ripeya-
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 むかぁしむかしのこと。はるか西の果てのお話です。
 ちょうどそのころは、ある悪病の神が強い力を持っていたものですから、あちらでもこちらでも、ぱたりぱたりと人の命が消えていく時代でありました。
 人間が弱かった分、魑魅魍魎は我が物顔で跳梁跋扈。人間など所詮怪物の餌でしかなかったのです。

 そんな時代に、その竜は生きておりました。

 父から貰った頑健なる肉体、母から受け継いだ聡明な頭脳。しかし、竜自らが持ち合わせていた唯一の物は、疲れ切った心だけでした。
 彼はとても強い竜でしたが、同時に敵も多かったのです。不死身の竜の肉を食えば、不死身になれる――そんな噂が立つのは、古今東西、同じもの。
 戦って、追われて、蹴散らして、傷ついて。はたしてそれを何度繰り返したことか、指が百本あっても数えきれないことは確かでした。

 その日もまた、竜は傷つき、暗い洞窟で体を休めておりました。今回の戦いは、なんと二つの国掛かりで竜をとらえてようとするもので、さしもの竜も大きな傷を負ったのです。すたこらすたこらやっとのことで逃げ出し、身を隠せたのが、その洞窟でございました。