アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-1は当該個体が発見された家屋に収容されています。SCP-XXX-JPの収容されている家屋の内部は常に監視し、SCP-XXX-JP-1の活動によって発生したSCP-XXX-JP-2は、その物質に関する活動が終了した後、速やかに回収し焼却および破棄してください。また回収の際、担当職員はjp-1の活動している範囲内に侵入しないように注意してください。家屋内に一切の外部的な自然条件が介入しないよう、定期的な修繕を行ってください。エージェントは家屋内に存在する活動対象前のJP-2と推測される物質について、一切家屋の外部に出さないよう注意してください。周辺住民に対してはカバーストーリー「ガス漏れによる危険」を流布し、家屋内への侵入事案が発生した場合には侵入者を速やかに確保、Aクラス記憶処理ののち解放してください。侵入者がjp-1によって殺害されていた場合は活動範囲内にない遺体部分を処理し、遺族にはAクラス記憶処理ののちカバーストーリー「事故死」を適用してください。
説明: SCP-XXX-JPは人間女性の特徴をもつSCP-XXX-JP-1、その活動によって発生したSCP-XXX-JP-3からなる、一連の行動サイクルです。
SCP-XXX-JP-1(以下JP-1)は○○県○○市郊外に存在する家屋で発見された、アジア系の特徴を持ち、三十台後半と推定できる加齢の特徴を持った人間女性です。これらの特徴は1950年代当時に収容されてから現在に至るまで変化を見せておらず、当該個体が食事や排泄、睡眠を欲求する意志または実際の行動も、現在まで確認されていません。また当該個体に対するコミュニケーションの試みも、当該個体の活動に対する集中及び対話への無関心さにより、どのような形でも成功していません。JP-1はあらゆる攻撃や拘束行動に対して影響を受けないことが確認されています。後述する収容時の状況から、当時家屋に在住していた女性がオブジェクト化したものと推測されています。
JP-1は常に、一般的な家庭で行われる家事の一種とされている行動をとります。現在確認されている行動として、
・所持している洗濯板と金属製のたらい、出現した水による出現した衣料の洗濯
・箒とちりとりによる出現したゴミの収集、および収集した内容物の分別
・出現した食材と調味料を使った、備え付けの調理具による調理
があり、JP-1はこれらの活動をある段階まで続行します。そしてある段階まで到達した際、後述するSCP-XXX-JP-2がJP-1の周囲に出現します。
SCP-XXX-JP-2(以下JP-2)は前述した活動が終了した際に、家屋内に散乱した状態で現れる物質群です。出現するメカニズムは現在までにおいて不明であり、また物質としての発生プロセスも未確認です。発生したJP-2の内容および特異性については付記するリストを参照してください。
新たなJP-2が発生すると、JP-1は発生したJP-2に対して、種類に対応した前述の活動を再開します。この際、新たに発生したJP-2に対しての第三者による介入はJP-1によって阻止され、第三者が活動範囲内にいた場合排除されることが確認されています。この排除行動は重篤、もしくは致死的な影響を介入した第三者に与え、それにより現在までに○○名の職員が死傷しています。またこれらの行動によって発生した物質も新たなJP-2と認識されることが、排除行動時の監視データにより判明しています。
活動が終了し、ある一定の形式に収束したJP-2は、種類に対応した特定の場所へ自動的に転移します。転移プロセスについては、どのような高精度映像機器であっても確認できていません。
JP-2の種類 |
検査結果 |
補足 |
金属製のたらいとそれに充満した水 |
活動の終了後、組成および内容物を検査。特異性は見当たらず。衣類の洗浄に使用された。 |
調査の結果、1960年代に○○社から販売されていたものと特徴が一致。○○社は現在倒産している。家屋外へ転移。 |
プラスチック製の洗濯板 |
検査の結果、特異性は見当たらず。 衣料の洗浄に使用された。 |
調査の結果、1960年代に販売されていた一種と特徴が一致。販売していた○○社に異常性は確認されていない。金属製のたらいと合わせて家屋外へ転移。 |
泥らしき物質が付着した複数の衣料 |
衣料に特異性は見当たらず。泥については水に混ざった状態でのみ確認、収容されている地域のものと組成が一致した。 |
調査の結果、衣料は1960年代当時に販売された子供用のものと特徴が一致。メーカーは多岐に渡り、それぞれに対して調査を継続中。「干された」状態で家屋外へ転移。一部の衣類に「たろう」「かなこ」という手書きの文字が確認され、これは後述する児童の名と一致する。 |
5mの金属製もの干し竿とそれをかけるもの干し台 |
家屋外の庭に当たる場所に発生。特異性は確認できず。衣類の乾燥に使用されている。 |
1960年代に販売されていたものと特徴が一致する。洗浄後の衣類がかけられた。○○着の衣類がかけられたとき、また存在する数が0の時、新たに発生することが確認されている。 |
様々な材質の衣類用ハンガー |
特異性は見当たらず。衣類の乾燥時に掛ける場合と、ゴミとして処理する場合が存在。 |
調査の結果、1960年代に○○社から販売されていたものと特徴が一致。○○社は現在倒産している。衣類がかけられた状態で家屋外へ転移。 |
植物の葉 |
特異性は見当たらず。 |
回収された時期によらず、紅葉現象を示している。葉の種類は家屋近辺に存在する落葉樹と一致。平均的な量は○kg。袋に収納された状態で家屋玄関先へ転移。 |
木製の箒とプラスチック製のちりとり |
劣化実験を施しても劣化の兆候が見られない。衝撃による破壊後は特異性を消失することが確認された。 |
調査の結果、1960年代のものと特徴が一致。家屋玄関右の壁に立てかけられた状態で転移。 |
ポリビニール製ゴミ袋 |
外部の衝撃、特に刺突に対して一般に普及しているものより耐性を確認。焼却後は特異性を消失。 |
ビニールの色は黒。収集された葉はこの内部に収納される。家屋玄関先へ転移。 |
一般的に食材や調味料とされる有機物 |
調理されたそれらを回収し検査。特異性は確認されなかった。Dクラスによる摂食実験では「お袋の味がした」という回答が得られた。 |
この回答がミーム的な影響によるものかは検証中。調理されたものは常に四人分の分量が存在。作成される種類は和食となる傾向が見られる。調理されたものは家屋内のテーブルに転移し、それが存在する限りは新たなこのJP-2の発生は確認されていない。 |
SCP-XXX-JPは1960年代、家屋に在住していた児童の通報を財団が傍受したことによりその存在を確認、家に向かった近隣住民一名及び警察官一名が排除行動により重傷を負ったことから異常性が判明し、収容されました。発生および処理されていたJP-2の調査により、当時家屋に在住していた児童の親にあたる成人男性がJP-2として処理されていたことが判明しています。また児童二名への聴取により、児童に対する排除行動は極めて穏当なものであったことが確認されています。これがどのような条件の元でのものであるかは、条件外であった場合に推測される危険性の高さから、検証されていません。
事件記録:収容時、家屋の玄関に発生していたJP-2がエージェントの侵入時に外部に拡散。 JP-1がそれを追跡する形で収容違反が発生しました。追跡時にその活動範囲内に存在した一般住民数名、鎮圧に赴いた警官数名、また外部に待機していたエージェントが死傷しました。JP-1はJP-2を回収後、収容されていた家屋に戻りました。この事件により、発生したJP-2に関して、JP-1の活動が終了する前に持ち出す試みは禁止されています。またその意図的な拡散も禁止されています。
補遺1:
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JP-1は標準の低危険物収容ロッカーに保存してください。実験はレベル3以上の職員の許可を得て、Dクラス職員を対象に行ってください。実験の際に発生したSCP-XXX-JP-2は全て回収し、一部を研究素材用収容ロッカーに保存し残りを全て破棄してください。SCP-XXX-JP-1を使用したと思わしき人物について、その被害程度が軽微であるならばAクラス記憶処理を施して解放、自我が崩壊するほど重度であるならば終了し、その周囲の人間にはカバーストーリー「心臓発作による突然死」を適用してください。[SCPオブジェクトの管理方法に関する記述]
説明: SCP-XXX-JPは19○○年以降に発見された、異常性を所持した櫛(以下JP-1)及びその使用後に発生する綿状の物質(以下JP-2)です。
SCP-XXX-JP-1(以下JP-1)は、人間の頭髪に対して使用される櫛です。現在まで発見されている○○本全てにおいて外見、組成共に一般で販売されている櫛との一致を見せ、また使用時以外において特異性は確認されていません。
JP-1の特異性は、人間が自らの頭髪をJP-1を用いて梳いた際に発生します。この時JP-1の歯の部分には、梳いた頭髪がどのような状態であったかに関わらず、一定量のSCP-XXX-JP-2(以下JP-2)が発生し付着します。この際、そのまま放置すれば後述する現象は発生しないことが確認されています。
JP-2は外見上は白い綿状の物質です。財団がその組成を調査した結果、その構成物質は人間の脳組織に類似したものであることが確認されています。
JP-1を使用した人間が付着したJP-2を排除しようとした際、そのJP-2が付着した際にJP-1を使用していた人間は、一定量の記憶を喪失しまた認知能力が低下します。喪失する記憶は、実験による検証から生存に重要でない、または本人の自我確立に関わる程度の低いものからであることが確認されています。この現象は実験の前後における被験者の頭部内スキャン検査結果の比較から、脳組織がわずかに削られることと関連しているのではないかという推測がされています。
補遺: 財団に回収され研究対象として保存されていたJP-2が消失していたことが判明しました。消失プロセスを確認するための実験が行われ、ある期間にわたって監視下にJP-2を放置したところ、JP-2が突如消失するのが確認されました。また当時JP-2の監視を担当していた○○研究員が、消失当時に出所不明の音声を聞いたことが確認され、その因果関係が調査されています。推測される関係から、本オブジェクトのEuclidクラスへの引き上げが検討されています。
補遺:○○研究員の聞き取った音声は、以下のような言葉であったことがわかっています。
ああ、うまい、うまい。
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: [SCPオブジェクトの管理方法に関する記述]
説明: SCP-XXX-JPは○○病院の診察室に現れる時空間異常、およびその内部に現れる不明な人型実体による現象です。
SCP-XXX-JPは病院に入院している内科系疾患の患者が、診察の際に診察室を訪れた場合にその異常性を発現します。患者は通常通り名前を呼ばれて診察室内に入りますが、異常性が発現していた場合その内部は、元の診察室と酷似した別の部屋に繋がっており、患者はそこでSCP-XXX-JP-1と遭遇します。
JP-1は異常な人型実体です。遭遇した人間への聴取の結果、眼球が6つ確認され腕が六対あるなど、通常の人間とは明らかに相違した器官を有していることが確認されています。またそのような外見に対し遭遇した人間は「担当医」と認識し違和感を覚えていない様子が確認されていることから、認識に対する影響も与えているのではないかと推測されています。
診察室内部ではJP-1が「診察」と称した行動を行います。この行動により遭遇した人間は拘束され、その全身を器官ごとに分解されることが確認されており、この分解には通常通りの苦痛が伴うことが判明しています。しかし、これらの行為により絶命及び失血した人間は確認されていません。また器質的な繋がりを絶たれるにも関わらず、窒息や臓器ごとの失血による後遺症も確認されていません。
全身を解体されたのち、対象者が疾患を持っていた臓器に対してJP-1は行動をします。これは未知の医療行動と考えられ、その行動が終了したのち、未知の技術によって対象者の全身は再び接合されます。この接合の痕跡が対象者に残ることはありません。
接合ののち対象者は診察室内部から送り出されます。十数例の対象者への検査の結果、この遭遇事例前後において疾患の著しい快復が確認されています。しかしその中の二名において、遭遇前後で一部の臓器の位置が異なっていることが判明しており、この二名はその影響による臓器不全に陥っていました。
補遺: [SCPオブジェクトに関する補足情報]
現代宗教
objectクラスketer
特別収容プロトコル
説明:このSCPは日本での職業野球のシーズンにおいて発生する、報道などに対して影響を与える架空の球団の形を取った情報災害です。
この球団は3月末~4月初旬において、職業野球に関する話題の中で出現し始めます。これは紙媒体や映像媒体における報道でも現れ、その中でさも実在する球団であるかのように語られます。この球団が持つ情報は各シーズンごとにおいて異なり、数十年の歴史を持つ古豪の球団「○○○○○○」の場合もあれば、設立して数年の新球団「○○○○○○」の場合もあり、一定していません。
この球団は他の球団とも交流します。試合は行われたかのように語られ、新外国人選手の獲得や他球団との選手トレードも行われることが確認されており、それらの選手はシーズン間において実際に活動しているかのように語られ、またその中で発生したイベントが実際に選手に影響を及ぼします。またこの球団が原因でない現実の事象も、この球団に影響を与えることが確認されています。なおトレードや獲得がなされたと報道された選手は、後述する現象の消失期まで監視からロストすることが確認されています。
この球団にはある一定多数のファン(以下JP-1と呼称)がつきます。推測される平均人数は○○○○○○○名です。彼らの多くは以前から他球団を応援していた人間です。彼らはこの球団の試合を実際に見ていたかのように語り、またその語る内容は大筋において一致しますが、財団による聴取と照合によって、細部での齟齬が発生していることが判明しています。
日本シリーズまで含めたシーズンの終了時、この球団に関する情報及び認識は消失し、消失した隙間を埋め合わせる形で現実とそれへの認識が改変されます。この球団のファンであった人間は以前応援していた球団をこのシーズンも応援していたと主張し、この球団に獲得された選手は個々の事情で元の球団から離れていたと認識されます。
事件記録1:20○○年シーズンにおいて、この球団は「経営難によって今年で解散」という情報をもって出現しました。ペナントシーズンにおける最後の試合後、球団ホームとされていた球場前にこの球団のファンになった内の○○○○○名と推測される人数が集まり、集団自殺を図りました。
事件記録2:20○○年シーズンにおいて、過去の日本プロ野球に記録されているワースト二位の勝率でシーズン終盤にさしかかった際、JP-1による暴動が発生。数千万の経済的損失と○○人の重傷者が発生しました。これは警察機動隊及び財団の治安部隊によって鎮圧されました。この事件から、財団の支援と指示による順位の固定が収容プロトコルに組み込まれました。
補遺:このSCPに関連して各球団における歴史の調査がなされた際、ある球団において設立時に記録されている事象が実際には存在しないことが確認されました。このことから、以前からこのSCPは存在し、最初に現れた対象はそのまま実在するものとして「定着」したのではないかと推測されています。
「かつて世界には、たくさんの女神たちがいた。彼女らはそれぞれの依り代へと宿っていた。
彼女らはあらゆるものを産むことを喜びとした。魚、獣、鳥、植物、そして人。
産み出したそれらを、彼女らは優しく見守り、時に助けていた。
時がいくつも過ぎ、女神たちは終わりを迎えていた。
それは皮肉にも、かつて彼女らが産み出したものたちによってであり、
彼女たちはその身を啄ばまれ、貪られ、切り倒されて、じょじょにその力を失っていった。
女神たちはそれがその子たちにとって当然のことだと考えていたから、恨みはしなかったが、
もはや母として在れないことは、彼女たちにとって寂しいことだった。
そんな、終わっていく女神たちのうちの一柱に、ある男がその身を捧げた。
彼はかつて、力少なき女神が、病に苦しむ男のために産み出したものによって救われた人間だった。
男は自らの命脈を掻き切り、その身ごと女神の依り代に注ぐことで、女神に報いようとした。
ごく僅かばかりに力を取り戻した女神は、男に、いや人に報いようと思った。
そして同時に、それは人の血を受けた呪いだったのだろうか、かつての在り方への未練を抱いた。
すなわち『再び、生けるものを生み出す母として在りたい』と。
だが、もう無から有を産む力は、女神には残っていなかった。
女神は悩み、考え、そして決めた。
『人のはじまりとして在れないならば、人の間はざまを繋ぐものとして在りましょう。』と。」
――SCP-476-JPが発見された近辺の、村落に存在する伝承より。現代語訳。
「いい天気ですねえ、哲郎さん」
「そうですねえ、洋子さん」
ある天気のいい日、公園のベンチに二人の老人が座り、のんびりと日向を楽しんでいた。
夫と死別し今は一人暮らしの老婦人である「洋子さん」と、数ヶ月前に近辺に越してきた「哲郎さん」は、
出会ってからたちまち仲良くなり、今ではおしどりな二人として近所でも話題になるほどだ。
「そういえば、わたくし最近、不思議な夢を見たんですよ」
「そうなんですか?洋子さん」
ええ、と老婦人は頷いた。
「真っ暗なお部屋にね、わたし一人浮いているんですよ。 手も足も見えなくて……そう……
感覚もなかったようで……不思議と、怖くはなかったんですけれどねえ」
「ふむふむ……」
「ほんの少しの間、漂うに任せていたら、……暗闇の中から、女の人が出てきたんですよ。
女の私から見ても、とても綺麗な人でしたねえ」
「へえ……綺麗な女の人、ですか」
女性というキーワードで話しに食いついてきた感覚を得、洋子は自分でも年甲斐ないと感じながらも、
少しからかってやらずにはいられなかった。
「あら、哲郎さんったら……ご興味がありますの?その女の人に」
「い、いえいえそんな!!……い、今の僕が好きな人は、洋子さんだけです」
「あら……ふふ、ありがとうございます。 わたしも、哲郎さんが大好きですよ」
そう返すと、哲郎の顔が真っ赤になって押し黙ってしまう。 80過ぎという年齢にも関わらず
うぶな子供のような面を残しているところも、洋子にとっては愛嬌のあると思えるところであった。
「ええと……どこまで話しましたかねえ……そうそう、綺麗な女の人が出てきたところでしたっけ」
「もう……もう……」と勘弁して欲しそうな声が隣から聞こえたが、洋子はあえて無視して話を進める。
「その女の人がですね……こう、わたしの中にそっと、手を差し込んできたんですよ」
「え……?」
苦笑いしかできなくなっていた哲郎が、急に真顔になった。
「だ、大丈夫だったんですか?洋子さん……痛くは?」
「ふふふ……それが不思議と、どこを切り開くといった感覚もありませんでしたし。
特に痛みはなかったんですよ。それにまあ、痛くても夢の中ですからねえ……」
「そ、そうですか……」
胸を撫で下ろす哲郎に対し、夢の中の出来事であってさえ心配してくれたのだと感じ、
洋子は嬉しくなったが、あえてその感情を出すことはなかった。
「そうして……その女の人がそっと手を引き抜くと、その両手に包んだ中には小さな光の球があって……
それを大事そうに……そう、まるでいとしい子を抱くように、大事にしてましたねえ」
「……そうだったんですか。 それで……どうなったんでしょう?」
「ええ」と老婦人は頷いて続ける。
「そうしてね? その女の人が言うんですよ。『あなたの子は、わたしが繋いでみせます。……ごめんなさい』って。
その後すぐ、目の前がゆっくり明るくなって、目が覚めたんですよ」
「え……?」
哲郎がひどく怪訝そうな顔をする。 これがまだまだ年若い時ならば痴話喧嘩のきっかけにもなりそうなものだが、
二人とも80を過ぎ、とうに子など産めなくなっている身なら、話は別だ。
「ね、不思議でしょう? わたしはもちろんお腹に子なんていませんし、心配になって子供に電話したら、三人とも元気だったみたいで……」
「うーん……確かに……どういう夢なんでしょうねえ……」
哲郎は腕を組み、考えているようだったが、洋子はなんとなく直感しているものがあった。
「ねえ……哲郎さん?わたしの言うことを、笑わないで聞いてくださいます?」
「え?……ええ、洋子さんの言うことなら笑いません」
生真面目な態度に少し苦笑いしながら、洋子は自分でも信じがたい感覚を語り始める。
「あれはきっと……わたしと哲郎さんの子を、運んでいったのだと思うんですよ」
「え……ええっ!?でも、僕と洋子さんは……」
笑いはしなかったが目を丸くして動揺し、あらぬことをしゃべりかねない哲郎をなだめるように、
洋子は自らの中にある直感を話し続ける。
「そうですよね。 わたしと哲郎さんは好きあっているとはいえ、『そういうこと』のないおじいちゃんおばあちゃんですもの。
でもね……どうしても、わたしにはそう思えるんですよ」
「洋子さん……」
哲郎がしっかりと聞いてくれていることを感じながら、洋子は自分の感覚を掬うようにして話し続ける。
「あの女の人は、わたしと哲郎さんの子供を、いつか先の未来……今より少しは住み良くなっている世界に、
運んでいってくれたんじゃないかって、そう思えてならないんですよ……」
「…………」
押し黙って何事か考え始めた哲郎に対して、洋子は「夢を見すぎ」だったかと、少し恥ずかしくなった。
「ごめんなさい、変ですよね、こんな話」
「……いえ、洋子さん、そんなことないと思いますよ」
「え……?」
変な空想を聞かせてしまったのではと考えていた洋子にとって、哲郎の反応は肯定的な、意外なものだった。
「洋子さんの言うことですから。 僕は信じますよ」
「哲郎さん……」
「それにね、そうならロマンあるじゃないですか。 そりゃ若い頃なら、子供を連れて行かれて悲しいかもしれませんが……
こーんなじいさんばあさんになって、子供なんてとうてい望めない身にしてみれば……」
そう言って青空を仰いだ哲郎の顔は、どこか遠い先を眺めているように、洋子には見えた。
「出来るはずのなかった子を『未来』へと運んでくれる……それはすごく、素晴らしいことだと思うんです。
そうかあ……洋子さんとの子供が、未来に……長生きはするもんだなあ……」
「……」
ああ。
こういう人だから――わたしはこの人を好きになったんだなあ。
「……哲郎さんったら……まるで子供みたいですねえ」
「え!?は、ははは、そうでしたか……参りましたねこりゃ……」
「でも……信じてくれてありがとう、哲郎さん」
「あ……。 よ、洋子さん……」
「……いい天気ですねえ、哲郎さん」
「……ええ、そうですね。 洋子さん」
いつもより少しだけいい気分で、老婦人とその恋人の一日は。
青空の下、穏やかに過ぎていった。
研究記録:現在の収容プロトコルが確立する以前の、19██年に対面を果たしたSCP-476-JP-2及びJP-2RのDNAと、20██年に出現が確認されたJP-2のDNAとの間に、部分的な合致が見られることが確認されました。 これは出現した各JP-2の共通点を調べる過程で判明したものです。
この事実そのものは収容プロトコルの維持において何らの影響もないと考えられますが、オブジェクトの性質を推測する材料になるとは考えられますので、研究資料の一つとして書き残しておきます。 ――20██年█月██日 ██研究員
オブジェクトクラス:safe
このオブジェクトはネット上に存在する異常特性を持ったサイトです。 このサイトに接続すると、「あなたのストレス買います!」という大写しの表記と宣伝文句と共に、書かれている数字が+-のアイコンによって上下可能な、決定というキーの付属したポップアップウインドウが現れます。
この+-のアイコンによって任意に数字を減らした後(実験により、最初に表記された数字以上には、一度開いたウインドウ内では増えないことが判明しています)に決定キーを押すと、ポップアップウインドウを開いた人間に数字に応じた量のストレス軽減効果が発生します。
これは20%以内の数字であるならば、現在抱えている負の感情が消失するという結果に終わりますが、その数値を超えるとその影響は、抱えている疾患や問題の原因の消失から、人間性や周囲の人間の消失、果てには対象に対する重力やあらゆる圧力が消失するという事態に及びます。この段階まで至った時、対象はその構成している原子同士が引力を失い、急速に分解されます。この時、対象に痛みなどを感じている様子は確認されません。
objectクラスketer
説明:スーパー民主共和国は○○県○○市に存在するスーパー○○に発生した認識および時空間異常です。
このオブジェクトには現在○○○人の「国民」が存在し、彼らはスーパー内で店員として働きながら同時に生活しています。生活のための物資はスーパー内のものでまかなわれ、またこの物資には一部出所が不明なものが存在します。スーパーに訪れた一般市民は通常の客としての扱いを受け、清算直前までそれは変わりませんが、清算時において購買した量に応じた「民主共和国無料国民権」というクーポンを渡されます。これは次回の購買において券に記された内容に応じて買うものが無料になるというものであり、渡された客はその利得に引き寄せられてスーパーの「お得意様」になります。 お得意様になった一般人はスーパーに通ううちに徐々に「自分の所属する国はあのスーパーなのではないか?」という観念に強く支配されるようになり、平均して○○回スーパーで購買した時点でそのままスーパー内の「国民」として生活し始めます。
このスーパー内においての政治体系は新しく入った国民と以前から存在していた店員、そして店長に当たる人物の三層から形成されているように見て取れます。店長に当たる人物はその接客態度や経営手腕が国民や店員に、また店内に設けられている「外来人の皆様のお声を聞かせてください」というアンケートの結果から評価され、場合によっては評価の高い店員との交代、またごく少ない例としてスーパー内に存在する器具による「処刑」がなされることが確認されています。この遺体はスーパー外に送られます。また国民と店員が交代したと考えられる事例も確認されていますが、この交代がどのような基準によってのものであるかは現在まで判明していません。
この店内における法は、スーパーが存在する日本国に類似したものであるように見てとれます。犯罪者にあたる人物は基本的にバックヤードに収容され、その扱いは丁重であるようですが、例外としてスーパーからの万引きを試みた人間に対しては、極めて高い精度でもって該当人物を発見の後、スーパーに存在する器具によって執行を担当する人間が拷問をする事例が確認されています。また調査のためにバックヤードへの無断侵入を試みた財団エージェントが、現在まで行方不明になっています。
・人類はわれわれが保育する→もっともっと究極の、どんな危機からも安心な保育を
・オブジェクトの作製→児童や時空間に影響を与えるオブジェクト。 後者はおおむねにおいて該当する時空間に「じんるい保育園○○支部」という文字が見られ、おそらく安全な空間を構築しようとしたと見られるが、オブジェクトの構築に失敗して放棄したっぽいものもある。
・児童の誘拐事件にも関わっているとか。「究極の保育の試行のために」らしい。 またその親たちは児童の安全を保障される代わりに、やはりオブジェクト構築への協力を求められるとか。この際親が死んだり役を果たさなくなったら、そのまま子供は保育し、構成員として育てるのだという。
・上記の情報を聴取した構成員は、一貫して保育士と名乗っていた。年少・年中・年長組と分かれた彼らのトップに、指導者たる「園長先生」がいて、彼・彼女の指示で動いているらしい。
――サイト81黒黒。 ここは一般的には山中にある木材加工センターであり、同時にその所有者たる「財団」にとっては、その地下に数多くのオブジェクトを収容した場所であった。
そこで勤める工員であり、同時に財団所属エージェントである市井が、その場所にあまりに不釣合いな姿の女性をセンター前に確認したのは、ある日の昼を少し過ぎた頃である。
「へー……ここが例の……」
感心をしているといった様子の女性に対し、市井は声をかけた。
――こんなところに、はなまるの刺繍がされた赤いエプロンをして、上はセーター下はジーンズという、「どう見ても一般的な女性」がいることに対して、警戒を心の内に含みながら。
「あの……どうかしましたか?」
「あ!こんにちは、ここで働いてらっしゃる方ですか?」
質問をしたはずなのに元気良く質問で返され、市井は少々面食らいながらそれに答えてやる。
「ええ、そうですが……失礼ですが、こちらになにか御用ですか?」
「はい!……あ、申し遅れましたが、わたしこういうものです!どうぞ!」
そう言うと女はエプロンの内側に手を突っ込み――「銃か?」と市井は警戒したが――一枚の名刺を取り出し、市井にそれを手渡した。
そこには、おそらくシンボルなのだろうニコニコマークと共に、こう書かれていた。
「じんるい保育園 年中組保育士 保 優子 tamotu yuuko」
――保育園?保育士?
その、どう見ても山中の辺鄙な工場に似合わない平和な職業に、市井の中で違和感とある予感が膨らんでいく。
「保育士さん……ですか。 その方が、この木材加工工場に何の御用でしょうか?親類の方でも?」
「えっ?木材加工工場?…………ああ、なるほど!だから!」
市井の返事を聞いて、女は意外そうな反応のあとに、納得したような仕草をする。
……女の前では、実際にカムフラージュ用に、材木の運搬と加工が行われているにも関わらず。
「うんうん、わたしにはわかりますよー。 ドキドキしてスリリングなんですよね、大人に隠れて何かするのって!」
「……」
「――でも、先生に対しては、隠し事はしなくていいんですよ?」
「…………!!」
「ここは『ひみつきち』なんですよね?――『財団』の」
「不明な団体の構成員を捕縛、財団の情報が漏洩している可能性あり。 尋問の準備中」
サイト管理官である双宮は、その報を受けてサイト内にある尋問用の部屋へと急いでいた。
(ここが財団管轄の場所とバレるとはな。 襲撃があるかもしれん、上層部に移設の提案をすべきか)
懸念に対して一つ一つ頭の中で整理をつけながら――双宮は、捕縛された女のいる部屋の扉を開けた。
『あ!こんにちは、はじめまして!』
「……」
銃器を備えた二名の警備兵が駐留する、双宮のいる部屋―ーに張られた、防弾グラスの窓の向こう。
殺風景なコンクリート張りの部屋の中に、椅子に縛り付けられた女がいた。
「ここの偉い人ですか?よかったぁ、会えて!」
そんな厳重な警備体制の中で、拘束状態にあるにも関わらず、女に不安がる様子は見えない。
(財団に捕まった構成員がどうなるか、知らんわけでもないだろうに……)
双宮は女の態度に呆れたものを感じながら、女に対する尋問を開始する。
「そちらには、一切の黙秘は許されていない。そちらから質問する権限もない。それらのことに逆らえば、いつでも貴様を『終了』する用意がこちらにはある。 そのことをよく考えることだ」
「あ!あー、よくアメリカ映画でありますよね、そういうのって!……ん、でもちょっと違うような?」
まるっきり場を考えていないようなお気楽な態度の女に、双宮は心中で舌打ちしながら続ける。
「まず最初だ。 貴様の所属団体名と名前を名乗ってもらおう。」
――まあ、名前には……意味があるとは思えんがな。
跡を取らせないためだろう。 財団が捕縛した構成員が公的記録にヒットしない名前を名乗る……"それしか名乗れない"事も多々だ。
『はい!それについては……そこの警備員さんに渡した名刺をどうぞ!』
「何?……名刺?」
「こちらです、双宮管理官」
警備員の一人が、名前とアイコンとが記載された名刺を手渡してくる。
「……ふむ。 じんるい保育園……か」
「はい!人類(みんな)のための保育園。 わかりやすいって、お母様方からも好評なんですよ」
(ずいぶんと平和なことだ……ま、平和な顔をしておぞましい組織もないではないが)
話を進めなければわからないが――大した組織でもないのかもしれんな。
予断は禁物と戒めながらも、しかしそんな印象を、双宮は抱いた。
「次だ。 どうやってここを知り、どうやって、何故ここに侵入したのか……それらについて教えてくれないか」
「はい、いいですよ。 先生も、いっておきたいことがあったんです」
まるで子供に接するように応じると、少し考えるような素振りを見せた後、女はゆっくりと話しはじめた。
「だめじゃないですか。ひろしくんを泣かせたりしちゃ」
「え?」
『ひろしくん』?誰だよ、それは。
「とぼけなくても、ひろしくんの大切なものが他の人たちに盗られてここに運ばれたって。
先生、お母様がたの噂から、ちゃんとわかってるんですよー?」
「……」
……オブジェクト被害者からオブジェクトを回収し、ここに運んだことを言っているのか?
管理官の双宮はそう仮定すると、それに沿って既知の情報から思い当たることを掬い上げる。
(――そういえば、確か最近運ばれてきたオブジェクトの報告書に……そんな名前があった気がするなあ)
会社に来なくなった人間が、尋ねてみると奇行をしているという話を財団が聞きつけ、その原因がオブジェクトにある
クラスsafe
収容方法:情報を与えないでください。
説明:限定的な現実改変能力を持った男です。人型のようですが、一部において現生人類との差異が見られます。
彼がある物質についての説明を読んだ時、その説明する文章が、彼の認識する通りに書き換えられます。 文章は一部において共通点が見られるものの、おおむねにおいて実際の物質や現象の組成・成り立ちとは異なるものです。
セキュリティクリアランス4以上の人間が読める文章↓
クラスketer
実際には、彼のある程度の周囲を除き、全世界における彼の認識の対象物、およびそれに対する人々の認識を改変するものだと考えられます。
クラスsafe
収容:使わないように。音声を認識できない場所に置くように。
説明:ある会社製のカーナビです。 後述する特異性を除けば、その機能に異常な点は見られません。
このカーナビによって半径10m以内にない施設を案内選択した際に異常性は現れ、当該の施設がその操作した際の場所の目前にワープしてきます。 中にいた人間や物質も同様です。
オブジェクトクラス:ケテル→セーフ
収容方法:発見したらその記述を確認、該当する報告書の概要と結果にズレがないか確認した後、記述を消去して。
概要:このオブジェクトは、財団のオブジェクト報告書にたびたび実験記録と共に現れる、記録の存在しないDクラス職員です。実験記録などで断片的に記される容姿・年齢・特徴・犯罪歴において、過去から現在に至るまで完全な合致を見せた職員の記録は存在していません。
このオブジェクトは各オブジェクトの実験記録に挟まるようにして出現します。 結果はおおむねにおいて、該当Dクラス職員の死や重篤な障害という結果で終わります。 ただし極めてまれに、本来のオブジェクトの性質から予想されるものとは異なる実験結果になる場合があります。 この場合、現実のオブジェクトに対しても、その実験結果をもたらしたであろう変異が確認されるようになります。 このDクラス職員がオブジェクトを選ぶ基準は不明です。
収容のための試行が行われ、このオブジェクトは本報告書内に収容されました。 以降、上記のような現象は確認されていません。
実験:このDクラス職員を使った虚偽の実験記録を書く事で、この報告書内に収容する。
概要:「D-4289765をこの報告書内収容スペースに収容する」という一文を書く。 収容スペース内には毎日一人ぶんの食料および水分を供給する。
結果:D-4289765は収容スペース内に収容された。 この実験においてD-4289765は「ああ、もう死ななくて良いんだな」
と発言している。
脚注1:この記述の後、サイト18黒黒内に備蓄されている食糧が毎日一人の大人ぶんだけ、消失するようになった。
脚注2:この実験結果は、概要まで職員によって書かれた後に自然出現した。