空白
”私の部屋にレゴブロックを撒いたのは誰ですか。”
空白
”懺悔室のカギを開けておくので、心当たりのある人は録音していくように。”
空白
悩む時間は無い。与えてくれない。
あれは、そういうものだ。
確保、収容、保護。
違う。収容などではない。これは最前線だ。あのふざけた放送による侵略を食い止める、ただ一つの水際戦術。
そのための犠牲は既に織り込み済みだ。
「退避放送は?」
「既にしています。全ての放送装置に流れたかは不明です」
不要な付け足しだ、とエージェントは思った。
でも彼は悪くない。事実だけを告げている。これは自分のエゴだ。
「ありがと。じゃあ押すから」
尋常の事態であれば、神の名前でも唱えただろう。私にはできないと泣いたかもしれない。
でも自分がしなければならないし、そのためにいるはずだ。
確保、収容、保護。
エージェントは、そのボタンを深く押し込んだ。
空白
空白
空白
空白
その身体をひと伸びさせると、二輪車の後部座席を降りた。
「ありがと。前原さんにもよろしく伝えて」
ハンドルを握るフルフェイスマスクの青年はなにか言いたげに軽く手を振ると、バイクを折り返し元来た道に走り去った。
すごい速度、とエージェントは眉をひそめた。あの後ろに掴まって走っていたと思うと、今更ながらに冷や汗が出る。
ただ、どれだけ飛ばそうと、この高速道路では速度超過を咎められることはない。ここは高速道路だったもの。道路公団の管轄を離れた地域、サイト-81█。
「瑠子です。エージェント・ルコ」
打ちっぱなしのコンクリートは刑務所を思わせた。守衛室の窓口だけが無機質な世界から解放された穴のようであったし、そこから伸び出る警備職員の腕は本で読んだ邪悪な神の触手を思わせる。
「職務柄、8181ではシスターとも呼ばれてます。まぁ好きにお呼びください」
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPは
説明: SCP-XXX-JPは、歴史的経緯による価値観の崩壊です。
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収容時のSCP-XXX-JP |
アイテム番号: SCP-XXX-JP
オブジェクトクラス: Euclid
特別収容プロトコル: SCP-XXX-JPはサイト-8181の非生物保管室に収容されています。
説明: SCP-XXX-JPは、人間の精神、及び農作物に影響をもたらす案山子です。約19██年、新潟県██市におけるイネの異常生育を調査していたフィールドエージェントによって回収されました。
収容時に採取されたイネは種子の肥大が確認されており、周辺住民のインタビューにより調査が行われた結果、近隣の農地に放置されていた案山子に異常性が認められ、収容されました。
SCP-XXX-JPは、自身の周囲にある農作物に対し複数の異常性を表します。最も顕著なものは種子と果実の過剰な肥大です。その影響範囲は未だ調査中ですが、一般的に食用とされない植物については影響を与えない傾向が確認されています。
SCP-XXX-JPはロシア語の簡単な読み書きと、筆談による会話を行えることがわかっています。この発見により、SCP-XXX-JPは何らかのテレキネシス能力を持つことが考えられますが、筆記具の操作以外に類似した兆候は見られていません。また、長時間の会話実験を行う際は前述の異常性に注意して下さい。
骨にあたる木材の十字部には"Tolstoy"と銘打たれたタグが接着されています。
モデルは言うまでもなく「イワンのばか」である。イワンは朴訥で無欲であるがゆえに悪魔の誘惑を退け、破滅を免れた。非暴力、普遍的な愛、シンプルライフを目指したトルストイ運動の象徴とも言える。
日本における案山子は、民間習俗の中では田の神の依代(山の神の権現とも言われる)であり、霊を祓う効用が期待されていた。というのも、鳥獣害には悪い霊が関係していると考えられていたためである。人形としての案山子は、神の依り代として呪術的な需要から形成されていったものではないかとも推察できる。蓑や笠を着けていることは、神や異人などの他界からの来訪者であることを示している。
見かけだけは立派だが、ただ突っ立っているだけで何もしない(=無能な)人物のことを案山子と評することがある。確かに案山子は物質的には立っているだけあり、積極的に鳥獣を駆逐することはしない。だがしかし農耕社会の構造からすると、農作物(生計の手段)を守る役割を与えられた案山子は、間接的には共同体の保護者であったと言えよう。
画像の引用元
http://all-free-download.com/free-photos/download/missouri_landscape_fence_230551.html
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三位一体によって表されるSCPの概念 |
名前: 山雅 瑠子(Sanga Ruco) あるいはシスター・ルコ
セキュリティレベル: レベル3
職務: フィールドエージェント
所在: サイト-8181礼拝室
人物: 財団施設内に、シスター服を着た女性がいましたか? それは恐らくエージェント・ルコです。でなければどっかのシスターです。彼女は左目に眼帯を付けており、その風貌も相まってすぐに覚えられるでしょう。彼女は主に遠隔地担当エージェントの統括指揮を行っています。また、別業務として財団内の宗教施設の管理と、福利厚生に基づく宗教的ケアも行っており、各種礼拝室の管理や、解雇職員に対する最期の面談を行います。また、宗教的オブジェクトの収容に関連して潜入任務が与えられることもあります。これらに関しては別資料██-XXを参照して下さい。(要セキュリティクリアランスLv3)
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シスター・ルコ私物の聖書。聖母への祈りが記されている |
経歴: エージェント・ルコは███で発生したカルト教団事件の審問官として活動していたところを、特殊部隊に偽装したSCP職員によって確保されました。その際に教団の手によってSCP-███-JPが暴露され、██名がSCP-███-JPの影響を受けた折、彼女がその影響をほぼ、或いはまったく受けなかったことによりSCP-███-JPの確保・収容に貢献し、記憶処理を免除され財団への参加を打診されました。
上記の経歴はSCP-███-JP収容に伴うカバーストーリーであることに留意して下さい。
経歴: エージェント・ルコは不明の要注意団体の構成員であったと目されています。SCP-███-JPの収容時に財団職員への妨害工作を行っているところを捕縛され、職員による尋問が行われましたが、有用な情報は得られませんでした。倫理委員会の介入により、以降の尋問は固く禁じられています。倫理委員会の調査では、大脳皮質部に対する135回の処理試行のうち、124回の書き込みエラーが故意によって発生されており、エージェントに対する深刻な人格障害を残したものと推測されます。その後、O5評議会への査問会議が提起されましたが、これは無期限に延期されました。
SCP-███-JPの特異性による影響を最小限とするために、エージェント・ルコは財団職員として雇用・収容されています。現状は彼女の知識・能力において業務は滞り無く進められており、SCP-███-JPとの接触、およびセキュリティクリアランスレベル4以上の付与以外にあらゆる権限を与えることに異議はありません。
SCP-███-JPに対する新たな収容プロトコルが認可された場合、エージェント・ルコは解雇されます。これはO5委員会での決議です。