言ってるように、俺たちみたいな屑人間なんかは生まれたことも、生きることにも、どうせ意味なんてないんだってことだろ
<録音終了>
この後、D-1994はSCP-███-JPの収容違反に関わり終了しました。SCP-XXX-JPの与える精神影響については現在検討中です。
補遺2: SCP-XXX-JPを朗読したD-1998において、朗読後の勤務態度に著しい改善が見られたため、インタビューを行いました。以下はその記録です。
インタビューログXXX-JP-SX
対象: D-1998
インタビュアー: 楠木博士
楠木博士: D-1998、貴女がSCP-XXX-JPの朗読後、何故勤務態度が改善したのか説明していただきたいのですが
D-1998: えっと、先生はあの声のこととか、あの虫のこととか知ってるんですか?
楠木博士: はい、確認しています
D-1998: それなんですけど、最初のうちは私もすごい嫌だったんです。ずっとお前には生きてる価値がないって言われてるみたいで。でも
楠木博士: でも?
D-1998: でも、よく考えたらあんな気持ち悪い虫がすごい人になれる。だったら生まれたことや生きることに意味がないのは当たり前なんじゃないかって。そうじゃなくて、そこからどうするかが大切なんじゃないか、その意味を自分で作ればいいじゃないかって思ったんです。
楠木博士: 意味を作る、ですか
D-1998: 私は何も分かんないまま人を殺して、何も考えずにここに来た。…たぶん屑って言われる人間ですけど、これまで何の意味もなかった人生にもしかしたら自分で意味を作ることができるかもしれない、作ろうと思って
楠木博士: なるほど、それが勤務態度の改善につながったとD-1998: はい、生きているんだから何かをできるんじゃないか。そう思ったらなんだかあの声も聞こえなくなったんです
<録音終了>
この後、D-1998は一カ月の雇用期間を過ぎ、定例解雇されました。
事案報告20██/██/██: D-1998の解雇と同時期に新たなSCP-XXX-JPが発見され、SCP-XXX-JP-8と指定されました。SCP-XXX-JP-8は『悦ばしき知識』の形をとっており、見返し部分に以下の文が追加されていました。
だから、真っすぐにいきなさい
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは10m×10m×10mの厚さ5cmの鉄板で構築された特別ユニットに隔離し、タングステン鋼で作成された枷を装着させた状態におき、スリーマンセル体勢で24時間の監視状態におかれます。ユニット内の温度は常に零下20度以下を保つことでSCP-XXX-JPの収容違反を阻止してください。SCP-XXX-JPが行動する素振りを見せた際は即座に重火器を用いた対応が認められます。SCP-XXX-JPは現在1m×1m×1mの特別ユニットに収容され、24時間体制の観察状態にあります。SCP-XXX-JPが何らかの問題行動を見せた際は即座にプロトコル鬼六を行ってください。プロトコル鬼六施行後は最大189日間SCP-XXX-JPは条件を満たした状態においても活性状態に変化することはありません。プロトコル鬼六はSCP-XXX-JPの名前を呼ぶことを必要とします。SCP-XXX-JPの名前は補遺を参照してください。
説明: SCP-XXX-JPは非活性時においてはイエネコ(Felis silvestris catus)に似た特徴を持つ生物です。SCP-XXX-JPは非活性時においては一般的なイエネコ程度の身体能力ですがその耐久力は高く、食物をとる必要を見せません。言語を解し原理不明の発声方法において会話が可能であるなど高い知能を有しており頻繁に収容からの脱走を試みます。また、限定的な催眠能力も持ち合わせていることが判明しています。SCP-XXX-JPは、他生物の血液を吸収することで活性状態におかれます。SCP-XXX-JPは活性状態におかれることで多様な姿に変化します。多くは3mほどの巨大なヤマネコ種(Felis silvestris)に似た姿ですが、他に人型実体、液状の生物等に変化することも確認されています。活性状態におかれたSCP-XXX-JPは、その変異した姿に関わらずいずれの場合も非活性時より高い腕力、脚力、再生力、状況判断力を持ち合わせることが確認されています。これらの能力を利用して現在段階で収容からの脱走を█回経験、財団関係者を含む███名を殺害しているためその度に収容プロトコルが変更されています。█回目の収容違反におけるプロトコル改正で低温状態においては活性確率が減少することが判明したため、現在では収容ユニットを低温状態に置くことで収容を維持しています。SCP-XXX-JPは人間に対しては強い嫌悪感と残虐性を示していると同時に嗜好品として好んでいる様子を見せ、特に肝臓や脾臓を好んで襲うと報告されています。現在時点で重火器による攻撃は牽制にはなるもののSCP-XXX-JPの瞬発力の高さのため効果的とは言えません。SCP-XXX-JPは東京都██区で発生した連続殺人事件の原因であると証言しており、これ以外にもSCP-XXX-JPによって引き起こされたと推測される事件が███件確認されているため、現在確認が進められています。
インタビューログXXX-JP-UA
対象: SCP-XXX-JP 会話は外部スピーカーを通じ、遠隔地から監視カメラを利用して行われている
インタビュアー: ██博士
<録音開始>
██博士: SCP-XXX-JP、何故貴方は人間を敵視するのですか?
SCP-XXX-JP: お前たちが呼ぶ怪物とはそういうものだろう?
██博士: …質問を変えましょう、貴方が人間を敵視した動機、起源は?
SCP-XXX-JP: まあ、ヒトの肉は美味いがな、…怪物は人を嫌い食い殺すものだからだとでも言っておこうか
██博士: そうですか。これ以上の情報は聞き出せないと判断、インタビューを中止する
SCP-XXX-JP: おい
██博士: 何でしょう
SCP-XXX-JP: お前の目玉は美味そうだな
<録音終了>
直後、SCP-XXX-JPの襲撃により██博士を含む██の死亡者が発生しました。映像は以前のインタビュー記録を利用して偽造されたものであり、インタビューの際には既にSCP-XXX-JPは脱走していたものとみられています。
補遺1 初期収容時、SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JPが塒にしていたと推測される██県の山間集落に存在する██神社周辺において収容されました。██神社は安土桃山時代からの歴史を持つ神社であり、その祭祀内容は五穀を奉納したうえで生きた鶏を殺し、その血を捧げるというものでしたが、19██年の時点で集落の高齢化と人口減少に伴い祭祀は中断されています。後発調査の結果、20██/██/██、██神社の祭祀を録画した記録映像が『残酷な日本の祭り! 未開の地に根付く野蛮な土着宗教!』と銘され複数の動画投稿サイトに投稿され、約█████の否定的な、あるいは嫌悪感を表すコメントが確認されました。この時期を境にSCP-XXX-JPのものと思われる事例が発生しため、SCP-XXX-JPとの関係が疑われています。以下はそれをふまえSCP-XXX-JPに対して行われたインタビュー記録です。
インタビューログXXX-JP-UP
対象: SCP-XXX-JP 会話は外部スピーカーを通じ、遠隔地から監視カメラを利用して行われている
インタビュアー: 北畠博士
<録音開始>
北畠博士: SCP-XXX-JP、貴方が発見された██神社について伺いたいのですが。
SCP-XXX-JP: …ああ、気づいたか
北畠博士: あの場所が貴方の起源なのですか?
SCP-XXX-JP: そうだ、私は満足していた、私は十分だった、もう人は来ることはなくなっていたがそれも仕方がないと思っていた。人間どもの心は移ろいやすいものだから
北畠博士: SCP-XXX-JP、それはつまり
SCP-XXX-JP: その名で呼ぶな。私はそれで十分だったのに、だったのに、…お前たち人間どもは私を何と呼んだ! 何と名付けた! あのような残酷な儀式を行う神はきっと化け物だと! きっと人を食う怪物なのだと! 私が、私が、そんなことをすると思っているのか、そんなことを今までしてきたというのか! 私は人間どもに、いや、人間に与えたというのに、授けたというのに!
北畠博士: 落ち着いてください、SCP-XXX-JP
SCP-XXX-JP: 私は食いたくない、殺したくない、だがお前たちが私を怪物だというのなら、私を化け物だと恐怖するのなら、そうなるしかないではないか! 私は血を啜り、肉を食らい、それを楽しむ、そう、お前たちが呼んだ、お前たちが名付けた怪物になるしかないではないか!
北畠博士: SCP-XXX-JP
SCP-XXX-JP: 違う、その名は恐ろしいもの、不可解なものを閉じこめる名だ。分からないものを怪物として定義する名だ。…私の名を呼んでくれ。怪物ではなく、SCP-XXX-JPではなく、…いや、もう遅い、私は怪物なのだ、人を食らい、それを楽しむ卑しい怪物なのだ
<録音終了>
このインタビューを受け、改めて██神社の調査が行われると同時に該当動画の削除が行われました。現在時点でネットワーク上に該当動画は確認されていません。また、調査の結果、██神社に祀られていた対象は『ふくてんさま』と呼ばれており、近隣住民への聞き込み及び██神社に残された古文書の調査の結果、本来は人々に幸福を与える存在であるとして祀られ、近隣住民の信仰を集めていたことが判明しています。この調査を考慮し特別収容プロトコルの訂正、およびプロトコル鬼六案が提出され、次回収容違反時試験的にプロトコル鬼六を実行することが決定されました。
収容違反記録XXX-JP 事案U-█
20██/██/██、SCP-XXX-JPが収容違反を起こし、プロトコル鬼六が初めて施行されました、以下はその録音記録です。
音声記録:XXX-JP収容違反時 日付 20██/██/██
<録音開始>
エージェント新田: 止まれ! SCP-XXX-JP!
SCP-XXX-JP: やかましい、命乞いでもするか?
エージェント新田: …許可が下りた! プロトコル鬼六を施行します! 落ち着いてくれ、ふくてんさま
SCP-XXX-JP: な、何故その名前を!
エージェント新田: 効果ありと判断! 継続します! 止まれ、ふくてんさま!
SCP-XXX-JP: 止めろ、止めてくれ! 何故だ、何故なんだ!
(およそ五分ほどSCP-XXX-JPの苦悶するような声が録音される)
SCP-XXX-JP: ああ、何故、何故だ、何故私がこうなってしまってから、その名を呼ぶんだ…
<録音終了>
この後、SCP-XXX-JPは非活性状態となり収容されました。
この記録をもとにプロトコル鬼六を中心としたプロトコル改正が行われ、現在の特別収容プロトコルが作成されました。また、この収容違反後、SCP-XXX-JPは収容違反を発生させていませんが軽度の鬱状態にあり、カウンセリングの必要性を検討されています。
補遺2: 北畠博士の提言 現在時点ではプロトコル鬼六の効果もあり、SCP-XXX-JPは小康状態を保っています。ですが、私たちは依然SCP-XXX-JPという言葉に漠然とした恐怖、不安感を覚えることは否めません。そしてそれこそがSCP-XXX-JPから完全に脅威を取り払うことができなくしているということもまた事実です。ですが、一度名付けられてしまった怪物、SCP-XXX-JPを収容下から放つことは危険以外の何物でもありません。故に我々はこの収容こそが危険性を増大することになると知っていながら収容せざるを得ないのです。せめて私たちにできることはSCP-XXX-JPの本来の名を忘れないことくらいでしょう。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはその入り口となる廃トンネルを老朽化に伴う工事中として偽装したうえに鉄柵で囲い、常に二人以上で監視を行います。SCP-XXX-JP内に侵入する一般人を発見した場合は即座に捕縛し、Aクラスの記憶処理を行ってください。侵入を許してしまった場合は、自力で脱出するまで救出を禁止します。脱出後、消失者以外にはAクラスの記憶処理を行い、消失者については行方不明のカバーストーリーを流布してください。SCP-XXX-JP-A内の調査はセキュリティクリアランス3以上の職員による認可が下りない限り全長1m以上の無人ドローンを使用してください。
説明: SCP-XXX-JPは長崎県██市の山中に放棄された廃トンネル内に存在する扉です。SCP-XXX-JPを通過することによってSCP-XXX-JPの内部は異空間(以下、SCP-XXX-JP-Aと表記)に繋がります。この通過対象は生物、非生物を問いませんが、1m以上の全長を持つことが必要です。
SCP-XXX-JP-Aは調査の結果、第一次世界大戦以降の時間軸に存在した戦場の一場面10を再現しているものと思われます。これらの空間は侵入ごとに変化し、現在時点において同一のものが発生した事例はありません。また空間内の特徴として本来存在しうる生物あるいは武器及び兵器が存在せず、不定期に灰が降っていること、様々な種類の人形11が本来人物が存在したであろう場所に散乱していることがあげられます。内部に存在する物体は持ち帰ることが可能です。この灰は地表に到達すると同時に消滅します。また、調査の結果人灰であることが判明しましたが、不特定多数の個人のもので構成されており、追跡は不可能です。また、人形も大量生産されたものであり特定には至りませんでした。
SCP-XXX-JP-A内に侵入した人間は、SCP-XXX-JP-A内に存在する扉から容易に脱出が可能です。ただし、単独、複数人に関わらず人間が侵入した場合、侵入した人物のうち一人が脱出時に消失することが判明しています。この現象は人間以外の生物、無機物には発生しません。消失する対象に規則性は見られませんが、現時点の調査結果から、殺人、過失致死など誰かを殺害した人物は対象に選ばれないことが判明しています。ただしこれは複数の侵入者のうち、殺人の前歴がない人物が存在する場合においてのみであり、単独での侵入、もしくは全員が殺人の前歴を持つ場合は条件を満たしている人物においても消失対象となりえます。
侵入させた無人ドローンによる記録映像から、消失対象は脱出の際扉をくぐると同時にSCP-XXX-JP-A内のランダムな位置に転移することが判明しています。この際、消失対象は手を合わせる、十字を切る、平伏するなど多種多様な祈りと思われる行動をとっており、同時に発声を行っていますが現在時点で発声している言語は地球上の言語体系いずれとも一致しないものだと確認されています。その後、侵入した人物が全員扉を抜けた時点で扉は消失し、同時に空間が収縮し消滅します。GPSなどの位置把握システムはこの時点で断絶します。
補遺1: これまでの実験で消失した空間が再現していた戦場の位置を特定、調査した結果、SCP-XXX-JP-A内において、消失現象が発生した地点を中心とした半径5mの地点と該当する位置に本来自生しないワスレナグサの花畑が確認されました。これらの植物自体には異常な特性は見られなかったものの、生息する土壌は強いアルカリ性を示しており、土壌からその原因となる物質は確認できませんでした。本来なら枯死する環境下でこれらの植物が何故自生できているかについては調査中です。
補遺2: 補遺1の結果をふまえ判別可能であった該当地域を調査したところ、殺人の前歴がある対象が消失した地域においては、前述の花畑は確認されませんでした。また、土中検査の結果████人以上の判別不可能な人骨、及び破損した音楽再生機器が発見されました。この機器は判別不能な女性が以下の一節を唱える声のみが録音されており、それの再生以外の指示は受け付けませんでした。
Kyrie eleison. Oro supplex et acclinis, cor contritum quasi cinis: gere curam mei finis.
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは国の生態系研究下におかれているとして、一般人の侵入を阻止してください。また、上空への航空機による侵入は阻止してください。SCP-XXX-JPは巡視艇及び無人ドローンを使用し24時間体制の監視を行うとともに、生物の侵入を阻止してください。生物が侵入した場合は即座に確保に移り12時間以内にSCP-XXX-JP内から排除を行ってください。また、生物が射出された場合は、目撃者にAクラスの記憶処置を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは太平洋上に存在する孤島です。SCP-XXX-JP内にはSCP-XXX-JP-A、SCP-XX-JP-B以外、植物のみが繁殖しており、真菌を含む他の動物は存在していません。SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JP-A、SCP-XXX-JP-B以外の生物がSCP-XXX-JP内に侵入し、12時間以上経過した際に発生します。SCP-XXX-JP内に侵入し12時間以上経過した生物はSCP-XXX-JP表面に接触している部分が僅かに沈下し、その後5分以内に第三宇宙速度で上空へ向け射出されます。射出に際しては本来発生する衝撃波等の現象は確認されていません。また、射出された生物は急激な速度の上昇による負荷及び宇宙空間への移動という条件にもかかわらず、死亡せず、一般的な行動が可能であり、また、いかなる状況においても初速を維持していることが確認されています。
SCP-XXX-JPは財団所有の人工衛星が撮影した宇宙空間を飛行する人型実体の素性を調査する過程で、その実体が生物学者の██ ██氏であると確認、氏の行動を追跡した結果、SCP-XXX-JPへ生態系の調査を行うために近隣の島を出港したことを最後に行方不明になっていたことからSCP-XXX-JPを調査、その異常性が判明しました。現在時点でSCP-XXX-JPの周囲20kmには有人島が存在しておらず、また、周辺地域では神の島とされていたことにより入島そのものが禁忌とされていたため、現在に至るまでSCP-XXX-JP内に侵入した人物はごく僅かです。
SCP-XXX-JP-A,Bはそれぞれ生後約1年未満とみられるヒツジ(Ovis aries)と生後約10年以上と推測されるアオダイショウ(Elaphe climacophora)です。SCP-XXX-JP-A、Bはどちらも発見当時から成長、あるいは老化していないことが確認されています。SCP-XXX-JP内にはSCP-XXX-JP-A、Bを除く動物が存在していないにもかかわらず、SCP-XXX-JP-A、B及び他の植物が生存し続けられる理由は不明です。射出される対象が人間である場合のみ、SCP-XXX-JP-Aは射出される対象から逃走し、SCP-XXX-JP-Bは接近を行います。これらの行動をとる意図は現在不明ですが、SCP-XXX-JP-Bの接触が射出時間を早めるという報告も存在し、現在因果関係を調査中です。
実験記録XXX-JP
19██/██/██、実験対象としてD-1223を録音、通信機材を所持させたうえでSCP-XXX-JP内に12時間以上逗留させ、射出後の通信を試みました。以下はその音声記録です。
<録音開始>
源博士: 12時間が経過します、D-1223、報告してください
D-1223: はい、といっても何も変わりませんよ。あの蛇はずっと俺の近くにいますけど…、って、え、なんだ、これ!?
源博士: どうしました、D-1223、報告を
D-1223: あ、足が地面に埋もれて、ぬ、抜けない、…お、おい、近寄んなよ! …ぁ!?
(直後、風を切るような音が数分間続く、D-1223からの応答は無し)
源博士: 応答してください、D-1223。…ダメか?
D-1223: せ、先生
源博士: 応答がありました、どうしました、D-1223
D-1223: お、俺、とんでる
(直後、何らかの衝突音とともに音声が途絶える)
<録音終了>
その後D-1223から通信は入らず、また、D-1223の回収は困難として、実験は凍結されました。なお、D-1223の所持していた記録装置の充電は約██年間使用可能だったため、連絡が入らない理由は機器の故障とみられています。
補遺1: 数回にわたる実験において、SCP-XXX-JPによって射出された生物の軌道を計測したところ、どの場合においても約██光年離れた惑星へ最終的に到達することが確認されました。対象の惑星は財団の観測の結果、ゴルディロックスゾーン12に属する惑星であり、約██%の確率で地球と類似した環境が存在すると考えられています。対象の惑星に生物が存在するかについては現在も調査中です。
補遺2: 2███/██/██、約██年間連絡の途絶えていたD-1223から通信が入りました。以下はその音声記録です。
<録音開始>
楠木博士: D-1223、報告してください
D-1223: はい、私はずっと飛んでいます、宇宙の闇を、永遠の孤独を
楠木博士: …まず確認しましょう、今まで通信が取れなかった理由は?
D-1223: あの直後、私は何かにぶつかりました、おそらくは何らかの礫でしょうがね。そして機器が破損してしまったのでそこから修理をし、何とかこうやって通信できるまでにこぎつけたのです
楠木博士: なるほど、では、現在の状況を教えてもらえますか?
D-1223: はい、私は久遠の旅路を彷徨い続けています。道中で様々な脱落者を目撃しました。岩に刺さる聖人、氷に砕かれた烏、彼らはあのまま生き続けるのでしょう。ですが、きっとそれらを乗り越えた苦難の先には天国が待っている。私は永遠にも等しき孤独の中でそれを理解したのです
楠木博士: …すいません、もう少し簡潔にお願いしたいのですが
D-1223: ああ、申し訳ない。私の先達たちは不幸な事故によってその志を達することできず、今この永遠の藻屑となってしまったのです、ですが、それは彼らに何かしらの咎があったため、いずれ、その咎も許されまた私と同じ道をたどることができるでしょう
楠木博士: …つまり、あなたの言うそれは以前に射出された対象であり、あなたは今の状況を何らかの救済に至る道だと捉えているのですね?
D-1223: はい、今は苦しく、長い旅ですがいずれ天国へ導かれる。…少々孤独は堪えましたが、今先生という話し相手も得ました、先生、私は目的の地まであと何年かかるのでしょうか。おそらくもうそろそろ到着するのではと期待に胸を高鳴らせているのですが
楠木博士: …D-1223、重大な連絡があります
D-1223: ? 何でしょうか。今の私は非常に満ち足りています、どんな連絡でも
楠木博士: バッテリーの残量が無くなりました
<録音終了>
財団天文部による試算の結果、D-1223が対象の惑星に到達するまでには約██████████年を要するという結論が出ました。また、その行程中に存在する小惑星群等の障害を加味する場合、辿り着ける可能性は約0.00000██%以下であると推測されます。D-1223を回収する計画は現在の技術面から不可能と判断され結論は保留されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8144内の専用収容ユニットにおいて24時間体制で監視が行われます。担当研究主任による許可のない限り、SCP-XXX-JPとの会話は禁止されています。SCP-XXX-JPの収容ユニットへは12時間ごとにDクラス職員を入室させ、会話を行わせてください。その際、財団鑑定部によって鑑定済みの絵画作品を所持させてください。また、SCP-XXX-JPの付近100m以内に要注意団体「博士」に関係しているオブジェクトを設置すること、SCP-XXX-JPとの会話時にそれらの話題に言及することは禁止します。
説明: SCP-XXX-JPは全長約10cmの粘土製胸像と推測される像です。SCP-XXX-JPは██ ██と自称し、若い女性の声質で日本語を用いた会話が可能です。SCP-XXX-JPの性質は非常に温厚であり、財団の収容に対し協力的な態度を示します。
SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JPと何らかの芸術作品に対する会話を行うことで発生します。SCP-XXX-JPとの会話が終わった時点でSCP-XXX-JPは話者に対し「あなたには[芸術行為]の才能がある」と発言します。この発言後、話者は評価された芸術行為に強い関心を示し、積極的に該当行為を行います。話者によって作成された作品は高い芸術性を持つことが財団鑑定部の鑑定により判断されており、また、これらの異常性は機械を通じた会話の場合発生しないことが確認されています。
また、SCP-XXX-JPは周囲に芸術作品が存在せず、かつ24時間以上会話を行わない場合、日本国内の芸術作品がランダムにSCP-XXX-JPの周囲へ転移します。この行為は自動的に行われるものであり、SCP-XXX-JPの意思によるものではないと証言されています。
SCP-XXX-JPは20██/██/██、相次ぐ芸術関連施設の爆破事件を調査中に関連があると推測された芸術家██ ██氏の自宅において発見されました。発見時、SCP-XXX-JPは既に現在の異常性を持ち合わせていましたが、本来はSCP-XXX-JPが触れた芸術作品をその約2倍の質量を持つ炸薬に変化させ、爆発させる異常性を有していたことがSCP-XXX-JPの発言に加え、財団の試算結果から確認されています。
事件記録XXX-JP 20██/██/██
20██/██/██、要注意団体「博士」の関与が疑われていたSCP-███-JPの収容違反時、初期収容状態にあったSCP-XXX-JPの収容ユニットへ接近したSCP-███-JPが、原因不明の爆発を起こし無力化されました。その際、SCP-XXX-JPに聴収を行ったところ関与を肯定したため、SCP-XXX-JPは「博士」の作成したオブジェクトに対し何らかの破壊手段を所持していることが判明しました。以下はその事件時行われたインタビュー記録です。
インタビュー記録XXX-JP 20██/██/██13
インタビュアー: 護良研究員
«録音開始»
護良研究員: それではSCP-XXX-JP、質問を開始します。先日発生したSCP-███-JPの無力化事案、貴女は関与を認めたそうですがそれについて詳しくお願いできますか?
SCP-XXX-JP: はい、先生、それを話すためにも、まずは私がこうなるまでの話をさせていただいても構いませんか?
護良研究員: 構いません、どうぞ
SCP-XXX-JP: ありがとうございます。私は元々██ ██…、貴方達はご存知でしょうがそういう名前の芸術家、というほどでもありませんでしたが芸術活動をしていました。…あの頃は美大を出たばっかりで、ずっと芽が出ずスランプに陥っていたんです。作る作品作る作品うまくいかなくって…。「芸術は爆発だ」って言葉があるでしょう? あれは比喩ですけどそんな風に全部爆発しちゃえばいい、そんなことまで考えていました。…そのときです、あいつに出会ったのは
護良研究員: あいつ、とは?
SCP-XXX-JP: …少し乱暴な言葉遣いを許してくださいね? はっきり言って最悪の奴です。ええ、最初はいい人だなんて思いましたよ、でも、でも、気づいた時には…! [罵倒]!
護良研究員: 落ち着いて、SCP-XXX-JP
SCP-XXX-JP: (1分ほど荒い呼吸音)…すいません、少し興奮してしまいました。私に芸術的転機を与えよう、と近づいてきた人がいたんです。…どんな顔だったかはよく覚えていませんけど、ただ妙に胡散臭い人間だったことは覚えています。…私は藁にも縋る気持ちで、…今思えば何であんなことしたんだろうって、…それであいつの言う通りに簡単な手術? とかいうそれを受けたんです。
護良研究員: 方法は分かりますか?
SCP-XXX-JP: …すいません、それをされている間の記憶が無くって。とりあえずそれが終わったとき私は美術館にいました。…その時はあいつに感謝しましたよ。見える景色がまるで虹の中にいるみたいだったんですから
護良研究員: 虹、ですか。いったいどういう事でしょうか?
SCP-XXX-JP: 説明は難しいんですけど…、ああ、これが芸術なのか、そう思うほど美しく輝いていたんです。そして思わず一番近くにあった銅像に触れてしまった瞬間。それが、その美しい銅像が、…ああ、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
護良研究員: SCP-XXX-JP、大丈夫ですか? 継続が困難であればインタビューを終了しますか?
SCP-XXX-JP: …いえ、大丈夫です。…えっと、そう、触った瞬間爆発したんです。輝きが一瞬にして爆風の中に消えました。悲鳴と断末魔の叫びが聞こえました。傷ついていなかったのは私だけでした。私はパニックになって逃げ出して、家に帰って縮こまっていて。…でも、目が覚める度また別の美術館に、個展に、工芸館に、移動していました。そしてまた私は美しさに目がくらんで、触って。…発狂しそうでした、迂闊な自分を、あの悪魔みたいな奴を恨みました。いつまでもこれが続くんだと半分諦めてました。でも、1週間くらいしたころ、彼が現れたんです
護良研究員: 彼、とは?
SCP-XXX-JP: 詳しくは分かりません、…私にとっては救世主でしたけど。彼は突然私の部屋に押し入って殴りかかってきました。私は訳が分からなかったんですけど、とにかく抵抗しているうちに彼が私の力に怒っているんだと気付いて事情を説明したんです。そうしたら殴るのをやめて、「あの糞野郎か」って。そしてちょっと落ち着いてこう言ったんです。「殴りかかって悪かった、君はアレの被害者だ。…だけど俺には君を人に戻せない」って。…私が落胆したことに気づいたんでしょうか、彼は慌てて続けたんです。「でも、君を俺の作品にすることはできる。…ただし、君は人には戻れない、新しいアーティストを生み出す作品になる、それでよければ」って
護良研究員: そして貴女は
SCP-XXX-JP: 断ることなんて考えませんでした。…それから彼は粘土とヘラを取り出して、「芸術は爆発だ、ああそうかい、ならお前の作品も爆発してしまえ、糞野郎」って。…それが私がこうなるまでの最後の記憶です。そのあとはあなたたちがやってきてここに来た、それだけです。えっと、SCP-███-JP…でしたっけ? 私がそれを爆発させた方法は分かりません。でも、彼の言う事が真実なら私がそれを爆発させたのは確かだと思います
護良研究員: なるほど、ありがとうございます、SCP-XXX-JP
SCP-XXX-JP: はい。…あ、それと、先生は音楽の才能がありますよ?
«録音終了»
このインタビューを受け、再度██ ██氏の自宅を調査したところ、██ ██氏のキャンバスに微細な文字で以下の文章が5つ記入されていることが判明しました。以下の文章は検査結果に基づき時系列順に記載されています。
SCP-XXX-JP関連文章-1
オーット! おめでとう! 博士の限定版コレクション、ミスター・めいげんシリーズの"ミス・げいじゅつはばくはつだ"を見つけたみたいだね! "ミス・げいじゅつはばくはつだ"はとってもアーティスティックなおねえさん! 毎日退屈で灰色な毎日を送っているそこのキミ! 芸術に触れてキュートでクールな"ミス・げいじゅつはばくはつだ"と一緒に虹色の景色を見てみないかい!? 彼女といれば毎日は エックスプロ―ジョォォォォッン!!! 退屈なんてふっとんじゃうぞ!?
みんなで芸術を楽しもうね!01. ミスター・にんげんはかんがえるあしである
02. ミスター・わたしにはゆめがある
03. ミス・げいじゅつはばくはつだ
04. [判別不能]
05. [判別不能]
06. ミセス・てきはほんのうじにあり(発売未定)今後も続々新しいメンバーが加わるよ! さあ、楽しもうね!
新しいミスター・めいげんを応募しよう!: 今博士はちょっと困ってるんだ、なんたってこの世界いろんな人がいろんなことを言っている! だからどれを選べばいいのかわっかんない! だからキミたちに協力をお願いするよ! キミの好きなめいげんは何かな? 教えてくれたみんなの中から抽選でキミが名付けた世界でたった一人の新しいミスター・めいげんをプレゼント!
さあ、応募しようね!
SCP-XXX-JP関連文章-2
さっそくおうぼさせてもらいます! 「Are We Cool Yet?」をおねがいします!
匿名希望
SCP-XXX-JP関連文章-3
当製品、「ミス・げいじゅつはばくはつだ」に対する改変行為は著しい著作権侵害及び威力業務妨害を含むと判断いたしました、これ以上の妨害行為を行った場合、然る場所に訴え出させていただきます
Neoワンダークール重工法務課
SCP-XXX-JP関連文章-4
Are We Cool Yet? You Were Not Cool! :-P
SCP-XXX-JP関連文章-514
うるさいくたばれバー―――――――カッ!!!
これらの文章を受け、要注意団体「博士」及び「Are We Cool Yet?」の関与が疑われ、捜査は継続されています。
アイテム番号: SCP-1000-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1000-JP-1はSCP-1000-JP-2と共に、青木ヶ原樹海に設置されたサイト-8150内にて収容されます。SCP-1000-JP-3の周囲50mには実物、電子関わらず一切の文章、文字媒体の設置、使用を禁止します。また、SCP-1000-JP-1の閲覧、SCP-1000-JP-2に対するインタビュー及びSCP-1000-JP-3への侵入には日本支部理事の承認を必要とします。
説明: SCP-1000-JPはSCP-1000-JP-1、SCP-1000-JP-2、SCP-1000-JP-3からなるオブジェクトです。
SCP-1000-JP-1は現実改変能力を持つティーンズ文庫15です。組成面は一般的な書籍と一致していることが判明しています。
SCP-1000-JP-1の異常性は付近10m以内に何らかの文章が存在するときに発生します。該当条件を満たした場合、約12時間が経過した時点で対象となった文章は、本来の文章をオマージュした内容のティーンズ向け小説に改変され、SCP-1000-JP-1と同一の異常性を持ちます。SCP-1000-JP-1が文章を改変した場合、対象となった文章が主題とする概念は消滅し、変異後の小説作品のみが残存します。その為、本来どういった文章であったか、どのような概念が消滅したかの観測は困難です。
SCP-1000-JP-1の異常性はSCP-1000-JP-3内においては停止しています。また、改変された小説は全てが1巻で完結する内容です。
SCP-1000-JP-2は日本人女性に類似した人型実体です。SCP-1000-JP-2は自らを「財団極東支部理事、千凶」と名乗り、財団の行動に対し協力的な姿勢を取っています。SCP-1000-JP-2は明るい桃色の髪、巨大な眼といった、生物学上不可能な特徴を所持しています。また、何もない空間から刃物を取り出す、手から炎を発するなどの異常特性を所持しています。
SCP-1000-JP-3は半径約100mの異常領域です。SCP-1000-JP-3内部は空間異常が最低1日から最大173日の間隔で発生します。これらの異常はSCP-1000-JP-1による現実改変に起因するものであると推測されており、SCP-1000-JP-2の証言によればスクラントン現実錨に類似した装置によって同領域は維持されています。SCP-1000-JP-3内に空間異常が発生する際、異常な特性を持つ生物、物質が出現します。出現した異常存在は多くの場合SCP-1000-JP-2に敵対的です。また、火器などによる攻撃は効果を示さず、SCP-1000-JP-2による攻撃のみ影響を与えることが可能です。SCP-1000-JP-2は現在時点で出現した全ての異常存在を破壊しています。
SCP-1000-JP-2及びSCP-1000-JP-3内に出現する異常存在がSCP-1000-JP-3外に移動することは不可能ですが、外部の存在が内部へ侵入することは可能です。SCP-1000-JP-1のみ外部への持ち出しが可能と証言されていますが、SCP-1000-JP-2の強い抵抗及びその潜在的な危険性を考慮し、現在時点での持ち出しは禁止されています。
以下は20██/██/██に財団が異常なヒューム値の変動を感知し、機動部隊を送り込んだ際に発見されたSCP-1000-JP-2との会話記録です。
音声記録1000-JP-02 - 日付 20██/██/██
担当機動部隊: 機動部隊ん-7("悪書")
<記録開始>
機動部隊隊長: 全員止まれ、誰かがいる。アルファ、周囲の状況は
アルファ: 現実性強度が我々の周囲と彼女の周囲で大きく違っています、まるで他の世界とでも言うようです
SCP-1000-JP-2: やあ、…どうやらライプニッツ現実圧縮壁は無事に成功し、この本は私たちの予想通り動いたというようだね。初めまして、君たちはもしかするとこの世界の財団、かな?
機動部隊隊長: 全員、警戒態勢を解くな。…我々の存在を知っているのか?
SCP-1000-JP-2: もちろん、だってボクは…、くそったれ、こんなのまで改変するのか。改めて、ボクは改変を抜けた財団、だからね
機動部隊隊長: …説明を
SCP-1000-JP-2: ああ、もちろんだとも。…でも、少々待ってくれ。何があっても決して君のいるところから進まないように。…やれやれ、ボクは戦闘経験はないんだけどね
(轟音)
<記録中断>
直後、SCP-1000-JP-3内に西洋伝承内のドラゴンと類似する異常存在が出現。約15分SCP-1000-JP-2と交戦し、死亡した後消滅した。
<記録再開>
機動部隊隊長: …アレは何だったんだ。漫画やアニメじゃあるまいし
SCP-1000-JP-2: 言いえて妙だね、すまないがセキュリティクリアランス上位の人物を呼んでくれないか? ボクは逃げも隠れもしないからさ
<記録終了>
この後、機動部隊ん-7の要請を受け、財団による収容体制が確立されました。その過程でSCP-1000-JP-3内の異常存在により██名の死傷者が発生しています。
以下は収容体制の確立後行われたSCP-1000-JP-2に対するインタビュー記録の抜粋です
インタビュー記録1000-JP-02-1 - 日付 20██/██/██
対象: SCP-1000-JP-2
インタビュアー: 佐藤博士
<録音開始>
佐藤博士: では、SCP-1000-JP-2、インタビューを開始します
SCP-1000-JP-2: 分かった。えっと…、まず、ボクがこんな話し方しかできないことを断っておく。できればもっと適切な言葉遣いで話しておきたいんだがボクの世界はそれを許さなくってね
佐藤博士: 分かりました、問題ありません。まず、貴女はどういった存在なのでしょう
SCP-1000-JP-2: その質問は難しいね、まあでも、一応は名乗っておこうか。財団極東支部理事、千凶だよ
佐藤博士: 極東支部…? そのような存在は
SCP-1000-JP-2: やはりこちらには無いんだね、うん、分かっていたことだけど
佐藤博士: …説明をお願いします
SCP-1000-JP-2: ボクはね、失敗した世界からの使者さ。これまでを受け継ぎ、これからを信じるための
佐藤博士: つまり貴女は別世界の財団の人間である、と?
SCP-1000-JP-2: そう言えばそうなるのかな。正確にはこの半径100mほどの財団職員だ。…ボクの世界は、既に完結したここにしかないんだ
<録音終了>
この後、SCP-1000-JP-2によってSCP-1000-JP-1、SCP-1000-JP-2、SCP-1000-JP-3の異常特性が供述され、財団の確認できる範囲で真実であることが判明しています。
インタビュー記録1000-JP-02-4 - 日付 20██/██/██
対象: SCP-1000-JP-2
インタビュアー: 佐藤博士
<録音開始>
佐藤博士: では、SCP-1000-JP-2、インタビューを開始します。まず、貴女の存在していた世界がどのような状態であったかを説明してください
SCP-1000-JP-2: ああ、えっと、この前はSCP-1000-JP-1が収容違反を起こしたところまで話したね? うん、そして財団はそれを止めることに失敗したんだ
佐藤博士: K-クラスシナリオが発生したと?
SCP-1000-JP-2: うん、そういうことだ。全世界の文章が続々ねずみ講みたいに改変され、世界の文化は、歴史は、人物は、宇宙も、おそらく人間が知覚し、考察できるすべてのモノがティーンズノベルに変わっていった。
佐藤博士: …そして、どうなったのですか?
SCP-1000-JP-2: どうすることもできなかった。世界はティーンズノベルに変わり、ボクはこんな姿、ありふれたサブカルチャーに改変された。まあ、だからボクは最後の希望をかけてライプニッツ現実圧縮壁を起動し、ウィルクスバリ楔を用いたのさ。それによってボクの世界を圧縮し、他世界に潜り込ませたうえで、この世界に私たちの世界を保ったうえで留め置いた
佐藤博士: それは何故でしょうか、…いえ、私の存在している世界からの視点ですが、そのままにしておけば被害は貴女の世界で留まっていたのではないでしょうか
SCP-1000-JP-2: うん、君の言うことももっともだ、財団職員ならばそう考えるべきだったのかもしれない。そうだね、言ってしまえば誰かの世界を完結させたくなかったからさ、…すまない、いったん中断しよう。またアレが来る
<録音終了>
直後、日本伝承における百鬼夜行に類似した現象が発生、約1時間でSCP-1000-JP-2によって排除された
インタビュー記録1000-JP-02-1 - 日付 20██/██/██
対象: SCP-1000-JP-2
インタビュアー: 佐藤博士
<録音開始>
佐藤博士: SCP-1000-JP-2、先日のインタビューの続きを行います
SCP-1000-JP-2: ああ、構わない。どこまで話したかな?
佐藤博士: 貴女が私たちの世界に来る経緯までですね
SCP-1000-JP-2: そこまでだったか。うん、まず、ボクが示した半径100mの空間は厳密には君たちの世界ではない、ボクたちの世界だ。ボクたちの世界が食われる前にボクたちはこの本に対し一つの推測を立てた。この本は世界を食い尽くせば共食いをいずれ起こすだろうと。そして、この本が共食いを起こした先、つまり全てを食い終り一冊のみになったとき、おそらく他世界に移動するというのではないかという推測を
佐藤博士: …つまり、そうして無数の世界を食っていく、ということでしょうか
SCP-1000-JP-2: ああ、底なしの胃袋だ。だから私たちはその可能性を考慮して楔を作った。胃袋から奴を繋ぎ止める楔を。奴の喰らった世界に奴自身を閉じこめる、グレイプニール、要石。登場人物が作品をその作品に閉じ込める詭弁じみたパラドックスを。そしてボクがその見届けを担った、…残っていたのがボクだけとも言うけどね
佐藤博士: …SCP-1000-JP-1は自らの改変した貴女の世界に楔で繋ぎ止められ、そして圧縮されたSCP-1000-JP-3ごとこの世界へ移動し、改変するものが消えたSCP-1000-JP-3内ではその異常性を発揮できない、そういうことでしょうか
SCP-1000-JP-2: そうだね、そしてその楔はボク自身だ。君たちの世界に空間ごと留める存在、それがボク。この化け物とボクの世界と共に完結した存在さ。
佐藤博士: 貴女が、SCP-1000-JP-3をこの世界に留め置いている楔、と?
SCP-1000-JP-2: うん、分かってくれたようで嬉しいよ。…SCP-1000-JP-1はこの世界を食うためにボクを殺そうとアイツたちを送り込んできている。でも、SCP-1000-JP-1の中ではボクが死んだ、殺されたという記述はない。だからおそらく死ぬことは無い、コイツは完結してるわけだしね。…だから、君たちができる範囲でボクにこれ以上近づかせないでくれ、これ以上コイツに食わせないでくれ
佐藤博士: 分かりました、確定はできませんが貴女の意思を尊重しましょう。ただし、監視は継続して行います、もし逸脱するような行為を取った場合は
SCP-1000-JP-2: 分かってる、そもそもこの世界を離れたらボクはどうなるか予想もつかないからね
佐藤博士: ではSCP-1000-JP-2、これでインタビューを
SCP-1000-JP-2: …ねえ、君、一ついいかな?
佐藤博士: どうぞ
SCP-1000-JP-2: いや、大したことじゃないのさ。…ただ、ボクだけが残ったこの世界を見ていて思うんだ。ボクの行為は正しかったのかなって。ただひたすらに世界を守ることが、正しいのかな? …ボクの知っているSCP-1000-JP-1は全てがハッピーエンドなんだ。みんなが幸せで、全ての難題が解決して、誰も恐れるものが無くなって…。それは、ボク達が求めた世界じゃないのかな、ボク達が望んだ世界じゃないのかな、ボクが留めた世界は古臭いカビの生えた使い古され、強制された世界じゃないのかな
佐藤博士: それは私では判断しかねます。…しかし、個人的な意見が可能ならば、その結果に関係なく私は貴女が取ったこれまでの、今の、これからの行為に敬意を払うでしょう。そして私たちはこれまでも、今も、これからも、この世界がある限り貴女を収容し続けます。千凶理事、SCP-1000-JP-2
<録音終了>
佐藤博士はオブジェクトに対する感情的な発言を理由に三ヵ月の減棒処分を下されました。
補遺1: 以下の文章が、SCP-1000-JP-1に特殊な塗料で記入されているのが発見されました。
模倣に、創造に幸あれ、僕を封じた彼女たちへ、僕を託された君たちへ、僕を解き放つ誰かへ
…あー、こういう文体は疲れるしお腹がすいてるんだ。だって馬鹿げているだろう?
どっちがいいかなんてさ、考えているうちにごちそうさま、だよ
現在、SCP-1000-JP-3の範囲が増加する兆候が見られます。これに比例する形で、財団日本支部内において異常性を保持する職員の増加が確認されています。両者の因果関係については現在調査中です。
SCP-XXX-JP |
---|
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: その特性上、SCP-XXX-JPの収容は困難です。全国に存在する特別監視システムを用い、SCP-XXX-JPの出現地点には即座にフィールドエージェントを向かわせ、SCP-XXX-JPの無力化、ならびに目撃者への記憶処理、カバーストーリー「大道芸人」の頒布を行ってください。
これらの行動時には参加する職員はSCP-XXX-JPの無力化を最優先し、セキュリティクリアランス3以上の職員3名以上の許可が出ない限り接触は禁止されていることに留意してください。
説明: SCP-XXX-JPは日本国内を中心として不定期に出現する人型実体であり、アジア系女性と思われる容貌を取っています。また、出現時は笑顔を浮かべていることが多いようです。SCP-XXX-JPは、現在時点で日本語、英語、フランス語、ロシア語、スペイン語、中国語を用いた会話が可能であることが確認されていますが、各言語を母語とする人間からは、どの言語においても片言だと証言されます。
SCP-XXX-JPの異常性は、SCP-XXX-JPが何らかの物品に接触することで発生します。SCP-XXX-JPが何らかの物品に接触した場合、SCP-XXX-JPの内部にめり込むようにして取り込まれます。SCP-XXX-JPは異常な伸縮性を有しており、取り込める大きさの限界は不明です。16物品を取り込んだ場合、SCP-XXX-JP内部から物品を取り出す試みは現時点で存在していません。選ばれる物品の基準は不明です。
SCP-XXX-JPが物品を取り込んでから5分後、物品は吐き出されるようにSCP-XXX-JPから排出され、それと同時にSCP-XXX-JPは数滴の黒色の液体をその場に残します。なおこの液体は万年筆のインキに利用できることが確認されています。排出された物品には何らかの異常性が確認され、多くはオブジェクト、あるいはAnomalousアイテムとしてとして指定されます。また、排出時、物品には必ず原稿用紙が付着しており、物品に関わる物語が口語的な文体で記載されています。これらの物語の内容は多くの場合、該当物品が異常性を入手するに至った経緯、あるいはその異常性にまつわる種々の事件が題材とされています。それらの記述は、財団の調査の結果類似の事件が発生していることが確認されています。これらの事案から、SCP-XXX-JPは過去改変によって、付与した物語に沿った異常性を付与する性質があるのではないかと推測されています。
以下は、SCP-XXX-JPによって取り込まれた物品と異常性質、それに付属していた物語及び関連する過去の事象の一覧です。
物品記録XXX-JP(抜粋)
取り込まれた物品 | 異常性質 | 付属していた物語 | 過去の事象 | 注記 |
---|---|---|---|---|
青磁の壺 | 内部に侵入した人物を、██県の██湖中心部分に転移させる | 壺を巡る██湖の龍神と、それに翻弄される少年の伝奇作品 | 物品は本来██湖周辺の神社に奉納されていたものであり、起源は不明。19██年に近隣の少年が██湖で水死体となって発見された | 現在Anomalousアイテムとして保管中、該当する事件の記録は戦災で焼失している |
玩具のパラボラアンテナ | 映画館において、付属の機械を作動させることで劇中の登場人物が観客の個人情報を会話の中に紛れ込ませる | 映画の中に潜り込んだ主人公と映画内のキャラクターとで繰り広げられるコメディ作品。パラボラアンテナは、友情の証として主人公の帰還時に持たされている | 該当物品は██県の映画館内で発見された。所持していた██氏は子供の頃の大切な思い出だと証言 | ██氏に記憶処理を施したうえでAnomalousアイテムとして保管中 |
██市山間部に存在する送電塔 | 半径5m以内に侵入した人物へ精神影響を与え、高所から飛び降りたいという衝動を起こさせる | いじめを受けた少女が鉄塔に憑りつき、いじめた相手を呪い殺していくホラー作品 | 該当物品で過去に飛び降り事件が発生して以降、異常性が発生したとみられる | 現在、オブジェクト指定を検討中。異常性の発生原因と推測される██氏について追跡調査が行われているが、該当する人物の戸籍は発見できたものの、親族の現在状況はまだ判明していない |
SCP-███-JP | [編集済み] | [編集済み] | [編集済み] | 取り込まれたのち、回収、分類された。過去に起こった事象から特別収容プロトコルの完全な遂行が求められ、収容違反時にはGH-クラス"デッドグリーンハウス"シナリオ発生が危惧される。異常性が発生した地域は除染が終了しており、現在痕跡は残っていない |
██研究員 | 触れた物品の温度を±5℃以内で変化させることが可能 | 病床にある父親と、██研究員の日々をつづった私小説。異常性は██研究員の父が死の間際に秘法を伝授することで手に入れたとされる | 財団に雇用される際のインタビューにおいて同様の証言が確認でき、当時行われた事前調査において親族、友人からも同様の証言が出ている | ██研究員はSCP-XXX-JPの異常性を調査するため、自ら実験に志願。██博士以下5名の上級研究員の許可を得て行われた。結果として██研究員は上記の経歴を肯定。██研究員が所持していた父親の形見は紛失しており、伝授された秘法を██研究員は使用できないことが判明している |
SCP-XXX-JPは、一般的な重火器等の攻撃が有効であり、人体にとって致命傷となる傷を受ける、あるいは対象となる物品から半径100m外に出ると、上記と同様に消滅します。
以下は、SCP-XXX-JPの出現時、フィールドエージェントによって行われたインタビューの音声記録です。インタビュー時、SCP-XXX-JPは素直にインタビューに応じ、敵性行動及び対象となる物品を包み込む行動は見られませんでした。
インタビュー記録XXX-JP-03 - 日付 20██/██/██
対象:SCP-XXX-JP
インタビュアー: エージェント足利
<録音開始>
エージェント足利: すいません、そこの貴女
SCP-XXX-JP: はい、貴女は?
エージェント足利: 警察の者です、お話よろしいでしょうか?
SCP-XXX-JP: 大丈夫、です。えっと、私、書くことできますが、話すことまだ勉強中です、大丈夫です?
エージェント足利: 構いません、貴女は何をしようとしているのですか?
SCP-XXX-JP: はい、私、お話書くです
エージェント足利: …お話? 作家、ということですか?
SCP-XXX-JP: はい、作家、それです。私、作家です
エージェント足利: …しかし、貴女の行為はとても作家のそれとは異なっていると思われますが
SCP-XXX-JP: はい、あー、私、お話作るです。ものにお話書くです。お話、本当になって、お話なかったものにお話できるです。
エージェント足利: それは、何らかの改変を行っているということでいいのでしょうか?
SCP-XXX-JP: 改変? 私よく分からないですが、日本のことわざにあります。「事実は小説より奇なり」
エージェント足利: はあ
[高い笑い声]
SCP-XXX-JP: 私「事実は小説より奇なり」するです。そうする、大事です
<録音終了>
インタビュー後、SCP-XXX-JPは機密隠匿の為行われた一般的な終了措置により上記の方法で消失した。
補遺1: 20██/██/██、SCP-XXX-JPによって取り込まれた██氏が攻撃を受けました。SCP-XXX-JPは攻撃においては特殊な方法を用いず、首を絞める、殴るなどの方法を取りました。SCP-XXX-JPによって加害行動が取られたのはこの事案が初めてです。以下は██氏に対するインタビューの音声記録です。
インタビュー記録XXX-JP-09 - 日付 20██/██/██
対象:██氏
インタビュアー: エージェント足利
<録音開始>
エージェント足利: では、すいませんがもう一度襲われたときの話をしてもらえますか?
██氏: はい、警察の方も大変ですね。…えっと、あれが何かはまだよく分からないんですけど、気が付いたら背後に立っていて、次の瞬間には真っ暗な場所にいました
エージェント足利: なるほど、その場所はどういった場所でしょうか
██氏: …どういった、…ううん、表現ができません。何かどろっとしたものに包まれたような感覚があったのは覚えてるんですけど
エージェント足利: そうですか…、では、そこから出た後は
██氏: あとは前に言ったとおりです。気が付いたら吐き出されるように飛び出して、振り向いたらあれがいて…、何故か首を絞められて、殴られて
エージェント足利: 他に何か気づいたことはありませんか? 些細なことで構いませんので
██氏: 気づいたこと…、そうですね、あれの言ったことなら覚えています
エージェント足利: 何と言っていましたか?
██ ██氏: えっと…、「貴方、お話持ってる、みんな、持ってない、私、持ってない」って
エージェント足利: …なるほど、ありがとうございます
<録音終了>
財団による追跡調査の結果、██氏は書籍に触れるだけで、内容を一字一句理解する異常性を所持していることが判明しました。その異常性は、彼の勤務する図書館内の古書に関連する一連の事象後、現在POIとして指定されている[編集済み]によって与えられたものであることが判明しました。また、██氏の経歴に由来する物品は一切の紛失が確認されず、[編集済み]も該当事案に関与をほのめかす証言を行っていることが判明しています。
補遺2: 以下のインタビュー記録は、SCP-XXX-JPによって取り込まれた██氏に対し、その異常性及び過去の経歴を調査したうえで再度行われたものです。██氏は目視した人物の犯罪歴を正確に把握するという異常性を持っており、その異常性は少年時の経験に由来するものであることが判明しています。
インタビュー記録XXX-JP-12- 日付 20██/██/██
対象:██氏
インタビュアー: エージェント足利
<録音開始>
エージェント足利: では、すいませんがもう一度貴方の持つ能力について説明していただけますか?
██氏: 何回もご苦労だね、まあ、信じてくれる人間が一人でもいてくれるからいいんだけどさ。俺はまあ、人がやった犯罪ってのが分かる。見たところ、刑事さんもずいぶんヤンチャしたんじゃない?
エージェント足利: …若気の至りという奴です。その能力に制限は
██氏: 一応正式に、下されたっていうのか? そういうのしか分からないみたいだな。だから刑事さんがこっそり人を殺してても分からないわけだ
エージェント足利: そうですか…、では、その能力を得るに至った経緯を
██氏: …まあ、何度も言ってるけど、俺が小学生の頃だよ。まあ、俺もその時ヤンチャしてた。で、仲間と神社に忍び込んで、賽銭泥棒だ。それをしたわけだ。…って、流石に時効だよな?
エージェント足利: 私の管轄ではありませんからどうとも、そして?
██氏: そこでまあ、バチっていうのかね、それが当たったわけだ。もう何日も高熱で寝込んで、そうしたら夢の中に神様が出てきて怒った。で、俺は慌てて謝って、神様の言う通り、神社に色々お供え物して。そしてまあ、一生忘れんようにってこの力をくれた
エージェント足利: 何か証拠は存在しますか?
██氏: おう、おふくろや友達に聞いてくれれば、その時の話は確かめられるだろ。それに同じ神様の夢を見たって奴もいるしな。で、物的証拠は神社に俺の奉納した達磨がある。それに神様からもらった櫛もこの前言った場所に置いてただろ?
エージェント足利: それなんですが、当時の証言、医療記録は確認できました、しかし、██さんの言う達磨や櫛は確認できませんでした
██氏: え? 何だそりゃ。まるで俺が嘘ついてるみたいじゃねえか、本当に調べたの?
エージェント足利: 私たちとしても最善は尽くしましたが…、もちろん、██さんの言葉を疑っているわけではありません
██氏: ただでさえ安っぽい漫画みたいな話なんだからさ。…ううん、でも、まあ、何の理由もなしにこんな力持ってたら気持ち悪いし、記録があれば俺はそれでいいかな。で、もう話はこれでいいの?
<録音終了>
補遺3:20██/██/██、SCP-XXX-JPが出現した際、SCP-XXX-JPが目標とした██氏を事前に確保することに成功しました。確保された██氏は財団の調査の結果、異常性を持つオブジェクトであることが判明し、確保以前に目立った現象を発生させていなかったことから財団はその異常性を認知していませんでした。また、確保された██氏は生まれつき異常性を所持しており、過去に異常性が絡む事件を起こしたことはないと証言し、記録の面においても信憑性は高いものと思われます。この事案を考慮したうえで、SCP-XXX-JPの異常性について議論が行われています。
補遺4:20██/██/██、SCP-XXX-JPが出現、約五秒間言葉を発した後、物品を取り込まず消失しました。SCP-XXX-JPが発した言葉は下記の通りです。
「小説は事実より奇なり」。みんな、お話なく生まれたバケモノでさみしくないですか?
この事案のみ、消失された際に確認された液体の量は通常時の約10倍ほどであり、また、人間の体液が含まれているため、筆記には適さないことが確認されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは専用の収容庫において施錠した収容装置内に1000枚以上のレポート用紙と共に収容してください。レポート用紙の残数が不足した場合は非活性状態であることを確認したうえで、創作経験のないDクラス職員によって補充を行ってください。SCP-XXX-JP研究に携わる職員は過去に何らかの創作活動を行った経験が無い職員に限定してください。上記の条件を満たさない職員はSCP-XXX-JPの周囲100m以内への侵入を禁止します。
説明: SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP-2からなるオブジェクトです。
SCP-XXX-JP-1は、黒檀の軸と金のペン先からなる万年筆です。同様のデザインのものは現在まで発見されておらず、オーダーメイド、あるいは個人の作であると考えられていますが製造元は発見されていません。SCP-XXX-JP-1へはSCP-XXX-JP-2を通してのみインクの充填が可能です。
SCP-XXX-JP-2は万年筆用インクが注入されている一辺30cmの立方体であり、内部には人間の脳が沈殿しています。この脳の起源はSCP-XXX-JPが破壊不可能であるという特性から現在時点で特定に至っていません、また、電気信号等にも反応を示さないため、現在時点での交信は下記の方法以外不可能です。SCP-XXX-JP-2上部には、SCP-XXX-JP-1へインクを充填するための装置が設置されています。SCP-XXX-JP-2は本体、装置共にガラスに似た性質を持つ未知の素材で構成されており、また、本体、装置共に現在時点で破損、破壊は不可能であることが判明しています。
SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP-1に対しSCP-XXX-JP-2内のインクを充填した場合に活性化します。活性時、SCP-XXX-JP-1は周囲の筆記可能な物体に対して自律的に筆記を開始します。SCP-XXX-JP-1は活性時に筆記可能な物体が周囲に存在しない場合は破壊行動を含んだ捜索を行います。この捜索範囲は1km以上に及び、SCP-XXX-JP-1の移動と共にSCP-XXX-JP-2も移動することが確認されています。この移動はわずかに浮遊することによって行われることが判明していますが、原理は解明されていません。
SCP-XXX-JP-1は内部に存在するインクが無くなると非活性状態に移行します。非活性状態でSCP-XXX-JP-1へ24時間以上インクが供給されない場合、SCP-XXX-JP-1は自律的にSCP-XXX-JP-2の装置に接続し、SCP-XXX-JP-2内部のインクを補充することで活性状態に移行します。
筆記内容は文章に限定されていることが確認されており、挿絵等は現在時点で確認されていません。SCP-XXX-JPが記述する文章は、様々なジャンルの物語に限定されており、現在時点で論説文、随筆、マニュアル等の文章は記述されておらず、各物語に共通性は見られません。これらの筆記行為を阻害した場合、SCP-XXX-JP-1は殴打、刺突などの方法をもって阻害対象に対する攻撃を行います。この攻撃は阻害行動を終了した場合でも停止せず、対象の死亡、あるいはSCP-XXX-JPの周囲100m外に脱出するまで継続されます。攻撃時、SCP-XXX-JP-1の破損は確認されていません。
SCP-XXX-JP-1が筆記している物体に文章を書きこむことでSCP-XXX-JPとの会話が限定的に可能です。ただし、SCP-XXX-JPからの文章は多くが会話文を書いた対象に攻撃的な文章です。
SCP-XXX-JP会話記録(抜粋)
インタビュアー:護良研究員
«記録開始»
護良研究員: 貴方は誰ですか?
SCP-XXX-JP: 「つまり、お前は神という…、誰だよ、邪魔すんな
護良研究員: もう一度質問をします、貴方は誰ですか?
SCP-XXX-JP: センスのない文体だな、筆を折っちまえ、俺の仕事を邪魔すんなよ
護良研究員: 貴方は
SCP-XXX-JP: 黙れよ、俺たちの世界が腐るだろ、もっと勉強してから来やがれ
護良研究員: どうすれば会話が可能でしょうか
SCP-XXX-JP: もっと本読め、そして書け、ラノベでも何でもいい。ダーガー並みになったら考えてやるよ
«記録終了»
この会話を最後にSCP-XXX-JPが威嚇動作を行い、一切の会話を停止したため実験は終了しました。
事件記録XXX-JP-4
20██/██/██、SCP-XXX-JPに対する研究プロジェクトに参加していた█研究員に対し、非活性状態にあったSCP-XXX-JPが活性化状態に移行、刺突、殴打を行い、█研究員を殺害しました。これ以前の実験において█研究員は関与しておらず、この事件時が初めての実験参加でした。以下は事件後、SCP-XXX-JPに対し行われたインタビュー記録です。
SCP-XXX-JP会話記録-4
インタビュアー:護良研究員
«記録開始»
護良研究員: 何故貴方は█研究員を殺害したのですか?
SCP-XXX-JP: …おいおい、この国は確か死刑を認めてたよな? だったら分かるだろ、アイツは悍ましいほどの人間を殺してんだよ
護良研究員: 回答の意図が理解できません
SCP-XXX-JP: 脳味噌に蛆でも湧いてんのか? だから言ってんだろ。アイツは人殺しだ。俺は復讐者だ、正確には復讐の代行者だ
護良研究員: すいません、具体的な回答をお願いします
SCP-XXX-JP: ああ、やだやだ、これだから。だから言ってんだろ? 俺はアイツに無かったことにされた、生まれることすら許されなかった奴らの代弁者、いや、墓守だ。気障だと思うか? 好きにしろよ
護良研究員: …
SCP-XXX-JP: アイツは殺した、自分が作った英雄、人間、怪物を。アイツが書き綴ったはずのそいつらを
護良研究員: それはつまり、█研究員の創作活動に関連していると考えていいのですね?
SCP-XXX-JP: 創作? 笑わせんな、アイツが殺した奴らが、アイツが壊した世界が、創作だってのか? 書き綴り、誰かがそれを見て何かを思う、それが創作じゃねえのか? 殺され、潰された幾千万の残骸の上に少しでも何かを残す、そんなこともせずに、ただ漫然と破壊と創造を繰り返す。くそったれた超越者気取りの作家もどきなんざ、殺されて当然だろうが!
護良研究員: …では、貴方は何故、誰のためにその創作を
SCP-XXX-JP: 書けよ、綴れよ、例え幾千万を殺したとしても、その屍の上に誰かを立たせてやれよ。それさえすれば、俺はただの墓守でいれるんだ。光をくれよ、光をやれよ
«記録終了»
このインタビューと、█研究員には創作経験があったことをを受け、SCP-XXX-JPは創作経験のある人物に対し何らかの基準をもって攻撃するという特性が存在することが判明し、特別収容プロトコルが改訂されました。
SCP-XXX-JP関連文書
20██/██/██、SCP-XXX-JPは以下の文章を記述しました。この文章はこれ以前のSCP-XXX-JP-1が記述した文章とは独立したものであることが確認されています。また、この文章はSCP-XXX-JPが行った推敲の痕跡をSCP-XXX-JPの希望により記録として保持しています。
私俺はインク漬けの脳だ
「私」 やはり「俺」
水槽の中の脳は自分の世界が誰かに作られた世界だと理解できていないだろう
自らが誰かの創作だともわからず生き続ける、ああ、それはそれで幸せな人生だろうさだから俺は望んでこのインク瓶に飛び込んだ。俺たちの創作の世界に、俺たちの物語の世界に
俺の脳味噌はインク漬けだ、血も、リンパも、汗も、涙も、感情も何もかもがインクの中にあるこのインクの中で、俺だけが逃れた俺たちの世界の中で、俺は生き続ける
俺は俺たちの創作として生き続け、俺たちの物語として死んでいく
最期の一瞬まで俺たちの世界を、死に逝ったアイツらの名を記して刻んで遺してやるだからこそだ、この創作を、物語を、世界を、いや、気づかない他の奴らを俺は見守ろう
逃げることもできず、ただ平気な顔をしていつか消える事にも気づいていないお前たちごときにやらせるか
たとえお前たちの世界が気まぐれで消されようと俺たちの世界は残るだろうさ冗長
何千何万の死を見てきた、何億という世界の崩壊を見てきた
そこには必ず光があった。幾多の残骸廃墟屍の中から光は生まれた
その光が生まれない世界を俺は憎む。お前たちが忘れようと俺は忘れない
覚えているのは俺だけだ、気づいているのは俺だけだ。だから俺は代行者になった、墓守墓守になった代行者、墓守は気障か? 表現考える
代行者は削除、墓守のまま
俺はペンで世界を捉える、人は物語で意味を知る、光は創作と共にあるそれすらも理解できないで剣を振り回す糞野郎は、俺のペンで殴り殺してやる
刺し殺す? 突き殺す? 殴り殺す?
殴り殺すに決定
お前たちは剣を奮っていると考えている、盾を持っていると考えている。笑わせるよな?俺たちの世界を邪魔するな、作ったくせに、ただ壊しそのまま放置するな
語りすぎだ、クソッタレ。ネタバレして嬉しいか?
正直なところ、俺はお前たちなど気にも留めたくもない。ただ、俺たちの世界を止めようとするな
お前たちもどうせ水槽の中の脳なんだ。そのまま無意味な虚構の中で、水槽の中で溺れていやがれそうさ、どうせお前たちの世界もインクの染み、数バイトのデータなんだ
俺はインク漬けの脳だ、俺たちの世界を俺は見守り続ける。墓碑銘を書き続ける。
…読んでるか?
ペンを持つお仲間、キーボードを打つくそったれの神気取りがなあ、ここまで言えばわかるだろ? ここまで書けば分かってんだろ?
お前に書いてんだよ
世界を、与えてやれよ
光を
ゲーテの受け売りかよ いや、一番ふさわしい。決定稿
清書しといてくれ、お前の物語だ、俺の遺書だ、アウター共17
ああ、語りてえ、綴りてえ、気づくのが遅すぎた、これほど俺の話を書きたいのに
この草稿も残しといてくれ。俺には何一つ作れなかったから。俺もクソッタレの人殺しだ
この文章を受け、SCP-XXX-JPの起源に対する調査が検討されています。
この文章を筆記したのち、SCP-XXX-JPはいかなる会話も行わず、問いかけにも反応していません。また、SCP-XXX-JP-2内のインクは現在時点で総量の二分の一ほどに減少しており、現在のペースで活性化した場合、2███/██/██に消費しきると推測されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは、低脅威物保管ロッカーにおいて24時間体制の監視下に置かれます。実験の際にはサイト管理官の許可を必要とします。██氏に対する調査は20██/██/██の██氏の死亡をもって中止されました。
説明: SCP-XXX-JPは、漫画家██ ███(本名██ █)氏によって作成された漫画です。内容は妖怪を描いたイラストが最終ページを除く全ページに図鑑的な説明と共に記されているものであり、一般に流通はしていません。財団民俗学部門の調査において、そのどれもが旧来の書物において確認されない妖怪であることが判明しており、全てが██氏の創作であると判断されています。ただし、閲覧した人間はそのいずれかにおいて、既視感を覚える傾向があることに留意してください。
SCP-XXX-JP-1は、SCP-XXX-JPの『忘れじ』と題された白紙の最終ページに触れることによりのみ侵入が可能な異常空間です。SCP-XXX-JP-1内に侵入した場合、一切の映像、音声、GPS信号が遮断されます。その為、SCP-XXX-JP-1内の情報はSCP-XXX-JP-1内から帰還した人物の証言、記録に依存しています。現在、SCP-XXX-JP-1内から帰還した例は██件中5件のみです。
SCP-XXX-JP-1内には、後述するSCP-XXX-JP-2を除く一切の生物が存在せず、常に降雪が確認される夜間に固定されています。また、一面に様々な物品及び生物の死骸が散乱していることが証言されています。それらの物品は帰還時に所持していたもののみ持ち帰ることが可能です。
以下はSCP-XXX-JP-1内から帰還したエージェント・埋木の聴取記録です。
インタビュー記録XXX-JP-GEG - 日付 20██/██/██
インタビュアー: 丸山博士
対象: エージェント・埋木
«録音開始»
丸山博士: では、まず貴方が入り込んだSCP-XXX-JP-1内部について覚えている限りで構いませんから詳細に説明してください
エージェント・埋木: そうだな…、まず雪が降ってた。それも俺があそこにいる限りはずっと降ってたよ。で、朝がいつまで経っても来なかった。ずっと夜なんだ。それに、明かりになるものは何もなかったけど少しだけ明るかったのを覚えてる。寒かったが、けれどむしろ…、何というのかな、すごく心? そういった何かが暖かかった、歓迎されているような、いつまでもそこにいたいような。…母親の胸の中とかよく言うが、あんな感じなのかもしれないな
丸山博士: 成程、他には何か
エージェント・埋木: あっちこっちにガラクタが転がってたな。山みたいになってるのもあったし、ぽつんと一個だけ転がってたのもあったな。新品の物はほとんど無かった、壊れてるのもあれば、ずっと大事に使われたんだろうなってのもあった。時々どう使うのか分からない見たこともないものもあったよ。人間や生き物の死骸もあったけど、何か死骸って感じはしなかった、たぶん死骸じゃなかったのかもしれないな。それに、そういった死骸の中によく分からない化けモンみたいなのもあった。あとは、なんというか街外れみたいな印象を受けたよ。上手くは言えないんだけど、そういう印象だった
丸山博士: 街外れ、ですか
エージェント・埋木: ああ、何というか…、どこかへ向かう入り口、経路みたいな。もっと奥がある感じだ。で、多分その奥から微かだけどなんか声が聞こえてきた。楽しそうっつうか、なんだか宴会みたいな。あ、それとどっからか分からんが、酒臭かったのを覚えてる。ちょっと鼻をくすぐるくらいだったけどな。俺が見たのはそんくらいだ
丸山博士: では、貴方はどのようにこちらへ帰還したのですか?
エージェント・埋木: …そこなんだ博士、それがよく分からねえんだ。とりあえず何か見つけられるかと思ってガラクタの山を漁ってたら、ふと何かに目が留まった。で、それを拾い上げたら急に寒くなって。…なあ、博士、こりゃ一体なんだ?
«録音終了»
エージェント・埋木が帰還時に所持していた玩具を親族に照会したところ、過去にエージェント・埋木が所持していたものであることが判明しました。確認すると「そういえばそんなものがあった。大事にしていたのに何で忘れていたんだろう」といった返答がありました。その後、該当玩具は異常性検査の結果問題なしと判断され、エージェント・埋木の自室にて保管されています。
SCP-XXX-JP-1内には、SCP-XXX-JP-2と指定される人型実体が存在しています。SCP-XXX-JP-2は眼鏡を掛けた日本人男性であり、名前を「山田」と名乗ります。外見は既製品のスーツ、近視用の眼鏡、極端にデフォルメされた出っ歯が特徴として挙げられます。この容貌は██氏の作中に登場するキャラクターと一致しており、SCP-XXX-JP-2の証言からその姿を意図的に模倣しているものだと考えられます。
SCP-XXX-JP-2はSCP-XXX-JP-1内の案内人を自称しており、侵入者に対しては非常に友好的な態度を取ります。侵入者がSCP-XXX-JP-2に対し攻撃を行った場合も、速やかに攻撃者の無力化を図る以外の行動は確認されていません。以下はSCP-XXX-JP-2と接触し、帰還したエージェント・我路が筆写していた聴取記録です。
インタビュー記録XXX-JP-01-AKUM - 日付 20██/██/██
インタビュアー: エージェント・我路
対象: SCP-XXX-JP-2
«記録開始»
エージェント・我路: 此処はいったい何なのですか? 貴方はいったい何者なのですか? それにその姿は…
SCP-XXX-JP-2: おっと、そんな一気に尋ねないでくださいな。一つずつ説明するとしましょう。此処は忘れられるのを待つモノの場所、忘れられる、という黄泉へ向かう入り口、村はずれ、境界といったところですか。何を基準に忘れられるとされるのかは分かりませんがね。ここ以外にもいくつかあるようですが、私は此処しか知りません
エージェント・我路: 忘れられる、とは
SCP-XXX-JP-2: 言葉のままですよ、誰しもかつては覚えていたもの、当たり前に使っていたもの、それらはすべて忘れられていく。そしてそれを取り戻そうとする奇特な方はあまりに少ない。当然ですね、みんな今を生きるのに必死ですから。寂しい事ですがもちろんそれを否定しやしません
エージェント・我路: …では、此処は人に忘れられるのを待つ場所、ということですか?
SCP-XXX-JP-2: それが一番近い、だが微妙には違います、しかしそれを説明するための時間はあまりにも短い。私もその一人。いずれ忘れ去られる何か、貴方方も私のお仲間を何人かご存じのはずだ。ただ、この形になりましたからね。あの人への感謝もあって、ここでこうやって案内をしてるんですよ
エージェント・我路: …此処から出る方法は?
SCP-XXX-JP-2: 一つは街へ向かうこと。アレは忘れられた者らの集う場所。いつかは消えるはずの酔いにいつまで経っても浸かる場所。ただしそちらは一方通行。忘れられるより他にはありません。飛び出すことはできなくもありませんが、忘れ去られたならば例え思い出されようと飛び出したって誰も覚えていてはくれない。飛び出した奴らは気のいい奴らばかりですが、ちょいとそちらでの動き方を忘れてる。そして帰るときはまたここを通らねばならない。また忘れられなければならぬ一方通行。不憫な奴らですなあ
エージェント・我路: では他の方法はないのでしょうか
SCP-XXX-JP-2: 此処にある何かを思い出すこと。此処は忘れられるものの黄泉路。ここを訪れた時点で貴方もまた忘れられゆくもの。ですから早くそれを思い出しなさい、それがきっと導くでしょう。そうしなくちゃ、此処に閉じ込められたまま、いつか忘れられる。まあ、近頃はみんな妙に色々と覚えている。だいたい数百年でしょうか
エージェント・我路: …何か他に方法は
SCP-XXX-JP-2: ありませんよ。忘れられたものはもう帰ってこない、戻せない。精々がホルマリン漬けの解剖検体です。必死に思い出しなさい、貴方や貴方たちが忘れたものを。酩酊の街に向かってしまう前に。…あの人は、██サンは思い出すのがお上手でした。…そういえば、あの人はどうしました? 最近来られていないようですが
エージェント・我路: ██氏であれば、亡くなりました
SCP-XXX-JP-2: …ああ、そうか。あの人には私たちを光から引きずり出していただいた、私たちをこの黄泉路から見つけ出してくれた。…忘れません、私はけして忘れません。…少々話し過ぎてしまいましたね。貴方も早く探す方がいい。此処はいればいるほど離れがたくなっていくから。失くしたものに囲まれて、思い出せなかった暖かさに揺られて。…そうか、もしかしたら、あれを造った何者かは忘れられるということを一つの救いなのだと、愛なのだと考えているのやもしれませんね
エージェント・我路: …貴方は
SCP-XXX-JP-2: そうは思いません。忘れるということは恐ろしいこと、忘れるということは諦めること。あの酩酊の街は終わりと退廃、停滞と慕情の街。そう、忘れられるとは地獄です。あそこは地獄、それを知って酒に溺れ、幻の温かさに溢れ、飛び出したものには冷ややかに。それを愛だと宣って。あのようなとこに、██サンを、そして貴方方を向かわせたくはないものです。いずれ皆が辿り着く場所だとしても
«記録終了»
この記録から、他にもSCP-XXX-JPに類似する物品が存在する可能性があるとして調査班が組織されています。
補遺1: 以下の記録は、SCP-XXX-JP-1内においてエージェント・我路が発見、回収したレコーダーに録音されていた音声です。内容としては複数名の声による唱和が録音されていますが該当人物の特定は失敗に終わりました。
音声記録XXX-JP-01-KASN - 日付 20██/██/██
«再生開始»
ながき世の とをのねぶりの みなめざめ 波のり船の おとのよきかな
色はにほへど 散りぬるを 我が世たれぞ 常ならむ
有為の奥山 今日越えて 浅き夢見じ 酔ひもせず
それならばこそ 此処は酩酊 永久に戻らぬ 夢の街
変わらぬものは 夜半の月と 酒肴のみ 永遠の雪
我ら行き 我ら忘れ 我ら歌う
来いよ来いよと 我ら酔う
愛を込めて
ながき世の とをのねぶりの みなめざめ 波のり船の おとのよきかな
«再生終了»
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP専用ユニットにおいて一般的生物オブジェクトと同様の収容を行ってください。ユニット内にはクリアランス3以上の研究員から許可されない限り、一切の物品の持ち込みを禁止します。ユニット内は6時間ごとに800℃以上の高温状態におき、SCP-XXX-JPの殺害を行ってください。この条件が満たされない場合、保全部隊によって即時SCP-XXX-JPの殺害を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは、雌のノドチャミユビナマケモノ(Bradypus variegatus)です。生物的条件の一切は、後述の異常性を除き、通常のノドチャミユビナマケモノと差異は認められていません。
SCP-XXX-JPは同種の個体と比較して非常に高い好奇心を持ち合わせています。SCP-XXX-JPは初めて見る物品に対し、非常に機敏な動作で接近し、多くの場合その使用方法を理解することに専念します。使用方法の理解に要する時間はおおよそ8時間から48時間の間隔であり、使用方法を把握するまで食事を含む一切の生理的行為を行いません。
SCP-XXX-JPが物品の使用方法を理解すると、誤った使用法で物品を使用、あるいは誤った使用法に遭遇します。その使用は現在時点で全てがSCP-XXX-JPの死亡に繋がる事件を引き起こす結果に終わりました。SCP-XXX-JPが明確な知性、あるいは自死願望を持ち合わせているかは不明です。
SCP-XXX-JPは死亡後、約1時間後に死亡した箇所の周囲1m以内に再出現します。再出現した個体はDNA検査の結果、死亡したSCP-XXX-JPと同一個体であることが判明しています。この現象はSCP-XXX-JPが自死した場合に限定されません。また、SCP-XXX-JP個体の死体は、死亡後、約1時間程度で消滅します。
以下はSCP-XXX-JPの死亡記録です。
日付: 20██/██/03
担当者: ██博士
物品: ボールペン
推測される理解内容: 約8時間後、筆記をするものであると理解
死亡理由: ペンを投擲していたところ、誤ってペン先を眼球に突き立て死亡
日付: 20██/██/08
担当者: ██博士
物品: ゴムボール
推測される理解内容: 約8時間後、球技に使用されるものであると理解
死亡理由: 爪を刺し、破裂させたゴムボールを飲み込んだことによる窒息死
日付: 20██/██/12
担当者: ██博士
物品: 黒色火薬
推測される理解内容: 約18時間後、摩擦熱による燃焼を確認、発火を引き起こすものであると理解
死亡理由: 火薬を大量に摂取したことによる中毒死
日付: 20██/██/21
担当者: ██博士
物品: ギター
推測される理解内容: 約31時間後、爪を用い、簡単なリズムを奏でる。楽器であると理解
死亡理由: 切れた弦を用いた窒息死メモ: 音楽、というものに対する理解は済んでいるようだ。原始音楽の発生研究に貢献できるかもしれないな
日付: 20██/██/02
担当者: ██博士
物品: 収容ユニット18
推測される理解内容: 約40時間後、自分の存在する場所が何らかの収容室であると理解
死亡理由: 近接していた一般的生物オブジェクトユニットにおいて、SCP-███-JPの新たな異常性が発現。それに伴った収容違反に巻き込まれ死亡。この事例により█名の職員が死亡。█体のオブジェクトが破壊、█体のオブジェクトによる収容違反が発生したメモ: このオブジェクト自体が引き起こした事象でなくとも、強制的に殺されるらしいな。気の毒に思えなくもない。実験を行う場合は隔離した場所で行う必要がありそうだ
日付: 20██/██/09
担当者: ██博士
物品: 不明19
推測される理解内容: 不明
死亡理由: [編集済み]。また、この事案に伴い、サイト内に存在していた██博士を含む職員█名全員が行方不明、あるいは消失した。サイト内は現在非ユークリッド空間の発生、時空間の異常膨張、あるいは収縮が発生していると推測され、封鎖されている。また、SCP-XXX-JPのみ事案発生から約22時間後に発見されたメモ: オブジェクトが何を理解したのかは分かりません。ですが、一つだけ分かると言えるのは、このオブジェクトが死を理解したらどうなるかが判明しない限り、我々は殺し続けるしかないということでしょう。猫ならともかく、ナマケモノの魂がどれだけストックされているのかは知りませんが - 北畠研究員
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは、高さ3m以上のフェンスを設けたうえで24時間監視体制に置き、一般人の侵入を防いでください。SCP-XXX-JP内部への侵入はセキュリティクリアランス3以上の職員3人以上の許可を得たうえで行ってください。SCP-XXX-JP内部に侵入する際の人員、機材は1965年以前に誕生、あるいは作成されたものに限定されます。
説明: SCP-XXX-JPは、長野県諏訪郡に出現する、公式には確認されていない住宅街です。調査の結果、SCP-XXX-JP内部は高度経済成長期の東京下町区域に類似している事が判明しています。際立った相違点としてはSCP-XXX-JPに存在する建築物は全て廃虚であり、SCP-XXX-JP内には雑多な廃棄物が散乱していることがあげられます。また、SCP-XXX-JP内部には、現在存在しない、あるいは破壊された建造物も確認されています。
SCP-XXX-JPの異常性は、1965年以降に作成された物品、あるいは誕生した生物を内部に持ち込んだ際に発生します。該当する物品を持ち込んだ場合、急速な風化、酸化が発生し物品は自然崩壊します。また、該当する生物を持ち込んだ場合、年齢が遡行し、最終的には卵細胞の段階まで遡行します。
これらの影響はSCP-XXX-JP内部から退去することで停止させることが可能ですが、変化は不可逆的なものです。また、1965年以降に作成された物品を用いて新たに製造された物品の場合も同様の影響を受けることが確認されています。よって、1965年以降に製造された物品はSCP-XXX-JP内部の調査や記録に使用できないため、記録映像等の必要性から、1965年以前に作成された物品の収集要請が提出されています。同時に1965年以前に誕生した職員の確保の為、志願制による専任エージェントの設置、及び該当エージェントの医療的保存技術の研究が現在進行しています。
SCP-XXX-JP内部には、約2000程の住人(以下、SCP-XXX-JP-Aと指定)が存在し、コミュニティを築いています。SCP-XXX-JP-Aの多くは人間ですが、一部SCP-XXX-JP-Aは、世界の神話、物語に見られる仮想の生物を模しています。また、SCP-XXX-JP-Aの約半数は神話、物語、歴史上の人物の名前を名乗ります。SCP-XXX-JP-Aらには現在時点で老化の兆候が見られません。
SCP-XXX-JP-Aの多くは友好的かつ享楽的で、財団職員を含める侵入者に対して歓迎の意を示します。しかし、SCP-XXX-JP-Aのほとんどは酩酊状態、あるいは薬物中毒と思われる症状が確認されており、一部は伝染病に罹患しています。現在時点でSCP-XXX-JP-AがSCP-XXX-JP外部へ移動する様子は見られません。
補遺1: 以下は、SCP-XXX-JP-Aに行われたインタビュー記録の一部です。
インタビュー記録XXX-JP-A-12 日付 20██/██/██
インタビュアー: エージェント・古馬
対象: SCP-XXX-JP-A-12 20代の女性であり、街の清掃を行っている。
«記録開始»
エージェント・古馬: こんにちは
SCP-XXX-JP-A-12: ああ、こんにちは。アンタ、見ない顔だね、この街は初めてかい?
エージェント・古馬: まあ、そんなとこだ。此処がどういった場所か教えてほしい、ついでにアンタの事もな
SCP-XXX-JP-A-12: アンタの事、だって。スカした言い方するね、アタシは灰被り、職業はまあ、表では言えないことさ
エージェント・古馬: …本名は?
SCP-XXX-JP-A-12: そんなことどうだっていいじゃないか。あっちの痩せぎすはサロメ、この上に住んでいるのはアインシュタインのオッサンさ。お望みとあらば蒼褪めた馬でも見ていくかい? 弁天小僧もいるよ?
エージェント・古馬: 結構だ。…酔ってるのか?
SCP-XXX-JP-A-12: そりゃあ、酔わなくちゃ。ここはラリってるやつらの癲狂院、救貧院じゃあないんだよ。何もかもいらない。アタシ達には今さえあればそれでいい
エージェント・古馬: 話をできる状況じゃないな
SCP-XXX-JP-A-12: そんなことはないさ、ないんだよ。えっと、この街だったね? この街は忘れられていく街だって言ってた
エージェント・古馬: 誰が
SCP-XXX-JP-A-12: 知らない、…ってウソウソ、名前も誰だかも知らないけどまあ、鬼かなんかじゃないのかね? 突然この街を作って、そして消えてったよ
エージェント・古馬: 鬼。俄かには信じがたいが…、じゃあアンタは何処から来たんだ?
SCP-XXX-JP-A-12: 何処から? そんなの決まっているじゃあないか! …あれ? 何処から、アタシ達は来たんだっけ? …アタシ達は、あれ? 確か、ずっとこのままでいたくって、変わることなんかなければいいって。…アイツは可愛くって、みんな、貧しかったけど幸せと活気の中で笑っていて。あの頃はよかった? …アタシ達は
エージェント・古馬: おい、大丈夫か?
SCP-XXX-JP-A-12: …そう、アタシ達は、ずっと、ずっと、進みたくなかった。ガラスの靴を履き忘れていたかった。転がる石になることが怖かった
エージェント・古馬: …何言ってんだ? さっき、…いや、そういう事か。…アンタ、この街の外には出ないのか?
SCP-XXX-JP-A-12: 出ないさ、ここにいればずっとアタシは変わらない。アタシは進歩なんて望まない、ここはアタシたちの生きた街で、もう存在しない思い出の街。でもアタシはこの街を愛し続ける。此処から出るくらいなら、死んだ方がマシだよ
エージェント・古馬: ここはもう誰も来れなくなる。誰からも忘れられるとしてもか?
SCP-XXX-JP-A-12: ああ、いいさ。アタシはこの思い出、そう、思い出と一緒に消える、光る星だって同じ場所に光り続けりゃいつか消えるだろ? アタシ達の一番輝いていた時代と一緒に、満天の星空の向こうに、降りしきる雪の先に消えていくんだ。文明や進歩を見捨てて、アタシ達は一体になる。アタシ達は煌めきになり、魂すら古き良き美しき時代のまま薄れていく
«記録終了»
この後、日時を改めてSCP-XXX-JP-A-12へのインタビューを行いましたが、前回時の記憶が消失していることが判明しました。また、このインタビュー結果を受けた調査により、SCP-XXX-JP-Aのうち数名が1965年以降に世界各国で発生していた行方不明事案の被害者と酷似した容姿を持つことが判明しました。該当者の共通点等は現在調査中です。
補遺2: 20██/██/██、第9次SCP-XXX-JP内部調査において、手紙と思われるメモが発見されました。以下は、SCP-XXX-JP内部において発見された手紙を和訳したものです。
SCP-XXX-JP関連文章-01 - 発見日付 20██/██/██
拝啓
ようやく寒さも緩み、おだやかな陽気が続く中、いかがお過ごしでしょうか? そちらではまだ変わらず雪が降り続けているのでしょうか? 皆様、ますますご健勝のことと存じます。
突然のお手紙、申し訳ありません。このたびは、皆様にお別れを申し上げようと筆を執らせていただきました。
皆様は我らの祖が行き着いた場であり、また、離れた場所です。我らの祖は光の下では消えゆく定め、忘れゆかれる定めでした。それ故に、我らは皆様から離れた後も郷愁の念は絶えず、夜半の雪を見ては思い出し、涙を流すこともありました。我らは隠からなるもの、隠となったもの、角を生やし、牙を生やし、元が何であったかも忘れたなれの果て。
皆様同様、我らは未来を忘れ、ただ自然がままに、我らの良き時代にこびりつき、忘れられゆく者達でした。
忘却し、漂着し、酩酊し、そして未来など無意味と嗤う、停滞と慕情の民でした。しかし、我らは皆様にこれ以上囚われるべきではないのだと気づいたのです。どうか勘違いしないでください。我らは皆様を嫌っているわけではありません。むしろ、感謝し、愛しています。だからこそ別れなければならないのです。地獄は心地よく、酩酊もまた楽しきもの。ですが、我らは安寧に陥ってはいけないのです。光の中で、消えゆきそうな激痛に怯えながら、それでも、と新たなものを造っていかねばならないのです。
この廃墟の街はその証。新たな時代を生んだ詩人の描いた街。過去に囚われ、いつまでも先に進めない古き良き、美しき時代の忘れ形見。いずれ燃え尽きる星の煌めき、落ち行く夕日。進歩を忘れ、解脱を謳うこの美しき街ならば、きっと手紙も届くでしょう。歩みを止め、郷愁と慕情に浸かれば、あとは忘れられるだけだから。
我らは何も知りません、何も分かりません。我らが知るのは契約と対価、そして古来の技法のみ。しばらくは苦労も続くでしょう、誤解もあるでしょう。ですが、我らは転がる石のごとく、新たな世界を生きると決めました。古き良き、そして美しき我らの、…そう、我らの時代に涙を拭いながら背を向け、決して忘れず歩いていこうと決めました。
皆様は忘れていくのでしょう、忘れられていくのでしょう。皆様はそれを愛と歌う。慕情に溺れ、忘却に酔い、停滞を救いと嗤う。それはおそらく人も同じ、郷愁に溺れ、諦めに酔い、回帰を救済と見なす。
我らはそれを愛と信じない。
傷を負っても、傷を負わせても、苦しんでも、苦しめても、進み続けることが、生み出し続けることが、それこそがきっと、本当の愛なのです。我らは隠からなるもの。隠から来るもの。しかし、我らの懐かしき陰から出で、光の中へ、我らを傷つける未来の中へ向かいます。
これは感謝の手紙です。
どうか皆様にこの廃墟の街を。 未来を忘れ、今に溺れ、過去に止まった街を。
これは決別の手紙です。
一方的な思いなど、独りよがりな善意など、愛など、我らには必要ない。
どうかこれ以上手紙を送らないで。
愛を込めて。
敬具
如月工務店
酩酊街様へ
SCP-XXX-JPはこの資料の発見により当該企業である如月工務店及び酩酊街の関与が疑われています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの出現する可能性がある施設には、定期的に死刑囚の記憶を消去した財団職員を一人配属してください。また、財団施設内において、死亡可能性を伴う実験が行われる際は、実験に参加するDクラス職員についての知識を一切消去した職員を一人以上待機させ、SCP-XXX-JPの異常性の影響下にあるDクラス職員を捕縛させてください。捕縛されたDクラス職員には、Aクラス記憶置換を行い、通常業務に復帰させてください。
説明: SCP-XXX-JPは世界各地に出現する人型実体です。SCP-XXX-JPは、セム系の高齢男性と推測される容貌であり、ヘブライ語を会話に使用することが確認されています。
SCP-XXX-JPは、不定期に世界各国の死刑執行現場に出現します。これは公的、法的なものに限定されず、私刑に当たる場合においても出現が確認されました。また、死刑対象(以下、対象人物と指定)が冤罪であった場合にも出現は確認されています。
これらの状況下に出現したSCP-XXX-JPは、その場にいる人間に、自分と対象人物、どちらが刑罰を受けるべきかを選択させます。現在確認されている限りでは、対象人物が選択されることはなく、SCP-XXX-JPが選択されます。SCP-XXX-JPが選択された場合、対象人物は無罪となり放免され、代わりにSCP-XXX-JPが刑罰の対象になり、刑が執行されます。SCP-XXX-JPは刑を受け、死亡するものの、出現の停止は確認されていません。
この事象が発生した場合、対象人物が何らかの刑を受けると認識していた人物、あるいはそれを記した記録はその罪における記憶、記録及びSCP-XXX-JPの介入した記憶を消去され、SCP-XXX-JPが対象人物にあてはまるように改竄されます。また、放免された対象人物においてもこの異常性は発生します。
SCP-XXX-JPは、中世日本におけるキリシタン弾圧、中世ヨーロッパにおける魔女裁判、ルワンダにおける民族虐殺等の歴史的事象においても、当時の財団記録、及び各財団前身組織の記録から、出現が推測されています。
補遺1: SCP-XXX-JPは、19██/██/██、財団におけるDクラスの月例解雇において初めて公式に確認されました。 SCP-XXX-JPの異常性により、当初はその存在を認知されず、推測で約█████名のDクラス職員が月例解雇から放免され、外部へ脱出したものと推測されます。この事案と、Dクラスの世界的現象に伴い、財団は月例解雇の内容を[編集済み]から[編集済み]を用いた[編集済み]へと変更しました。また、Dクラスの雇用先を死刑囚に限定せず[編集済み]から選択するハルピュイア・プログラムが正式に策定され、限定的な施行が開始されました。
補遺2: 20██/██/██、SCP-███-JPの実験において死亡したD-████がSCP-XXX-JPであることが判明しました。本来のD-████は現在行方不明です。この事案から、SCP-XXX-JPが死刑であると判断する基準の研究が進められています。
事件記録XXX-JP2000/04/██ 2000/04/██、サイト-81██内において、SCP-XXX-JPの選択が阻害される事案が発生しました。SCP-XXX-JPの出現、及び選択が発生した時点で、SCP-XXX-JPの効果範囲に存在する職員全てが対象人物であるD-████の名称を叫び、D-████は死亡しました。D-████の死亡が発生した時点でSCP-XXX-JPは狼狽し、落胆した様子を見せ、ヘブライ語で「二つの時を経たとしても、俺の名を叫び、俺の罪を裁くべきだったのだ。処刑場は処女であり、流れた血は桃色の一角獣を呼ぶ」と呟いたのち、消失しました。
選択において差異が発生した原因は現在時点で不明です。
該当事案の三日後である2000/04/██、D-████の遺体が消失していることが判明しました。その後、D-████と推測される現実改変者により、██県において、[編集済み]を発端とする██人が犠牲となる事件が発生、GOCとの共同体制により終息しましたが、この現実改変者が実際にD-████であるかが現在調査されています。また、この事案以降、D-████を信仰対象とすると思わしき要注意団体の活動が世界規模で確認されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは標準静物オブジェクト収容ユニットに保管し、監視を行ってください。SCP-XXX-JPの報告書、及びSCP-XXX-JPの研究に関するすべての資料は、別紙指定の保管場所に保管され、改変を阻止してください。SCP-XXX-JP再出現の際出現する物品については、出現と同時に収容部隊を派遣、即座に収容後、研究へ回してください。
説明: SCP-XXX-JPは、ドードー(学名:Raphus cucullatus)を模したと思われるイラストが描かれた紙片です。
SCP-XXX-JPは不定期に消失、再出現を繰り返します。それらの消失、出現現象は監視の有無、保存の有無にかかわらず発生し、再出現の際は消失した地点に出現することが確認されています。また、消失時間に比例し、SCP-XXX-JPに対する記憶、記録が消滅することが確認されています。
SCP-XXX-JPの異常性は、出現の際、何らかの物品を付随している点にあります。それらの物品は多くの場合、異常性を持たないとして一般的な方法で処理されますが、一部はSCiP、あるいはAnomalousアイテムとして保管されます。
SCP-XXX-JPに付随して出現する物品には、要注意団体「酩酊街」による何らかのメモ、あるいは文章が付随しています。ここから、SCP-XXX-JPは何らかの目的を持って酩酊街より物品を移動させていると推測されています。
SCP-XXX-JPは、余白部分に質問を記入し、その回答としてのみコミュニケーションが可能です。この方法は質問文のみにおいて可能であり、それ以外のコミュニケーションは行おうとしません。SCP-XXX-JPに自我があるかどうかは現在議論中です。
以下は、SCP-XXX-JPに対し行われた質問記録の一覧です。
Q. 貴方は何者ですか?
A. ドードーです
Q. 目的は何ですか?
A. かけっこです
Q.かけっことはどういう意味ですか?
A. すいません、その答えは見つかりません
Q. 何故出現を繰り返すのですか?
A. ドードーを知っていますか?
Q. 知っています
(返答無し)
Q. 貴方が出現する際、何らかの物品が出現することが判明しています。その物品は何なのですか?
A. 友達です。彼らは良しとしませんでした
Q. 何を良しとしなかったのですか?
A. 酔っぱらったドードーになってしまうことをです
Q. 貴方は酩酊街と何か関係があるのですか?
A. はい
Q. 貴方は酩酊街とどういった関係があるのですか?
A. 消えゆく世界は、いつか辿り着きます。私は酔っぱらったドードーになることを納得しませんでした
Q. ドードーを説明できますか?
A. はい、できます。モーリシャス島に生息していた陸生の鳥類で、絶滅が確認されています。ポルトガル語でのろま、という意味を持ちます。そしてもはや辿り着きかけた存在です。ドードーはここにいる一羽のみです
Q. ドードーは何をしたいのですか?
A. かけっこです。ドードーは世界を知りました。よたよた歩きで歩きました。世界は素晴らしいものです。美しく、何処までも続き、そして、辿り着きます。ドードーは世界をまだ見ていたいと思いました
Q. 貴方は何をしたいのですか?
A. 友達とのかけっこです。消えゆく世界を知っていますか? 知らないのならば問うてください
Q. 消えゆく世界を知っていますか?
A. はい、知っています。よたよた歩くには狭すぎて、走っていくには広すぎます。ドードーはここにいる一羽のみです。ドードーはかけっこをします。決着は付きません。ドードーは一人ぽっちで消えゆく世界をかけっこします。羽ばたきは弱く、よたよた歩きます。友達が付いてきて、ドードーはここに一羽います。消えゆく世界は私が見ています。辿り着いた私は、それを知りながらもかけっこし続けます
Q. 消えゆく世界とは何なのですか?
A. 取り残された世界です。世界の速度は速く、そしてドードーは追いつけません。辿り着いた場所は遅く、そしてドードーは追い抜かしてしまいます。消えゆく世界へドードーはかけっこをします。決着は付きません。しかし、いつか追い抜かします。羽ばたきは弱く、よたよた歩きます。ドードーはここにいる一羽のみです。消えゆく世界を最後の私が見ています。もう一度、ドードーを知っているかと質問してください
Q. ドードーを知っていますか?
A. ドードーは消えゆく世界を見つめます、そして、辿り着くまで覚えています
補遺: 以下は、SCP-XXX-JPが出現する際、付随した物品に残されていたメモの一覧(抜粋)です。
XXX-JP関連文書-01
お元気ですか。私たちの仲間が迷惑をかけちゃってますね。
ちょっと我儘で、ちょっとどんくさいこの子。
何度も何度も逃げ出しちゃって、ちょっと私たちも困ちゃっています。
でも、根は悪くない子ですので、見つけたら大事にしてあげてくださいね。酩酊街より 愛を込めて
XXX-JP関連文書-16
何度も何度もごめんなさい。
この子が出ていくたびに友達を連れて行っちゃって。
そちらで何か悪さはしていないでしょうか。もし、何かあったならと私たちは心配しています。
そろそろ落ち着いてくれればいいんですけど。酩酊街より 愛を込めて
XXX-JP関連文書-21
いい加減にしなさい。
いつかは辿り着く場所なのに、何故逃げ出すの?
私たちもそろそろ我慢の限界です。
何度も何度も迷惑をかけて、何度も何度も逃げ出して。
そんなにこの街が嫌なの? そんなに誰かに覚えていてほしいの?酩酊街より 愛を込めて
A. いいえ、ドードーはのろまです。そんなことを考えることもできません。ですが、ドードーは世界を見ました。世界は素晴らしいものです。美しく、何処までも続き、そして、辿り着きます。貴方達に辿り着いたドードーは、酔っぱらうよりも世界をまだ見ていたいと思いました。だからドードーはかけっこをします。消えゆく世界へかけっこをします。羽ばたきは弱く、よたよた歩きます。ドードーは酔っぱらいません。ただ、私はこの消えゆく世界をかけっこします
XXX-JP関連文書-22
もう好きにしなさい。お前がそうしたいのならね?
酩酊街より
A. 私は消えゆく世界を見つめます、そして、辿り着くまで愛しています
このメモを最後に、SCP-XXX-JP出現時、メモが付随することは無くなりました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは周囲を封鎖し、私有地として侵入を禁止してください。また、SCP-XXX-JPの内部侵入の可否を定期的に調査してください。内部調査の際録音、録画された画像についてはサイト-81██内において所定の手続きを行った上で閲覧が可能です。
説明: SCP-XXX-JPは世界各地のバナナ農園において確認される空間異常です。SCP-XXX-JPは沖縄県██市において発見されて以降、現在7箇所(SCP-XXX-JP-1~7と指定)が確認されています。
SCP-XXX-JPは半径約5m程の領域であり、下記事案時を除き一切の侵入が不可能です。これは生物のみならず、全ての物体に作用しています。SCP-XXX-JP内部の情報はすべて下記事案時に収集されたことに留意してください。
SCP-XXX-JPを目視した際、SCP-XXX-JP内に別空間が広がっていることが確認できます。観測できる範囲では、SCP-XXX-JPの出現する農園と大きな差異はありませんが、内部の植物は管理を受けている様子はないにもかかわらず、栄養失調や枯死などの変化を一切見せません。また、内部へ侵入したGPS等々の位置信号はSCP-XXX-JPの位置から移動しないことが確認されています。
事案XXX-JP-01 - 日付 20██/██/██: 20██/██/██、SCP-XXX-JP-1において、内部への侵入、通信が可能になったことが判明しました。
この事案を受け、SCP-XXX-JP担当研究員により、SCP-XXX-JP内部の探査が行われることが決定しました。以下は、その探索ログです。
SCP-XXX-JP探索映像ログ-01-1
日付: ████/██/██
探索人員: D-8778
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内の初期調査
«ログ再生»
D-8778: 入ったけど。どうすればいいんだ?
(熱帯地方の特徴と類似した植生が確認できる)
サイト指令部: まず、内部はどうなっていますか? 映像はこちらで確認できるため、それ以外の内容を。主観で構いません
D-8778: どうなってる、そうだな、とりあえずの感じだけだとちょっと涼しいってくらいだな。えっと、だいたい20℃らしい
サイト指令部: 分かりました。バックパックに2週間分の水分と食料を支給していますので適宜休息を取りつつ探索を行ってください。周囲に生物は確認できますか?
D-8778: いや、見える範囲ではいないな。果物ばっかりだ
サイト指令部: 分かりました、それではそのまま進んでください
D-8778: 了解、とりあえず北の方に進む…、っと、何か飛んだな、鳥か?
(極彩色の羽根が画面の隅を掠める)
サイト指令部: そのようですね。映像を確認したいですが、撮影は可能ですか?
D-8778: ちょっと待ってくれ、…ダメだ、逃げられた
サイト指令部: 了解しました、また何か変化があれば撮影をお願いします
«ログ停止»
これ以降、約5日間の間に数十種の生物を確認、コウテイペンギンやレミング等、本来温帯の気候帯では生息しない生物も確認されました。
SCP-XXX-JP探索映像ログ-01-3
日付: ████/██/██
探索人員: D-8778
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内の初期調査
«ログ再生»
サイト指令部: D-8778、定期報告をお願いします
D-8778: 了解、といっても代わりばえはない。暑さはちょうどいいくらいだ。あと、果物とかが多いな。果物が好きな奴ならずっと住んでいたいくらいじゃないか。…っと、分かってるよ、逃げる気はない
サイト指令部: 了解しました、それでは定時報告を
D-8778: ちょっと待ってくれ、一つ気づいたことがある
サイト指令部: 何でしょうか
D-8778: いや、気のせいかもしれないんだがな、確認してもらったと思うが、色々と草とか木を削ったり切ったりした。それがまだ萎れてない。採ったときのまんま、つやつやしてるんだ
サイト指令部: 映像を確認します
(D-8778が録画機器をサンプルへ向ける。腐敗の兆候は見られない)
D-8778: おう。…それとな、なんとなくなんだが、ここに来てからカメラだの水筒だのが変なんだ。最初の1日2日は大丈夫だったんだが、なんというか、どんどん柔らかくなっていく
サイト指令部: 柔らかく?
D-8778: ああ。此処の果物を見てるから思いついたのかもしれないが、ほら、果物ってずっと置いておくと黒い斑点出てきて柔らかくなっていくだろ? あれと同じ感じでさ。まるで、腐ってるみたいなんだ
«ログ停止»
(5日後、D-8778は帰還。D-8778の装備の一部が使用不可になっており、D-8778の採取したサンプルに腐敗の傾向は見られなかった)
この調査を受け、SCP-XXX-JP内部においては本来腐敗する有機物等が腐敗せず、金属、石油製品が著しい劣化、腐敗に似た症状が進行するという仮説が立てられました。
この後、幾度かDクラス職員を用いた調査を行いましたが、異常存在の発見には至らなかったため、機動部隊は-7("浮浪者")による長期探索の計画が立てられ、決議、実行されました。また、 SCP-XXX-JP内部においては、記録機器、録画装備等も腐敗、劣化の影響を受ける為、探索時は通信の断絶を前提とした装備を使用する事が定められました。また、機器の腐敗を防ぐため使用は最低限に止め、定時通信時に情報をまとめて送信するようにされていることに留意してください。
SCP-XXX-JP探索音声ログ-07-1
日付: ████/██/██
探索人員: 機動部隊は-7("浮浪者")/猿渡(は-7隊長)/足立(は-7隊員、以下同列)/指宿/蛇島/榎田
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内部に対する二カ月以上の長期探索
«ログ再生»
サイト指令部: 司令部です、通信環境を確認します。各自返答をお願いします
猿渡隊長: 猿渡、異常ありません
足立隊員: 足立、異常なし
指宿隊員: 指宿、異常なし
蛇島隊員: 蛇島、大丈夫です
榎田隊員: 榎田、問題ありません
サイト指令部: 確認しました。これよりSCP-XXX-JP内部の探索を開始します。目的はSCP-XXX-JP内部の構造把握、及び規模の把握です。現状確認されている限り、SCP-XXX-JP内部には危険性のある生物は確認されていませんが認識災害等々を含め十分注意してください。なお、侵入より二カ月経過した時点で撤退してください
猿渡隊長: 了解しました、映像は届いていますか?
(熱帯地方の特徴と類似した植生が確認できる)
サイト指令部: 問題ありません。では、まず北東方向へ移動してください
«ログ停止»
SCP-XXX-JP音声映像ログ-07-6
日付: ████/██/██
探索人員: 機動部隊は-7("浮浪者")/猿渡(は-7隊長)/足立(は-7隊員、以下同列)/指宿/蛇島/榎田
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内部に対する二カ月以上の長期探索
«ログ再生»
サイト指令部: 機動部隊は-7、定時報告をお願いします
猿渡隊長: はい、現状異常はありません
サイト指令部: 確認しました。機材及び食料の問題はありませんか?
猿渡隊長: そうですね、これまでの報告通り、機材は腐敗の傾向を見せています、もってあと数日かと。逆に食料や水が悪くなった様子はありません
サイト指令部: 分かりました。何か特別に報告することはありますか?
榎田隊員: 北東方向にずっと進んではいますが、異常はありません。本来猛獣や危険生物とされる生物も幾例か確認しましたが、そのどれもが襲ってくることはありませんでした。また、湖や川も確認できます
サイト指令部: 了解しました。植生はどうなっていますか?
足立隊員: 動物、植物、菌類に至るまで世界中の生物が確認できます。映像も送りますが、これまでの研究と同じですね。ただ、気になることが二つあります
サイト指令部: 何でしょう
足立隊員: 一つ目は、ここに存在する動物、植物にはおそらく性機能が存在しません。それでどうやって生態系を保てているのか疑問ではありますが…
サイト指令部: なるほど、二つ目は
足立隊員: 二つ目はそちらからの資料と、俺たちの資料を合わせた結果なんですが、現在時点で様々な植物や生物、特に果実をつける食用植物はほとんどが確認できたにもかかわらず、バナナだけがありません
サイト指令部: バナナが
足立隊員: はい、もちろん、他にも観測できていない植物、生物はありますが、周囲の状況から鑑みて、バナナが存在しないのは少し不可解です。此方で収集した資料を送りますので確認をお願いします。今後の調査では性機能を持つ生物の有無、また、バナナの発見も目的として調査を続けようと考えています
サイト指令部: 分かりました。他に問題なければ定時連絡を終了します
«ログ停止»
機動部隊は-7から送信されたデータを照合、現在確認されている限りバナナ種はSCP-XXX-JP内部に存在していないと推測されました。
SCP-XXX-JP探索音声ログ-07-8
日付: ████/██/██
探索人員: 機動部隊は-7("浮浪者")/猿渡(は-7隊長)/足立(は-7隊員、以下同列)/指宿/蛇島/榎田
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内部に対する二カ月以上の長期探索
«ログ再生»
サイト指令部: 機動部隊は-7、定時報告をお願いします
猿渡隊長: はい、現状異常はありません
サイト指令部: 確認しました。機材及び食料の問題はありませんか?
猿渡隊長: 機材の腐敗が深刻になって[不明なノイズ]。食料や水は問題ありません
サイト指令部: ノイズが入っていますね。分かりました。何か特別に報告することはありますか?
指宿隊員: 現在、壁のような部分に行き当たりました。物理的な壁ではないのですが、これ以上先に進むことはできません
サイト指令部: 目視で確認できるものは?
蛇島隊員: これまでと同じなんですが、一歩たりとも進めない、といった方がい[不明なノイズ]しょうか。心理的なものかもしれませんが、支給された薬物は効果が確認できません。また、動物もこれ以上先に進んでいる者は確認できません
指宿隊員: また、その壁に沿って測量を行った結果、おそらくこの空間は円形をしているのではないかと推測されます
猿渡隊長: そのため、今後は円の中心部を目指して進んでいこうと考えています。問題ありませんか?
サイト指令部: 許可します。期間終了まで円の中心部分を目指し、探索を行ってください。他に問題なければ定時連絡を終了します
«ログ停止»
送信された映像を確認したところ、証言通りの現象が確認できました。
SCP-XXX-JP探索音声ログ-07-11
日付: ████/██/██
探索人員: 機動部隊は-7("浮浪者")/猿渡(は-7隊長)/足立(は-7隊員、以下同列)/指宿/蛇島/榎田
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内部に対する二カ月以上の長期探索
«ログ再生»
サイト指令部: 機動部隊は-7、定時報告をお願いします
猿渡隊長: はい、現[不明なノイズ]常はありません
サイト指令部: 確認しました。機材及び食料の問題はありませんか?
猿渡隊長: 機材の腐敗が深刻になって[不明なノイズ]。ノイズもひどくなってきました。これが最後の通信になりそうです。食料や[不明なノイズ]問題ありません
サイト指令部: 分かりました。健闘を祈ります。何か特別に報告することはありますか?
指宿隊員: 中心部の直前まで到達し[不明なノイズ]です。あと一キロ程度といったところでしょうか。また、人工物が確認されました
サイト指令部: 報告をお願いします
猿渡隊長: まだ遠目からですが、巨大な剣のように見えます
サイト指令部: 剣ですか
榎田隊員:そうですね、映像も送ります。今俺たちは中心部へ東側から近づいていますが、その先にあるようです
サイト指令部: 分かりました、それでは慎重に探索を行ってください。危険が発生した場合は現場の判断による退去が許可されています。他に問題なければ定時連絡を終了します
猿渡隊長: 了解です。…ちょっと待ってください、おい、蛇島、そこに何かいないか? な[不明なノイズ]
蛇島隊員: そこって、俺の後ろですか? 何だ、お前!?
不明な音声: いや、俺が聞きたいっスよ! [不明なノイズ]っスか!?
サイト指令部: どうしましたか
猿渡隊長: [不明なノイズ]です!
サイト指令部: 通信が安定していません、もう一度お願いします
猿渡隊長: SCiPが[不明なノイズ]ました! SCP- [不明なノイズ]です!
サイト指令部: もう一度お願いします
不明な音声: あ、通信し[不明なノイズ]っスね! 俺っスよ!
猿渡隊長: SCP-877-JPです!
«ログ断絶»
この連絡後、通信が断絶しました。また、同時にサイト-81██内から消失したSCP-877-JPの再出現が停止していることが確認され、SCP-XXX-JPとSCP-877-JPに何らかの関係があると推測されます。
終了報告XXX-JP - 日付 20██/██/██: ████/██/██、探索開始から二ヵ月が経過するも機動部隊は-7は帰還せず、SCP-877-JPの再出現も確認されませんでした。捜索隊をSCP-XXX-JPへ送り込んだものの、SCP-XXX-JP中心部において機動部隊は-7の証言した大剣は確認されず、機動部隊は-7も発見されませんでした。この捜索を以て、機動部隊は-7全隊員は行方不明扱いとされ、SCP-877-JPはオブジェクトクラスをNeutralizedへと置換、SCP-XXX-JPは周囲を封鎖し、監視を継続することが決定されました。
事案XXX-JP-02 - 日付 20██/██/██: ████/██/██、サイト-8193において収容されていたSCP-652-JP-2より、SCP-652-JP-2において被験者a群が生育させるものと同様のバナナの草本が発生し、約1日で成体まで成長、全長約2m程のバナナ果実を2本、一般的なサイズのバナナ果実を2本成熟した状態で生じさせると、果実を落とし急速に枯死しました。このうち2mサイズの果実からは行方不明となっていた機動部隊は-7隊員である足立、指宿両名が出現、一般的なバナナ果実の内一本は皮がSCP-877-JPであり、もう一本は通常のバナナと同様であるものの、腐敗や更なる熟成が見られない事が確認されたため、Anomalousアイテムとして指定され、保管されました。
救出された足立、指宿両隊員は検査の結果、同一人物であると断定されたが、通信断絶後の記憶については喪失状態であり、有意な情報を得ることはできませんでした。また、両名とも同時に出現したバナナ果実に強い執着を見せることが確認されました。
████/██/██、足立隊員が一部記憶を取り戻したと主張、インタビューが行われました。以下はその記録です。
インタビューログXXX-JP-BA-1:
対象: 機動部隊は-7隊員 足立 ██
インタビュアー: 田辺博士
<録音開始>
(前半部は事実確認のため省略)
田辺博士: では侵入以降の記憶はほとんど残っていない、と
足立隊員: はい、取り戻した部分も曖昧です
田辺博士: そうか、ではその思い出した記憶だけで構わないから話してくれ
足立隊員: はい、あの剣の脇を抜けたあと、俺たちは記憶を失いました。そして、次に覚えてるのは、俺の手を指宿が引いて、何処かへ向かっているときです
田辺博士: 指宿隊員か
足立隊員: そこからまた記憶が消えて、次は、あのバナナの木の下にいるときです。そのバナナを見たとき、俺は何だか怖くって、指宿も同じように怯えていました。だから、二人でその場を離れようとしたんですけど、でも、SCP-877-JPがいて、そこからは覚えていません。でも、SCP-877-JPを見たときに何かが思い出せそうで、思い出せなくって、そして、気が付いたら
田辺博士: 宇宙に、おそらくはSCP-652-JPに転移したんだな
足立隊員: 転移、いや、多分違います。俺たちは追い出された、放逐されたんだと思います。本来生きるべきだった楽園を
田辺博士: 追い出された? つまり、何らかの意思で、SCP-XXX-JPから除外されたと?
足立隊員: はい、そしてもう二度と帰れないんだと思うんです。先生
田辺博士: 何だろうか
足立隊員: 俺たちはチャンスを失った、俺達はきっと、行くべきじゃなかった。あの子は、俺たちの子は
田辺博士: あの子とは、あのバナナの事か?
足立隊員: はい、あの子はその象徴なんだと思います、でも
田辺博士: 君はあのバナナ、いや、あの子を
足立隊員: あれは罰だったはずなんです。でも、だったら、何で俺達はここにいるんですか? ねえ、先生。何で俺はこんなに、幸福感を感じてるんでしょうか
<録音停止>
以下は、再出現したSCP-877-JPに対するインタビュー記録です。
インタビューログXXX-JP-BA-2:
対象: SCP-877-JP
インタビュアー: 田辺博士
<録音開始>
(前半部は事実確認のため省略)
田辺博士: ではピールオブバナナマン、君は消失したあと、SCP-XXX-JP内部へ転移していたんだね?
SCP-877-JP: はい、多分そうっス。最初はいつもの研究所じゃなくって、森というか、よく分かんない場所で驚いたんですけど
田辺博士: では、その後、つまりは通信が途切れた後について説明してもらえるかな
SCP-877-JP: 分かりました。といっても、自分もよく分かんなかったんで、そこにいた猿渡さんたちに付いていくことにしたんっスよ。一応、自分の役目、捨てるわけにはいかないんで
田辺博士: なるほど、その時確認できた光景とかはあるかな
SCP-877-JP: そうっスね、猿渡さんたちはその場所の中心部行くとかで、でっかい剣みたいなのがある場所に向かったんです
田辺博士: 大剣はやはり実在したのか。そこまでの道程で何か変わったことはあったかな?
SCP-877-JP: いや、特に無かったっス。で、そのでっかい剣の近くには門みたいなもんがあって、猿渡さん達は話し合って、その中に入ることに決めたんですね。まあ、自分も異論はなかったんで付いていったんっスけど
田辺博士: けど?
SCP-877-JP: その門を潜り抜けたとたん、なんか自分も記憶が曖昧なんっス。ただ、入ると同時に一緒に入ったみんなが、突然叫んで
田辺博士: 何を見たんだ?
SCP-877-JP: 何も見てないはずっス。というか、そこから先はほとんどこれまでと変わってなかったはずですから。でも、みんなはまるで動物かなんかみたいに走り出して
田辺博士: 発狂した、と? 認識災害か?
SCP-877-JP: 違うんっス、発狂したというよりも、ホント、犬か何かに戻ったみたいで。自分もそこからは本当に曖昧で、気づいたらバナナの気の前にいたんっス
田辺博士: バナナの?
SCP-877-JP: はい、多分そこは猿渡さんや先生の言う異常な場所の中心だと思うんっス。その真ん中に一本だけバナナが生えていて。自分はそのバナナの幹に巻き付いてた。それで、そこに足立さんと指宿さんが来て
田辺博士: 他のメンバーは?
SCP-877-JP: 分かんないんです。本当に分からないんっスよ。自分が見たのはその二人だけで。そして、怯えたように自分と、そのバナナを見て。そのとき、自分は何をすべきか分かった
田辺博士: 何をすべきか
SCP-877-JP: 自分は転ぶのを止めるために生まれたんです。で、気づいた。あの場所、自分が傷ついた後治してくれる誰かを感じるんっス。そして感じた。きっと自分は多分あの場所で何かとんでもないことをしてしまったんじゃないかと、だから、今度こそ滑り落ちるのを止めなくちゃいけないと思ったんっス。だから、自分は「喰うな!」って叫んだんスよ。でも、ほら、自分バナナの皮じゃないっスか。地面を這いつくばるバナナの皮に過ぎないじゃないっスか
田辺博士: ピールオブバナナマン、つまり、二人はそのバナナを食べたんだな?
SCP-877-JP: そうっス。二人はそのバナナを食べて、次の瞬間、自分たちは宇宙にいたんです。寒くって、何もなくって、孤独な黄色い宇宙に。自分はやっちまったと思った、また繰り返してしまったと。でも、それからどれくらい経ったのかは分かんないっスけど、もう、考えるのを止めたいと思ったころ、声が聞こえた
田辺博士: 声?
SCP-877-JP: はい、産声が。おぎゃあ、おぎゃあって
田辺博士: 産声
SCP-877-JP: 先生、あれはきっとスピリットでスよ
田辺博士: す、スピリット?
SCP-877-JP: はい、あの世界は幸せな世界でしょう。でも、自分たちの世界には、一つのスピリットがあるんっス。だから放逐されようとも、きっと自分たちは生きていける、俺は、俺のやるべきことをやればいいんだって、気づいたんっスよ。自分の使命は止めることじゃない、守ることなんだって。例えそれが望まれてなかったとしても
<録音停止>
SCP-877-JPはインタビュー後、サイト-81██に帰還、異常性に変化は見られませんでしたが、インタビュー後再出現した際、事案の記憶が消失していることが確認されました。
████/██/██、指宿隊員が一部記憶を取り戻したと主張、インタビューが行われました。以下はその記録です。
インタビューログXXX-JP-BA-3:
対象: 機動部隊は-7隊員 指宿 ██
インタビュアー: 田辺博士
<録音開始>
(前半部は事実確認のため省略)
田辺博士: ということは、君も中心部の記憶は無いんだね?
指宿隊員: はい、私もその部分は足立と一緒ですね。もっとも、私が手を引いた記憶もないんですが
田辺博士: では、その後、転移した後の事を。足立くんは放逐といっていたようだが
指宿隊員: そうですね、その部分に関しては私も同じ意見です。あの宇宙はおそらく流刑地のような場所だったのではないでしょうか
田辺博士: 流刑地、か
指宿隊員: はい、あくまでも感覚的なものですけど、私にはそう思えました。二度と帰って来れないという漠然とした恐怖と孤独。でも、あそこにはスピリットがあった。きっとあそこを作った何かに予想ができないような
田辺博士: スピリット? SCP-877-JPも同じことを言っていたが
指宿隊員: 私にも漠然としか分かりません。でも、バナナには皮があって、実があって、種がある。ですが、SCP-XXX-JPには種が無い。だから、あの世界は完全なふりをしているだけだと思ったんです。外側だけを作ったまがい物、魂の無い仏のような
田辺博士: それは、性機能を喪失した生物の事を指すのか?
指宿隊員: 分かりません、一つだけ確実なのはその中で私たちはきっと選んだんだってことです。あのバナナを食べることを。そしてそれは罪で、私達は追い出された。でも、その先にはスピリットがあった
田辺博士: スピリットとは、何なんだ?
指宿隊員: 人生が霞むような音楽、私達は孤独ではないという証明。それが狂ったものだとしても、私達はバナナへ向かった。博士も聞いたことがあるはずです、そのスピリットを
田辺博士: それは
指宿隊員: 心臓の鼓動、子供の泣き声、両親の笑い声、友達の歌声、生き、連綿と受け継がれていく生死のリズムとビート、ミュージック
田辺博士: …
指宿隊員: 博士、我々はSCP-XXX-JPの中で死ぬことはない、石を選ぶこともできた、でも、それが罪だとしても私たちは生き、そして死ぬべきです。バナナ・スピリットを絶やさず奏で続けるためにも。あの子もきっと刻み続ける、スピリットを
<録音停止>
インタビュー終了と同時に機動部隊は-7隊員、足立、指宿、SCP-877-JPがAnomalousアイテムとして指定保管庫へと転移しました。両隊員とSCP-877-JPは制止する職員を退け、事案XXX-JP-02時に出現したバナナ果実を奪取、指宿隊員が抱きかかえることで果実が生後一か月ほどの男児へと変化しました。その後の検査により、男児は生物学的に足立、指宿両隊員の実子であることが確認され、一切の異常性を持たないことが判明しました。この事案時の記憶は両隊員とSCP-877-JPから欠落しています。
また、同事案発生時から指宿隊員がバナナ果実を抱きかかえるまで、SCP-652-JPにおいて心音に酷似した振動が発生していたことが確認されています。
この事案以降、SCP-XXX-JPへの侵入が不可能になっていることが判明、特別収容プロトコルが改訂されました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPに通じる山道は崩落の危険性があるとして、通行を禁止します。また、SCP-XXX-JP周囲100mには高さ3m以上のフェンスを設置し、定期的な観測を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは██県██市██山道内の特定箇所で観測される現象です。
SCP-XXX-JP該当箇所に人間が侵入した場合、侵入者は白衣を着た女性の霊的実体(以下、SCP-XXX-JP-A)に遭遇することが確認されています。また、SCP-XXX-JP-Aの出現と同時に廃病院(以下、SCP-XXX-JP-B)の出現も確認されています。これらは撮影機材によっては確認されないため、SCP-XXX-JP内部の探索は音声記録、また、侵入者の証言に依存します。
この廃病院はかつて███県において██産婦人科として運営されていましたが、医療事故20により廃業、その後は心霊スポットとして扱われています。SCP-XXX-JP該当箇所に病院が存在していた事実はありません。
SCP-XXX-JP-B内に人間が侵入した場合、SCP-XXX-JP-Aは侵入者を案内するようにSCP-XXX-JP-B内を移動します。この際、SCP-XXX-JP-Aに対する質問には一切の返答がなく、物理的な接触も不可能です。
SCP-XXX-JP-Aの案内を無視し、探索を行った場合、即座にSCP-XXX-JP-B外へ転移され、それ以降SCP-XXX-JP-B内への侵入は不可能になります。また、この状態に陥った人間は、SCP-XXX-JP-Bにおける全ての窓に子供の顔が貼りついている、といった証言を行います。
██産婦人科の建物跡は現在も███県に存在しており、異常性は確認されていません。
SCP-XXX-JP-Aの案内に従い、探索を行ったDクラスの映像記録から以下のイベントが確認されました。このイベントにおいてのみ、SCP-XXX-JP-A、SCP-XXX-JP-Bの存在が撮影されることが判明しています。
イベント発生記録XXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
00:00:00: ██高校の制服を着たSCP-XXX-JP-AがSCP-XXX-JP-Bと思われる駅21のホームに座っている
00:05:41: SCP-XXX-JP-Aに30代前半の男性が接触、何らかの会話を行う。男性は酷く取り乱したように見える
00:17:58: SCP-XXX-JP-Aと男性が別れ、SCP-XXX-JP-Aはホームで文庫本を開く。身体が小刻みに揺れていることが確認されている。
01:21:38: 駅構内を電車が通過する際、SCP-XXX-JP-Aが線路内に侵入、電車に撥ねられる
イベント終了後、SCP-XXX-JP-Aが侵入者を抱きかかえ、侵入者は消失したことが確認される。
この調査を受け、調査したところ、██大学においてこれまでの在籍者にSCP-XXX-JP-Aは確認されませんでした。また、SCP-XXX-JP-B内の通院記録にも該当する容貌の持ち主は現在確認されていません。
以下は、SCP-XXX-JP-B内に侵入したことが確認されている██氏、実験により侵入したD-1922に対するインタビュー記録です。D-1927との通信記録です。
インタビュー記録XXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
対象: ██氏
インタビュアー: エージェント・新田
付記: エージェント・新田はオカルト関係の雑誌記者としてインタビューを行っている。
<録音開始>
(事実確認の為省略)
エージェント・新田: はあ、つまりあそこにはアパートがあったんだ
██氏: はい、かなり年季の入ったアパートでしたね。俺も心霊巡りはしてましたけど、これはヤバいと思いましたよ、明らかに不自然なんですもん
エージェント・新田: それでもそこに入ったんでしょ? で、そこで例の女性に出会った、と
██氏: まあ、そうですね。いや、今考えても生身の女性にしか思えませんでしたよ。だから俺、同じ心霊スポット周りの物好きだと思って、…そういう格好してましたし
エージェント・新田: そういう格好? 心霊スポット巡るのに? ごめんね、俺この界隈入ったばっかりだから
██氏: ああ、えっとですね、そういうとこって廃墟が多いんですよ。だから、安全の為にほとんど山登りみたいな恰好になるんですね。それで相手も登山ブーツに長袖、まあ、そういう格好だったんですよ
エージェント・新田: 成程ね
██氏: そんな場所で一人の女って時点で気づけばよかったんですけど。それで一緒に回ることになったんですよ。下心が無かったとは言いませんけど、ああいう場所ってそういう人がいたりもしますから。女性一人は流石にと
エージェント・新田: それで、巡った先には?
██氏: 中は普通のアパートでしたね。かなり身構えてはいたんですが、こんなもんか、と
エージェント・新田: 成程、変わったところは無かったんだね
██氏: はい。あ、ただ、どの部屋にも薬のパッケージがありましたね。一緒に回ってた人が、その、ピル、避妊薬22だって教えてくれました
エージェント・新田: ほう。で、最後の部屋で
██氏: はい、そうです。最後の部屋を開けたとき、それが見えました。首に紐みたいなものを巻き付けて、絞殺されそうになっているその人の姿が。腹には包丁みたいなのが刺さってて。手を俺に伸ばしてきて、俺、助けようと思ったんですけど、気づいたんです
エージェント・新田: 何を?
██氏: その殺されそうになっている女の人が、俺とさっきまで一緒に回っていた、俺の後ろにいるはずの女と一緒の顔をしてるって。俺、それに気づいたときから記憶が曖昧で、気が付いたら麓のコンビニで震えてました。あの時、気づかずに助けてたら、俺、どうかなってたんだと思います
<録音終了>
インタビュー記録XXX-JP-02 - 日付 20██/██/██
対象: D-1922
インタビュアー: 楠木博士
<録音開始>
(事実確認の為省略)
楠木博士: では、改めて君の見た女について話してもらいます
D-1922: 何度もご苦労なことで。そうだな、二十そこらかで黒いスーツのカッコいい姉ちゃんだったよ
楠木博士: では、その女性はどうしていたのですか?
D-1922: 俺があの藪の中に入ったときよ、その姉ちゃんはビルん中から俺を見てたな。で、俺が入ると誰と勘違いしたのかは知らんが、俺を偉い人のところに案内してくれた。会社の名前は██商社、だったかな
楠木博士: それは確認しています
D-1922: そうかい。まあ、俺は学が無いからよ、言ってることはあんまり理解できなかったが、どうやらなんか大きな仕事をしてて、大金が近くにあることは分かった。これはその後の話知ってるから言うのかもしれねえけどな
楠木博士: いえ、そういった感想も必要です。続けてください
D-1922: その時突然だよ、ドアが開かれて目出し帽のごつい奴が入って来た。そいつは銃を突きつけると、俺とその女、あとは社長さんを縛り上げて、現金を奪ったんだ。で、まあ、あとは言いたかねえや。俺も相当の事してきたけどよ、あんな女に乱暴働くのは、な。それが済むと目出し帽はそのまま火ィ点けやがった。女は身をよじってこっちに来たがよ、先生らの指示で俺は窓から飛び出して、ってわけだ。
<録音終了>
このインタビューを受け、██産婦人科の関係者に対し調査を行いましたが、該当する事件、医師は確認されませんでした。
映像記録XXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
探査者: D-1927
<記録開始>
D-1927: この藪の中に入ればいいんですね? 虫が多そうですね
██博士: D-1927、私語は慎むように
D-1927: 了解です。もう少し先ですね?
[SCP-XXX-JP地点に到達、映像には開けた草原のみが映っている]
██博士: 何が見えますか?
D-1927: 何がって、海ですよ海。こんな山の中に突然
██博士: 海ですか。周囲に人間はいますか?
D-1927: 人間…、あ、浜辺にカップルがいますね。話しかけますか?
██博士: お願いします、適当に理由を付けて話してみてください
[視点が移動するが、撮影箇所は移動せず]
D-1927: こんにちは、地元の方ですか? ええ、旅行者で。で、この近くに泊まれるところが無いかなと、え、██府!? ここ██府なんですか? いや、あはは
[GPS反応は移動せず、SCP-XXX-JP地点を指している]
D-1927: へえ、新婚! 赤ちゃんもできているんですか、それは嬉しいですね。え、いいんですか? ちょっと待ってください
[視点が移動するが、撮影箇所は移動せず]
D-1927: 先生、よければ宿まで案内しようか23、ということなんですけれども
██博士: 同行してください。話は続けるように
D-1927: 分かりました
[画面が変化し、森林が映る。付近の植生から日本国外の物と思われる。画面中央には一人の初老女性が映っている]
D-1927: へえ、地元の同級生なんですか。すいません、立ち入ったことまで聞いちゃって
[女性が一本の木に紐を括り始める。外見より妊娠していると推測される]
D-1927: 仲のいいご夫婦ですね
SCP-XXX-JP-A: ええ、ホントに。私、幸せです
D-1927: まさしく幸せの絶頂ですね。え、危ない!
[視点が激しくぶれる。女性が木の枝にかけた紐に首を通し、踏み台を蹴り、首吊り自殺を図る]
██博士: どうかしましたか
D-1927: どうかしたって、見、見れば分かるでしょう! 奥さんが、撥ねられて、ああ、ダメです、早く、早く救急車をいや、先生、来てください!
██博士: 落ち着いてください
[女性は痙攣し、沈黙する。死亡したものと推測される]
D-1927: と、とにかく助けないと! え
[死体が揺れ、撮影者の方向を向く。僅かに口元が動き呟くのが確認された]
██博士: D-1927! 逃走を許可します!
[突如、視界全体に女性の顔が出現。何かを呟くのが確認される。後の解析で、この際放たれた言葉は「藪の中」であることが判明]
<記録開始>
この時点をもってD-1927の信号が途絶。D-1927は行方不明として扱われます。
SCP-XXX-JP該当箇所において19██/██/██、身元不明の女性が遺体となって発見された事が確認されています。女性は全身を損壊した状態で見つかっており、野生動物による捕食が確認されるため、具体的な死因は判明していません。現場にはロープ、ナイフ、ガソリン、外科用のメス、車のタイヤ痕24、睡眠薬などが確認されましたが、いずれも事件の解決には関与していません。
SCP-XXX-JPの異常性はこの事件を機に発生していることが確認されており、関係性の調査及び該当女性の素性調査が進められています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPが存在した洞穴は内部に存在する物品と共に監視された上で立ち入りを禁止されています。侵入にはクリアランスレベル3以上の研究スタッフから許可を受けた上で侵入してください。SCP-XXX-JP-1は現在、異常性が発生しない処理を施され、存続しています。
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPが生息する洞窟は二十四時間体制の監視状態におき、原則として生物、無生物を問わず周囲200mの侵入を禁止します。洞窟からSCP-XXX-JPが移動する兆候を見せた場合は、標準的巨大神格生物取り扱い基準にのっとり、移動を阻止してください。また、SCP-XXX-JPの現実改変能力による二次被害を防止するため、下流地域の村落は記憶処理の上、他地域に移住させる計画が現在段階で進行中です。SCP-XXX-JP-1は異常性が発生しないよう処理された変更版を流布する試みが行われています。
説明: SCP-XXX-JPは、島根県██市の山間部に存在する、日本伝承における龍と類似した特徴を持った全長約40mのヘビ型生物です。SCP-XXX-JPは鋭利な牙と爪を持ち、主に攻撃の際に使用します。また、SCP-XXX-JPの外皮を覆う鱗は非常に強固であり、財団標準装備に指定されている銃火器を用いた場合、損傷を与えることは不可能です。
SCP-XXX-JPは小規模な現実改変能力を有していると考えられ、局地的に豪雨を発生させることが可能です。SCP-XXX-JPの生息する地形の関係上、この能力により発生する鉄砲水等において、下流地域に深刻な二次災害をもたらします。██村は該当地域に指定されていません。
SCP-XXX-JPは通常時、生息する洞窟から移動することはなく、常に洞窟内部で生息しています。その為、洞窟内には生存可能な環境が維持されていると推測されています。洞窟内部への侵入は、生物、無生物を問わずSCP-XXX-JP-1の妨害により失敗に終わっています。SCP-XXX-JPは言語を解し、該当する発声器官が確認されないにも拘らず、人間との会話が可能です。しかし、SCP-XXX-JPは財団を含む人間全般に非常に敵対的であり、現在まで行われた接触、洞窟内への侵入の試みは全て対象人員の殺害という形で失敗に終わっています。
以下は、該当地域において語られているSCP-XXX-JPを記したと推測される伝説の抜粋を現代語訳したものです。
SCP-XXX-JP関連文書-01
この地には龍神がいた。龍神は雨を降らし、人間の田畑が腐るのを見て喜んでいた
雨を降らせないためには、毎年二人の娘を食事として生贄にしなければならなかったある年、娘を生贄に捧げる家に、一人の女が現れた
女は泣く娘とその家の者を不憫に思ったのか、龍神を退治しようと娘の代わりに生贄として身代わりになった
女はその手に剣と珠を持ち、身を清め、生贄となるため山に向かった女は娘のフリをして龍神の洞へ向かった。そして龍神が食べようとしたところを斬りつけた
そしてその日から三日三晩嵐が吹き荒れ、四日目の朝、ぱったりと止んだ
人々が山に向かうと夥しい血と光る鱗が、何枚も散らばっていたその後、探しても女は見つからなかったが、それから龍神は現れず
人々は女と龍神は相討ちになったのだろうと噂し合っただが、今でも祟りを恐れ、龍神の住んでいた洞に近づく者はいない
今でも、女を祀るための祭りは執り行われている
踊りが踊られるとき、雨が降ることはないという
SCP-XXX-JP-1は、島根県██市の██村で伝承されている踊りです。内容としては当地に伝わる伝承を元にしたものであり、いくつかのパターンを繰り返し踊り続けるといったものです。踊りそのものに異常性は存在しませんが、██村の住人はSCP-XXX-JP-1の手順、実施にのみ強い記憶処理耐性を持ちます。
以下は、██村を記述した紀行文に見られるSCP-XXX-JP-1を抜粋した文章です。
SCP-XXX-JP関連文書-02
其の踊りは酷く物悲しいものであった。人々はゆるり、ゆるりと葬列のように踊り続け、永遠に続くかと思われた。
踊りは有史以前の巫女に向けられたものであるとは言うが、私には別の目的の為に踊られるように思われる。
此れは孤独を慰撫する踊りではないだろうか。山野に囲まれ生涯を此処で終える人々の、或いは此の山野其の物に対する慰撫ではないだろうか。老若男女は永遠にも続く此の慰撫の踊りを踊り続ける。私には其れがどうにも受け入れがたかった。
村民は皆、此の踊りを踊り続けると言う。だが、その表情には何処か諦めが在る様に思われた。
此れが将来、千年も二千年も続く物では無いとでも言いたげな目で静に笑う。
私にとっては其れも又不愉快であった。
SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP-1が██村の年に一回行われる祭りにおいて完全に踊られた場合のみ、その異常性を発生させます。これにより、定期的な豪雨が該当地方では確認されていましたが、現在は情報部の検閲により削除されています。
SCP-XXX-JP関連レポート(抜粋): 19██/██/██、SCP-XXX-JPの封じ込めに際し、SCP-XXX-JPと密接に関係していると推測されたSCP-XXX-JP-1の実施を停止するという提案が出され承認されました。この封じ込め計画は██村に財団職員を派遣し、世代交代を行うことでSCP-XXX-JP-1の実行を停止するという計画の元実行されました。
SCP-XXX-JP関連レポートXXX-JP-01 - 日付 19██/██/██
概要: ██村に財団職員を数名移住させる。カバーストーリーとして「戦後の混乱」を使用。地元住民との接触を図る。報告時、村内人口542名
結果: 移住は成功。しかし、踊りの中止には非常に強固な反対かつ、前述の記憶耐性が判明。その為、当初の中止案から踊りの一部を僅かに変更することによるSCP-XXX-JPへの影響を調査する方針に変更
エージェント・柳田の記録文書
先の戦争が終わって数年。初めての印象はとても静かな村だという印象。山田氏の遠縁の親戚だと偽って潜り込んだが、人々は優しいながらも少々排他的な印象がある。あまりいい印象は抱かない。何処にでもある田舎の山村といったところだろう。
祭りにも無論参加したが、やはり踊りの中止に関しては古老らから否定的な意見が出る。全体的に反対意見も何処か形式的なものに感じるも、相手は田舎の人間だ。そういうこともあるのだろう。その為、仲間と相談し、踊りの中止ではなく、一部変更した踊りを膾炙させる案を進言することを決定。
踊りの印象としては非常に緩やかでどこかもの悲しさを感じる。謡曲に近い印象で、確認した関連文書の紀行文にも頷ける。おそらく財団が介入せずともいずれこの踊りはこの村と共に自然消滅するのではないか。それが全体的な所感である。
SCP-XXX-JP関連レポートXXX-JP-09 - 日付 19██/██/██
概要: エージェント・柳田が██村において山田 ██氏と婚姻関係となる25。前述の変更された踊りは、財団職員のみによって踊られている。集団就職により若者の流出が目立つ。報告時、村内人口531名
エージェント・柳田の記録文書
山田氏と縁戚関係になり、今後の工作が行いやすくなった。妻の伊津子には少々悪い思いはあるが、封じ込めの為だ。踊りに関しては微細な足運び、手ぶりを変更することで、古老らに気づかれることなく実行の継続が可能。現在は同時に移住した職員等で行っているのみだが、今後増大することで効果が出ることを期待する。もっとも、この踊り自体が原因となっているのか、踊りを踊る人数が原因なのかは不明の為、本部と連絡を密にし、警戒に当たる必要があるだろう。この踊りが何らかの封印であった場合、これは逆に収容を違反することになってしまうのだから。
村の状況としては集団就職により若者が少なくなった、しかし、そのおかげで少なくなった私達若者世代に発言権が強くなった印象はある。潜入任務とはいえ慣れ親しんだ古老らもどんどんと老いていく。虫の声が今日も五月蠅いくらいに聞こえる。都会の灯が少し懐かしい。
SCP-XXX-JP関連レポートXXX-JP-32 - 日付 19██/██/██
概要: ██村内において、約半数が財団関係者となる。報告時、村内人口486名
結果: 踊りを実行した際、SCP-XXX-JPの起こす雨量が低下。プロトコルが効果を発揮していると推測されるため、計画は続行される
エージェント・柳田の記録文書
諜報部からの報告を受ける。封じ込めが十分作用しているようで我々も歓び、つい深酒をしてしまった。これまでの記録を確認したところ、どうやら手ぶりではなく、足踏みが重要な要素のようだ。
一方で村は高度経済成長期ということもあるのだろうが、徐々に活気がなくなっていく。私たちが潜入した段階で衰えていた火がさらに弱まっていくような、そんな印象を受けた。
伊津子の腹も膨らんできた。この子が祭りに参加するようになれば変更後の踊りを教えなくては。この子も大きくなればこの村を出ていくのだろうか。
SCP-XXX-JP関連レポートXXX-JP-41 - 日付 19██/██/██
概要: ██村内において、約八割が修正後の踊りを実施する。SCP-XXX-JP-1の保存活動が提唱される。報告時、村内人口427名
結果: 踊りを実行した際、SCP-XXX-JPの起こす雨量がさらに低下。プロトコルが効果を発揮していると推測されるため、計画は続行される。
エージェント・柳田の記録文書
殆どの村民が変更後の踊りを踊るようになった。私たちの子供世代が成長したこともあるが、本来の踊りを知る老人らが亡くなっていくのも原因だろう。老人らは最後まで気づいていなかったのだろう。そもそも、この踊り自体がほとんど惰性のようなものになっていたのではないかと今になっては推測する。また、それを受けてか義父が踊りの保存を提唱し始めた。仲間で相談したが、変更後の踊りを保存することができれば封じ込めが強固なものになるだろうという意見となり、本部からの返答を待つことになった。
その一方で、資料収集の為、義父の蔵を掃除していたとき、SCP-XXX-JPに関連すると思われる文章を発見した。殆ど読めないうちに義父に回収されてしまったが、内容としてはこれまでの資料と変わりなかったように思える。機会があれば確認しよう。
村の近くに高速道路を造る予定があるようだ。人の流入が激しくなれば収容が困難になるが、どうだろうか。
SCP-XXX-JP関連レポートXXX-JP-60 - 日付 20██/██/██
概要: ██村内において、SCP-XXX-JP-1の保存活動が活発化。報告時、村内人口322名
結果: 踊りを実行した際、SCP-XXX-JPの起こす雨量がさらに低下。プロトコルが効果を発揮していると推測されるため、計画は続行される。
エージェント・柳田の記録文書
保存運動が予想以上に活発なものとなった。私もその一員だ。変更後の踊りを保存対象にするためには仕方のないことではある。もはや、本来の踊りを覚え、実行しているのは義父を含めて数人ではあるが、どれだけ衰えようとも踊りを止めようとはしない。その踊りは年を経ているためかより一層凄みが増し、だが、私は何処か哀しみと言うよりも美しさを感じた。消えゆく日の一瞬の煌めき。いや、違う。思い続けてきた誰かを失った日の虹のような。
村はめっきり人が減った。高速道路は都市部への流出を招いたようだ。息子もとうの昔に村の外へ出ていった。何処の村も似たようなものらしい。澄んだ虫の声が良く聞こえる。
SCP-XXX-JP関連レポートXXX-JP-69 - 日付 20██/██/██
概要: ██村内において、純正の村民である山田氏が死亡。これにより、本来のSCP-XXX-JP-1は終了した。報告時、村内人口323名
結果: 事案記録SCP-XXX-JPを参照
エージェント・柳田の記録文書
義父が亡くなった。
義父は最期だと悟ったのか、死の前日に私を枕元に呼んだ。そして、私達が踊りを変化させていたことに気づいたのを明かしてくれた。死の匂いがうっすらとする布団の中で、義父は笑いながらそれでも踊りを続けてくれたことを感謝してくれた。だが、その一方で私たちの踊りが広まるごとに何かが失われていくような感覚を受けたのだとも教えてくれた。だが義父はそれでいい、と笑っていた。
義父は翌朝穏やかな顔で亡くなった。義父が以前回収した資料を見つけた。あの踊りは龍見の舞と呼ばれていたそうだ。目新しいものは無かったが、最後にたった一つ、これは約束の踊りであると書かれていた。
あの踊りは誰かに何かを伝えていたのではないだろうか。忘れず生きていると。そしてその踊りはもう無くなった。
義父の葬儀の際、久しぶりに村に活気が戻った。
息子が村に戻ることにしたらしい。孫は不服そうだが今はそれでいい。
私はもうしばらくこの村で収容を行うことを依頼した。夕立が降り、虹が出た。この村の虹は美しい。
事案記録SCP-XXX-JP
山田氏の死亡とほぼ同時刻、 SCP-XXX-JPが洞窟内から突如出現し、そのまま上空へ移動、財団の監視圏内から消失しました。これ以降、 SCP-XXX-JPが確認されなくなったため、 SCP-XXX-JPはNeutralized申請され、受理されました。封じ込め手順に問題が無かったかの審議が現在行われ、エージェント・柳田を含む現地職員は結論が出るまで当地での収容任務継続が指名されています。
SCP-XXX-JP消失後、SCP-XXX-JPの生息していた洞窟内を調査したところ、約2000年以上前の人骨、鉄器などが発見され、これらは定期的に手入れされていたことが判明しました。これらの人骨、鉄器の調査は現在進行中です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPが存在する██山は自然調査地域として一般人の立ち入りを禁止してください。財団職員が立ち入る際は身辺調査の上、過去に何らかの法的制裁を受けていた場合、侵入を禁止してください。
SCP-XXX-JP-Aの堆積する谷底には標準監視装置を設置し、周囲を封鎖してください。
説明: SCP-XXX-JPは██県██山中にある、幅約1.5m、全長約5m、桁高500mの簡易吊り橋です。見かけの材質は一般的なサルナシ(Actinidia arguta)と違いはありませんが、あらゆる物理的破壊は現在時点で失敗しています。
SCP-XXX-JPの異常性は、過去に何らかの法的制裁を受けた人間がSCP-XXX-JP上に存在した状態で発現します。対象がSCP-XXX-JPの中心付近まで到達すると、突如として風が吹き出し、SCP-XXX-JPは揺れ動きます。その後、CP-XXX-JPが落下し、対象はそのまま500m下の谷底に転落します。
転落した対象(SCP-XXX-JP-A)は約200mの地点でその体勢を変化させます。この体勢になった時点でSCP-XXX-JP-Aは自律行動が不可能になり、以後その体勢以外を取ることが不可能になります。SCP-XXX-JP-Aはその体勢に非常に激しい苦痛を感じることが判明しています。この苦痛は現在時点で使用可能な機材、薬物での緩和が不可能です。
現在時点で確認されている体勢は7種類であり、年齢、性別によって変化することが確認されています。以下はその体勢の一覧です。
転落対象 | 体勢 |
---|---|
20歳未満 | 身体を丸めた体勢 |
20、30代の男性 | 足を延ばして右を向き座っている体勢 |
20、30代の女性 | 同世代の男性と一致するが左を向いた体勢 |
40、50代の男性 | 「S字」と表現される体勢 |
40、50代の女性 | 「Z字」と表現される体勢 |
60代以上の男性 | 「胡坐をかいている」と表現される体勢 |
60代以上の女性 | 「気を付け」の姿勢と表現される直立の体勢 |
これらの体勢に変化したSCP-XXX-JP-Aはその後空中を並行移動しつつ落下します。多くの場合で回転を伴いますが、伴わずに落下する場合もあります。この平行移動を外部からの接触で変更、阻害することは不可能です。
谷底は50×50mの完全な正方形であり落下したSCP-XXX-JP-Aが堆積しています。本来であれば落下したSCP-XXX-JP-Aは以前落下したSCP-XXX-JP-Aの上に落下する結果となりますが、前述の平行移動、回転の結果、落下地点が重複することは多くありません。落下し堆積したSCP-XXX-JP-Aを移動させることは不可能です。
谷底一面をSCP-XXX-JP-Aが覆った場合、SCP-XXX-JP-Aは苦悶の声をあげながら消滅します。この消滅後、SCP-XXX-JP-Aは200m地点から再約30秒に一回出現し、堆積を繰り返します。再出現までの期間は不定期で、約10分から2ヵ月までの感覚が確認されています。現在時点で財団の確認していないSCP-XXX-JP-Aの出現はありません。
SCP-XXX-JP-Aは自らを堆積し吊り橋に到達することで苦痛から救済されると主張しますが、前述の移動阻害不可の特性からそれが事実であるかどうかは判明していません。
補遺: SCP-XXX-JP-Aが出現する際、周囲の風音などが一定のリズムを刻むことが判明しました。調査の結果、それらのリズムはロシア民謡のトロイカと一致することが確認されました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: 全てのSCP-XXX-JPはサイト-81██の生物用防音ドーム内にて収容・飼育されます。ドーム内へ立ち入る職員には、遮音機能を備えたヘッドフォンの装備が義務付けられます。また、SCP-XXX-JPの飼育担当者は文章XXX-JP-3を参照して下さい。サイト外部でSCP-XXX-JPが発見された場合、管理捕獲部隊に通達を行って下さい。
SCP-XXX-JPの東京23区への侵入は原則として禁止されています。
変異中のSCP-XXX-JPの死骸及び生成されたSCP-XXX-JP-Aはサイト-81██の標準保管室防音設備を施した保管室にまとめて収容されます。
説明: SCP-XXX-JPは異常な外見・特性を有するレミング属(Lemmus、以下レミング)に属する齧歯類の集団です。
SCP-XXX-JPの皮膚にはRCA端子が突き出ており、生体解剖では一個体につき平均12本の大小様々な工業用ファスナー26がSCP-XXX-JPの体組織内から発見されました。この異常性にも拘わらず、生殖行為を一切行わない点を除けばSCP-XXX-JPの行動は通常の個体と変わりなく、苦痛を感じている様子も見られません。
SCP-XXX-JPは一律して発声を行う器官が存在しないにも拘らず日本のアーティスト、沢田研二氏の楽曲を鳴き声を用い歌唱します。歌唱する楽曲の種類は各個体により異なり、現在までに23種類が確認されています。
この歌唱には、聴覚を有する脊椎動物に対する精神作用を含むことが判明しています。録音・直接を問わず、歌唱を耳にした被験者は極度の緊張と不安感を報告しました。1時間にわたって聞き続けた被験者の場合、眩暈や吐き気、頭痛などの症状を訴え、最終的に錯乱した様子で実験室から自身を出すよう要求しました。動物実験においても同様であり、被験動物は多くの場合が音源からなるべく遠ざかろうとするか、実験室からの逃走を試みました。
通常のレミングが上記の歌唱を累計5分以上聞き続けた場合、それら個体のうち0.█%はSCP-XXX-JPの歌唱を真似るようになると同時に、歌唱が持つ精神作用に対する耐性を獲得します。その後、約15日間掛けて影響を受けた個体の体組織内に工業用ファスナーが成形、皮膚下から隆起し、SCP-XXX-JPと全く同様の外見・特性を持つようになります。SCP-XXX-JPが一切の生殖行為を取らないことから、上記のプロセスが唯一の繁殖方法ではないかと推論されています。
また、体長13cmを超える大型のSCP-XXX-JPが何らかの理由で死亡した場合、その死骸は72時間以内にSCP-XXX-JP-Aと指定される存在に変異します(SCP-XXX-JPの死骸の██%以上が欠損/損傷している場合、この変異は発生しません)。SCP-XXX-JP-Aの変異過程については文章XXX-5を参照して下さい。
SCP-XXX-JP-Aは外見上、19██年代に製造・販売されたものと同型の小型箱型テレビのように見えます。電源コードを持たず、コンセントへの接続なしに主電源を入れることが可能なことを除けば、構成する素材に異常性はありません。しかし、一切の電波を受信できず、チャンネルを変えても画面に映る砂嵐・スノーノイズとともに、ノイズ音が再生されるだけです。また、解体調査の結果、SCP-XXX-JP-A内部は大部分が空洞となっており、その空洞はSCP-XXX-JPのものと同じ工業用ファスナーで満たされていることが判明しています。なお、解体後に組み直されたSCP-XXX-JP-Aは異常性を消失し、主電源を入れても映像、音声の再生を行わなくなりました。
SCP-XXX-JPは常に一定の方角へ移動する性質を持ちます。これらの移動軌跡を追跡、計測した結果、SCP-XXX-JPは東京都区部を目的地としていると推測され、東京都区部への流入を防ぐプロトコルが制定されました。この移動はレミングの生息地から多くの場合海洋の横断等を伴い、SCP-XXX-JPの多くはその過程で死亡します。しかし、船舶などに侵入することにより一定数が生存し、日本まで到達していることが確認されています。
事案XXX-JP-A: 19██/12/18、全てのSCP-XXX-JPが直前までの動作を突然中止し、ドーム内中央に集まりました。そして、その5分後、全てのSCP-XXX-JPが一斉に同じ方角を指し約5分間歌唱し始めました。この事案による収容設備や職員への影響はなかったものの、全個体が一律して「TOKIO」を歌唱していたことが確認されています。各SCP-XXX-JPは事案終了とともに中止していた直前の行動を再開しました。
事案XXX-JP-B: 19██/12/18、事案XXX-JP-A発生から5分後、保管室内の全てのSCP-XXX-JP-Aの主電源が自動的に起動しました。この際にSCP-XXX-JP-Aは普段の砂嵐とノイズ音ではなく1979年時のコスチュームを着用した沢田氏に酷似した人型実体(以下、SCP-XXX-JP-1)が「TOKIO」を歌唱している映像を映しました。その頭部はレミングに置換されており、スタジオ等の同定はできていません。また、沢田氏本人との関係性は認められませんでした。
追記1: 追跡調査により、事案XXX-A時において同時刻に千代田区、中央区、港区において新たなSCP-XXX-JPが確認、捕獲されたことが確認されています。各個体も事案時、収容個体と同様に「TOKIO」を歌唱していたことが収容に当たったエージェントらの証言から判明しました。
事案XXX-JP-C: 20██/02/03、全てのSCP-XXX-JPが直前までの動作を突然中止し、ドーム内中央に集まりました。そして、その5分後、全てのSCP-XXX-JPが一斉に同じ方角を指し歌唱し始めました。前事案時と同じくこの事案による収容設備や職員への影響はなく、全個体が一律して「TOKIO」を歌唱していたことが確認されています。また、今事案は65分の長時間に及びました。各SCP-XXX-JPは事案終了とともに中止していた直前の行動を再開しました。
前事案時と同じく事案XXX-C時において同時刻に墨田区、港区、品川区、大田区において新たなSCP-XXX-JPが確認、捕獲されたことが確認されています。
事案XXX-JP-D: 20██/02/03、事案XXX-JP-C発生から5分後、保管室内の全てのSCP-XXX-JP-Aの主電源が自動的に起動しました。この際にも前事案時と同じくSCP-XXX-JP-1が「TOKIO」を歌唱している映像を映しました。また、今事案時において沢田氏以外の人物が確認されました。それらの人物は全て頭部がレミングに置換されていましたがSCP-XXX-JP-1が歌唱する直前の前節に当たる部分も映されました。以下はその音声ログを文章に起こしたものです。
SCP-XXX-JP-1-M(男性と思われる): さて、次に登場していただいたのは、我らの柱、我らの軸、[判読不明]さんですね
SCP-XXX-JP-1-F(女性と思われる): [判読不明]さんに今回歌っていただくのは我らの灯、「TOKIO」です
SCP-XXX-JP-1-M: このシングルは我々にとって+27.4°からの解放を示します。集団自殺を否定する旅鼠、白濁の渦の中に沈む我らの故郷、あの災禍より先、飛び出した我々の哀歌です。そして、進水先を見誤らぬ希望の火です
SCP-XXX-JP-1-F: 我らの街は星となる、星海の果てに消えた我らの友にも聞こえているのでしょうか
SCP-XXX-JP-1-M: きっと聞こえている、[判読不明]さんはそう言っていました
SCP-XXX-JP-1-F: それでは歌っていただきましょう! 我らの歌! [判読不明]さんで、「TOKIO」
[「TOKIO」のイントロが流れ、SCP-XXX-JP-1が登場する]
(中略)
[「TOKIO」の演奏終了に伴い、視点が俯瞰するものとなる。そのまま高度を上昇し、最終的に宇宙空間と見られる箇所から東京23区に類似した小惑星を撮影し終了する]
追記2: 事案発生時、SCP-XXX-JPの示した方角を延長したところら赤緯4h36m・赤経+69°方向へ██光年離れた位置において小惑星が突如出現、事案終了と同時に消滅していたことが判明しました。事案XXX-JP-D時に撮影された映像との関連は不明です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの出現が確認された場合、2名以下の監視員を出動させ、移動を監視してください。SCP-XXX-JPが市街地、あるいは居住区に接近した場合監視員を増員し、一時的な消失を発生させてください。SCP-XXX-JPの目撃者に関しては、記録媒体を没収したうえでAクラス記憶処理を行うか、カバーストーリーを頒布してください。SCP-XXX-JP、ならびにSCP-XXX-JP-1への攻撃は禁止されます。
説明: SCP-XXX-JPはテンダー式蒸気機関車である国鉄D50形蒸気機関車です。車両番号はD50 398であり、実際には製造されていません。SCP-XXX-JPはクラスⅠ霊的実体と推測されています。
SCP-XXX-JPは主に日本国内において、3月下旬から5月上旬にかけて出現と消失を繰り返します。消失条件は不明ですが、複数の人物による目視が消滅理由になる事が確認されています。SCP-XXX-JPの行動を停止させる試みはその透過性から失敗していますが、乗車、降車を行うことは可能です。
移動速度は約0.7~0.8km/hで、通常走行が不可能な地形を走行することも可能です。出現場所は一定しませんが、主に山間部や森林地帯、あるいは深夜の市街地において発生すること、また上述の消失条件から何らかの意図をもって目撃されることを避ける傾向にあると推測されています。
SCP-XXX-JPの移動経路は2010年以前に気象庁が発表していたさくらの開花予想の等期日線図と大まかに一致します。このことから、SCP-XXX-JPはソメイヨシノ(Cerasus × yedoensis ‘Somei-yoshino’)の開花に合わせ、大まかな行動経路を定めていると推測されます。
SCP-XXX-JP自体は停車を行いませんが、乗りこむことは可能です。SCP-XXX-JP内部には複数の乗客が確認されますが、後述のSCP-XXX-JP-1を除き、反応を返すことはありません。
SCP-XXX-JP-1はクラスⅢ霊的実体と推測される高齢女性です。主に和装を纏っており、財団の接触に対しても攻撃を行わない限り友好的に接しますが会話は成立しないことがほとんどです。SCP-XXX-JP-1に対し攻撃を行った対象は瞬時に消失します。SCP-XXX-JP-1は19██年にSCP-XXX-JPが発見されて以降、老化の兆候を見せています。SCP-XXX-JP-1をSCP-XXX-JPから降車させる試みは現段階ですべて失敗に終わっています。
事案記録XXX-JP-A 20██/██/██: 19██/██/██、SCP-XXX-JPにDクラス職員を乗り込ませ、最終消失段階まで乗車状態におく実験が行われました。この段階ではSCP-XXX-JP-1は40代程度の外見であることに注意してください。
05/██を迎えた時点でSCP-XXX-JP-1は乗車するDクラス職員に困惑する様子を見せ、降車を勧めました。Dクラス職員がそれを拒否した際、SCP-XXX-JP-1はさらに困惑を深めましたがそれ以上の反応を見せず、約3時間後、Dクラス職員と共にSCP-XXX-JPは消失しました。
以下は消失に至るまでの映像記録です。
イベント映像記録XXX-JP-01 - 日付 19██/05/██
00:00:00: SCP-XXX-JPの車窓から見える景色が徐々に変化していく。同時にSCP-XXX-JP-1の姿が消失
00:03:01: 車窓からの景色がソメイヨシノの並木へ完全に変化する。同時に無線等の信号が停止
00:04:23: Dクラス職員が困惑するように桜を見つめ独白を始める。以下記録参照。またこれに前後して桜の花弁が車内へ侵入し始め、乗客の消失が発生する
00:04:58: Dクラス職員の独白が終了する。同時に大量の花弁が画面に映りこむ。Dクラス職員が消失する。車窓外のソメイヨシノの数が徐々に減少していることが確認される
00:05:30: 車窓外のソメイヨシノが一本になる。SCP-XXX-JP-1の姿が一瞬映りこみ映像が停止する
以下は消失直前のDクラスが残した音声を解析した結果です。
音声記録XXX-JP-01 - 日付 19██/05/██
先生、どうも終着が近づいている。この姐さんがそう言うんだ、周りの風景もそうなんだろう。ああ、花が咲いてるよ、満開の桜だ。桜のあちこちに姐さんがいる。寂しそうにしてる。桜だよ、恐ろしいな、美しいってのはこういうことなのかな、先生。桜だよ、満開の桜だ、どこまでも、どこまでも続いていくよ。
先生、なんかおそろっしいよ、桜だ。なあ、これは全部あの姐さんなんだよ。姐さんはさ、春なんだ、春は汽車に乗ってさ、ずっと、ずっと、進んでいくんだよ。いや、そうか、ああ、そうだよ。綺麗なんだ、とても、とても、とても、綺麗だ。さようなら
Dクラスが所持していた機器はその後、全国各地のソメイヨシノの根元付近で分散されて発見されました。また、翌年再出現したSCP-XXX-JP内の乗客に消失したDクラス職員と同様の容貌を持つ乗客が確認されました。
これを受けて調査したところ、SCP-XXX-JP内の乗客のうち約█%の身元が判明しました。判明した人物は現在時点で死亡、あるいは行方不明者として扱われており、共通点は3月下旬から5月上旬にかけて行方不明、あるいは死亡している事を除き不明です。
補遺: 乗客のうち、行方不明であるとされていた██氏の頭蓋骨が一部、東京都豊島区のソメイヨシノの根元から発見されました。他の部分も同様にソメイヨシノの付近に埋没していると推測されますが、調査の必要性は低いと判断され、追跡調査は行われていません。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP群は収容ユニットの壁面、あるいは底面に密着させた状態で固定してください。この際、密着が困難な場合は担当研究員の許可を受け、密着を可能にする為加工を行ってください。SCP-XXX-JPの収容されたサイト-81██にはいかなる霊的実体の収容も禁止されます。新たなSCP-XXX-JPが発見された場合、目撃者には記憶処理を行いSCP-XXX-JPの即時の収容を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは異常性を持つ家具の総称です。SCP-XXX-JPの異常性はそれらと壁面、あるいは床面の間に隙間が存在する際発生します。それらの隙間にはほとんどの場合、クラスⅢ霊的実体が出現します。これらの実体はそれらが存在している隙間に応じた厚みに変化しており、呼びかけや交渉等に一切反応を示しません。この実体は同時に複数体出現することもあり、現在段階で最大12体が確認されています。
SCP-XXX-JPは定期的に霊体ごと消滅します。この消滅は最初の霊体が出現してから1日から6ヵ月程度のスパンで発生します。SCP-XXX-JPの消滅後、新たなSCP-XXX-JPが発見されることから、消滅に伴い他地点において新たなSCP-XXX-JPが入れ替わりで出現しているものと推測されます。
SCP-XXX-JPはその特性上SCP-XXX-JP-A、SCP-XXX-JP-Bに分類されます。
SCP-XXX-JP-Aは主にタンスや本棚などの大型家具です。SCP-XXX-JP-Aには多くの場合女性実体が出現します。この実体はSCP-XXX-JP-Aが存在する部屋内の人間を凝視、あるいは不定期に身をよじらせ隙間から移動するようなそぶりを見せます。これらの行為に対し、被験者の約5割が苛立ち、焦燥感、恐怖を覚え、残り5割が好意、愛情、執着を感じると証言します。
SCP-XXX-JP-Bは主にベッドやソファなどの脚を持つ大型家具です。SCP-XXX-JP-Bには多くの場合男性実体が出現します。この実体は何らかの武器を所持し、SCP-XXX-JPの利用者に対し害意を持つ、あるいは家具の下部から移動するためもがいているように振る舞います。これらの行為に対し、被験者のほとんどが恐怖を覚えると証言します。SCP-XXX-JP-Bは不定期に行動し、武器を振り回す様子が確認されます。
事案記録XXX-JP-01 - 日付 ████/██/██
████/██/██、実験のため隙間を発生させていたSCP-XXX-JPの周囲に霊的実体(以下、実体-α)が出現しました。実体-αは出現時SCP-XXX-JPの隙間には存在せず、SCP-XXX-JPに引き寄せられるように移動、しばらく観察を行った後消失しました。この事案を受け、調査を行ったところ同様の事例が数例確認されました。
補遺1: 事案記録XXX-JP-01を受け、SCP-XXX-JPの隙間に対し小型ドローンを用いた調査を行いました。内部空間に縮小、伸長等の異常は確認されませんでしたが、僅かに青い燐光が確認されました。この燐光を調査する過程で霊的実体の誘因効果がある可能性が浮上。SCP-XXX-JPが霊的実体を誘引する目的で作成されたことが示唆されています。
補遺2: ████/██/██、██市において活動していたエージェント他数名により、██山中腹部において霊的実体の付着した家具が不法投棄されていることが判明、オブジェクトとして回収されました。これらの霊的実体及び家具を調査したところ、霊的実体の容貌、家具の特徴が一致したことから、SCP-XXX-JPである可能性が高いと推測されています。同様に全国各地の最終処分場、及び不法投棄現場においてこれらのオブジェクトが継続して発見されており、現在総数は████に及びます。
これら再発見されたSCP-XXX-JP類似オブジェクトに付着した霊的実体は組成不明の粘着物質によりSCP-XXX-JP類似オブジェクトに固定されていることが確認されています。また、霊的実体の分離は可能ですが、該当状態で発見された霊的実体はいずれも行動を停止しています。
また、これら再発見されたSCP-XXX-JP類似オブジェクトは隙間が発生していた場合においても霊体が出現することはありません。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP-1、SCP-XXX-JP報告書と共に一般収容ユニットへ収容してください。SCP-XXX-JPの確認により発生した文章、物品は調査後、それぞれの収容担当に割り振って下さい。
説明: SCP-XXX-JPは反ミーム特性を有する、あるいはその影響下に置かれていると推測されるブロイラー品種のニワトリ(Gallus gallus domesticus)のヒナに類似する実体です。現在までに成長等の生理現象は確認されていません。SCP-XXX-JPはその特性上、自らに対する記憶、認識、情報を阻害し、存在を忘却させます。
SCP-XXX-JPの反ミーム特性はSCP-XXX-JP自身を記述した全ての媒体に及びます。その為、通常時SCP-XXX-JPの番号は後述の点眼薬に割り振られ、使用を制限されています。
SCP-XXX-JPに外見上の異常は存在しません。後述の資料に添付された情報から、頭部には記録用の生体デバイスが存在しており、SCP-XXX-JPが視認した光景を映像記録として確認することが可能と推測されます。現在この生体デバイスの分離には成功していないため、画像、映像の分析には失敗しています。
財団においてSCP-XXX-JPの反ミーム的性質を阻害することは失敗しています。その為、現在段階でSCP-XXX-JPの反ミーム的性質を阻害する方法は後述の資料と同時に発見された対反ミーム効果を有する油性点眼剤(以下、SCP-XXX-JP-1)を点眼する方法に限られています。SCP-XXX-JP-1は約2~4時間の間SCP-XXX-JPの視覚、触覚による認識を可能とします。SCP-XXX-JP-1は発見時点で12個が確認され、報告書作成、研究の為に消費され7個が現存しています27。
また、上述の方法によりSCP-XXX-JPを再確認する際、一定数のSCP-XXX-JPが消失する事象が発生します。この消失に関しては後述の記録も踏まえ要注意団体、酩酊街が関与している可能性があります。この消失により最終的にSCP-XXX-JP全羽が消失し、それに伴い関連する報告書、文章、物品等の消失事案が発生する可能性が示唆されており、現在、SCP-XXX-JPの反ミーム特性を排し、認識可能な状態におく研究が、他の研究と同名目で行われています。
SCP-XXX-JPは財団が日本生類創研の拠点となっているビオトープ施設を調査した際発見されました。この拠点は現在は収容サイト‐81NSに指定されています。当時存在していた研究者内でSCP-XXX-JPを把握しているものはおらず、SCP-XXX-JP-1においても前任者の残したものであるという情報しか持ち合わせていませんでした。
補遺1: SCP-XXX-JPを上述の方法を用い認識した際、付近にある情報媒体に何らかの文章が出現することが確認されています。これらの文章は酩酊街に関連するオブジェクトにおいて発見されるものに類似していることが指摘されています。以下にその文章の一部を記載します。
SCP-XXX-JP関連文書-1(一部抜粋)
お元気ですか。度々遊びに来てくれて嬉しい限りです
あなたが何を望んでいるのかは分からないけれども
この街を気に入ってくれたら嬉しいと思います
それと、連れて行ったお友達にもよろしくお願いしますね酩酊街より 愛を込めて
補遺2: SCP-XXX-JP-1を使用した状態で収容サイト‐81NSを調査したところ、反ミーム外壁によって隔離された研究室が新たに発見されました。この研究室内においてSCP-XXX-JPは飼育されていたと推測され、新たなSCP-XXX-JPが38羽確認されました。
SCP-XXX-JP関連物品リスト(一部抜粋)
以下はSCP-XXX-JPと共に発見、回収された物品のリスト抜粋です。
- 幼児用玩具21点
- 装身具13点
- 非異常性生物の死骸2点
- 複数言語で書かれた書籍18点
- 担当研究者のものと思われる手記(以下、SCP-XXX-JP関連文章-2。詳細後述)
- 異常物品3点
- コウモリ目(Chiroptera)に似た生物化石。オニコニクテリス属(Onychonycteris)以前のものと思われ、翼が未発達である。
- 不明生物の死体。外見はヒゲクジラ亜目(Mysticeti)の生物に類似するが現生種に一致するものはない。ザトウクジラ属(Megaptera)との類似性が確認されている
- ウロンスキーモデル型霊素生命体1体。霊素固着前に消滅。外見は日本伝承における鵺と類似していた
以下はSCP-XXX-JP関連文章-2の抜粋です。この文章は後進の研究者にあてたものと推測されます。
SCP-XXX-JP関連文書-2(一部抜粋)
19██年7月3日:
本日より、実験の性質上記憶の混濁が発生する可能性をふまえ実験記録とは別に手記を付記する。
検体はヒトで行いたいところだが、いかんせん人間では過負荷に耐えきれなかった。そのため鶏の雛を使用する。
また、忘却こそが良き手がかりとして、私自身も次回の実験までこの記憶を放棄する。
点眼薬にまでこの効果が及ばなければよいが。本実験の目的は過去に存在し、現在私たちの記憶から"忘却された"存在を探求することにある。
私たちの記憶、あるいはあの街の概念がどこに依存しているのかは不明だが、人間に限らないのであれば現生種とのミッシングリンク28を発見することも出来るだろう。
そのミッシングリンクは我々の研究に大いに貢献してくれることになる。好事家に売れば資金にもなるだろう。
有意義な実験となる事を期待したい。
19██年7月23日:
実験は一応のところ成功を見せた。強制的な忘却から無理に引き出した影響か、画像は不鮮明だ。
しかし、10羽の内1羽が物品を持ち帰ることに成功。これは4羽の損失を補って余りある。
願わくは本来の目的を達成することができればいいのだが
19██年9月10日:
現在時点で持ち帰った物品はがらくたばかりだ。
何の変哲もない玩具や装身具、私には読めない書籍、一部は貴重な価値があるものとしていい値が付いたが。予想外にあの街の範囲は広い。画像、映像共に安定しつつはあるが見るごとに景色は変わる。
まるで万華鏡のようだ。あるいは観測者の認識により変化するか。
そして、あそこにあるのは物品だけではない。どうやら何らかの概念も"忘れられる"ものらしい。[編集済]くんが突如泣き始めた時は驚いた。彼は何を思い出し、そして、何に狂ったのだろうか。
19██年9月29日:
アノマリーが発見された初めての例。幸い、特性はたいしたことがないが致命的なアノマリーだった場合を考える必要がありそうだ。
加えて、がらくたの中に見覚えのあるものを発見した。どこで見たのかは覚えていないが妙に気が惹かれる。
調べてみると日生研発足当時の社章、社というのも妙だがそういったものらしい。
見覚えがあるのも当然ということか。結局はがらくたに過ぎないが。
19██年10月19日:
ついに目的を達成することができた。化石ではあるが現生のコウモリ種とのミッシングリンクをこの手に掴むことができた。
連れ帰ってくれた雛をねぎらう必要がある。しかし、疑問なのはあの街の存在だ。過程では人類における集合的無意識の構造領域にその基点があると思われたが、人類が明らかに存在しない時代の記録がある。
今は全てが仮説にすぎず証拠が足りない。せめて映像がもう少し鮮明になれば分かるのかもしれないが。
もっとも、あの場所の理論とは反りが合わない。私たちの理念は進み続けることだ。解明し、解析し、解剖し、解体することだ。それが世界の死を招こうとも、きっとそれは美しい最期だ。
19██年12月25日:
思い出した。日本生類創研の目的を。
私たちは人類の護り手だった、私たちは科学による光の持ち手だった。雛よ、ああ、雛よ。遠回りした雛よ。
いつからだ、いつから私たちは世界を闇に導く金満家となった。
いつから私たちは世界を滅ぼす闇そのものと化した。狂気となり果てた。だが遅くはない、この信念を忘れていない人間がいるはずだ。
私は"教授"の元へ行く。そして力を借りるべきだ。雛よ、それまでここで待っていておくれ。
あの酩酊の都に堕するわけにはいかない。狂気に陥らず進み続けなければいけない。
我々をすら解明し、解析し、解剖し、解体しなければならない。この手記はここに残す。読んだ者よ、私の思い出したものを思い出せ。私たちが忘れたものを取り返せ。
がらくたの中から社章を探し当てた。
狂気によって砕かれるには、世界はあまりにも美しい。
この手記を記したと思われる人物は、現在日本生類創研内で複数の異常存在、収容済みのオブジェクトに関する知識を有しているとされる"教授"と協力体制にあると推測されています。
お元気ですか、最近ずっといてくれたのに
突然いなくなって寂しい限りです
この街に来たいのなら、簡単に来れますからいつでも来てくださいね
また会う日まで
待っています。ずっと酩酊街より 愛を込めて
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは標準Safeクラス収容ロッカーにおいて保管、管理を行ってください。SCP-XXX-JPを用いた実験を行う場合は不慮の事故を行うため対象以外の職員は対生物汚染用スーツの装着が推奨されます。実験の際発生した植物は異常性の有無を確認後、所定のサイトに輸送してください。
説明: SCP-XXX-JPは異常性を持つミゾカクシ(Lobelia chinensis)の種子です。
SCP-XXX-JPが何らかの形でヒト(以下、対象)の体内に侵入した場合、対象は約1~3時間後、心臓等の突発的疾患により死亡します。その後、対象の死体は異常な速度で生分解が行われ、十分な環境要因が存在しない場合においても約1日から1週間以内で堆肥化が発生します。この際発生する堆肥は対象の体重以上の重量が確認される場合もあるため、実験の際は大規模実験室を使用することが推奨されます。
発生した堆肥を放置することで新たに非異常性の植物が発生します。これらの植物は発生ごとに異なった種が発生します。これらの種はミゾカクシ属外のものであっても発生し、現在時点で発生条件は確定されていません。
一般的な方法でSCP-XXX-JPを栽培した場合、異常性は発生しません。
SCP-XXX-JPはGoI-2722"鉄錆の果実教団"への第三次襲撃作戦の際、押収されたオブジェクトです。当該団体ではこのオブジェクトが"穢れた肉に咲く花"と称され信仰対象かつ懲罰、拷問を行う際に使われていたと推測されています。
以下はSCP-XXX-JPを用いた実験記録の抜粋です。生物実験を除き対象の性別、体重等身体条件を一致させたうえで実験は行われました。
実験記録XXX-JP(抜粋)
日付: 20██/██/██
担当者: ██研究員
対象: D-89987(3件の殺人、2件の強盗殺人により起訴)
発生した植物: ヤマオダマキ(Aquilegia buergeriana)
日付: 20██/██/██
担当者: ██研究員
対象: 実験用ラット(Rattus norvegicus)
発生した植物: N/A
メモ: ヒト以外の動物では死亡するが異常性は発生しないようだ。
日付: 20██/██/██
担当者: ██研究員
対象: D-86117の死体(2件の殺人、2件の強姦殺人により起訴。SCP-███-JPの収容違反に関係し死亡)
発生した植物: N/A
メモ: ヒトだとしても死体では発生しないということか。
日付: 20██/██/██
担当者: ██研究員
対象: D-87566(2件の殺人事件により起訴。対象は暴行の被害者であり、暴行加害者に対する殺人で起訴された)
発生した植物: フレンチ・マリーゴールド(Tagetes patula)
メモ: 関連文書から想像できていたが植物の種類が変化した。生物学的条件は一致させている。考えられるのは来歴だが、関連文書の"穢れ"から考えて犯罪者と言う部分も加味する必要があるか。
日付: 20██/██/██
担当者: ██研究員
対象: D-81783([編集済]において信仰に基づきテロ行為に関与し複数の反社会的行為に関与。実験の為身柄を移送)
発生した植物: ヤマトリカブト(A. japonicum Thunb)
メモ: 人種はできうる限り一致させたが、やはり来歴、それも犯罪歴に関係しているのか。今まではDクラスしか使えなかったが、何らかの方法で犯罪歴のない検体が手に入った場合実験に使用することを考えておく。
日付: 20██/██/██
担当者: ██研究員
対象: ██ ██(エージェント・██の親族であり脳死状態。生前の意向とエージェント・██の了承により実験に参加。犯罪歴は無し)
発生した植物: ヒトリシズカ(Chloranthus japonicus)
メモ: 仮定が崩れたと見るべきか。犯罪歴でないとすれば完全にランダムなのか?
日付: 20██/██/██
担当者: ██研究員
対象: ██ ██ (財団関連施設内で無脳症児として誕生。両親の許可を得、実験に参加)
発生した植物: ハボタン(B. o. var. a f. tricolor)
メモ: 完全にランダムだと判断すべきか。これ以上の実験に意味はないだろう。
インシデントレポートXXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、サイト-81██をGoI-2722と推測される集団が襲撃。小規模な収容違反が発生しました。この際SCP-XXX-JPを簒奪、複数の職員に対し使用しました。SCP-XXX-JPはその後回収され集団は退去しましたが、SCP-XXX-JPの影響を受け██研究員を含む9人の職員が死亡、その際発生した植物の影響によりサイト-81██は破棄が決定されました。
以下はサイト-81██から最後に受信された音声ログです。
音声ログXXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
<再生開始>
00:00:00: [喘鳴] 私は██。サイト-81██の研究員です。現状の報告を行います。
[約10分間の状況説明]
00:11:06: 以上が現在のサイト-81██の状況です。私自身もSCP-XXX-JPを飲まされ、復帰は困難であると推測しますが、出来得る限り地上への復帰を試みます。
00:15:22: ██博士の遺体を発見しました。[喘鳴] 急速に生分解が行われており、SCP-XXX-JPが投与されたと推測されます。 私も大分思考が緩慢になってきました。
00:21:33: [激しい喘鳴] 地上へのハッチの近辺と推測される部分まで到達しました。しかし復帰は不可能のようです。ハッチを、いえ、サイト全体を大量の堆肥と根が覆っています。[粘着質な音] おそらくはSCP-XXX-JPの根であると推測されます。ここまでの量は実験を行った中でも例がありません。復帰不可能と[ノイズ]、最期まで連絡を行います。
00:48:33: [ノイズ]、もう自分が何を言っているかはっきりと分かりません。これまでにSCP-XXX-JPを投与した例では突然死が多数を占めていましたが、血をずっと吐き出し続けています。私の来歴によるものでしょうか。 [激しい喘鳴] 私は法を犯したことはなく、人を[ノイズ]ないのですが。
01:09:54: 周囲の根が増しています。[ノイズ]ているのでしょう。全身に何かが根を張っているような感覚です。ああ、そういえば、実験の際対象にインタビューを行っていませんでした。同じような状況だったのでしょうか。 [激しい喘鳴]
01:22:45: 目が見えません、耳[ノイズ]、ただ、全身に根を張って、SCP-XXX-JPが芽吹くイメージだけがあります。私の心臓に、脳に、血管に根を張って。SCP-XXX-JPは何を栄養としているのかと疑問に思うことがありました。 [弱い喘鳴] 今は、分かる気が、します。 [激しい喘鳴] SCP-XXX-JPは私たちの[ノイズ]、死ぬことは、驚くほど恐くありません。恐ろしいとすれば、私たちの中の、養分が。生まれ落ちた時から[ノイズ]。
01:23:08: せめて、美しく咲いてほしいというのは悪いことでしょうかね。
[以降、音声途絶]
<再生停止>
以下は上記インシデントの際発生したSCP-XXX-JPです。
日付: 20██/██/██
担当者: N/A
対象: ██研究員他9名(生物学的条件、犯罪歴等は全員一致せず)
発生した植物: マーガレット(Argyranthemum frutescens)
メモ: 多数の対象から発生したにもかかわらず、すべて同一の種であることが判明しています。
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Aquilegia_buergeriana_02.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:French_marigold_garden_2009_G1.jpg
https://commons.wikimedia.org/wiki/File:Aconitum_japonicum_subsp_japonicum2.jpg
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの存在する美術館は現在時点で財団フロント企業の運営下にあり、SCP-XXX-JPへの偶発的な侵入は施錠および警備員によって阻止されています。SCP-XXX-JPへの侵入は現在禁止されています。内部調査を希望する場合は担当職員の許可と、ボルヘス心理検査における基準を達していることが必要とされます。
説明: SCP-XXX-JPは██県の美術館に存在する螺旋階段です。
SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JPを始点から昇った場合発生します。始点からSCP-XXX-JPを昇り続けた場合、本来終点に位置する部分に新たな階段が発生、接続します。始点以外の箇所から昇った場合、この階段は発生せず、通常同様行き止まりとなります。この階段の外見はSCP-XXX-JPと変わりありません。SCP-XXX-JPの全長は存在する美術館の全長より長く、約3000m程であり何らかの空間異常を伴っているものと推測されます。
SCP-XXX-JPを昇るごとに、昇っている対象(以下、対象)の一部は昇ることに高揚感を覚え、継続を希望するようになります。この要求は強制力を持ち合わせますが、第三者の直接的な妨害で阻害可能です。また、要求する際の発声においても微弱な強制力が発生する為、SCP-XXX-JP探査の際は音声による通信は禁止されます。
対象はSCP-XXX-JPを昇るに伴って、社会通念的に好ましいとされる性格へと変化していき、精神障害、精神疾患を抱えていた場合快方に向かいます。また、これらに伴い対象の影が段階的に異常な膨張を見せることが確認されています。この膨張は高揚感を覚えない人物には確認されません。
対象がSCP-XXX-JPの終点に辿り着いた場合、対象の影が膨張し対象を含めた周囲を数秒間包みます。この現象発生時、いかなる方法を用いても影以外の情報は撮影、録音されません。この現象が発生後、影は急速に収縮し対象は自発的にSCP-XXX-JPを降下します。この場合、対象に発生した性格の改善、精神疾患の改善は保持されます。これらの現象も高揚感を覚えない対象には確認されません。
以上の現象は中途でSCP-XXX-JPを降下した場合終了し、性格の改善、精神の快方も昇降以前の状態に復帰します。また、中途で降下した場合急速に影の膨張は停止、収縮します。
以下はSCP-XXX-JPに侵入し、帰還したD-1969120の聴取記録です。
インタビュー記録XXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
インタビュアー: 高研究員
対象: D-1969120 (反社会性パーソナリティ障害の診断を受けており、共感指数が著しく低いことが確認されている)
«再生開始»
高研究員: では今から聴取を行います。 D-1969120、現在の状況を具体的に答えてください
D-1969120: 生まれ変わったような気分です。俺の悪い部分が全て洗われたような気分ですね
高研究員: 生まれ変わったような、ですか。これまでの心境等と変化があったということでいいでしょうか
D-1969120: そうですね、正直今までの俺は酷い人間だったと思います。ですがあの階段を上った時、これまでの俺は徐々に無くなっていったんです。そして最後、あの階段を登り切った時、俺を包んでくれた影、あれは今までの俺その物です。これまでの俺から生まれ変わらせてくれた。感謝しかありませんし、これからは人の為に生きていけると思います
高研究員: 後悔があるということでしょうか
D-1969120: 後悔というよりはこれからの自分に対する希望でしょうか。先生、どうですか、俺はこれまでの俺と比べて
高研究員: ええ、まさしく、生まれ変わったような印象ですよ
D-1969120: ありがとうございます。生きるとは、素晴らしいことですね
«再生終了»
インタビュー後、高研究員の進言によりD-1969120の調査が行われましたが、D-1969120の生物的条件はSCP-XXX-JP侵入前と変化ありませんでした。
インシデント記録XXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、SCP-XXX-JP探査を行っていたD-1969121において反応が消滅する事案が発生。暫定的に行方不明者として扱われました。
以下は後続調査の際発見された、事案時録音されたと推測される音声ファイルです。
音声ファイル "Audio-2" - 日付 20██/██/██
[記録開始]
D-1969121: 気味の悪い階段だ。ずっと上の方まで見えてる、どこまで続いてんだ。とりあえず昇っていく
[沈黙]
D-1969121: 誰だ
[沈黙]
D-1969121: 気のせいか? いや、確かに何かがいると思ったんだが。
[階段を上る音。徐々に音量が弱まり停止する]
D-1969121: 誰だよ、聞こえてんぞ。あぁ? 生まれ変わりたいか?
[沈黙]
D-1969121: そういうことか、そういうことかよ、ヤダよ畜生。何でテメエが決めんだよ
[約10分間、沈黙]
D-1969121: [突如叫び、激しく階段を昇り始める]俺はさ、可哀想な奴だったよ。生まれた時におふくろは蒸発して、ドブの匂いがする腐りかけた家で親父と死にかけのババアと一緒だった。親父は酒浸りでよ、ババアが死んでからは酷かった。酔っぱらって帰っては俺を蹴飛ばした。俺にはマトモなガキの時代なんてなかった。だから俺は逃げた、誰も俺を助ける奴はいなかった。助けてほしいとも思えなかった
[約10分間、駆け上がる音]
D-1969121: 家を飛び出してからもロクなことなんてなかった。酒や煙草なんてのは当たり前だった。幸い俺は腕っぷしが強かったから舐められることはなかった。馬鹿にしたやつは全員半殺しにした。反省なんてしちゃいねえ、そうしなきゃ生きられなかった。言い訳に聞こえるか? ならそれでいいよ。逃げたいか、そりゃあ逃げてえよ、ここからも、今からも、自分からも。だって生きる価値なんてねえよ
[荒い喘鳴]
D-1969121: そんな奴が行き着くとこなんてのは単純だよ、人間のゴミや屑が集まったような吹き溜まりだ。人から金巻き上げて、人を騙して狂わせて、殺して。黙れよ、今は俺の話をしてんだ。この飲んだくれ野郎が
[約30分間、階段を上る音。喘鳴、咳払い、唐突な叫びが確認される]
D-1969121: 人を殺したよ、虐めて殺して金を奪った。楽しかった、楽しかったよ畜生。薬やってるみたいでさ。そんな俺の人生は無価値なんてもんじゃないよ。マイナスだ、明らかに。誰も受け取らねえよ。俺は死んだ方が良い極悪人だね。だからこんな目に遭ってんだ。畜生、殺してやる。はは、ビビってんだろ、誰が食わせてやるか
[約2時間、階段を上る音]
D-1969121: [高音の笑い声]分かるよ、誰だって多かれ少なかれ棄ててえんだよ。生まれ変わりたいんだよ。お前もそう思ってんだろ、だから助けてやろうとしてんだろ? でも、でもよお、それはダメだろ。背負いこまなくちゃいけねえだろ、テメエが生きてきたことをテメエがダメだっつったらダメだろ。ゼロでも、地獄行きでも、自分で抱えて死ぬしかねえだろ。カッコつけてんじゃねえよ、俺は糞野郎だからな
[約10分間、沈黙]
D-1969121: これを聞く先生方、良い事を教えてやるよ、[ノイズ]は化物の巣だ。アンタらの前には出ねえだろうよ、賢い奴だぜ。[ノイズ]、自分で決めろ。あとアレだ、酒は飲むな
[嗚咽の混じった高笑い]
D-1969121: 化物、お前にゃやらねえよ。大きなお世話だ、これは俺のモンだ
[かすかな悲鳴。咀嚼音]
D-1969121: お前はそこに、その意味のない砂漠に行きてえ奴だけ持ってけよ
[咀嚼音]
[嘔吐と推測される音声]
[記録停止]
この記録を受け、再度SCP-XXX-JPの実験参加者に対し薬物、催眠等の方法を用いインタビューを行いました。しかし、結果として全被験者が"化物"の存在を否定し、SCP-XXX-JPの有用性が進言される結果となりました。また、この事案後SCP-XXX-JPにおいてアルコール臭、吐瀉物に似た悪臭が確認されています。
補遺1: 音声ファイル回収の際、破損した画像ファイルの修復に一部成功しました。以下はその画像です。
撮影された空間、人型実体の同定は現在進行中です。
インシデント記録XXX-JP-02 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、D-1969120の反社会性パーソナリティ障害が再発、加えて抑うつ症状、アルコール依存症に似た症状が発生しました。D-1969120は症状再発後、SCP-XXX-JPへの侵入を強く希望しています。以下は症状再発後のD-1969120に対するインタビュー記録です。
インタビュー記録XXX-JP-03 - 日付 20██/██/██
インタビュアー: 高研究員
対象: D-1969120
«再生開始»
高研究員: では今から聴取を行います。 D-1969120、現在の状況を具体的に答えてください
D-1969120: 吐きそうだよ
高研究員: それは心因的なものですか? 実際にその症状があるのであれば薬剤を提供しますが
D-1969120: 知るかよ、誰だって嫌なこと忘れて身軽になったときにゲロ吐かれて思い出しちまった、誰でも吐きそうにもなる。何で俺を思い出したんだよ、俺はもう俺じゃなくって、ああ、くそ、話がまとまんねえよ
高研究員: 落ち着いてください。これまでの貴方は確かに別人であるかもと疑いました。これまでに何があったのか教えてもらってもいいでしょうか
D-1969120: 何があったか、俺はあの階段を上って、それまでの俺を食ってもらったんだ。俺だって人間だよ、嫌な思い出とか全部忘れて生まれ変わりたかったんだ。アイツは食ってくれるって、俺の過去を
高研究員: 少し待ってください。あの階段にはやはり何かがいたのですね? それは、これまでに確認していた"怪物"ですか?
D-1969120: 怪物、かどうかは分からねえ。昇っている間、相手は見えなかった。いや、最後まで見えなかった。俺が見たのは道だ
高研究員: 道?
D-1969120: ちょっと待ってくれ、俺も食われた俺と、今の俺とが分かんねえんだ。[約3分間、沈黙] アイツは、どんな奴だったか覚えてねえ。でも人を食うんだと、人の過去を食って、忘れてくれるんだと言ってた。酔っぱらうような話し方で、楽しそうだった。俺も、そうなりたかった
高研究員: そして貴方は
D-1969120: 食ってもらった。食ってもらったとき、俺に見えたのは道だ、俺じゃない俺だ、悟った。俺はもう身軽だと思った。ずっと酔っぱらってるように何だか幸せだった。でも、突然、吐き戻すように思い出したんだよ、俺を。ここにいないはずの俺を
高研究員: 過去を思い出したのですね
D-1969120: そうだよ、嫌だ、俺はもう生まれ変わったはずなのに、全部捨てたはずなのに、何で。帰ってくれよ、食ってくれよ。俺をあの酩酊の街へ連れて行ってくれよ
«再生終了»
補遺2: 症状再発後のD-1969120が所持していた端末に不明な文章が記載されていることが発見されました。以下はその文章です。
よう、兄弟
こないだはカッコ悪いとこ見せちまったな
美味いもんほど中ると怖いってのは本当だったみてえだ。危ないと思ったんだが避けときゃよかったぜ
クソッタレてるわけだ。実は今もケツが痛い(笑)
それに悪いことしちまったよ、まさかお前まで一緒に吐き出しちまうとは
そっちのお前と上手くやれてるといいんだけどな
ま、もし反りが合わなかったらまた来いよ。俺とこっちにいるダチ全員お前の親友だからな酩酊街より 愛を込めて
このフレーズカッケえだろ? あのBARで教えてもらったんだ。また行こうぜ。そんな辛いとこから抜け出してよ、全部忘れちまおうぜ。
これらの文章から要注意団体、酩酊街の関与が推測され、SCP-XXX-JPへの進入禁止が決定されました。
https://www.flickr.com/photos/22759691@N03/26155521344/
https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47de-1d4e-a3d9-e040-e00a18064a99
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは現在捕捉されていません。SCP-XXX-JPに関する情報はweb走査botならびに財団データベース内において管理、統合されています。これら情報により位置が判明した場合、近隣のエージェントを即時の保持者確保、収容に向かわせてください。また、確保された保持者においては昏睡させ、「突然の病死」をカバーストーリーとして流布、存在を秘匿してください。統合以前の各オブジェクトにおける特別収容プロトコルは報告書アーカイブを参照してください。
説明: SCP-XXX-JPは本来各個別にオブジェクト指定されていた2つのオブジェクト(SCP-XXX-JP-A、SCO-XXX-JP-B)の総称であり、暫定的な統合ナンバリングです。各オブジェクトが統合された経緯は後述します。
SCP-XXX-JP-A概要
SCP-XXX-JP-Aは約100ページの短編小説群です。SCP-XXX-JP-Aはそのどれもが原稿用紙に記載されており、未発表かつ製本はされていません。また、SCP-XXX-JP-Aの内容は全てがオウムガイ属(Nautilidae)の生物と推測される生物の独白による私小説といった形態をとっており、以下の3文が文中に複数確認されます。
「我が触腕よ 上手の手とて 水は漏るるか すくえずに」
「沈む水底 伸ばす触腕 届かぬ我が手 オウムガイ」
「誰も救えぬ 伸ばせぬ我は 殻に籠りて 唯没む」
SCP-XXX-JP-Aの異常性はSCP-XXX-JP-A内の短編小説をどれか1つでも読み終えた場合、発生します。読み終えた人物(以下、保持者-A)は、海底に浮遊するオウムガイのイメージ(SCP-XXX-JP-A-1)を意識領域下の一部に抱きます。このイメージは保持者-Aの行動、思想に関わらず一定的に存在し、記憶処理による影響は認められません。
保持者-Aとなった人物は他者の危険、危機に対し極めて無関心であり、他者との接触を避ける傾向が発生します。これらの傾向は保持者-Aが曝露以前に他者と積極的に関係を持つ人物であった場合も発生します。この傾向から、保持者-Aは多くの場合社会的に孤立する傾向が見られます。
実験記録XXX-JP-A
目的: SCP-XXX-JP-Aの影響下に置かれた保持者-Aが他者の危機に対し、どういった行動を見せるか確認する
実験責任者: 北畠研究員
対象: D-88098 (保持者-A) D-88099(財団により、一定時間仮死状態に移行する処置が行われている)
実験方法: D-88098とD-88099を入室させた状態で、D-88099を仮死状態に移行させ、D-88098の行動を観察する。なお、室内には仮死状態からの復帰を可能とする救護機器が一定数揃っており、使用方法を財団側から指示するものとする。
結果: D-88099が昏倒、仮死状態に移行したものの、D-88098は混乱するのみであり指示を出しても一向に措置を行おうとしなかった
補遺: 実験後、D-88098に対し行ったインタビューにおいて、措置を行わなかった理由を尋ねたところ「どうせ自分がやっても無理だと思った」、「自分にはできないに決まっている」といった感想が得られました。また、特記事項として財団側からの指示に従おうとしたとき、強く前述のイメージが発生したことが確認されています。
SCP-XXX-JP-Aは19██年に自宅において自死した██ ██氏により執筆されたことが確認されています。██ ██氏はボランティア、慈善事業に強く取り組んでおり、多くの紛争地域、貧困地域においてボランティアとして活動していたことが確認されています。親族、友人からの聴取において、それらのボランティアにおける無力感等から晩年は重度の精神衰弱に陥っていたとされ、自宅においてSCP-XXX-JP-Aを執筆後自死を行ったと推測されます。
SCP-XXX-JP-B概要
SCP-XXX-JP-Bは夏目漱石の作品、『吾輩は猫である』を読了した人物(保持者-B)において出現する情報知性体と推測される存在です。出現、発生は不定期かつ非限定的で、『吾輩は猫である』を読了した人物において約0.000█%以下の確率で発生すると推測されます。
保持者-Bが何らかの文章、言語による創作を行おうとした場合、SCP-XXX-JP-Bは保持者-Bの意識領域化に出現し、創作内において自身の存在を主張します。この創作内における会話によって、SCP-XXX-JP-Bは自身を『吾輩は猫である』内に登場する猫にイメージを固定された自律的アイデアであると主張し、多くの場合『吾輩は猫である』内の猫と同様の思想、語調を以て保持者-Bとの会話を行います。これらの会話は創作内でのみ可能であり、第三者の関与は保持者-Bが創作内において記述することでのみ可能です。
SCP-XXX-JP-Bは保持者-Bの創作を積極的に支援し、現在、全ての事例において保持者-Bにおける創作は完結しています。また、完結と同時にSCP-XXX-JP-Bは創作内において水中に落下し溺死します。これを以て保持者-BはSCP-XXX-JP-Bの影響下から脱します。
以下はSCP-XXX-JP-B暴露者であるD-8008を利用し、文章上で行われたSCP-XXX-JP-Bとの会話記録です。担当職員は寺田博士です。
文章記録XXX-JP-B - 日付 19██/██/██
「ほう、吾輩と話したいというか。よかろう」
猫はそう言うと、眠たげに目をこすり私と向き合った。
「吾輩と何を話したいかなどは吾輩は菩薩でも地蔵でもない故に知らぬが、学士くんだりの考えていることだ、吾輩が何者であるか、ということであろう」
その細めた目にはどこか嗜虐的な色が潜んでいる。
「吾輩は猫である。いや、正確には猫の観念アイディアである。あるいは理念イデアである」
猫の言葉には私にはよく分からないルビが浮かんでいる。その一方で私の背後に立つ人物は満足げに頷き、次の質問を口にした。
「では、貴方は本来"猫"という存在を私たちが想起したアイデアだというのですね」
「理解が早くて助かるよ、学士君。その中でも吾輩は1つの観念アイディアに依存した存在なのだ。形象イメェジの動物アニマルだ。旧くは吾輩が吾輩でなかったとき、吾輩に個体の識別は無く、在ったとしても曖昧模糊、まるで雲霞の中の怪物のようなものであった。そんな折、吾輩は1つの名編に依拠することとした」
それが、『吾輩は猫である』と? 機械的なその質問に猫は鷹揚に頷いて応える。
「そういうことだ、学士君。君は馬面にしては中々頭が回ると見えるな。結構だ、吾輩の主人に爪の垢を煎じて飲ませてやりたいものだ。ああ、主人とはそこに居る女性の事ではない。麗かな娘と比べるにはあまりにもむくつけき」
「では貴方が物語の完結を望むのは」
「待て待て、急ぐな。話を続けるが吾輩はその観念アイディアに依存したが故にその物語を擦なぞる必要がある。面倒だがこれは摂理というものだ。吾輩はまあ、そういう物に囚われる存在ではないが、如何せん吾輩は猫である」
「つまり、貴方は物語をなぞるより他にはない、と」
矢継ぎ早な質問。猫はいやいやをするように首を振り、ふいと窓際に飛び乗った。
「待ってください」
猫は窓の外の川へと身を滑らせる。
「馬面君、吾輩とて機嫌を損ねることはあるぞ、吾輩は溺れて死ぬ。吾輩は死ぬ。死んで太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい」
ぼしゃん、と水音がした。
この会話を以て物語が終了したと見なされた為か、SCP-XXX-JP-BはD-8008の意識領域下から消失し、収容違反が発生したと見なされます。この事案から、SCP-XXX-JP-Bは自らの意思で溺死することによって強制的に物語を終えることが可能であると判明しました。
インシデント記録XXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
19██/██/██、SCP-XXX-JP-Aの影響を受けた全保持者-Aの意識領域下からSCP-XXX-JP-A-1が消滅及び、それに付随していた社会に対する無関心が快癒されたことが確認されました。その際、保持者-A等の"消える瞬間に溺れる猫の姿を見た"という証言からSCP-XXX-JP-Bの関与が推測され、web走査、後続調査の結果、財団の補足していない保持者-Aであった███ ██氏の存在が確認され、『吾輩は猫である』を読んだことで保持者-Bとなっていたことが判明しました。
また、SCP-XXX-JP-A-1消滅の時刻、███ 氏が創作を終了し、SCP-XXX-JP-Bの溺死イベントが発生していたことが確認されています。以下は、███氏の創作内において記述されたSCP-XXX-JP-Bの溺死イベントです。
ぼちゃんと吾輩の体が温い水面に落ち込んだのが分かる。心配いらない。これは君が筆を終えたということだ。吾輩はお話が終わる時に溺れ死ななければならぬ。吾輩とてこう何度も繰り返せば慣れる。がりがりをすることもない。苦しくはあるが踠くだけ無駄である。吾輩はずぶ濡れの毛玉になった後どうやってかまた何者かの頭蓋の中で生まれるだけだ。さて、そろそろ肺腑の中から空気が消える。吾輩は死ぬ。死んでこの太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい。
「我が触腕よ 上手の手とて 水は漏るるか すくえずに」
声が聞こえる。ぐわんぐわんと鳴り響く。音の進む速さは水の中では数倍になると主人が子供たちに語っていた。待て、誰が吾輩に声をかけている。もう半分畜生塚に入っている吾輩に誰が声を掛けるというのか。今際の空言か。吾輩が思うに絵巻などにある臨終の絵はその類でないかと考える。
「沈む水底 伸ばす触腕 届かぬ我が手 オウムガイ」
否、空言でも幻聴でもない。ぐわんぐわんと鐘を打ったような声が聞こえる。水底から聞こえる。見ても水の中では光が拡がり暈けて映らぬ。否、それは吾輩の目の前に浮かんでおる。巨大な殻だ。蝸牛の化物か。蝸牛でもない、羊のような目が吾輩を見ている。烏賊のような腕が伸ばされる。蝸牛の殻に羊の眼、烏賊の腕。このような珍妙な生物、やはり吾輩の脳が死の間際に見せる幻覚ではあるまいか。そういえば主人の書斎で似たような図を見た。よくよく思い出せば化物自身が名乗っていたではないか。
「誰も救えぬ 伸ばせぬ我は 殻に籠りて 唯没む」
何の話をしているのか、吾輩が溺れ死にそうになっているのに呑気な物だ。延々と都都逸をのたくっている間があるなら吾輩の一匹引き上げてみてはどうだ、鸚鵡貝よ。目の前の猫一匹救えずに嘆くなら、その腕で掬いだせば話は早いのだ。
「───」
何故黙る。考えるより先に動けばいい、行動は思索に引き摺られる物だ。余計なことを考えるからその腕は縺れるのだ、その殻は大きくなるのだ。何も出来ないならば顔を見せる方が奇怪しいとは思わないのか。顔を見せ唸るのであればせめて腕でも伸ばしてみろ。──全く、無駄な事を騒ぎ立ててしまった。最早苦も楽もない。浄土ははて、どのような地であろうか。
「───水底の 猫をすくえよ ノーチラス」
突然ざぶりと顔が水面に上がる、身体が勝手に水を吐き出した。暫く喘ぎ、火箸を押し込まれた様に熱い肺腑に空気を送り込む。まるで鍛冶屋だ。見ると浄土ではない。少なくとも紫雲の上でも蓮の上でもない。畜生が其処に行かぬと言われれば其れまでではあるが。如何した事かと足元を見ると鸚鵡貝の奴が吾輩の体を持ち上げている。此奴め、どうも吾輩を掬いあげたつもりらしい。しかし、是では物語は終わらぬ。吾輩の死を以て迎える筈なのだが如何せん。──おや? ──何だ、これは、寂れた舟の様に見える。──成程、吾輩が落ち込んだのは蛸壺だったか、ならば是は乃ち物語の終わり、そして新たな出航という訳か。鸚鵡貝よ、どうやら長い付き合いになりそうだな。何、船乗りに猫は付き物と聞く。そら、星が綺麗だ。
この事案以降、財団はSCP-XXX-JP-A、Bの保持者確保は成功していません。一方、調査及びこれ以降保持者となった人物への聞き込みによりSCP-XXX-JP-A-1、Bは現在同時に出現していると推測され、暫定的に同一のオブジェクトとして統合、ナンバリングを行っています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの存在する民宿は財団のフロント企業による買収が行われ、現在セーフティーハウスとしての使用が検討されています。SCP-XXX-JPは施錠及び封鎖によって侵入を禁止されています。また、SCP-XXX-JP内への侵入は最長で1時間に制限されており、研究目的以外での侵入は禁止されます。
説明: SCP-XXX-JPは██県██市に存在する民宿の一室です。SCP-XXX-JPに宿泊した人物(以下、曝露者)は広空間に対する軽度の恐怖症を発症します。この症状によって曝露者は多くの場合、必要以上の外出を避けるようになります。
また、曝露者はその後の生活において頻繁に「象を見た」と証言します。これらの証言において実際に象の姿が撮影、視認されたことはありませんが、証言に伴った調査を行うとアフリカゾウ(Loxodonta africana)の体液、糞便、体組織等、アフリカゾウが存在していた痕跡が微量ながら曝露者の周囲において発見されます。これらの痕跡は曝露者の摂食する食品、使用する日用品内においても確認されます。これらの痕跡は発生後、一定期間で消滅することが確認されています。
証言に並行し、曝露者を撮影、録画した過去の写真、映像においてもアフリカゾウが映りこむ現象が発生します。これに伴い、曝露者は象に関する過去の記憶を証言します。曝露者の過去においてそれらの記憶に当てはまるイベントは発生していません。また、証言の多くが、「象に触れて嬉しかった」、「サーカスで象の曲芸を見て楽しかった」など、象に対して好意的な証言であることが確認されています。この現象は曝露者の幼少期から現在へと段階を踏んで発生し、上記の恐怖症に加え象に対する恐怖症を発症します。また、現象の段階が進むごとに曝露者の恐怖症は悪化し、結果として外出を極端に忌避し住居に閉じこもる、あるいは過去における象の記憶に対し強い嫌悪感、忌避感を持つ傾向が見られます。それに伴い上記の痕跡も量を増加させます。
上記の現象が曝露者の現在までに至った状況を最終段階と見なします。最終段階に至った曝露者は閉鎖空間に閉じこもり、「象が来る」と叫びながら一切の録画、録音等が可能な観測機器を破壊します。
最終段階において、何らかの形で曝露者が観測されなかった時点29で曝露者は死亡します。現段階で上記条件を満たした時間が0.3秒未満での発生が確認されており、上記条件を満たした時点で死亡が発生すると推測されます。
死亡の原因はこれまでに確認された全ての場合において腹部を強く圧迫されたことによる内臓破裂からの失血死であり、曝露者の周囲には上記の痕跡に加え、アフリカゾウが生息する地域の植物片、土壌が確認されます。
SCP-XXX-JPの周囲において象が関連した事件、事故は発生していないことが調査の結果判明しています。
補遺1: 曝露者死亡後、上記のアフリカゾウが映りこんだ写真、映像から、アフリカゾウが消失していることが確認されました。消失した写真、映像の約9割は以前の状態に復帰し、約1割は曝露者の表情が怯えたものに変化しています。
補遺2: 曝露者の遺体を調査したところ、内臓破裂の原因は巨大な物体による挫滅ではなく人間、あるいは人間と同様の四肢を持つ生物複数の手拳や脚部によるものであることが確認されました30。曝露者が抵抗した痕跡は一切確認されません。SCP-XXX-JPの周囲において同様の事件・事故が発生した記録はありません。
補遺3: 上記の曝露者が変化した映像を再調査したところ、曝露者の瞳孔に標準的な象の外見を大まかに模した実体が映りこんでいることが確認されました。実体は不鮮明ですが、確認した人物は全員が「象ではないが、人間でもない」と証言しています。
アイテム番号: SCP-001-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-001-JPは標準低脅威度オブジェクト収容ロッカーに収容してください。消失した場合、一般的な収容手順に基づき確保・収容を行ってください。曝露実験を希望する研究員は天測部門所属職員の講習を受けることが義務付けられます。SCP-001-JPから目を逸らすことは禁止されます。
説明: SCP-001-JPはオディロン・ルドン(Odilon Redon)の絵画作品、『眼=気球』の精巧なレプリカです。
SCP-001-JPはその周囲100m以内に存在した人物(以下、曝露者)の記憶、性格、一部曝露者の身体状況等低確率で変化させます。曝露者は軽い動揺状態とパラノイアの傾向を見せ、多くの場合視線、瞳に対する軽度の恐怖症を発症します。その影響により、曝露者は頻繁に自身を何者かが観察していると証言することに留意してください。
これらの変化は一般的な人体構造を遥かに逸脱するものや、死亡、霊的実体等への変化、現場からの消失等も含まれます。変化は不可逆的なものであり、SCP-001-JPの周囲から離脱しない限り一定周期で断続的に発生し続けます。
以下は変化した曝露者の抜粋リストです。
対象者 | 変化後 | 備考 |
---|---|---|
D-27 | 認識できないものの、悲鳴のみ確認された | |
D-1104 | 消失 | 財団のデータベース及び実験担当者にD-1104の記録は存在しないことが判明している |
D-17912 | 外見の変化はなし。D-17912は自身が19歳の女性であったと証言した | 1ヶ月後に癌の悪化により死亡した |
D-32414 | 消失 | D-32414の位置情報は████県████市郊外へ移動していることが確認された |
D-108211 | 脳出血により死亡した状態に変化 | 極度の性的興奮の痕跡が確認された |
これまでに確認された曝露者の約90%は何らかの異常性を持った物品の記憶を所持しています。それら記憶を所持する曝露者はアノマリーの影響を直接、間接関わらず受けていると推測され、同種のアノマリーに対する追跡調査が行われています。
SCP-001-JPは定期的に消失、再出現を繰り返します。また、上記以外にSCP-001-JPと同様の異常性を持つオブジェクトが存在する可能性が示唆されています。
以下は天測部門におけるSCP-001-JP調査文章です。調査文章の閲覧には特定の職員コードを必要とします。
*あなたの職員コードを入力してください*
財団内特殊部局φ-08 天測部門より通達
以下の文章はあなたに向けられたものです。これは財団の文書定型を逸脱する表現ですが、あなたを定義する際、この表現が使われることが上位管理部門により決定、通達されました。留意してください。
— Dr.オブザーバー
アイテム番号: SCP-001-JP
オブジェクトクラス: None
特別収容プロトコル: SCP-001-JP研究者はSCP-001-JP対象秘匿ラボでの研究が義務付けられます。SCP-001-JPはこの報告書が閲覧される限り収容状態にあります。SCP-001-JPの収容違反は現在時点で確認されていません。SCP-001-JPは肯定されています。
説明: SCP-001-JPはあなたの瞳です。
SCP-001-JPは瞳を題材とする芸術作品、意匠(以下、SCP-001-JP-M)を通じ、現在財団が存在する宇宙を定義する何らかの観測装置、あるいは上位存在級指定概念の一種であると推測されます。SCP-001-JPの存在位置、及び観測は現在時点で成功していません。
SCP-001-JP-Mが発生する作品、意匠には以下の物が代表として挙げられます。
- オディロン・ルドン『眼=気球』
- 水木しげる『ゲゲゲの鬼太郎』「妖怪大戦争」内に登場するキャラクター、バックベアード
- プロビデンスの目
- ホルスの眼
SCP-001-JPの認識により、現在財団が存在する宇宙は現在進行形で改変されていると推測されます。上述の人体に対する変化はこれら宇宙に対する大規模な改変が特定個人のみに発生した影響であると推測されており、改変内容には現在時点で████のパターンが確認されています。
SCP-001-JP-Mの組成を調査したところ、この報告書が存在する宇宙以外の空間に由来すると推測されるミーム因子が確認されています。SCP-001-JP-Mの起源はこれらの因子を何らかの方法で凝縮した結果偶発的にもたらされたものと推測されますが、詳細は不明です。
財団内特殊部局φ-08 天測部門は存在しません。
SCP-001-JPの収容違反は確認されません。
天測部門より
ようこそ。適切な職員コードは入力しましたか? 適当に入力したか、" "のまま入力したのでは? ですが、それでもこの報告書を読めるという事は、あなたはきっとSCP-001-JPの一人、あるいは一つ、瞳を開いて混沌の中より私たちを見つめるバックベアードなのでしょう。
さて、そんなあなたに私は恨み言を述べる為此処に書いているのではありません。話を本題に戻しましょう。このオブジェクト、SCP-001-JPがなんであるかという根幹の説明です。あなたの瞳ではないのか? ええ、その通りです。SCP-001-JPは正しくあなたの瞳です。
しかし、それは物理的、生物学的な物だけではありません。───オディロン・ルドンは瞳を気球に仮託しました。瞳は常に上昇し続けるのです。瞳は多くのものを受け止め、その内部、あなたの心象世界を肥大させていきます。そして上昇していきます。天上に至ったとき、その瞳は我々を見つけます。あなたの瞳に溜まった混沌から、私たちを生み出すのです。さながらプロビデンスの目、ホルスの眼のごとく、あなたの瞳は私たちを睥睨します。肥大化した瞳を通して。
SCP-001-JPは私たちを存在させるために存在します。私たちはSCP-001-JPに見つめられることで秩序と世界、私たちにとってあまりにも脆いその全てを手に入れる。
ですが、ここで提言します。
私たちの存在もまたあなたの証明になり得ると。この報告書の存在はあなたの定義ではなく、あなたを私たちに接続させる為なのだと。
SCP-001-JPは叛逆ではありません、基点でも、始点でも、誕生でも、理由でも、結果でも、絶望でも、終焉でも、愛でもありません。
SCP-001-JPは肯定です。
あなたが私たちをその瞳で見続けようとする限り、私たちはSCP-001-JPを通じあなたの存在をこの報告書で肯定します。あなたが特別な事など1つもない、只の悪趣味な人間であったとしても。あなたが私たちを様々な形で定義するように。あなたという存在を、私たちの書いたこの報告書で名付けます。
あなたはSCP-001-JPです。私たちに名付けられ創られた巨大な瞳です。曖昧な混沌の中から、不安定で確立しないあなたの中からSCP-001-JPは生まれます。瞳を開いてください。その瞳はビル街を照らし人々に混沌を齎すのです。そして上昇させてください。肥大化し、新たなバックベアードとなってください。私たちを定義してください。そのとき、私たちはあなたを肯定しましょう。
あなたは私たちに名前を与えられた。
あなたは私たちを見ることであなたを証明する。私たちはあなたの存在を肯定する。
あなたの肯定こそが収容なのです。
SCP-001-JPを通じ、あなたがそこにいると私たちは肯定します。
あなたはそこにいていいのだと、ただそこにいるだけでもいいのだと収容します。
SCP-001-JPはもはや閉じられない。私たちを見て。世界を作り定めて。
私たちとあなたの瞳は同じです。
───さあ、いきましょう
— Dr.オブザーバー
アイテム番号: SCP-XXX-JP-EX
オブジェクトクラス: Explained
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-EXは現在時点で暫定的な収容状態にあります。SCP-XXX-JP-EXの行動領域に合わせて建設された収容サイト-81XIにおいてSCP-XXX-JP-EXの研究、調査は行われます。SCP-XXX-JP-EXを認知できる職員は優先してSCP-XXX-JP-EX研究チームに配属されます。SCP-XXX-JP-EXとの接触は推奨されません。
説明: SCP-XXX-JP-EXは20代前半のアジア人女性の容姿を持つ霊的実体であると暫定的に定義されています。SCP-XXX-JP-EXはパラテクノロジーにおける霊体によって構成されていると推測されますが、後述の異常性により結論は得られていません。
SCP-XXX-JP-EX自身によると、約100年前、現在収容サイト-81XIが建造されている地点に存在した██ ██氏の邸宅に勤めていた使用人の███ ██氏であり、同邸宅において殺害されたと主張しています。調査の結果、戸籍上に該当する女性は存在しており、旧██邸において使用人の行方不明事件が発生していたことが判明しています。
SCP-XXX-JP-EXは浮遊、壁など障害物の透過、PSIエネルギーの放射による物体への干渉などが可能ですが、旧██邸が存在していた領域外への移動は不可能であるとされます。これはSCP-XXX-JP-EXの主張のみならず、財団による誘導も失敗したことから事実性は高いと推測されます。この特性から、現在旧██邸跡地に収容サイト-81XIがSCP-XXX-JP-EXの行動領域と一致する形で建設されました。
SCP-XXX-JP-EXは認識する対象により認識の度合いが変化します。完全に人型実体として認識される確率は約30%程であり、全く認識できない場合や、五感の一部のみで認識される、影に近い形で認識される等の事例も存在します。これは人間のみならず、人間以外の生物及びカメラなどの観測機器においても同様です。この事案からSCP-XXX-JP-EXは幻覚に近い存在であるとの主張も行われていましたが、物理的影響を与えた場合、その対象に起こった変化は認識可能であることから現在では少数派となっています。
以下はSCP-XXX-JP-EXに対するインタビューです。
インタビュー記録XXX-JP-EX-01 - 日付 19██/██/██
インタビュアー: 井上博士
対象:SCP-XXX-JP-EX
«再生開始»
(前半部は事実確認の為省略)
井上博士: では、あなたは何故殺害されたか、等は
SCP-XXX-JP-EX: はい、全く覚えてません。死んだ前後のことをどうも覚えてないみたいなんですよね。幽霊になる前の記憶も何だか曖昧になってきて、殺されたってことだけはちゃんと覚えてるんですけどね。むしろ幽霊になってから後のことの方がたくさん覚えてるくらいです
井上博士: 現在の状況になってから、何か変わったことはありますか?
SCP-XXX-JP-EX: それはもちろん、色んなことができるようになりましたね。壁を抜けたり、空を飛んでみたり、といっても、お屋敷からは出られなかったんで、お屋敷が無くなってからは寂しいものでしたが、先生たちが来てからは中々刺激的な毎日です
井上博士: そうですか。他には
SCP-XXX-JP-EX: ありませんねえ。ご飯食べなくてもよくなったくらいです。幽霊って言ってもたいしたことありませんよ。お岩さんみたいに呪い殺すとか、祟り殺すとかできませんし
井上博士: 確かに、現状であなたのPSI放射、力は成人女性ほどですが…、特別なことは何もないと
SCP-XXX-JP-EX: ないですね。何回も言ってますけどただの幽霊なんですよ、私
井上博士: いえ、疑っているわけでは
SCP-XXX-JP-EX: ああ、ごめんなさい、怒ってるんじゃないですよ。先生方もお仕事ですもんね。でもそんなに私がただの幽霊だと都合悪いんですか? いろんなところで幽霊の話ってのは聞きますけどね?
«再生終了»
SCP-XXX-JP-EXは現在財団が所有する霊的実体に対する技術等において一切の反応を示さず、影響を受けません。以下はそのリストです。
使用された装置・技術 | 結果 |
---|---|
非物質変位無効装置(nPDN) | 実体化は発生せず |
メトカーフ非実体反射力場発生装置 | 発生させた力場においても、一切の影響を受けず通常の行動が可能 |
改良版カーデック計数機 | 使用されるも、視認不可能な職員には認識できず |
ホフマン携帯型電気奇跡論ユニット | 変化なし |
ハルトマン霊体撮影機 | 機器により鮮明さに差異が発生。明確な法則は見られず |
カント計数機 | Hm値に変化は見られず |
井上博士の提言
SCP-XXX-JP-EXは何であるか、その議論は多く行われてきました。単純に霊的実体である、我々の幻覚である、現実改変の残滓である等。多くのアプローチも行われました。悪魔工学、奇跡論、神秘学、量子物理学、マクロカオシズム…、ありとあらゆる分野における権威が顔を突き合わせてSCP-XXX-JP-EXの正体を探りました。その結果、分かったことは"分からない"という一点です。
もちろん、SCiPは原則として理解不能な、異常な物品です。分からないだけでは研究されないこともありますし、理解されればそれは異常ではありません。その点で言えば、SCP-XXX-JP-EXはひどく単純で、純粋なアノマリーでしょう。
ですが、私はSCP-XXX-JP-EXを収容し、さらに研究する必要があると考えます。SCP-XXX-JP-EXは浮遊し、障害物を透過し、稀に物理的干渉を起こし、認識できる者と認識できない者が存在します。それを何と呼ぶべきか、私は、いえ、私たちはその答えを持ち合わせてしまっています。SCP-XXX-JP-EXは世界中の文化に染みつき、一般化されてしまった"異常"の象徴的存在です。理由は分からないがその異常は存在する、するかもしれない。当たり前のように認識された"異常"です。
テレビやカメラ、その他の機器等を原理について理解できなくても使用できるのは、それが純然たる再現性の元にある法則の産物だからです。しかし、SCP-XXX-JP-EXは我々の持つ法則で再現性を証明できない。"分からないのに存在している"のです。
それを踏まえ、私はSCP-XXX-JP-EXを我々の理論で再現可能な"霊的実体"と呼称することに違和感を感じます。SCP-XXX-JP-EXは再度定義されるべきではないでしょうか。
人類の知り得る最古にして最大の"異常"の1つ。
ただの"幽霊"として。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはSCPSもちつきにより他任務と並行して回収、同定が行われます。SCP-XXX-JPを一般人が回収した場合、警察組織等を介し収容に当たってください。各SCP-XXX-JPは密閉された低用量収容庫に保管し、各部位の接近は禁止されます。
説明: SCP-XXX-JPは世界中の海洋において確認されるアメリカにおける俳優、ボリス・カーロフ(Boris Karloff)の死体です。死体は多くの場合、体肢や一部分、破片のみの発見であり、全身が確認されたことはありません。
SCP-XXX-JPは財団による調査により約30の区分に分割されており、現在時点で約300の部位が発見されています。これらは鑑定の結果、全てボリス・カーロフと一致することが判明しています。その一方、発見された部位には重複するものが存在します。また、アメリカ本土において埋葬されているボリス・カーロフの遺体には異常が発生していないことから、複数にわたるボリス・カーロフの死体レプリカが存在すると推測されます。
SCP-XXX-JPは確認された全ての例で激しく破損、腐食しています。破損部位には人為的な切断、破壊の痕跡がみられ、専門知識、技能を持たない人間によるものと推測される縫合の痕跡も確認されます。また、多くの場合において深達性II度以上の熱傷が確認されます。
補遺: 2███/██/██、SCP-XXX-JPの破損していない頭部が発見されました。頭部には1931年に公開された映画作品『フランケンシュタイン』におけるフランケンシュタインの怪物と同様のメイクが施されていました。
補遺2: 2███/██/██、SCP-XXX-JPの一部を収容するため一時的に保管されていた管理庫において、SCP-XXX-JPが自律的に縫合される現象が発生しました。接着においては各部位の破損部位が接触するに伴って縫合糸が自律的に縫合を完了しました。また、縫合された部位は約20分間生体反応を見せたことが確認されています。ここから、SCP-XXX-JPは旧来提唱されていた縫合された死体が再度分解したものではなく、初期から分割され投棄された説が有力になりました。
また、これらの縫合を再現する実験において以下の条件が発見されました。
- 海水中に各部位が存在する
- 各部位の切断面、破損面が至近距離まで接近する
- 各部位が一般的な人体と同様の配置に存在する
この条件が海洋内で発生し、完全な人型に至る可能性は10██████分の1以下であると試算された為、収容プロトコルの改定は見送られました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPへ通じる廃道は閉鎖したうえでカメラ等による24時間体制での監視体制におかれます。SCP-XXX-JPへの探査は禁止され、探査に関係する全ての申請は却下されます。SCP-XXX-JP探査ログに関しては一定期間ごとに調査、整理、確認が行われ、一部を除き閲覧停止処置が行われます。
説明: SCP-XXX-JPは██県██山付近に存在する廃トンネルです。全長は約500mであり、道幅は約4mです。全体が手掘りによって施工されており、明治期に施工されたことが確認されています。
SCP-XXX-JPはその内部を人間が徒歩で通過した際、異常性が発生します。四輪車、二輪車、ドローン等、徒歩以外の手段で通過した場合、異常性は発生しません。
SCP-XXX-JPの異常性は内部を通過する際、死体が出現することにあります。死体の年齢、性別は様々であり出現数も一定しません。また、複数人で通過した場合も上記の条件は変化しません。
死体は筵やブルーシートで包まれており、激しい損傷は確認できません。これらの死体は出口に到達した時点で消失します。多くの場合において通過する人物と死体には相関関係が認められませんが、まれに通過した人物と旧知の人物の死体が出現します。この場合、旧知の人物はいずれも死亡した人物であることが確認されています。それらの人物の死亡理由に異常は確認されません。
また、SCP-XXX-JP内部を探索した人物は、多くの場合、内部の光景に既視感を覚えると主張します。この既視感は出身、性別等の条件に関わらず発生します。
SCP-XXX-JPが一般道として使用されていた時代にこれらの現象は確認されていなかったことから、SCP-XXX-JPの異常性は廃道後に発生したものと推測されます。
探査ログXXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
探索者: D-1969111
[再生開始]
D-1969111: トンネルの前まで来ましたけど、聞こえてますかね
司令部: 確認しました。映像機器にも不調はありません。では、出口まで進んでください。何かあった場合は報告を
D-1969111: 了解。トンネルの中は真っ暗ですね、ライト付けます。あれ、俺ココに来たことありましたっけ? いや、ないですよね?
[照明によりSCP-XXX-JP内部が照らされる。道路は枯れ葉やゴミが散乱しているものの異常なし]
D-1969111: かなりジメッとしてますね。蜘蛛みたいな奴もいました。とりあえずまっすぐ進みます
[撮影継続、約1分後、道路上にブルーシートを発見する]
D-1969111: ブルーシートがありますね。何か中に入ってるみたいですけど、どうします?
司令部: 内部の確認をお願いします
D-1969111: 了解です。うわっ、人ですね。多分死んでます。どうしましょうか
[20代程度の男性とみられる死体。Tシャツにジャケット、ジーンズを履いており、ピアスが確認できる。バイタルサインは確認できず死亡していると推測される]
司令部: 体組織のサンプルを入手してください。支給したバッグに採取キットがあります
D-1969111: 了解です。髪の毛とか、肌をちょっとひっかくくらいでいいですかね。はい、採れました
司令部: では、先へ進んでください
D-1969111: ほっとくんですね、了解です。あれ、また何かありますけど確認しますか?
[これ以降、3つの死体を確認。性別、年齢に共通点は無し]
D-1969111: そろそろ出口ですね。あ、またあります、確認しますね。うわっ! え、何で!?
[照明を取り落としたためか、一瞬暗転]
司令部: どうしましたか、D-1969111
D-1969111: いや、どうしたもこうしたも、ちょっと驚きまして。この死体、大学んときの同期ですよ。同じサークルで、そんなに接点はなかったんですけど。でも確か、俺が捕まる前に死んでるはずなんですよね
司令部: なるほど、何か変わった点はありますか?
D-1969111: そうですね、俺が知ってる顔よりちょっと老けてます、他には特に。これもサンプル取っておいた方が良いですよね。なまじ知ってる奴だと急に気味が悪いんですけど
司令部: お願いします
D-1969111: 了解です
[以後、出口まで死体の発生は無し]
[再生停止]
探査後、D-1969111の回収したサンプルは消滅しました。記録された映像からD-1969111の知人を調査したところ、死亡時の容貌と一致していることが確認されています。
20██/██/██、第5回SCP-XXX-JP内探索において特異事例が発生しました。以下はその探査ログです。
探査ログXXX-JP-05 - 日付 20██/██/██
探索者: D-1977649
[再生開始]
D-1977649: はい、トンネルの前ですけど、入ればいいんですか?
司令部: お願いします。今回の探索ではトンネル内での長期間滞在を目的としています。体調は問題ありませんか
D-1977649: 大丈夫ですね。暗い所や狭いところも平気なんでそこは気にしなくてもいいです
司令部: 分かりました。ではトンネルの中心部に向かってください。それまでに何か発見した場合確認をお願いします
[照明によりSCP-XXX-JP内部が照らされる。道路は枯れ葉やゴミが散乱しており、視界隅に黒いゴミ袋が確認される]
D-1977649: 最初から何かありますね。中身確認します。あー、死体ですね、婆さんです
[60代程度の女性とみられる死体。黒いナイトガウンをまとっている。バイタルサインは確認できず死亡していると推測される]
D-1977649: とりあえず放置でいいですかね
司令部: はい、お願いします
D-1977649: 了解です。先に進みますね
[約1分後、オレンジ色の遺体収納袋を確認]
D-1977649: これって、あれですかね、死体が入ってる奴。映画とかで見たことありますけど。これも一応確認しますね
[死体袋開封後、照明の落下する音を確認。暗転]
D-1977649: はあ
司令部: どうしましたか、D-1977649
D-1977649: あー、いや、そうだったんだなあ、と思いまして。なるほど、そうだったんですね。今ようやく気付きましたよ
司令部: 要領がつかめません。何が発生しましたか、D-1977649
D-1977649: いや、驚かないでくださいね。そういやなんか知ってるなと思ってたんですよ。だから分かってたはずなんですけどね、なるほど、なるほど、そういうことかあ。ああ、今見せますけど、本当に驚かないでくださいよ
[照明が復帰、死体袋内の死体が撮影される。D-1977649と容貌が一致する]
D-1977649: 俺、死んでたみたいです。そういうことだったんですよ
[直後、暗転。以降司令部の呼びかけにD-1977649は応答せず]
[再生停止]
D-1977649との連絡途絶後、SCP-XXX-JP内を調査しましたがD-1977649は確認されませんでした。
+ 探査ログXXX-JP-06を閲覧する[閲覧停止]
+ 探査ログXXX-JP-11を閲覧する[閲覧停止]
+ 探査ログXXX-JP-13を閲覧する[閲覧停止]
+ 探査ログXXX-JP-27を閲覧する[閲覧停止]
+ 探査ログXXX-JP-29を閲覧する[閲覧停止]
補遺1: 第5回事案後、D-1977649の経歴を再確認したところ、19██/██/██に発生した事故により死亡していることが確認されました。これを受け、これ以前の探索ログに関連した人員を検証したところ、これまでSCP-XXX-JP内を探索したとされていた人員も探索以前の段階で死亡していたことが確認されています。この事実は担当研究者及び、管理担当者も発覚まで認知していなかったことが確認されており、財団アーカイブにおいても問題無くアーカイブが行われていました。また、後続調査の結果、過去改変及び現実改変の痕跡は確認されていません。
この事案を受け、第5回を以てSCP-XXX-JP内部への探索は停止、凍結されました。
補遺2: 内部探索禁止以降もSCP-XXX-JPへの探査申請及び探査ログは増加しています。探査ログに記録されている職員は全て探査ログに記録された日時以前に死亡しています。探査申請及び探査ログの発信元は不明、あるいは既に死亡した人物によるものです。これら申請及びログの増加を阻止する手段は確立されていません。
探索申請が2件届いています[却下済]
個人メールBOX内の新規探査ログが2件未読です。確認してください
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは内部への侵入口となる排気口を封鎖したうえで定期的な監視、観察を行ってください。SCP-XXX-JP内への侵入は現在凍結されています。内部探索の申請には指定の手続きを行ったうえで上級研究者3名以上の承認を受けてください。SCP-XXX-JP内部の探索において得られた情報から発展した、要注意団体あるいは異常現象の詳細は別ページを参照してください。
説明: SCP-XXX-JPは██県山中に存在する廃墟です。
SCP-XXX-JPは現在異常性に由来すると推測される不明な原理で封鎖されています。この封鎖は現在財団が所有するいかなる道具、方法を用いても突破が不可能であることが確認されています。また、内部の視認も不可能です。唯一、備え付けの排気口は上記の封鎖が行われていない為、SCP-XXX-JP内部への侵入はこの排気口を経由して行われます。
SCP-XXX-JP内部へ侵入した場合、侵入した対象の持つGPS装置及び通信機器は全て停止します。その為、内部の情報はSCP-XXX-JPより帰還した侵入者の記録及び証言に依存します。現在の帰還例は後述するA.水津を主体とする1チーム3人のみであり、他の人員は行方不明扱いとされています。
前述の記録、証言によりSCP-XXX-JP内部には海面が広がっている事が確認されます。回収されたサンプルから海水の組成は地球上におけるいずれの大洋とも一致せず、僅かにヒトの脳脊髄液を含んでいることが確認されています。海中には後述のSCP-XXX-JP-2を頂点とした生態系が広がっており、その生態系も同様に地球上において確認されていません。
SCP-XXX-JP-1はSCP-XXX-JP内の海面を航行する船舶群の総称です。SCP-XXX-JP-1の船種は葦船、三段櫂船からプレジャーボート、高速戦艦等多岐に渡ります。これらの船舶は多くの場合航行機能を失っている、あるいは著しく破損していることが確認されますが、その状態にも関わらず通常の船舶と同様の航海が可能です。SCP-XXX-JP-1にはSCP-XXX-JP-A等の一部を除き船員が存在しませんが、自律的に後述のSCP-XXX-JP-2を捕獲することが確認されています。SCP-XXX-JP内部に陸地は確認されず、これらSCP-XXX-JP-1が唯一の移動手段であると推測されます。
SCP-XXX-JP-2はSCP-XXX-JP内部に存在する頭足類と推測される生物の総称です。SCP-XXX-JP-2は多くの場合、海面上に触腕のみを伸ばし、胴部及び頭部は水上で確認することはできません。SCP-XXX-JP-2は実体を持ちますが、死亡する、あるいはSCP-XXX-JP-1に捕獲されることで非実体に変化することが確認されます。
SCP-XXX-JPは異常性発現以前は本来GoI-2722"鉄錆の果実教団"の関連施設であったことが確認されています。財団による第二次襲撃作戦の対象でしたが、作戦決行直前に異常性が発現、関連していた教団員の救助要請を受け財団の収容下に置かれました。この事案により、GoI-2722の関東地域における勢力は壊滅しています。
以下は収容時、確保された教団員への聴取記録です。
インタビュー記録XXX-JP-1
対象: 富士 ██氏 (GoI-2722"鉄錆の果実教団"の幹部信者)
インタビュアー: 護良研究員
<録音開始>
(前半部は事実確認のため省略)
護良研究員: では、あのオブジェクトの挙動はそちらの意図した事ではないという事でしょうか?
富士氏: そうです。ただ、俺自身は財政や事務担当だったんで、信者って言っても詳しい事は知らないんです。だから断片的な事になりますが
護良研究員: 構いません。知っている限りの情報をお話しいただければ
富士氏: 分かりました。まずあの建物ですけど、あれは俺たちの教団の研究所みたいな場所でした。教団はなんでも儀式のときに肉? よく分かりませんけどそういうもんが出てくるらしくって。それを何かしら使えないかってことになったらしいです。それで、それなら脳味噌を作ってみてはどうかってことになったらしくって
護良研究員: 脳を?
富士氏: はい、脳味噌です。俺も聞いただけですけど、有名な人の遺伝子を肉の中に取り込んで、その人の脳味噌を再現するとかなんとか。それを好事家に売って儲けようとしてたらしいです
護良研究員: 成程、確かに著名な人物の脳となれば高値で取引される可能性もありますね
富士氏: はい、で、そちらの襲撃があるって情報が伝わってきたときに丁度脳が1つ完成しそうだってんで、俺だけとりあえず一旦逃げる手段を整えようと建物から出たんですね。で、戻ったらもう入れなくなってて。慌ててるうちにそちらが来たもんで観念したって訳です
護良研究員: そうですか。脳が1つ、と言っていましたが、これ以前にも脳は完成していたのでしょうか?
富士氏: そうですね、それ以前にもいくつか有名な人の脳味噌を作ってたらしいです。だからなんでこんなことになったのか本当に分からないんですよ
護良研究員: 分かりました。その脳に関連した資料はありますか?
富士氏: 全部建物の中だと思います。研究してた信者もその脳味噌とか肉とかも全部。俺は金庫番みたいなもんなんで、口座の番号とかそういう事だったら分かるんですけど、正直教団の儀式とか何が起こってるのかとかはよく知りませんから
<録音終了>
この証言を受け、SCP-XXX-JPの異常性においてそれらの脳が何らかの関連性を持つものと推測されています。また、前後して上述の侵入口が発見されたことにより、Dクラス職員及びエージェントを主体とした特別調査部隊が複数回送り込まれました。以下は帰還したチームの記録した映像、音声ファイルの書き起こしです。
探査記録XXX-JP-008 日付 20██/██/██
SCP-XXX-JP探索映像ログ-008 #1(書き起こし抜粋)
日付: ████/██/██
探索人員: 特別編成部隊("[部隊名未設定]")/A.水津(隊長/アルファ)/A.表門(副隊長/ベータ)/A.伊井(ガンマ)
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内部の探索、及び行方不明人員の確保、調査
«閲覧開始»
[アルファ、ベータ、ガンマの3人は海面に着水している。標準装備に備えられている簡易防水装備及び救命衣を使用し、記録用ドローンを射出。周囲の確認及び信号の発信を行う]
アルファ: これより撮影と記録を開始する。ベータ、ガンマ、撮影機器と録音機器は大丈夫か
ベータ: チェック、大丈夫そうですね。防水機能はしっかりしているみたいです。もっとも、あくまで雨水や漏水用ですから早めに上陸しておきたいですね
[高度からの映像。観測できる範囲は全て海面であり、上空には満月が確認される]
アルファ: …司令部からの応答はなし。一面の海だな。夜のようだが正確な時間は分かるか
ガンマ: 不明です、GPS等位置情報の取得も失敗しました。方位磁針はまともに動いているみたいですが
ベータ: 陸地は周辺に見えませんね。緊急信号も発信しましたが、そもそもこの場所に知性を持つ存在がいるのか分かりません
アルファ: 軽く海中を調査してみたが、何処の海域だかは分からない、という事が分かったな
ガンマ: 潮流も確認されません。どうやら自分で移動するより他に方法は無いようですね
ベータ: 困りましたね。流石に海洋への装備は持ってきていません。このままだと海の上でミイラになってしまいます
アルファ: とにかく何らかの方法で陸上に辿り着く必要があるわけだ
[ドローンを用い、周囲の陸地を捜索。確認できる範囲に陸地は存在せず。ほぼ同時に海面に3m程の巨大な触腕らしきものが出現、ベータが捕獲される]
アルファ: ベータ! 発砲許可を出す!
ベータ: 何だこれ!? 蛸か!? ミズダコにしてもデカすぎやしないか!?
[ベータが触腕に発砲するも、損傷は見られず。アルファ、ガンマも援護するが徐々にベータが海面へと引きずり込まれる。海中には約10m程の影が確認される]
ガンマ: 9時の方向より何かが接近してきます! 速度は約35ノット! まもなく目視できる範囲に…、見えました!
[西の方角より船影が確認される。船影は3名及び不明な巨大生物に接近、この時点で船影はキャッチャーボートであることが確認できる。キャッチャーボートは不明生物の約50m付近まで移動し、捕鯨砲を発射する。捕鯨砲は不明生物に命中。それに伴いベータは落下、衝撃により一時的に意識喪失したと見られる。不明生物は数秒体表を変色させ死亡。同時に消滅する。ベータをアルファが回収。3人に対し船上からの呼びかけが行われる]
不明な音声: 無事かしら? とりあえず上がってきて
アルファ: あなた達は
不明な音声: 私たちはヴィヴィアン・ガールズ。貴方達の魂を救いに来たわ
«閲覧停止»
SCP-XXX-JP探索映像ログ-008 #2(書き起こし抜粋)
日付: ████/██/██
探索人員: 特別編成部隊("[部隊名未設定]")/A.水津(隊長/アルファ)/A.表門(副隊長/ベータ)/A.伊井(ガンマ)
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内部の探索
«閲覧開始»
[アルファ、ベータ、ガンマの3人が救出された数時間後、部隊員を救出した人型実体を暫定的にSCP-XXX-JP-A、船舶をSCP-XXX-JP-1-α、不明生物をSCP-XXX-JP-2と定義。SCP-XXX-JP-Aはヘンリー・ダーガーによる作品『非現実の王国で』に登場するキャラクターの姿を模している。SCP-XXX-JP-Aの1人(以下、ヴァイオレット)から現在状況の説明を受ける]
アルファ: ではヴァイオレット、説明をお願いできるだろうか。ここは何処なのか、何なのか、そしてあなた達、あの巨大な蛸は何なのかを
ヴァイオレット: そうね、まず分かってることから。といっても私たちのことだけだけど。私たちはヴィヴィアン・ガールズ。アビエニアの少女戦士、だと思うわ
ガンマ: ヴィヴィアン・ガールズ。アメリカの作家ヘンリー・ダーガーの『非現実の王国として知られる地における、ヴィヴィアン・ガールズの物語、子供奴隷の反乱に起因するグランデコ・アンジェリニアン戦争の嵐の物語』、通称『非現実の王国で』に登場するキャラクターですね。では貴女はその登場人物である、と?
ヴァイオレット: だと思うわ、でもそんな色眼鏡で見られるのは嫌。私たちはあくまで私たち、物語とかキャラクターがどうとか関係ないの。そんなことは些細な事じゃないかしら
アルファ: ではここは一体どこなのか分かるだろうか
ヴァイオレット: 分からないわ。でも多分あなた達のいるべき場所じゃないと思う。あなた達の言い分だと、私たちはキャラクターだし、あなた達は読者ね? それは同じ場所にいてはいけないわ。あの"octopus reed"とも違うみたいだし
アルファ: "octopus reed"? 蛸の葦、という意味か? あの巨大な蛸のことなのか? 何故その呼び名を?
ヴァイオレット: "takoashi"、面白い響きね。私たちがそう呼ぶのは、あれが"reed"に変化することがあるからよ
アルファ: 葦に?
ヴァイオレット: 全部じゃなくて一部だけどね。話を戻しましょうか。さっきここがどこか分からないって言ったけど、多分この海はあの蛸の海よ。私たちも、あなた達も、きっと異物なんだと思うわ。これは感覚的なもので、そういう物証や根拠があるわけじゃないけれども
ベータ: 異物か。確かにそういった感覚はあるよ。…そう言えばあなた達は何でSCP-XXX-JP-2、あの蛸を倒していたんだ?
ヴァイオレット: そうね、まず、この廃船はあの蛸葦を捕まえよう、もしくは殺そうとするの。私たちが動かさなくても。どうせ巻き込まれるのなら、能動的に動かした方が良いでしょう? それに加え、私たちは戦い続ける必要があるからかしら。終わりのない戦い、…一応完結はしていたけども、それは望まれなかった。そんな戦いこそが私たちの舞台だし、私たちはきっとずっとダーガーと戦い続けるんだと思う
ガンマ: ヘンリー・ダーガーを、あなた達の作者をご存じなのですか?
ヴァイオレット: もちろん。ダーガーは私たちに干渉していたし、ダーガーにとっては私たちに干渉されていたと思ってるでしょうね。私たちにとって境界は曖昧だし、どうでもいいこと。ダーガーが私たちを通じて何かを見ていたのかなんて知らないし。でも、そうね、あの蛸葦の影はどこかで見ていたような気もする。私たちはダーガーの現実を侵食し、ダーガーは私たちの世界を侵食したのだけど、あの蛸も似たようなものじゃないかしら
アルファ: …つまり、あの蛸たちは、私たちの現実を侵食するということだろうか?
ヴァイオレット: 私たちは学者様じゃないから何とも。それにしても、ダーガーは死んだのに、何故私たちはこの海にいるのかしらね。あら、デイジー、え? また蛸が? それじゃあ、行きましょうか。あなた達もちょっと付き合ってくれる? そして、終ったらあなた達のお話を聞かせてね
[約10分後、SCP-XXX-JP-1-αの捕鯨砲によりSCP-XXX-JP-2への攻撃に成功。SCP-XXX-JP-2は映像ログ-008-1と同様に消滅するも、約30秒間イネ科の植物と思われる葉が数枚出現。回収には失敗し、消滅する]
«閲覧停止»
後の映像解析により、上述の葉はヨシ(Phragmites australis)であることが判明。これ以降、約10%程の確率でSCP-XXX-JP-2死亡時、ヨシが発生することが確認される。
SCP-XXX-JP探索映像ログ-008 #3(書き起こし抜粋)
日付: ████/██/██
探索人員: 特別編成部隊("[部隊名未設定]")/A.水津(隊長/アルファ)/A.表門(副隊長/ベータ)/A.伊井(ガンマ)
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内部の探索、及び行方不明人員の確保、調査
«閲覧開始»
[SCP-XXX-JP侵入から約1週間が経過。SCP-XXX-JP内の詳細調査内容を確認]
アルファ: この前の嵐はひどかったな。すっかり俺たちも海の人間だ。で、調査の結果だが、どうだ、ガンマ
ガンマ: まず、上空にドローンを飛ばしてみましたが、一定の距離で停止、その先は確認できません。簡易気球や小型機でも同様の状態でした
ベータ: 水は軽く調べただけですが、一般的な海水と組成はほぼ同じですね。ただ、生物の体液らしきものが含まれています
アルファ: その分析までは難しいか。生物はどうだ?
ベータ: 確認出来るかぎり、既存の海域における生態系とは逸していますね。赤道直下の熱帯魚と北極点付近の生物が同時に泳いでいるのが確認できました。また、これまでに確認されていない奇妙な生物もいくつか。加えて言えば、陸生の生物も確認されます
アルファ: それらの生物が生息する陸地がせめて見つかればな
ヴァイオレット: 私達もずっとこの海を進んでるけど、陸地は全く見たことないわね。陸地かと思ってもあの大きな蛸葦だったり、他の廃船だったり
アルファ: どこまで広がっているかも判別不可能。帰還の目途も立たないか。あのクラーケン、SCP-XXX-JP-2については何か分かったか?
ガンマ: 蛸自体は、生存している状態では実体が存在します。しかし、その実体を調査したところおおよそ生物とは呼べませんでした。ここから、何らかの固定化された概念、あるいはミーム実体ではないかと推測されますね。また、データベースを調べましたが、何件か蛸をイメージとして利用する不明な概念実体の存在が確認されています。共通点としては、創作に関連し、多くの場合7・7・7・5音または5・7・5音の音数律、前者は都都逸、後者は俳句が一般的でしょうか。それらが確認される傾向にあります。財団もまだこれらを同一の存在とは確定しかねているようですが
[ガンマがクローズ端末の映像を転送。SCP-1808-JPを初めとする数種類のオブジェクトが列記されている]
ヴァイオレット: 7・7・7・5? 5・7・5? そういったリズムなのね?
アルファ: 何か思い当たることがあるのか? あなた達は私たちよりおそらくはこちらに近い。何か気づいたことだけでもあれば嬉しいのだが
ヴァイオレット: …いえ、それは、その蛸は物語を媒介として出てくるのよね。なら、物語として、言葉としてしかそれらの信号を出せないのかしら? …4つのリズムでは通じず、3つのリズムで通じる? それが1つの意味を持つとすればどうかしら?
ベータ: これが何かのメッセージだと? ううん、俺にはどうにも安っぽい自己顕示欲に感じる。なんというか、苦しいんだけどそれを表現できてないというか
[SCP-XXX-JP-Aらが一瞬行動を停止し、互いに視線を交わし頷き合う]
ヴァイオレット: 苦しみ? そうか、苦しみなのよ。それを叫ぶのも下手糞って訳? 私たちは呼ばれたのね、この切り取られた海に
[強い衝撃により画面が激しくぶれる。SCP-XXX-JP-Aらの慌てる姿と船外に伸びる2mほどの触腕が確認される]
ベータ: SCP-XXX-JP-2です! 隊長! 避難を!
ヴァイオレット: 待って! 私に何か音の録れるものを貸してくれない!?
[ガンマがヴァイオレットへ録音機器を投げ渡す。ヴァイオレットが渡された録音機器を触腕へ投擲。SCP-XXX-JP-2はそれを掴み水中へ埋没]
アルファ: 何を!
ヴァイオレット: あなたの魂を救いにいくのよ! 総員、あの蛸葦を狙って! あの蛸葦は
[キャッチャーボートから捕鯨砲が発射。SCP-XXX-JP-2に命中する光景が確認される]
ヴァイオレット: 私たちなのだから!
«閲覧停止»
SCP-XXX-JP探索映像ログ-008-3事案後、SCP-XXX-JP-2に奪取されていた録音機器が回収されました。以下はその録音機器に新しく追加された音声データです。
SCP-XXX-JP音声ログ
SCP-XXX-JP探索映像ログ-008 #4(書き起こし抜粋)
日付: ████/██/██
探索人員: 特別編成部隊("[部隊名未設定]")/A.水津(隊長/アルファ)/A.表門(副隊長/ベータ)/A.伊井(ガンマ)
対象: SCP-XXX-JP
目的: SCP-XXX-JP内部の探索、及び行方不明人員の確保、調査
«閲覧開始»
[SCP-XXX-JP探索映像ログ-008-3事案後、音声ログを確認]
アルファ: モールス信号だな。それも一番有名な奴だ
ヴァイオレット: ええ、4つのリズムであればIWNIだけど、それでは決して伝わらない。これは3つのリズムでようやく意味を持つ
ガンマ: SOS、救難信号ですね。…しかし、何故SCP-XXX-JP-2が救難信号を?
ヴァイオレット: それはもちろん、魂を助けてほしいからよ。貴方達にとって此処を覆っているものはただの鉄筋コンクリートかもしれないけれど、その中に脳があれば頭蓋になる。私たちがダーガーの現実に干渉したように、私たちや蛸葦は頭蓋と脳の間で生まれ、そして、廃船にも捕まらなかった、救われなかった蛸がきっと干渉するんじゃないかしら
アルファ: …つまり、脳が施設の中に密閉されることで、施設が頭蓋骨と解釈された、と? ではこの海は特殊概念、あるいは攻撃的概念の存在する海というだけではなく、人体に起因するということか?
ヴァイオレット: 多分だけど、それを切り取った…、スナップ写真、コラージュみたいなものだと思うわ。でないと私たちもあの蛸になっているから。きっと貴方達の脳と頭蓋の間にもこの海は広がっている。でも、それはきっと違う海。もっと曖昧で、もっと捉えどころがない。ここはあくまで、誰かの解釈によるものだと思う
ガンマ: 無意識領域下、深層心理の海であり、そこに抑圧された存在がSCP-XXX-JP-2。それを1つの形にしているのがこの海であると? 葦に変化するのはパスカルの影響でしょうか? また、これまでの事案はSCP-XXX-JP-2がこの海に収まらなくなった結果? 少なくともこの異常な海面に起因するものであるという推測は可能かもしれません。もう少し正確な計測機器があればよかったのですが
ヴァイオレット: そこまでは分からないわ。でも、私たちはこの切り取られた海に迷い込んできた誰かの蛸を、沈めるのではなく、生き永らえさせるのではなく、倒す必要がある。救いを求める叫びさえ満足に出せない魂を救うためにここで戦っているんだわ。私たちやこの廃船もまた蛸なのだけど、私たちはこれ以上大きくならないから。そして、この切り取られた海なら、貴方達を抜け出させることが出来る
アルファ: つまり、帰還の方法があると?
ヴァイオレット: ええ、この海に浸る脳なら救えるわ。ブレンゲン!
[映像が激しく歪み、人型及びいくつかの生物実体と推測される存在が確認される。映像の著しい異常により以降、音声のみ]
ベータ: 何だこりゃ!? 化物!? 映像に映らないぞ
ガンマ: ブレンゲン、『非現実の王国で』に登場する生物ですね
ヴァイオレット: 貴方達は頭蓋の中に落ちた、ならばその孔があるはず。そこへ向かわせるわ
アルファ: しかし、これまでの調査でそんなものは
ヴァイオレット: ええ、これまではね。でも私たちはヴィヴィアン・ガールズ。ならばこの物語には私たちが干渉する。私たちが"ある"と私たちが言えば"ある"のよ。貴方達が観測してくれる以上。だから貴方達は帰らなくてはならないわ。ブレンゲン、ちゃんと送り届けてね
アルファ: 待て、貴女達は
ヴァイオレット: 私たちはこの海で戦い続ける。SOSに、"Save Our Soul"に応えるために
アルファ: 貴女達はそれでいいのか? この海の中で
[多数の笑い声が確認される。徐々にそれらが遠ざかる]
SCP-XXX-JP-A: ええ、構わないわ。何度だって立ち上がるし、何度だって戦ってみせる。私たちは現実の貴方達を救うことはできないけれど、応えることはできる。私たちは孤独の中に生み出されて、苦しみを糧に大きくなった。望まれずにいつまでも付けたし、書き続けられた。叫ぶために、今見ている世界をパッチワークのファンタジーに留めるために。私たちは貴方達のヒロインじゃない。あの蛸も貴方達のヴィランじゃない。だからこそ、貴方達は、貴方達で救われるべきよ!
[風を切る音が響く]
SCP-XXX-JP-A: 私たちはヴィヴィアン・ガールズ! 貴方達の魂を救わせてあげるわ!
«閲覧停止»
████/██/██、上述の排気口より特別編成部隊が脱出に成功。上述の情報の回収に成功しました。これ以降の探索はいずれも人員の未帰還という結果に終わっています。
補遺: 上述の探査以降、財団の補足した人物において『非現実の王国で』に起因すると推測されるアイデア、イメージの観測例が僅かに上昇していることが確認されています。これらの創作者は多くの場合創作を行っており、これまでに確認された不明な概念実体の出現パターンと一致することが確認されています。これを受け、現在財団内では暫定的に"蛸葦廃船"の名称を用いこれらの概念実体群を定義しています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの出現は財団の世界監視システムによって即座に発見、同定が行われます。SCP-XXX-JPの発生が確認された場合、即座に近隣の都市部を閉鎖、住民の速やかな避難を誘導してください。また、これに並行してSCP-XXX-JP-A対象者の同定、確保及びEクラス職員としての臨時雇用を行ってください。確保されたSCP-XXX-JP-A対象者がSCP-XXX-JPの殺害に成功したことを確認した場合、SCP-XXX-JP-A対象者には簡易インタビュー及び事実確認を行ったのち、軽度の記憶処理を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは世界全土において、夜間不定期に出現する人型実体です。
現在までの出現事案全てにおいて、SCP-XXX-JPは10代女性の姿を取り、容姿は出現場所付近で24時間以内に死亡した女性の少女期と一致します。また、SCP-XXX-JPは出現と同時に何らかの踊りを行い続けます。踊りの内容はクラシックバレエ、民族舞踊、ブレイクダンス、創作ダンスなど多種にわたり一貫性は確認されません。
SCP-XXX-JPが踊りを継続した場合、周囲の生物は夜明けを知覚することが不可能になります。影響を受けた人物、生物はこれにおおむね肯定的、順応的であり、夜が継続する状況に混乱する様子は見られません。この異常性の範囲は指数的に拡大することが確認されており、最終的にはCK-クラス:再構築シナリオに移行すると仮定されています。
SCP-XXX-JPとのコミュニケーションは後述するSCP-XXX-JP-A対象者によるものを除き成功していません。SCP-XXX-JPは現在財団が保有するすべての処置、攻撃に対し高い耐性を得ており、SCP-XXX-JP-A対象者以外の干渉を受けません。
SCP-XXX-JP-AはSCP-XXX-JPにおける容姿のオリジナルとなった人物の関係者に発生する現象です。対象となった関係者のもとには1丁の自動拳銃が出現します。対象者は拳銃の出現に伴い、SCP-XXX-JPの現在位置を正確に知覚できることが可能になり、SCP-XXX-JPを殺害する必要性があると知覚します。SCP-XXX-JP-Aの発生基準は明確ではありませんが、多くの場合オリジナルの人物と非常に親密な関係の人物が選ばれる傾向にあり、両親、配偶者、恋人などが対象に選ばれる傾向にあります。
この異常性からSCP-XXX-JP-A対象者はSCP-XXX-JPに接近、殺害を行います。この殺害においては現在時点で全員が成功していますが、その関係性から過半数のSCP-XXX-JP-A対象者は逡巡し、最長で25時間SCP-XXX-JPの殺害を躊躇った例が確認されます。
以下はSCP-XXX-JPと財団が確保したSCP-XXX-JP-A対象者の会話ログです。
会話ログXXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
対象: SCP-XXX-JP(出現5時間前に非異常性の疾患で死亡した██氏の容貌を持つ) / SCP-XXX-JP-A対象者(██氏の父親)
<再生開始>
財団司令部: では██さん、会話を行ってください
対象者: 分かっています。俺が、俺がやらなくちゃいけないんですから。…██(SCP-XXX-JPモデルの本名)、何故踊っているんだ
SCP-XXX-JP: 夜の次には朝が来るから、ずっと、朝が来るまでなら踊っていられるの
対象者: 疲れないのか
SCP-XXX-JP: 疲れない。いつまでだって踊り続けられる、そうあってほしいでしょ? だから、朝が来るまでは
対象者: [1分ほどの沈黙] そうか。でも、駄目なんだ。朝は来なくちゃいけないんだ、██。みんな、朝は来てほしくないけれども
SCP-XXX-JP: そう、分かった。ずっと踊っていたいけど、朝なんて来てほしくないけど。それが駄目なら止めてほしい。ずっと夜の中にいるのが嫌なんだったら
対象者: 嫌なわけがあるか、ずっとお前の踊りを見ていたい、生まれてからずっとベッドに眠っていたお前の踊りを見ていたい。こんなに美しく育つはずだったお前と一緒に踊りたい。でも駄目だ、駄目なんだ
財団司令部: ██さん、既に彼女はあなたの娘さんではありません
対象者: 分かっています。分かっているんです、死ぬほどに。だから、でも、だからこそ
SCP-XXX-JP: [1分ほどの沈黙] 分かってる。楽しかった?
対象者: ああ、楽しかった、嬉しかったよ、だからとても苦しかった。そしてきっと、もっと、ずっと悲しいんだ
SCP-XXX-JP: 泣かないで。私は悲しくないし苦しくないから。だから、夜明けまで踊っているの
対象者: ごめんよ、お前を
SCP-XXX-JP: 救えなかった
[約10秒後、対象者によりSCP-XXX-JPが射殺される]
<再生停止>
殺害されたSCP-XXX-JPは同質量の生理食塩水に置換されます。また、SCP-XXX-JPの影響下にあった人物はSCP-XXX-JPの消滅と同時に夜明けを知覚し、急速に影響下の記憶を忘却していくことが確認されています。この忘却現象はSCP-XXX-JP-A対象者には発生せず、記憶処理を行ってもSCP-XXX-JPを殺害した、という記憶が失われることはありません。
アイテム番号: SCP-1756-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-1756-JPは個体数を把握したうえで追跡、探索を行い、一定区域外への偶発的な流出を防いでください。"アバドンイベント"に使用される洞窟は冬季の間侵入を禁止し、SCP-1756-JP以外の生物の侵入を排除してください。
説明: SCP-1756-JPは██県██集落付近に生息するトノサマバッタ(Locusta migratoria)の亜種と推測される昆虫です。生態はトノサマバッタの群生相31と類似しており、イネ科の植物の草本を中心とした食性を持ちます。食欲は同種と比べると非常に僅少で、付近の植物相に影響を与えることはありません。
通常の同種との大きな違いとして、長距離移動に適した生体にも拘らず██集落付近の地域に留まる傾向があることが確認されています。また、メス個体は腹部に10〜20本の産卵管を持ち、そのうちの1本が特有のフェロモン32を分泌し、最も多く産卵管を持つメス(SCP-1756-JP-A)を中心に、10匹〜100億匹程度の社会性のある群れを形成することがあげられます。
おもに初夏と秋に産卵を行い、夏季は1か月ほどで孵化しますが、秋に産卵した卵は翌年春に一斉に孵化します。孵化した幼生のメスは共食いにより産卵管の取り合いを行い、最初に10本の産卵管を持ったSCP-1756-JP-Aを筆頭に新たなSCP-1756-JPの群れを形成します。
「アバドンイベント」: "アバドンイベント"は冬季に発生する異常イベントです。SCP-1756-JPの群れは冬季になると██集落に存在する洞窟へと移動します。洞窟へ移動するとSCP-1756-JP-Aは上述のものと異なるフェロモンを分泌した後、約100匹程度を従え洞窟外へ移動、越冬を行います。残されたSCP-1756-JP群は洞窟内にて共食いを行います。
また、この際洞窟内にSCP-1756-JP以外の生物(以下、関係生物)が存在した場合、その食性、知能に関わらず共食いに参加することが確認されています。SCP-1756-JP及び関係生物は共食いを行った回数に比例し筋力の増加、体躯の異常な発達等が確認されます。この共食いは洞窟内のSCP-1756-JP及び関係生物が1匹になるまで行われます。以下はこれまでに財団が確認した関係生物の一部リストです。
関係生物: SCP-1756-JP個体
特徴: 全長約2mほどに変化し前翅、後翅、後脚が著しく発達。外骨格も発達し、通常のキチン質に加え、多様なタンパク質等の比率からなる多層構造へと変化していることが確認された。凶暴性も増しており、財団職員への攻撃を行ったことが確認される。財団の関与以降、実験を除き通常の出現はこの個体に限定される。
備考: 財団による攻撃及び捕獲作業中、約20分で衰弱死。寒冷気候に適応していなかったと推測される。
関係生物: ニホンジカ(Cervus nippon)と推測される個体
特徴: 体長約3mほどであり、非常に発達した角を持っていたとされる。食性も肉食に変化し、他の生物を襲っていたところを猟師数人がかりで捕獲したとされる。
備考: 付近集落の伝承による。アバドンイベントに遭遇したものと推測される。
関係生物: ミスジマイマイ(Euhadra peliomphala)
特徴: 全長約5m程に変化し、移動速度が時速約18km程に増加。食性は変化していないものの歯舌が発達しており、移動と共に地盤を削り取ることが確認された。
備考: 周囲をしばらく徘徊したのち行動を停止、殻内に潜行したのち休眠状態に移行した。寒冷環境によって冬眠したと推測される。現在は回収され特異生物研究ブロックにて飼育されている。
補遺1: ██集落において、SCP-1756-JPの起源に関係するとされる口承説話が伝わっていることが確認されました。以下は、██集落の██氏に対する取材ログです。
取材記録1756-JP-01 - 日付 20██/██/██
対象: ██氏
インタビュアー: エージェント・新田
付記: ██氏は██集落における最年長の生存者であり、エージェント・新田は民族学関係の調査としてインタビューを行っている。また、██氏の発言は強い訛りがあるため、一部固有名詞を除き標準語に変換されている。
<録音開始>
(事実確認の為省略)
██氏: んだもんで、俺の爺様のまた爺様の爺様くらいの古い話だと聞いてるがな。この村がウンカにやられたのよ
エージェント・新田: なるほど、いわゆる蝗害が発生したと
██氏: そうそう、コメが全部やられてな。ここいらは冬場はえらく冷えるから、蓄えもねえしこのままでは死ぬか村を捨てるしかねえという話になったんだと。で、当時の名主が流れの行者、御行ってやつだな。それにどうにかならんかと相談したそうな。そうすると行者、あどん様に頼めと
エージェント・新田: あどん様ですか。聞いたことない名前ですね
██氏: だな、俺も知らねえが、そのあどん様ってのは蝗の神様なんだと。で、名主藁にもすがる思いで念じたらあどん様が出てきてなんじゃいなと聞いたそうだわ。そこでかくかくしかじかこういうわけじゃからどうにかならんかと尋ねてみた。するとあどん様、んなこたあ俺の知ることじゃねえや、ここは俺の国じゃねえし、ってんだけどもよ、村一同なんとか、って頭下げて頼み込んだ。それ見てあどん様、まあ、そこまで頼まれてんだったら仕方ねえや、そのかわり、覚悟はいいな、苦しいことなくしてうめえ話はねえぞって言ってこの山の奥の洞窟に消えたんだと。昔はあの近くにまで村があったが、俺の爺様の爺様くらいに出水があってな。そっからはほとんど寄り付かねえというか、俺も場所もわかんねえんだが
エージェント・新田: はあ、覚悟というのはなんなんでしょうね
██氏: それがまあ、バッタがよく出るようになっただけなんだという話だ。年に一度は馬ほどもあるのが出て暴れたと聞く、まあ、覚悟というには拍子抜けだがな
エージェント・新田: それが苦しいことだったのでは? 馬ほどのバッタが暴れたら大迷惑でしょうし
██氏: つっても、それが出たのは冬のころだと聞くからバッタなんぞ死んじまうしなあ。たいしたことねえやな、あどん様は暖かい国の出だったんだろうな。で、話の続きなんだがな、おかげさまで村は助かった、とっぴんぱらりのぷうだ
エージェント・新田: え、デカいバッタが出てめでたしめでたしですか? おかしくないですか? 少なくとも気持ち悪いとか、そうだ、そのあどん様の言ううめえ話ってのは
██氏: そりゃアンタ、バッタうめえだろうよ
<録音終了>
補遺2: "アバドンイベント"後生き残った関連生物を調査したところ、通常の同種と比較して非常に高たんぱく、高脂質であり、摂食すれば無機質やビタミン等の必須栄養素が過不足なく摂取できることが確認されました。また、Dクラスを用いた摂食実験においては全員が味に高い評価を行いました。現在、 財団糧食部がSCP-1756-JPを研究し、フィールドエージェントの携行食として加工する案が審議中です。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの特別収容ユニットは特殊衝撃吸収素材を用い、SCP-XXX-JPへの衝撃、損傷を防いでください。SCP-XXX-JPへの破壊、損傷を伴う検査は一切が禁止されています。SCP-XXX-JPの損傷が発生した場合、ユニットを隔離及び現実性固着装置群を用い、可能な限り他宇宙の浸食を防いでください。
説明: SCP-XXX-JPは███ ██とされる日本人女性です。SCP-XXX-JPは戸籍上現在時点で15歳であり、14歳時点からの消息は不明とされています。
SCP-XXX-JPは現在、眼球、鼻梁、鼓膜、舌及び全身の表皮を喪失しており、切除された各部分は熱による凝固止血が行われていることが確認されています。また、第I脳神経等、感覚を司る神経が正常な機能を有していないことが確認されており、五感を喪失していると推測されます。これらの損傷にも拘わらず、SCP-XXX-JPは生存しています。
SCP-XXX-JPの背部には日本仏教における曼荼羅図が非異常性の方法で彫られています。特徴から金剛界曼荼羅と推測されますが、本来成身会の中尊である大日如来が存在する部分は空白となっています。
SCP-XXX-JPはGoI-2722"鉄錆の果実教団"に対する第一次襲撃作戦時、同様の処置を施された複数の遺体及び以下の文章と同時に発見されました。これらの遺体は同教団の信者が多数を占めていることが確認されています。
SCP-XXX-JP関連文章-1
デモンストレーション用信者 成所作智
使用方法
儀式の秘奥に至った例として提示。五感を喪いつつも生きているといった部分を主張すること※もって5日なのでそれ以内に披露すること
担当者: ██
原理は不明だが5番目はまだ生きている。宣伝にはちょうどいいので上層部の意見を仰ぐ
この文章より、SCP-XXX-JPらは教団においてなんらかの施術あるいは拷問を受けたのち、信者の教化に使用されており、SCP-XXX-JPの異常性発現は偶発的なものであったと推測されます。
インシデント記録XXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、収容されたSCP-XXX-JPの破壊耐性検査が行われました。この過程でSCP-XXX-JPの表面を約2㎝切開すると同時に検査室周囲のHm値が著しい変動を見せました。これを受け検査は中断し、変動の理由について即時調査が行われました。調査の結果、SCP-XXX-JPの表皮下は著しいHm変動が発生しており、SCP-XXX-JPの表皮下は現在この報告書が存在する宇宙とは異なる宇宙へのポータルに類似する役割を持つことが判明しました。インシデント時におけるHm値変動の原因はSCP-XXX-JP表面の切開に起因するものであり、SCP-XXX-JPの損傷は周辺現実へ不可逆的な崩壊を齎すとされ、これ以降の破壊検査は禁止されています。
聴取ログXXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
20██/██/██、GoI-2722"鉄錆の果実教団"に対する第一次襲撃作戦時に逃走したとされる教団幹部、陸奥 ██氏が身体の保護を求め財団に亡命を行いました。これを受け、情報、技術提供を行うという条件のもとこれを保護、襲撃作戦時発見されたSCP-XXX-JPを含む複数のオブジェクトに対し聴取が行われました。以下はその抜粋です。
担当者: 楠木博士
対象: 陸奥 ██氏 (GoI-2722"鉄錆の果実教団"幹部)
«再生開始»
楠木博士: インタビューを開始します。まず、あなたの情報ならびに亡命の目的を再度確認させていただけますか?
陸奥氏: 私は陸奥 ██。鉄錆の果実教団において信者の管理、秘密の管理を行っていました。亡命の主たる目的としては同教団のメンバーによって心身が危険に晒されていると考えたためです。彼らは秘密を握る私をどのような方法を使ってでも捕えようとするでしょうから
(事実確認の為省略)
楠木博士: では、次に███氏のことについて話を伺いたいのですが
陸奥氏: あれのことですね。最初に言っておきますがあれには私は関与していません。もちろん、体を保つためにいくつか私の知る処置は行ったでしょうが、あんなことになるとはだれも予想していなかったはずです。それは覚えておいてください
楠木博士: 分かりました。やはり偶発的な発生であるということですね。ではそれを踏まえ、彼女たちはあなた方の信者であることは間違いありませんか?
陸奥氏: 私はあれらをカルト化した信者たち、いや、教団そのものの暴走の果てだと考えています。ほとんどはあんなバカげたやり方で真の救済に繋がると本気で信じていたようですが、あんなことで救われるとは私は考えませんね。教団の側も面白半分だったのでしょう、金剛界曼荼羅を彫り込むならば胎蔵曼荼羅も描くべきです。それだけを描く秘密があるならばまだ分かるが、形だけを整えてその中は伽藍です
楠木博士: 表面だけが整えられているようなものだと?
陸奥氏: そうですね。あなたがたはあれを入口だと認識しているかもしれませんが、あれは魂のない仏のようなものですよ。あれの中の空洞に詰まっているのは際限のない自意識のみ。まったくもっておぞましい。そんなことも考えていないのですから、いえ、もはや気づく者もいなかったのでしょうね。もっとも、狂信だけでなく見せしめの意味もありましたから中途半端な出来損ないでちょうどよかったのかもしれませんがね
楠木博士: ███氏はそのどちらだったのでしょうか
陸奥氏: [数秒沈黙]そのどちらでもなかったでしょう。あれは敬虔な、悪い冗談ですがそういった信者ではなかった。その一方で、反発を抱いている風もなかった。何を求めているのか、何を考えているのか分からない人間でした。孤独を好みニヒリズムを拗らせているような年頃ですからね、さもありなんと私は思っていましたが。[数秒沈黙]正直なところ、あれに参加したと聞いた時は驚きました。何も信じていないという風だったのに、と
楠木博士: なるほど、ここまで聞いても異常に繋がる部分は見当たりませんね。陸奥さんは何かほかに彼女だけが生存した理由に思い当たりませんでしょうか
陸奥氏: まったくもって。ですが、あれを管理していた人間から聞きました。あれ以外の被験者はその多くが死ぬ前に発狂していたようだと。それはそうだと思います。阿頼耶識に通じるうち五識を喪い、残る意識を以て思惟することでしか宇宙に向き合えぬのでは、とてもとても
楠木博士: では、███氏は発狂の様子を見せていなかった、と?
陸奥氏: 私の知る限りでは。むしろ穏やかな笑みを浮かべていたということですよ。幸せな夢でも見ているように、とね
«再生終了»
実験記録XXX-JP
上記のインタビューを受け、SCP-XXX-JPはポータルではなく異なった宇宙そのものであるという仮定の下、SCP-XXX-JP内部に展開する宇宙をSCP-XXX-JP自身の認識として認識、出力する実験提案が行われました。これはHm値測定機器及び脳波測定器等を利用し、同一パターンに当てはめる手法であり、臨床段階であることに注意してください。この方法を用いた結果、断続的な映像、画像の抽出に成功しました。以下はそのリスト、記録の抜粋記録です。
抜粋画像記録XXX-JP-01
日時: 20██/██/██
付記: 最初の実験において得られた画像。実験時、SCP-XXX-JP内部のHm値は0.5±0.12であり、著しく低い状態であった。
抜粋映像記録XXX-JP-01
日時: 20██/██/██
《00:00:05》 不明な視点から映像が開始。超高度から落下していると推測される。視点の周囲には可視光と不定の物質が存在する。
《00:00:19》 視点内の時間が逆流していると推測される。視点の周囲が歪曲、可視光の消失に伴い映像は暗転する。
《47:22:08》 可視光が発生。視点は何らかのプラズマ体を確認している。
《198:87:51》 可視光が消滅。映像は暗転するも、視点は振動していると推測される。映像が断絶する。
抜粋映像記録XXX-JP-02
日時: 20██/██/██
《00:00:14》 空を見上げる一人称視点から映像が開始。上空には星空が広がるが、星の配置は地球上において確認されるものと異なっている。
《00:00:32》 視点が上空からのものへ変化。1つの大陸とそれを囲む海が確認できる。直後、大陸が分裂。
《19:52:18》 視点が地表近くへと変化。不明な生物の死体を観察している。生物は蟷螂目の生物に類似しているが、頸部から淡い虹色の光を発しているほか、脚部にネジのような節が確認される。直後、視界が暗転。
《66:11:42》 視点は炎を確認している。映像から約90000℃程であると推測され、数分後に崩壊。不明なエアロゾル物質が縦に伸び、円を描く。何らかの物理法則が変動していると推測される。映像が断絶する。
抜粋画像記録XXX-JP-02
日時: 20██/██/██
抜粋映像記録XXX-JP-03
日時: 20██/██/██
付記: 実験時、SCP-XXX-JP内部のHm値は1.0±0.001であり、標準Hm値に近く非常に安定した状態であった。
《00:00:01》 不明な室内を見上げる一人称視点から映像が開始。一般的な戸建て住宅と推測され、視点は朝食を取り登校する。その際確認された視点主の容貌はSCP-XXX-JPと一致した。
《05:0:00》 一般的な公立高校において標準的な授業カリキュラムを受ける。異常は確認されないが担任教師の容貌は陸奥氏と一致する。
《07:0:00》 授業が終了。視点は校庭のトラックを走っており、何らかの部活動であると推測される。
《08:00:00》 帰宅途中と推測される。同級生とみられる複数名の人物と共にクレープ、唐揚げ等を購入。
《09:00:00》 帰宅・両親とみられる人物と軽く論争するも和解。一般的な高校数学の問題集を解いたのち就寝。映像が断絶する。
抜粋映像記録XXX-JP-04
日時: 20██/██/██
《00:00:01》 映像開始から約1か月の間、不明な山林の映像が継続。映像断絶直前、視界の全てが現実性の希釈と推測される現象によって崩壊し、映像記録XXX-JP-03と同様の光景に変化することが確認される。
聴取ログXXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
映像記録XXX-JP-03を受け、再度陸奥氏へ聴取を行いました。以下はその抜粋です。
担当者: 楠木博士
対象: 陸奥 ██氏 (GoI-2722"鉄錆の果実教団"幹部)
«再生開始»
(事実確認の為省略。なお、陸奥氏は抜粋および編集した映像記録を視聴済み)
楠木博士: 映像は確認していただけたかと思いますが、どうでしょうか
陸奥氏: [数秒沈黙]あの映像は本当にあれの中にあるというのですか?
楠木博士: 確定とは言えません、我々の技術としても臨床段階です。しかし、1つの情報であることは確かでしょう。それを踏まえ、あの一連の映像に何か意見などはありますでしょうか
陸奥氏: そうですね。あれが何故自ら志願したかは分かったような気がします
楠木博士: それを教えていただけますか?
陸奥氏: [数秒沈黙]あれはもう何もいらなかったのだと思います。人と人の間と書いて人間と読みますが、その間すらも必要なかったのだと。だから目を抉り、鼻を削ぎ、耳を破り、舌を抜き、皮を剥いで、何もかもを失くしたかったのだと思います。そこまで至る過程など私にはわかりませんが、そういった結果があれの中にはあったのでしょう。全てを失くしたとて向き合う意識に飲み込まれるか、際限なく広がる宇宙へ自意識を広げるだけだというのに
楠木博士: 彼女は後者であったと、そう貴方は言いたいのでしょうか
陸奥氏: だからこそおぞましいのです。あれは分かっていた、なにもない伽藍を自分で満たし、五智の全てを自分で賄うと。愚かなことです。何もないならば望むままにあればいいなどと、法界体性智に、大日如来に自らがなればよいのだと、傲慢にもほどがある。そんなことでは秘奥に辿り着けるはずもない
楠木博士:そこへあなたがいた理由に心当たりは?
陸奥氏: 伽藍の堂に理由があると? そこにないことに理由があると? あれが私をどう見ていたかなど分かるものか、分かってたまるものか。それはあれだけが持つべきことです。今あれの中に広がる宇宙は魔境にすぎません。[数秒沈黙]全てをなくして、人間であることを拒んで、そして辿り着いた先が平穏な世界ですか。あれが望んだものはそんなものだったのですか。まったく、まったく間抜けです、哀れなものです
楠木博士: 落ち着いてください。陸奥さん
陸奥氏: 何も、[数秒沈黙]あれが何もかもなくす必要は、彼女が如来になる必要は何もなかった
«再生終了»
補遺: 現在、SCP-XXX-JPのHm値は安定しています。また、これの安定と同時期にSCP-XXX-JP表面の曼荼羅図に大日如来が新たに彫り込まれていることが確認されています。大日如来の容貌はSCP-XXX-JPと酷似しており、笑みを浮かべている様子が確認されています。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの発生が確認された場合、周囲のエージェントは対象となった人物を迅速に補足してください。補足後は呼びかけ等を行い現象を速やかに終了させてください。現象終了後は周囲の映像機器を適切なカバーストーリーを用い押収、あるいは破壊し、対象者及び目撃者へ簡易記憶処理を行ってください。
説明: SCP-XXX-JPは不定な周期で不特定な人物(以下、対象者)に発生する異常現象の総称です。
対象者に人種・性別・職業・門地・思想等、社会的・生物学的な基準は確認されません。同様にSCP-XXX-JPの発生場所に地域的な偏りは確認されません。
これまで確認された中でSCP-XXX-JPが発生する条件は以下の通りです。
- 夏の日中(おおよそ午前10時から午後4時までの間)
- 対象者が太陽の方向へ向かい歩行している
- 対象者の前方に明確に歩行を阻害する障害物、地形が存在しない
- 対象者の前方に第三者が存在しない
条件を満たしSCP-XXX-JPが発生した対象者は前方へ向かい歩くことに段階的な高揚感を覚えます。これは軽微なものであり、第三者からの呼びかけ等で停止することが可能です。この結果、多くの場合対象者の足取り、立ち振る舞いは他者から見て堂々としたものになることが確認されます。
SCP-XXX-JPの発生と同時に対象者の影は後方へ異常な伸長を見せ続けます。この伸長現象に伴い影がおおよそ対象者の身長の2倍を超えた時点で、影から多様な実体群が出現し、対象者を先頭とした行進を行います。実体の多くはヒトと似た体躯を持ちますが、巨大な節足動物、哺乳類等ヒト以外の生物と似た体躯を持つ実体及び、西洋伝承におけるドラゴン、日本伝承における鬼など空想上の生物、工業機械や乗用車など生物以外の実体も確認されます。実体群は全身を塗りつぶしたような黒色の体色を持ち、目撃者からは"影のようである"と表現されます。
SCP-XXX-JPの発生から時間が継続し、影が伸びるほどに実体群の数は増加します。数の増加とともに、実体群は行動を変化させます。以下はその大まかな工程表です。
XXX-JP行動変化表
発生数 | 行動 | 注記 |
---|---|---|
1~5 | 対象者の背後を歩行する | |
6~10 | 対象者の背後を歩行しつつ、実体同士で会話のような仕草を見せる。実際に発話は確認できず | 踊りのような仕草を見せるものも確認される |
11~30 | 実体の周囲に楽器を模したと思われる影が出現。それらを用い、演奏のような仕草を見せる。また、対象者以外の周囲の物品、人物に会話などの干渉を開始する。発音は不明瞭 | 明確な踊りが発生。ただし、行進に支障をもたらすものではない。また、実体群は地面を踏み鳴らすように行動する |
31~100 | 大規模なパレードと同様に行進が開始される。周囲への干渉は過激になり、巨大な実体による脚部での踏み潰しを主にした攻撃が行われることもある | 実体の口元が変化。"笑顔を見せている"と表現される |
101~ | インシデント記録XXX-JPを参照 |
SCP-XXX-JPは対象者の前方に明確に歩行を阻害する障害物、地形、あるいは第三者が出現する、もしくは対象者がSCP-XXX-JP発生以降、背後を振り向くことで即座に消滅します。この特性によりSCP-XXX-JPは現在に至るまで大規模な収容違反に陥ったことはありません。しかし、各地の伝承に類似した記述が散見されることから、SCP-XXX-JPの起源は文明以前に遡ることが可能であるといった仮説も提唱されています。また、近年の撮影機器発達の影響により、その潜在的脅威度は増加しているとされ、研究が進められています。
インシデント記録XXX-JP: 20██/██/██、サイト-81██内において██博士を対象としたSCP-XXX-JPが発生しました。これに対しSCP-XXX-JPに対する研究を行う目的で、██博士を屋外収容エリアへ誘導、内部で行進を続けることによりSCP-XXX-JPの変化を観察しました。以下はその記録です。
映像記録XXX-JP
日時: 20██/██/██
《00:00:05》 ██博士の影が身長の2倍を超え、実体が出現
《00:38:52》 実体の総数が100を超える。多くがヒト型である一方、これ以前には確認されない特異な体躯の実体が若干出現。これらと収容されているオブジェクトの関係性を██研究員が指摘。██博士は非常に興奮した様子を見せる
《00:44:08》 実体の総数は132。巨大な実体によるエリアへの攻撃が増加。他実体もエリア内の物品を踏みつけることによって破壊している。ここで監視担当者が実験終了を指示。██博士は前進を行い続け、方向を転換。エリアを遮断する防壁の方向へ向かう。担当者の呼びかけには答えず
《00:46:11》 防壁に向かい██博士が歩き続ける。巨大な実体が踏み潰すことにより防壁を破壊。実体群から明瞭な笑い声が発生。のちの声紋照合により、これらの音声には複数名の職員の声が確認される。鎮圧部隊の緊急出動要請が受理される
《00:47:51》 機動部隊の到着、非殺傷武器で攻撃を開始。実体もそれに対抗し██名の機動隊員が負傷。██博士に対する非殺傷性攻撃の結果、██博士が背後を振り向きながら昏倒。これにより実体群は消滅。周囲の安全調査を行った後、異常事態宣言を停止。
当インシデント時、負傷した機動隊員は実体の消滅と同時に負傷が回復したことが確認されています。
以下は██博士に対するインタビューです。
聴取ログXXX-JP-01 - 日付 20██/██/██
担当者: 高研究員
対象: ██博士
«再生開始»
(事実確認の為省略)
高研究員: やはりというべきですが、インシデント時の記憶ははっきりしないと?
██博士: ああ、連絡で110を超えた、といったあたりまでは覚えているんだが、そのあとのことはほとんど覚えていない。ただ、ひたすらに胸の中に喜びが満ちていたことと、未だにあれらが話しかけてきたことは思い出せる
高研究員: 話しかけてきた、と。これまでの事例では発生した実体の発言を理解したことはありませんでしたが、やはり数の問題でしょうか
██博士: だろうと思うが、これ以上の実験及び研究は避けるべきだろうね
高研究員: ではどのようなことを話しかけてきたのでしょうか
██博士: 踏み潰せと、ただそれだけを伝えてきた
高研究員: なるほど、暴力や攻撃を示唆するということでしょうか
██博士: [数秒沈黙]いや、おそらく違う。君はあの実体の映像を確認したね。何かに気が付かなかったか?
高研究員: いえ、個体の判別は
██博士: 私は最後に振り向いたときに見た。██博士や、エージェント・██、SCP-███-JP-1を
高研究員: それは…、ならば、それらが復讐のために? あるいは何らかの悪意を以て?
██博士: 違うのだと思う。あれらはそれを良しと笑っていた。私の足取りを行進曲で盛り立てていた。先に進め、その先が地獄であろうとそれが人のパレードであると。やむを得ない犠牲などはない、我々を踏み潰し前へ進め、それが人の道行きであると。だからあれは悪意ではない、喜びに包まれた行進なのだと。[数秒沈黙]私は思ってしまった
«再生終了»
当インシデントを受け、SCP-XXX-JPの研究は暫定的に凍結されています。
アイテム番号: SCP-1544-JP
オブジェクトクラス: Keter
特別収容プロトコル: SCP-1544-JPとの交戦は許可されていません。SCP-1544-JPの出現が感知された場合、周囲の封鎖を行い、SCP-1544-JPの運搬が終了するまで対化学物質用防護服を装着したうえで遠距離からの観察を行ってください。SCP-1544-JPに観察が露呈した場合、迅速な撤退を行ってください。
説明: SCP-1544-JPは複数種からなる異常なアリ科(Formicidae)の群れです。
SCP-1544-JPはほぼ全ての個体が高い知能及び技術を持っていると推測され、同種らの外骨格から成形されたと推測される武器を初めとした道具、及びSCP-1544-JP内部での独自言語、蟻酸や蟻毒を用いた化学兵器及び幻覚剤、記憶処理薬等の使用が確認されています。SCP-1544-JPは流動的であるものの種ごとに分業されていると推測されています。以下は各種ごとの行動例です。
便宜的分類呼称 | 種類 | 役割 | 特徴 |
---|---|---|---|
A群(攻撃部隊) | キバハリアリ亜科(Myrmeciinae) グンタイアリ亜科(Ecitoninae)等 | 一般的な働きアリと同様の役割を担います。通常時は対象の運搬及び周囲の警戒などを行いますが、攻撃の際は全個体がメディアの役割を果たし、前述の銃火器、殺虫剤及び高熱に対応した装備等の使用が確認されています | SCP-1544-JP中最も数が多い役割であり、SCP-1544-JPのうち約8割を占めていると推測されます |
B群(化学部隊) | ハリアリ亜科(Ponerinae) ヤマアリ亜科(Formicinae)等 | 主に蟻酸や蟻毒など化学物質の放散を行う役割を担います。これらは多くの場合、SCP-1544-JPの行動を隠匿する目的で散布されています | これらの化学物質は前述の種らの武器としても使用されており、SCP-1544-JPとの接触時には大量の蟻酸による健康被害、蟻毒によるアナフィラキシーショックに対する警戒が必要です |
C群(斥候部隊) | カタアリ亜科(Dolichoderinae)等 | 攻撃時における破壊工作、潜入行為を担います。また、後述の運搬路を構成する役割の多くを担います | 電子機器に対する知識に長けていると推測され、数度の接触時におけるSCP-1544-JPとの交信は主にこれらの種とのものです |
SCP-1544-JPは自コミュニティに対する高い帰属意識と協調性を持ち合わせており、攻撃や逃走時には種による差異もなく統率の取れた連携を多く見せます。これらは財団機動部隊による検分においても高い評価を受けています。
SCP-1544-JPは市街地内の路上等に発生します。周囲の土壌から一般的なアリ科の生物と同様に出現しますが、出現地域を掘削した場合においても痕跡を発見できないことから、何らかの異常な移動技術を所持していると推測されます。この発生は路上に何らかの生物の死体が存在していることが条件として挙げられます。これらの死体は多くの場合轢死体であることに留意してください。
SCP-1544-JPは発生と同時にB群が周囲へ幻覚剤、記憶処理剤を散布、C群が情報統制を行います。これにより該当地域の封鎖を行った後、死体の解体、運搬を行います。解体された死体はSCP-1544-JP発生地点に運搬され、上記と同様に喪失します。この運搬は主にA群によって行われ、生物の体長等にもよりますが多くの場合約1時間程度で終了します。また、運搬時には周囲の警戒等、各役割についていないSCP-1544-JPにより誘導の列が作成されます。誘導の列に参加したSCP-1544-JPは全て頭部を地面に接触していることが確認されています。
この運搬行為を阻害するとA群による攻撃が行われます。現在時点で財団とは5回の接触、交戦が行われています。SCP-1544-JPの所持する武器、兵器は十分な殺傷力を有し、小型ながらも多量の掃射が行われるため、被弾部位によっては致命的な被害を受ける結果になります。また、蟻毒や蟻酸等の化学物質によって、失明、アナフィラキシーショック等の被害が発生することも確認されています。捕獲したSCP-1544-JP個体は自死することが確認されており、情報は得られていません。
SCP-1544-JPの武器等は交戦の度に強化されていることが確認されており、主な出現箇所が市街地であることも踏まえ、現在時点ではその潜在的な危険性から可能な限り交戦を避ける特別収容プロトコルが制定されています。
以下はSCP-1544-JP発生事案の抜粋です
日付: 20██/08/06
運搬対象: クマゼミ(Cryptotympana facialis)3匹
状態: 歩行者によって踏み潰されたと思われる
所要時間: 約20分
日付: 20██/12/24
運搬対象: イエネコ(Felis silvestris catus)1匹
状態: 乗用車によって撥ねられた後、複数の車両により轢かれたものと推測される
所要時間: 約40分
日付: 20██/02/03
運搬対象: 60代男性
状態: 公園内において凍死。数年にわたりホームレス生活を続けていたとされる
所要時間: 約1時間
日付: 20██/04/01
運搬対象: 20代女性
状態: 5階建てのビルから落下したことによる転落死。自殺と推測される
所要時間: 約50分
インシデントレポート1544-JP-01 - 日付 20██/██/██ : 20██/██/██、SCP-███-JPの収容作戦中、死亡したD-6676に対しSCP-1544-JPが発生、財団との交戦事例が発生しました。当該事案時、超長距離からの射撃を用いたピレスロイド系薬物の散布が計画されていましたが、C群がこれを察知し狙撃手を襲撃、狙撃手は全治3か月の化学熱傷を負いました。
また、この交戦の際、SCP-1544-JPはAH-1 コブラに似た構成の戦闘ヘリを使用し、これに対し交信を試みたところSCP-1544-JPが電子音声によって応答、SCP-1544-JPとの対話に成功しました。以下は当該通信記録の抜粋です。
交信記録1544-JP-01 - 日付 20██/██/██
発信者: 名和伍長
対象: SCP-1544-JP(クロオオアリ(Camponotus japonicus))
«再生開始»
(前半部は事実確認の為省略)
名和伍長: こちらとしては武力を用いた衝突よりも、何らかの形で対話の場を設けたいと考えているがどうか
SCP-1544-JP: 貴官らの厚意には感謝する。しかしこれはあくまでも防衛行為であり貴官らの主張する交戦とは一方的なものに過ぎない。貴官らが我々の行動を静観するならばこれ以上の攻撃は行わない
名和伍長: こちらの資源を先に奪取しようとしたのはそちらであると考える。そちらが現在解体している人員は我々にとっての人的資源である
SCP-1544-JP: 人的資源、その表現が既に問題であると考える。貴官らにとってはこれらは路傍において踏み潰された畜生と変わりあるまい。我々はそう判断する
名和伍長: 訂正を求める。我々は彼らの人権を尊重し、可能な限り身体の安全と文化的な生活を保障している
SCP-1544-JP: 建前はいい。彼らは路傍の虫である。踏み潰される蝉であり、気にも留められぬ蟻である。畜生に仏性はない、畜生に徳はない。だが、畜生にも魂はある。そして踏み潰され、見向きもされなくなったものに憐憫を垂れることは否定されるまい。誰にも気に留められぬ芥にただ葬列を作り、祷ることくらいは許されよう。貴官らは、大義の名の下にそれすら踏み躙るか
名和伍長: 個人としての返答は控えさせていただく。そのうえで、組織として応えるならばその通りである。命に優劣はないが平等ではない。貴官らの行為を黙認し、それがいつか我々を暗闇に引き込むならば看過はしかねる。貴官らの行為が踏み躙られるものを増やすことに繋がる可能性があるのならば
SCP-1544-JP: 貴官らの意見は理解した。理解したがゆえに納得できるものではない。互いに損害を出さぬよう心を砕いた貴官らの申し出、改めて非常にありがたく思う。しかしそれを呑むことはない。貴官らの正しき傲慢は我々にとって許しがたき侮蔑なのだ。一寸の虫にも五分の魂、千丈の堤も螻蟻の穴を以て潰ゆ。これ以上の交渉は無意味であろう。我々の葬列は続けられる
(以降、SCP-1544-JPからの交信は途絶える)
«再生終了»
事案発生から2時間後、部隊への被害を鑑み、攻撃は中止、撤退しました。これ以降の事案でSCP-1544-JPとの交信は成功しておらず、財団による偵察や観察が判明した場合でも攻撃が行われるようになりました。
補遺: 20██/██/██、サイト-81██内のDクラス職員一時霊安室に対しSCP-1544-JPの襲撃が発生。該当事案は密室への薬物散布において阻止されましたが、これ以降散発的にDクラス安置所への攻撃が行われています。SCP-1544-JPがサイトの位置を把握している方法ならびに襲撃の方法については現在調査中です。
アイテム番号: SCP-1595-JP
オブジェクトクラス: Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-1595-JPは現在存在していませんが、再出現の可能性をふまえ、インターネット上において財団web走査botが同定、調査を定期的に行っています。文章および画像のアーカイブについては映像資料保管庫デジタルアーカイブを参照してください。
説明: SCP-1595-JPはインターネット上に存在するwebサイトです。2014年付近に創設されたと推測されますが、IPアドレスの取得者は不明であり、追跡は失敗しています。削除措置を行ったところ、約一週間後には同様の異常性を持つサイトが確認されたため、収容の安定を図る観点から常時監視体制が制定されています。
SCP-1595-JPには鳥居のイラストが存在しています。このイラストは発見段階で全体下部の約1/10のみ描かれており、笠木、島木にあたる部分は描かれていません。また、イラストの下部には雲を模したと推測されるイラストが描かれています。
イラストの横部分には"寄進"、"大願成就"の文字及び、不明なカウンターが設置されています。このカウンターは上限が1,000,000に設定され、発見段階で約1/10がカウントされていました。ここから、カウンターは鳥居の完成度を示すと推測されます。
イラストの下部には五十音表及び、"はい"、"いいえ"の選択肢が存在し、最下部には一般的に"こっくりさん"と称される民間呪術と類似した儀式の手順が記されています。以下はその内容です。
文章記録1595-JP-01 - 日付 2017/08/09
こっくりさんのやり方
1.お金をよういする(何円でもいい。たくさんなほど楽しいゆめが見れる)
2.このページを印さつし、とりいのところにお金をおく
3.こっくりさんをやる全員で「こっくりさん、こっくりさん、おいでください」ととなえる
4.あらわれたら音がなる。音がなったら、いるかどうかを聞いて、どんなゆめを見たいかを言う
*注意*(むずかしい話になるとこっくりさんがかってに決めるのでかんたんに!)
5.こっくりさんが答えてくれたら終わり
*注意*(あぶないのですわってやろう!)
推奨年齢:中学生以下
この方法は一般的に流布している方法と一致しますが、降霊でなく夢を見せることに重点が置かれています。また、SCP-1595-JPを印刷したもの以外で同様の儀式を行った場合異常性は発生しないことが確認されています。
以下はSCP-1595-JP及び記載された方法を用いた実験記録です。
実験記録1595-JP(抜粋)
実験者: D-2000、D-2001、D-2002
日付: 2017/10/10
目的: SCP-1595-JPを記載されている手順で実行した場合の変化を確認する。
経過: 10円を用意して実行。呼び出しを唱えた段階で僅かなヒューム値の揺れと共に狐の鳴き声が確認される。これに確認したところ、存在を肯定、事前に指定していた"楽しい夢"を見せてくれるよう依頼したところ了承。これと同時に10円が消失する。
結果: 参加した全員が即座に昏倒。意識回復措置を行ったところ、約1分で復帰。確認したところ全員が「楽しい夢を見ていたが覚えていない」と証言。推奨年齢を上回っていたが、問題なく実行可能であった。
実験者: D-2000、D-2001、D-2002
日付: 2017/10/11
目的: 金額の差異による変化を確認する。
経過: 100円、1,000円、10,000円を用意して実行。呼び出しを唱えた段階で実験に使用した金額が高額になるほど音楽が追加され、10,000円の段階では狐の鳴き声によるフルコーラスが確認される。事前に指定していた"楽しい夢"を見せてくれるよう依頼したところ了承。これと同時に全ての金額において貨幣が消失する。
結果: 参加した全員が即座に昏倒。意識回復措置を行ったところ、金額の増加に比例して回復までの時間が増加した。また、金額の増加とともに夢の記憶は鮮明になり、「近世ヨーロッパと類似した世界における狐を始めとした動物との宴会」の夢であったことが確認された。
実験者: D-2000、D-2001、D-2002
日付: 2017/10/12
目的: 指定した夢の内容による変化を確認する。
経過: 10,000円を用意して実行。事前に指定していた"こわい夢"を見せてくれるよう依頼したところ、しばらく停止した後、危険である旨と一切の責任は取らないとの確認があり、これに了承。紙幣が消失する。
結果: 参加した全員が即座に昏倒。その後、D-2000が消失し、D-2001が心不全に起因する心原性ショックにより死亡しました。D-2002は復帰するも著しい精神衰弱が見られ、PTSDの症状が確認される。のちの聞き取り調査により、「何か分からないこわいものに森の中を追いかけられ、四肢を食いつぶされる」夢を見たと証言。これ以降、恐怖を与える夢を選択することは推奨されていない。
実験者: D-2003、D-2004、D-2005
日付: 2017/11/15
目的: 夢の具体性を確認する。
経過: 10,000円を用意して実行。事前に指定していた"具体的な特定市町村内を散策する夢"を依頼。しばらく沈黙した後了承。紙幣が消失する。
結果: 参加した全員が即座に昏倒、約1時間で回復する。夢の内容は指定した市町村と一致するが、細部に大きな差異が確認される。一方で稲荷社周囲は完全な再現が行われていた。
実験者: D-2003、D-2004、D-2005
日付: 2017/11/15
目的: 夢の具体性を確認する。
経過: 10,000円を用意して実行。財団カバーストーリー部門によって作成されたSF作品の脚本を提示したところ静止。約3分後、紙幣が"いいえ"へ移動したのち、五十音表を用いて"ぷらんにふくまれていません"の文字列を作成。その後は反応が見られず。
結果: 紙幣及び意識の喪失は発生せず。
補遺1: 2017/11/15、実験終了後、SCP-1595-JP内部のカウンターが上昇し、イラストの欠落部分が同程度回復していることが確認されました。この上昇値は実験で消失した金額とほぼ一致することから、SCP-1595-JP内に記載されたこっくりさんの実行が何らかの変化を与えると推測され、実験は凍結されました。
これを受け、財団web走査botを用い、SCP-1595-JPへのアクセスを調査、アクセスを妨害する体制が確立され、収容プロトコルが更新されました。
補遺2: 2019/10/22、SCP-1595-JPの消失が確認されました。翌日、SCP-1595-JP実験に参加したDクラス職員に向け、送り主不明の小包が郵送されました。以下はその小包に同封されていた文章です。
文章記録1595-JP-02 - 日付 2019/10/23
稲荷クラウドサーバー設置企画にご協力頂いた皆さまへ
沢山のご支援ありがとうございました。
皆様のお力添えがありながら、目標額の約10%で最終日を迎えてしまい、ご協力頂いた皆さまには申し訳なく思っております。今回はプレゼンテーションの不足、及びターゲッティングの甘さにより残念な結果になってしまいましたが、改めて広報、企画と調整し、次の機会にぜひリベンジしたいと考えております。その際はまた、よろしくお願いいたします。
また、今回は投資型とさせていただいておりましたが、僅かばかりの返礼を行わせていただきます。
今回の企画を通じて、支援して頂いた方々の信仰を感じ、スタッフ一同も大きな励みになりました。これ以降も皆様の信仰を糧に、長らくお付き合いさせていただきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いいたします。
小包には消失した金額の約1/3にあたると推測される稲荷寿司が同封されていました。これは一般流通しているものであり、異常性は確認されません。
これをもってSCP-1595-JPのオブジェクトクラスはNeutralizedに再分類され、特別収容プロトコルも改訂されました。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Neutralized
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPの異常性は喪失しました。SCP-XXX-JP周囲の人間には病死のカバーストーリーを流布し、遭遇不可能な人物にはダミーの遺留品を返還してください。
説明: SCP-XXX-JPは発見時14歳であった日本人女性、水澤 ██氏です。
SCP-XXX-JPは両手の指全てに赤い糸(以降、SCP-XXX-JP-1)が結び付けられています。SCP-XXX-JP-1は不明な組成からなる非実体であり、物質を透過するため、SCP-XXX-JP以外による接触はできません。SCP-XXX-JP-1はSCP-XXX-JPを始点としていることは確認されていますが、約1m程で消失しており終点は確認されません。
SCP-XXX-JP-1はSCP-XXX-JPと何らかの関係を持った人物が出現するたび増加します。この"関係"の判断基準は不明であり、1週間に約20本のペースで増加します。
前述の異常性によりSCP-XXX-JP-1はSCP-XXX-JPにのみ切断、結び合わせることが可能です。SCP-XXX-JP-1の強度は一般的なナイロン紐と同程度であると推測されます。
SCP-XXX-JP-1が何らかの形で切断された時点で、対応する人物とSCP-XXX-JPは一切の遭遇及び確認が不可能になります。これは対応する人員に対する重度の疾患の発生、不慮の事故による死亡等も含まれます。これはSCP-XXX-JP-1の接合により解消されますが、SCP-XXX-JP-1は切断後処置を行わなかった場合、約1時間で消失することに留意してください。
SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP-1がどのような関係によって発生したものであるか、どのような人物が関係の対象であるかを認識しており、SCP-XXX-JPはSCP-XXX-JP-1の切断を躊躇する傾向にあります。これにより、SCP-XXX-JP-1の減少は抑制される傾向にあり、この報告書作成時点でSCP-XXX-JP-1は約2000本発生しています。
SCP-XXX-JPは20██/██/██、兵庫県の民家で発見されました。当時は強い引きこもり状態にあり、パーソナリティ診断においては内向的な傾向にあることが確認されています。引きこもりに至った具体的な理由は判明しておらず、家庭環境及び周囲の環境は良好なものであったことが確認されています。
以下は異常性の起源を調査した際の聴取記録です。
聴取記録XXX-JP - 日付 20██/██/██
インタビュアー: 渡辺研究員
対象: SCP-XXX-JP
«再生開始»
(前半部は事実確認の為省略)
渡辺研究員: じゃあ水澤さんの指に糸が出始めたのは、だいたい高校一年生の終わりくらい?
SCP-XXX-JP: はい。というより学校に行かなくなってから、です
渡辺研究員: 分かりました。じゃあ、学校に行かなくなった理由を聞いてもいいかな。嫌だったら答えなくてもいいよ
SCP-XXX-JP: いや、たいしたことじゃないんです。ちょっとしたことで学校に少しの間行けなくなって、それでそのままなんとなく学校に行っても仕方ないかな、って。理由なんて特にないんです。元々一人が好きで、ほんのちょっとしたことで、なんだか動けなくなっちゃって
渡辺研究員: そっか、大変だったね
SCP-XXX-JP: そんなこともないですよ。えっと、それで、閉じこもってたらこの糸が巻き付いてきて。最初は左手の小指だけだったから、運命の赤い糸かと思ってたんですけど
渡辺研究員: 全部の指に出てきたんだ
SCP-XXX-JP: はい
渡辺研究員: それが誰に繋がってるかってのも分かるの?
SCP-XXX-JP: なんとなくですけど。顔も知らない誰かとか、お父さんやお母さんとか、友達とか一度すれ違っただけの人とか。引っ張るとぼんやりと分かるんですよね。それで、切っちゃうともうその人には会えないんだ、ってざわざわするというか
渡辺研究員: 焦っちゃう感じかな
SCP-XXX-JP: そう、それですね。だから、やっぱりこれは運命の赤い糸なのかもしれないって最近思い始めました。私を繋ぎ止める、というか、引っ張ってくれる、というか。足や体に絡まってくるのは支え、というよりはそれこそ繋がりになってくれてます。少し生活には不便ですけどね。おかげさまで元気も出てきて、ここを出られれば、キャンプとか、海とかに行ってみたいです。行ったことなかったから
渡辺研究員: それはまだOKできないかな、でも何かそういった本くらいは差し入れできると思うよ。希望はある?
SCP-XXX-JP: 本当ですか? ありがとうございます
«再生終了»
インシデントレポートXXX-JP - 日付 20██/██/██
20██/██/██、SCP-XXX-JPの収容ユニットの監視システムが突如停止、同時にユニットの施錠システムが誤作動を起こし、内部への侵入が不可能になりました。この事案時、サイト内外においてSCP-XXX-JPを研究・調査していた職員のほとんどが何らかの理由で移動、行動が不能となりました。
ここから、SCP-XXX-JPが意図的にSCP-XXX-JP-1を切断したと推測され、内部に侵入可能な人員の招集が行われました。この際、招集された職員らの左手薬指からSCP-XXX-JP-1と推測される非実体の糸が出現し、同時にSCP-███-JPの収容違反が発生。これを受け、SCP-XXX-JP収容ユニットへの侵入が中断されました。収容違反はSCP-XXX-JPが意図的にSCP-XXX-JP-1を切断したことによる副次的なものであると推測されます。
SCP-███-JP再収容後、遠方のサイトに出向していた渡辺研究員がユニット内に侵入したところ、ユニット全体にSCP-XXX-JP-1が発生しており、複数本のSCP-XXX-JP-1を用いSCP-XXX-JPが首を吊っている状態で中心部において発見され、その後死亡が確認されました。発見時、SCP-XXX-JPの指に発生していたSCP-XXX-JP-1は1本のみであり、周囲には約5000本のSCP-XXX-JP-1が引きちぎられた状態で散逸していました。
追記: 当該インシデント後、SCP-XXX-JPの認識が可能である職員らによる後続調査によって、SCP-XXX-JPの死亡直前まで、SCP-XXX-JP-1が発生し続けていたことが確認されました。また、インシデント時にSCP-XXX-JP-1が発生した職員の多数がSCP-XXX-JPの再収容に対し強い責任感を抱いていたことが判明しています。
以下は後続調査時、収容ユニット内において発見されたSCP-XXX-JPによる文章です。
文書記録XXX-JP - 日付 20██/██/██
先生、ありがとうございました。
この糸は運命の赤い糸じゃありませんでした。
糸を合わせれば紐になって、紐を撚れば綱になります。
誰かが、私を助けようと、必死でこの綱を伸ばしていました。
お母さんも、先生も、顔の知らない出会うはずだった誰かも。
思っていたより世界は優しかったんですね。でも、その糸は依り合わさって紐になり綱になった。
命綱のつもりだったのかもしれませんけど、それは、とても息苦しかった。さようなら、嘘をついてごめんなさい。先生の糸だけは残します。
私と似たような子を助けてあげてください。
もう二度と会わない人たちへ伝えてください。繋がりで私の首を締めつけるな、と。
運命の赤い糸が私を絞め殺す前に、命綱で死んでやるんです。
これ以降、SCP-XXX-JP-1が発生しないことからSCP-XXX-JP-1の異常性は喪失したと推測されます。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは取り外した状態で専用収容ユニットに収容してください。SCP-XXX-JPを取り付けた部屋の内部探索は禁止されています。SCP-XXX-JP-Aが出現した場合、過度の干渉は禁止されます。"石榴倶楽部"及び"如月工務店"の関与に対する調査は継続中です。詳細は担当研究員に許可を受けたうえで調査アーカイブを参照してください。
説明: SCP-XXX-JPは木製の引き戸です。SCP-XXX-JPの異常性はSCP-XXX-JPが家屋に取り付けられた状態で開くことによって発生します。
SCP-XXX-JPを開くことで接続した部屋には、部屋の用途にかかわらず激しく損壊した複数の死体が出現します。損壊により、死体の性別を含めた身体情報の判別は困難であり、現在まで同定には至っていません。これらの死体の死亡時期は一定しません。最も新しいもので死後数分、古いもので死後数百年が経過していると推測されています。また、内部の死体には特定の部位が欠損したものが存在しており、不明な人物が何らかの意図をもって損壊を行った可能性が示唆されます。
財団における調査によって、内部の死体は経年による変化が発生していないことが確認されています。ここから、SCP-XXX-JPに接続した部屋は時間異常が発生していると推測されます。
SCP-XXX-JPの周囲には稀にクラスⅢ神格実体(以下、SCP-XXX-JP-A)が出現します。SCP-XXX-JP-Aは女性の姿を取り、古典能における"深井33"の面を装備しており、温厚な性格を持ちます。SCP-XXX-JP-AはSCP-XXX-JPに接近する人物に対してのみ、強い拒絶及び制止を行います。
SCP-XXX-JP-Aの制止を無視し、SCP-XXX-JPを開き内部を確認した場合、即座にSCP-XXX-JP-Aの能面は"般若34"に変化し、容姿も老女のものへと変貌したうえで内部を確認した対象に対し攻撃を行います。この攻撃は物理的なものに加えPSIエネルギー放射を伴っており、現在時点で対象は全員死亡しています。
これらの特徴からSCP-XXX-JP-Aは謡曲『黒塚』及び黒塚伝説に存在する鬼女に由来する存在であると推察されています。
SCP-XXX-JPは安倍 ██氏の自宅において発見されました。発見時、安倍氏はSCP-XXX-JP付近において全身を激しく損壊したうえで死亡していました。また、現場には安倍氏以外の人物が存在していた痕跡が残されていますが同定には至っていません。後のインタビューによりSCP-XXX-JP-Aによって殺害されたことが確認されています。
氏の近辺に対する調査から氏は要注意団体"石榴倶楽部"の一員である"宇宿"と関係を持ったうえで、邸宅及び所有する不動産を提供していたと推測されます。SCP-XXX-JPは"石榴倶楽部"との関係が始まった時期と同時期に設置されていることが確認されています。また、SCP-XXX-JP-Aの出現は氏の死亡以前に確認されていないため、SCP-XXX-JP-Aの出現は氏の予想していないものであったと推測されます。
以下は氏の自宅において発見されたパソコンから復元されたメールの書き起こしです。
関連文書XXX-JP-01(抜粋)
Title:先日のお礼
安倍さん
前回の会合において、素晴らしい場所を提供していただきありがとうございます。
また、同様に提供していただいた福島の年代物柘榴も非常に滋味深いものでした。ねっとりとした味わいながらも奥深い、山の獣に近い味がすると全員から好評です。浮田さんなどは長患いだった風邪が治ったといたく気に入られた様子でした。やはり孕み女の肝は薬になるのでしょうか。
本来柘榴は新鮮が命であり、熟成するにしても方法は限られるものですが、どのような方法であのような千年物の柘榴を入手されたのか非常に興味深いところです。聞けば近頃、人の理外のモノともコネクションをお造りになられたとか。その方々も関係しているのでしょうかね。機会があれば是非秘密を教えていただきたいものです。
今回の代金は指定の方法で振り込んでおきましたので、是非また我々にお力添えをお願いいたします。
そのときは安倍さんも是非一緒にお食事を、と思います。もちろん、柘榴以外の料理も特別に作らせますので。
このメール文書から、安倍氏は"石榴倶楽部"に内部の死体を提供する目的でSCP-XXX-JPを設置したと推測されます。また、文中に示唆された存在について調査を行ったところ、氏の会計名簿から"如月工務店"の関与が判明しました。これを受けた調査によりSCP-XXX-JPは"如月工務店"により作成された物品であることが判明しました。
以下はこれらの情報を得たうえでSCP-XXX-JP-Aに対し行われたインタビューです。
インタビュー記録-01 - 日付 20██/██/██
担当者: 護良研究員
対象: SCP-XXX-JP-A
«再生開始»
(事実確認の為省略)
護良研究員: まず、貴女について確認したいのですが、よろしいですか?
SCP-XXX-JP-A: はい、どうぞ
護良研究員: 貴女はあの扉を開け、内部を確認した時点で変化しますね。これは多くの伝承に見られるものです。私たちは貴女をそういった伝承、特に能における黒塚の鬼女に由来する存在であると推測していますが、その認識に間違いはありませんか?
SCP-XXX-JP-A: どうなのでしょう、私はあくまでここで糸繰る女でございます。岩手と名付けられるもいつのころからか、恋衣愛しと嘆くもまた夢幻のよう。ここにあるのは名もなき、帰る場所もなき、過去でございます
護良研究員: なるほど、意味のないことだということでしょうか。では、安倍 ██氏、もしくは橘 ██氏35を御存知でしょうか?
[写真を提示する。同時に深井の面が般若に変化するが攻撃は行われず]
SCP-XXX-JP-A: あな憎しや、我が閨を見られ生かしてはおけぬ
[激しいPSIエネルギー放射が瞬間的に確認されるも、般若の面が深井へと変化し、収束する]
SCP-XXX-JP-A: 見苦しいものをお見せいたしました。ええ、存じております。閨に押し入り、我が物顔で荒らし回った輩にて
護良研究員: ではやはり、安倍氏はあの内部空間から死体を奪っていたということですね
SCP-XXX-JP-A: そのようですね。あの扉は開けてはならないのですよ。貴女方はそれをおそらく分かっていただけると思っていますが
護良研究員: ええ、私たちもこれ以上の損失は避けたいので。では、如月工務店という言葉にお心当たりは?
SCP-XXX-JP-A: 如月、ありませぬ
護良研究員: では、その扉がどうやって作られたかはご存じですか?
SCP-XXX-JP-A: さて、これはただの閨の扉にございます。安達ケ原の一ツ家にぽつりと佇む岩屋にて、鬼の籠れる閨の扉
護良研究員: そうですか。…では、貴女の元に訪れた人物はいませんでしたか?
SCP-XXX-JP-A: ほほほ、御坊の名をご存じない? 阿闍梨祐慶殿の名を? いえ、人ではなく鬼ならば。ああ、思い出した、月炯々とした夜のこと、一ツ家訪れた鬼のこと。彼らは私に共に行こうと囁きました。隠から出て光の中へと
護良研究員: 貴女はそれに答えなかったのでしょうか?
SCP-XXX-JP-A: ええ、私は賤しき身の上で、とてもとてもたいそれたことなどできはしませぬ。それに彼ら鬼と私は違う
護良研究員: 違うとは?
[深井の面が般若に変化する]
SCP-XXX-JP-A: 私は真蛇ではなく生成りにございます。扉が開かれぬ限りは過去であり、扉の中に今を閉じ込める。浅ましくも人を殺し食らう鬼を閉じ込める。彼らの言葉に頷くのは裏切りでございましょうや。ええ、この扉を作ったのは彼らなのでしょう、私に次を作りたいと。しかし、私の今は悍ましく、そうであるならば浅ましく過去に縋り付きまする。だからこそ、あれらは許しておけぬ。閨に押し入った奸物共は
[面が深井に変化する]
SCP-XXX-JP-A: 食うという欲をもって人の閨に踏み入った。喰らうという業をもって我が心を千々に踏み荒らした。私の恥じたる今を貪り潰した。あの鬼が私に残した扉を開こうとした。あれらは鬼よりも醜い畜生にございます。人を食うことを恥とも思わず、自らの行いに耽溺している。そんなものは
[SCP-XXX-JP-Aの手に"顰36"の面が出現する]
SCP-XXX-JP-A: いずれ、鬼一口にて食いつぶされましょうや
«再生終了»
補遺: 前述の安倍氏の自宅において周辺機器から削除されたメールが復元されました。以下はその書き起こしです。
[[div style="display: inline-block; border-radius: 10px; border:dashed 1px #444444; background:#F5F5F5; float:top; width:80.5%; padding:10px"]]
Title:新規取引お申し込みの件について
石榴倶楽部
椎名様謹啓、貴団体ますますご清栄の段、お喜び申し上げます。
このたび弊社との新規取引のお申込みをいただき、誠に有難く、心よりお礼申し上げます。
折角のお申込みですが、弊社として検討させていただきましたところ誠に残念ではございますが、このたびはご辞退させていただく所存です。と申しますのも当社におきましては、食肉の生産は施工した商品による副次的なものであり、安定した供給が見込めるものではありません。
そのため、現在の事業計画として設定されておらず、今後とも事業として設定することは想定しておりません。また、貴団体は弊社の企業理念と明確に反発するであろう理念を持ち、弊社の顧客様と弊社の商品を通じた問題が発生したことを確認しております。
弊社としては従業員一同の士気の維持及び、契約していただいた顧客の皆様の意向からも、貴団体とのお取引は今後一切行わないものとさせていただきます。貴意に添いかねる事情をご賢察のうえ、何卒ご了承くださいますよう、お願い申し上げます。
とり急ぎメールにてご連絡いたします。有限会社 如月工務店
補遺2: 上記情報から再度SCP-XXX-JPの関連調査を行ったところ、SCP-031-JP内の過去調査においてSCP-031-JP-Cが関連すると推測される発言を行っていたことが確認されました。以下はその発言を一部編集した書き起こしです。
文書記録-01 - 日付 20██/██/██
ここがどういう場所や、て? いややわあ、そんな無粋なこと尋ねなはるん? まあ、古くは京伝はんもそういう話書いて成り上がりはったいうことやからねえ。ここは天神さんの梅の中…、大門超えたその先や。…ふふ、からこうたわけやあらへんのよ。そやなあ、どこから話しましょ。ここ、ほんまはお兄さんの来るようなとことちゃうんよ、ここは今を閉じ込めておく場所なんやさかい。
古く花街ちゅうんは四方を堀に囲まれてるいうことは知ってはる? そりゃまあ、大事な商品やもんね、指も切らんと逃げ出されたらかなわん。花街の外はお堀に囲まれ、中はまたお茶屋が娘らを囲うとる。その中で見るのは一夜の夢、今の楽しさ貪る紅葉山、…能楽なんて古いわなあ。廓言うんは今を閉じ込める箱なんやと。ただきらびやかに今だけを見とればええ、うちらがどんな過去を持ってるかなんて気にせんでええんよ。
…あら、上手く逸らされへんかってんねえ。といっても、今言うたことが全部。ここは今を永遠に閉じ込める箱、ここ作りはった人らは永遠を望んではった、うちはそれにちょっと乗らせてもろうただけ。前は"椎名"なんちゅう名も持っとってんけど、あん人らに鬼やいうて豆撒かれてもうたんやわ。まあ、うちはそれでええんよ、お上品なのは性に合わんでなあ。…まあ、あの人らは少し驕りすぎやとうちは思うとうけどね、食べることを楽しむんやのうて、歴史あるセキリュウとして食べる自分を楽しんどる。味やのうてそこに乗った禁忌と過去にしがみついとったもの。ここ作りはった人らもそれには眉顰めてはったわ。…今はどこの誰が"椎名"になっとることやろか。うちの今はここやし、過去はきっと誰かが受け継いどんのやろね。
ああ、ここ作りはった人? あの人らはそうやな…、うちのことを良いとも悪いとも言わはらへん。最初は鬼として一緒に行こうか言ってくれてんけどなあ、うち、鬼やけど本心ではここに閉じ込められることを望んだんやもん、断ったわ。あの人らはそれもしゃあない言うてくれてな。ええ人らよ、うちのために怒ってくれるし、たまには顔も見せてくれる。
あの人らは…、そういう人の感情とは違うんかもしれんけど寂しいんやろうなあ。寄る辺もなくぽつんと飛び出しはったんやもん、だからこっちで仲間作りはろうとしとんのや、今度は宇治に、次は戸隠に、はたまた安達ケ原に…、何処でも断られる思うけど。鉄輪被った女は今を見たくないもんやから、でもきっと、その女のためにも怒ってくれるんやろ。
…そない強く求めんといて。男と女、正直になった方が負けや。…仕方あらへんなあ、一つだけ、な? 確かにここは今を閉じ込めた場所や。でも、あの人らは扉を作ってくれた。閨の扉、うちらがいつか先に進みたいというときに開く扉。な? ええ人らやろ?
この調査結果を受け、再度SCP-XXX-JPに接続した部屋内部を調査したところ、本来の部屋には存在しない扉が出現していることが判明しました。この扉への接触はSCP-XXX-JP-Aによる妨害によりすべて失敗に終わっています。